私からのファーストキス
理玖……。
もしかして泣いてるの?
しかも、急に弱音を吐くなんて一体何が……。
辛い事があったのかな。
理玖には涙なんて似合わないし、屈託のない笑顔が一番なのに……。
昼間に翔と初対面を果たして絶望感に陥っている理玖。
そして、理玖が初めて見せた涙に心が引き止められる愛里紗。
声がかけづらくなるほど落胆している姿は、愛里紗の心を惑わせていく。
理玖の心は、燃え尽きる間近のキャンドルの炎のよう。
風でゆらゆらと揺れ動く灯火が今にも消えそうなくらい弱々しくて、あとほんの少し風が吹いたら消えてしまいそうなほど。
私は翔くんと神社で抱き合ったあの日に心に誓った。
これからは理玖だけを見ていこう。
そして、今まで以上に大事にしていこうと。
あの日、1日半以上家を空けていた私に『俺は何も聞かないよ』と信じて待っててくれたように、私も大きな器でいてあげたい。
いつも気持ちを受け止めてもらっているから、今度は自分が受け止める番。
だから、私はマフラーの両端を掴んで自分側に引っ張って唇を重ね合わせた。
「……っ!」
私は理玖みたいにキスは上手くない。
でも、そんなのどうでもいい。
心を救えるのは私しかいないから、少しでも力になってあげたかった。
これが私からのファーストキス。
理玖しか知らない私の唇。
まだ上手に出来ないから見よう見まねだけど。
理玖みたいにいっぱい愛情がこもってないけど、自分なりに今の精一杯な気持ちを届けた。
当然、理玖は不意打ちのキスに驚いて目を開いたまま。
私からのキスは初めてだからびっくりしたよね。
愛里紗は唇をそっと離すと穏やかに微笑んだ。
「私はずっと傍にいるよ」
と言った時に漏れた白い息は彼に届く。
私はいつも通りの笑顔を見る為に、彼の心と約束をした。
すると、理玖はフッと表情を和らげた。
「ありがと。……めっちゃ元気出たわ」
目と目を見つめていたら、お互い照れくさい笑みが溢れた。
やっぱり、理玖は理玖らしくなきゃ私も元気が出ない。
こんな小さな事くらいしかできないけど、少しでも力になれたかな。
「でも……、あのさ。首が閉まって苦しいからマフラーから手を離してくれる? 別の意味で死んじゃうかも」
「あぁっ!! ゴメン……」
マフラーの両端を引っ張り続けていた愛里紗は、焦って理玖の首からマフラーを解くと、理玖は愛里紗の身体をギュッと抱きしめた。
「やっぱり大好き! 24時間離れたくない! 愛里紗をポケットに入れて持ち歩きたい」
「もう……」
正直、自分からこうやってキスをしても理玖に恋をしてるかわからない。
翔くんに恋していた時は落雷が起きてしまったかのように恋だと実感してたけど、もしかしたら恋には色んな種類があるのかもしれない。
もし、笑顔を見続けたいと思うのが恋の一つなら、もっともっと大切にしていかなきゃね。
結局、落ち込んでいた理由はわからなかったけど、きっと私の選択は間違ってなかったと思う。




