5年分の想い
ーー右でもなく、左でもなくて中央でもない。
宙ぶらりんな気持ちに嫌気がさして5分後の自分に自信がなかったから一刻も早く立ち去りたかったのに……。
彼のひとことを受け取った途端。
ドクッ……
まるでハンマーで叩きつけるかのような強い鼓動に襲われた。
すると、固く覆っていた殻が割れてしまったかのように、虹色の記憶が溢れ返ってくる。
不意に引き離された時間。
手紙が届かなかった時間。
会えなかった時間。
恋焦がれた時間。
すれ違った時間。
そこには、離れていた約5年分の想いが刻み込まれていた。
彼の手は小学生の頃にコートのポケットの中でつないだあの時よりもずっとずっと大きくて、力強くて暖かくて……。
小さなポケットの中の大きな平和。
あの時は幸せに満ち溢れていたから、5年経った今でもしっかり覚えてる。
まるでタイムスリップしてしまったかのように遡り始めた記憶は、心の鍵をこじ開けていく。
彼の掌から温もりが身体浸透した瞬間。
トクン……トクン……
告白をしたあの日に感じていた鼓動が、再び呼び覚まされていく。
気付かぬふりをしたかった。
私にはもう別の未来が用意されているから、見て見ぬふりをしたかった。
でも、何度軌道修正しても心が言うことを聞いてくれない。
残念だけど。
認めたくないけど。
悔しいけど。
私、やっぱり翔くんが好きみたい。
間違いだらけの自分にブレーキを踏んでも走り出した恋は止まらない。
これは間違いなく恋する鼓動だから。
それまでは、道が逸れぬようしっかり光を浴びていたはずなのに。
傷付けたくないから、大事にしていこうと心に誓ったばかりなのに。
心の中は翔くんを全然忘れてない。
だから、ずっと怖かった。
気付きたくなかった。
自分の中の常識が全て覆されてしまうから。
私は彼が会いに来てくれる事をずっと待ち望んでいた。
一日に何度も自宅のポストを覗いて彼からの手紙を待ちわびていたり。
別れ際に彼から貰ったイルカのストラップを握り締めながら、神社で暗くなるまで空を眺める日が続いたり。
楽しかった思い出を思い浮かべながら、涙で枕を濡らす恋い焦がれた夜が続いたり。
彼から誕生日にもらった鉛筆で恋日記を書く手が、限界を感じて思うように進まなかったり。
空虚感に襲われていた日々は身も心も不安定だったから、知らぬ間に周りの人間も巻き添いにしていた。
しかし、ほんの僅かな幸せを噛み締めていた傍で、遊びがないくらい急ブレーキを踏み込んでみたら……。
彼の言葉の中のある部分に気が止まってしまった。




