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意識が戻った咲



すると、咲はぼんやりと意識が戻って、布団にうつ伏せになって泣いている愛里紗に気付くと拳に手を重ねた。

愛里紗は手の感触に気付いて布団からガバッと身体を起こす。




「……ようやく捕まえた」




咲は穏やかな声でそう言い、開けたばかりの瞳を涙で潤ませた。

愛里紗はすかさず手を握り返してベッドに身を乗り出す。




「咲っ……」




感極まりながら名前を呼んだ瞬間、涙がツーっと頬を伝った。




「意識が戻って良かった……。咲っ……咲っ……」


「もう逃げないでね。いま逃げたら追いつけないから」



「逃げるわけないじゃん……。ずっとここに居るよ」




二人の目には涙が溢れている。

転落事故から数時間ぶりに言葉を交わすと、握り合った手が自然と震えた。


咲は痛々しく悶えながらベッドから身体を起こす。




「……っあー、イテテ」


「無理しないで! 身体中傷だらけなんだから安静にしないと」



「あ、ううん。……それより、愛里紗の傷は大丈夫?」


「何言ってるの? 怪我をしているのは咲の方だよ」



「私は身体の怪我を負ったけど、愛里紗の心の傷の方がずっと深いはず。私は自分の幸せばかり追い求めてたから、きっとバチが当たったんだね。ほら、私って結構ヒドイでしょ」




咲は私が散々酷い態度で接してた事なんて忘れてしまったかのように苦笑する。




「私の方こそキツく当たりすぎたから。それに階段で咲の手を振り払っちゃったし」


「違うよ。怪我をしたのは愛里紗のせいじゃない」



「でも……」


「私の不注意だった。あの時は謝る事で精一杯だったから足元なんて気にしてなかったよ。傷付けちゃってホントにホントにごめんね」




咲が謝る姿を見たら胸が押しつぶされそうだった。


裏切られていたと知った時は、どうして自分だけ惨めな想いをしなきゃいけないんだって。


でも、咲は翔くんとの経緯を素直に白状したのにも拘わらず、謝罪どころか話さえ受け入れてもらえない状況に1ヶ月間苦しんでいた。

白状するのだって、どれほど勇気が必要だった事か。


それに加えて両親の離婚。

心の傷は計り知れない。




「ううん。私こそ耳を貸そうとしなくてゴメンね。何度も謝りに来てくれたのに……」


「もう過ぎた話だよ。あ! それと、トイレで一組の子からかばってくれてありがとう。まさか、かばってくれると思わなかったから。あの時は嬉しかった」



「咲の悪口を聞いてたら急に頭がカーッとなって、気が付いたら咲とケンカしてる事も忘れて言い返してたよ」


「愛里紗……」



「身体は平気? 痛むでしょ」


「うん、大丈夫。節々痛むけど思ったよりタフなんだね、私。……あはは」




そう言って涙を流しながら、お互いの心身を思い合った。



私達はどんなに歪みあっても、 二人にしか分かり合えない絆がある。


だからこそ乗り越えられるし、許し合える。

お互いの大切さが身に沁みた瞬間、私達は大人の階段を一歩上った。




ーーそれから、約20分後。

病院を出てから久しぶりにスマホを開いた。


最後に開いたのは、木村に自宅へ電話をかけてもらった時。

その時は言われるがままに電話帳に手を伸ばしていたから、他のアプリまで目が行き届かなかった。



バックライトが照らされている画面には、理玖からのSNSメッセージが三通に、電話が一回。

私は母親とケンカをして家を飛び出したあの日と同様、再び彼に心配をかけていた。


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