奴は最悪
「駅周辺でチューなんて、誰かに見られたらどーすんのよっ」
「別にいいじゃん、付き合ってんだし。早くチューゥ」
「バカバカ! こんなところで堂々と唇を近付けないでよ」
と、愛里紗達は仲良くじゃれ合いながら街へと離れて行った。
翔は遠目から見ても仲の良い様子がはっきりわかると、風で髪を揺らして遠い目を向けたまま足を止めた。
俺は愛里紗の男がどんな奴か気になっていた。
咲ちゃんからしか情報が得られなかったし、当時は親友が愛里紗だと知らなかったから、親友の彼氏の話は人ごとだと思って聞いていた。
愛里紗は慎重に物事を考えて行動するタイプだから、きっと彼氏も慎重に選び抜いたに違いない。
本当はどんな男なのか。
愛里紗を大切にしているのか。
そして、幸せにしてやってるのか。
俺は男に聞きたい事が山ほどあった。
そして、今日ようやく偶然にも渦中の男を知るきっかけが訪れたのだが……。
奴は。
奴は……。
最イィ〜悪だな。
残念ながら俺と奴は、性格、風貌、態度と何から何まで違い過ぎる。
奴は下心満載で愛里紗にイヤラシイ目を向けやがって。
なんて軽薄な奴なんだ。
UFOを見たとか訳わからない話を始めたと思ったら、容姿の自慢話を始めて、愛里紗に失態を指摘されたら、次は傷付いたとか言ってキスを強要しやがって……。
あ゛ーっ~~~!
我慢できない。
愛里紗にチューチュー言って……。
どうしてあんなにチャラいヤツを選んだ。
イライラする……。
翔は理玖の言動が頭から離れずにカリカリしていたが、二人の楽しそうな笑顔を思い浮かべたら拳の力がスッと抜けた。
二人は意外にも楽しそうだったから、きっと上手くいってるんだろうな。
理玖……。
そうだった。
咲ちゃんから話を聞いた時は、たしか親友の彼氏がそんな名前だった気がしたし、愛里紗もさっきそう呼んでいたように聞こえた。
あの制服は《英神高校》か。
制服が人気で有名校だからすぐわかった。
奴の性格はともかく、学校の偏差値はさほど低くないから頭は悪くなさそうだ。
高校が判明したし、今度会って話をしてみようかな。
さすがに第一印象で全て決め付けてはいけない。
きっと、奴には俺が知らない魅力があるに違いない。
……でないと、愛里紗が付き合う訳がないよな。
理玖。
お前がどんな奴か知りたい。
愛里紗を大切にしてるか。
泣かせてないか。
それだけでも聞かないと、俺自身が納得しない。
さっきは軽薄な姿を見て気持ちは若干逆撫でされたけど、愛里紗が幸せそうにしている姿を思い返したら、幸せならそれでいいかなとも思った。
俺は愛里紗の幸せを一番に願っているから。




