スピーカー越しの想い
そうだ……。
泣いてる暇なんてない。
ネックレスの件を早く理玖に伝えて謝らないと。
愛里紗はベッドから両足を下ろして机からスマホを手に取って理玖に電話をかけた。
スピーカーから三コール目の途中で声が耳に飛び込む。
『ん、愛里紗?』
「もう家に着いた?」
『あ、うん。いま着いたばかり。なんか声が変だけど……』
泣き静まってから一旦気持ちは治ったものの、僅かに鼻をすする音と鼻腔が腫れたような声はスピーカー越しに伝わった。
理玖が心配する声とネックレスを無くしてしまった申し訳なさに板挟みされると、再び涙が頬を濡らした。
「理玖から貰ったネックレスを何処かで落としちゃったみたい。家中探したんだけど、何処を探しても見つからないの」
『声……、震えてるみたいけど。もしかして泣いてる?』
「……」
『家で見つからないなら外で落としたのかな』
「わからない。フックが壊れてたから直さなきゃいけないと思っていたのに。何度も家中探したのに見つからなくて。あのネックレスは私の大切な宝物なのに……」
「愛里紗……」
愛里紗は気持ちを吐いたと同時にすすり泣き始めた。
紛失したネックレスと、理玖への想いを重ね合わせているかのように罪悪感に駆られていた。
スピーカー越しに伝わる想い。
理玖は愛里紗がネックレスへの執着心を覗かせた事によって、心に希望の光が導き出されていく。
『……ったく、お前は相変わらずドジだな。大丈夫だから泣くなって』
「ん……」
『ネックレスを大切にしてくれてたんだな。サンキュ』
「毎日身に付けてたの。可愛くて気に入ってたのに、さっき着替えをした時に無い事に気付いたの」
理玖は愛里紗の想いが伝わると、先ほどまでクヨクヨしていた自分が急にバカらしく思えた。
『ネックレスはきっと見つかる。大丈夫、信じよう。今日は時間も遅いし雨も本降りになってきたから、明日二人で探しに行こう』
「うん……」
『俺が必ず見つけ出してやるから心配すんなって』
「ありがとう。明日はバレンタインなのに、時間を使わせちゃってごめんね」
『俺にとって重要なのはお前が隣にいる事だから。それに、元気がない姿なんて見たくないし』
「うん……」
『それと、さっきは強引にキスしようとしてごめん。お前だって辛い想いをしていたのに……』
「ううん」
『なんか、あいつの言葉に左右されてイライラしてて考えてやれなくなっていた。……俺らしくねぇな』
「私の方こそごめんね」
本当は不都合な気持ちを誤魔化してる自分の方が圧倒的に悪いのにね。
でも、ネックレスを落とした事を素直に伝えられたせいか、内心ホッとしていた。
キスを拒んだ後から微妙な雰囲気のまま別れてしまったから。
今は理玖の彼女。
啀み合う二人を目の当たりにしても、翔くんへの恋心に気付いてしまっても、私はこの先もずっと理玖の彼女だろう。




