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二人が別れた理由



「いま、ずっと……って言ってたけど。そのずっとはどーゆー意味なの」


「街を出た瞬間から今日までずっとだ」



「今日までって事は、咲と付き合っていた期間も含まれてるよね」


「……そうだ。お前と再会してから気持ちが誤魔化せない事に気付いた。別れた理由はそれだけじゃないけど、これ以上咲ちゃんと続けていくのが難しいと思った」




ーーこの瞬間、咲達が別れた本当の理由が明らかになった。

咲から『好きになってもらえなかった』としか聞いてなかったけど、別れに自分が関与してるとなると話は別に。




驚愕的な事実にショックを受けた愛里紗は、棒になった足が震え始めた。




「咲の幸せを奪ったのは私なの?」


「それは違う。付き合うも別れるも俺達の問題だから」



「ううん、少なくとも私がレストランに行かなければ、二人はまだ付き合っていたはず」


「いつかは結果を出さなきゃいけなかった。俺達はあの時が別れるタイミングだった」



「嘘! 私が壊したんだ……。親友なのに、私が咲の幸せを壊したんだ……」


「違う。愛里紗のせいじゃない。俺が……」

「ごめん、悪いけど信じられない」




愛里紗は罪悪感に戒められると、涙を浮かべながら翔の手を解いて逃げるように店を後にした。




私は高一から親友なのに、彼女の本当の苦しみが見えていなかった。

両親の離婚と翔くんと別れの原因。

いつも自分の事で精一杯だったせいか、気付いてあげられなかった。




理玖と翔くんに再会する前まで、私の一番大切な人は咲だった。


何でも言い合えて、何でも共感しあえて、どんな事でも受け止め合ってきたからこそ、失恋で負った傷の深さがどれくらいのものかわかる。


でも、その笑顔を奪ったのはこの私。

あの日、バイト先まで行かなければ運命は狂わなかったのに……。




翔は愛里紗の背中を目で置いながら荷物を手に取ると、後を追って大声で呼んだ。




「愛里紗……っ、愛里紗……」




だが愛里紗は返事をせず、滴る涙を手の甲で拭いながら改札前を通ってバスターミナルへと走った。

数メートル後ろを走る翔は、改札から乱流してくる人波に行く手を阻まれながらも名前を連呼する。


しかし、愛里紗は振り返えろうとはしない。




外は冷蔵庫のように厳しい寒さだが、愛里紗はコートと荷物は右腕にかけたまま。

寒さを忘れてしまうくらい必死に走っている。


翔は後ろでコートを袖に通しながら徐々に距離間を縮めていき、隣についたと同時に言った。




「待って! ちゃんと話をしよう」




愛里紗はこれ以上逃げれない思って、走らせていた足を観念してスピードを落とす。




「愛里紗」


「もう名前を呼ばないで」



「咲ちゃんと別れたのはお前のせいじゃない! これ以上恋人としてやっていけなかった」


「ダメ……。翔くんの話は聞けない。咲は親友なの」



「気持ちが傾かない恋愛に意味がない。それは、愛里紗と再会する前から感じていた」


「嫌……。もう、これ以上何も言わないで。お願い……」




愛里紗はそう言って、長い髪をすだれのようにして顔を俯かせた。




噛み締めた唇は血が滲みそうなくらいに痛くて。

溢れ出る涙で頭がガンガンしてきて。

鼻水をすすったら奥がツンと痛くなった。


翔くんを嫌いになるのが正解への近道だ。

私を嫌いになるくらい冷たく突き放して、別々の未来を歩んでいかなければならない。



私には傷つけてしまった咲と、心から愛してくれている理玖がいる。

だから、私から翔くんに与えられるものなんて一つもない。

話を聞いても受け入れられないし、苦しくなっていくだけ……。




「昔から気持ちがブレた日なんてない。中学生の頃に会いに行かなかった事を後悔してる」


「ごめん、私には付き合ってる人がいるから、翔くんの気持ちには応えられない」



「本気でそいつが好きなの? ……じゃあ、どうして神社で俺の背中に手を回してきた。どうして俺からの手紙を握りしめてた。何とも思っていないなら、神社に向かうはずがない。だから、あの時の本心が知りたい」


「本心? さっき『幸せ』って答えたじゃん! それが今の全てだから」




口では跳ね返してるけど、残念ながら目を合わすことが出来ない。


でも、この時点ではまだ平常心を保てていた。

何故ならまだ言い返せる口があったから。


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