小さなヤキモチ
嘘でしょ〜〜〜!!
生理の時は遠慮するって聞いた事があるんだけど。
ってか、下着を見られたら嘘がバレちゃう。
やっぱり今日がハジメテの日なの?!
無理無理!
心の準備がっ……。
「えっ! ちょっと……。理玖っ……」
理玖の香りとほんのり温かい気配は、動揺する愛里紗の左頬10センチまで接近する。
だが、左頬にゆっくりと近付かせていた唇は耳元でピタリと止まり、温かい息を漏らしながらくすぐるように囁いた。
「なぁんて……。ハジメテなのにいきなり襲ったりしないよ」
理玖は赤面したまま近付けていた身体をヒョイと上げて座り直す。
愛里紗はピンチを免れて安堵すると、深い吐息を漏らしながら身体を起こした。
「……どうして私がハジメテだって事を知ってるのよ」
「この前、最後に付き合ったの俺だって言ってたから。……まさか、知らないどこかでもう誰かに捧げたんじゃねーだろうな」
「そんな事する訳ないでしょ。……なんで怒るの」
小さなヤキモチを妬いて不機嫌になる彼。
きっと、私を大事にしてくれている証拠なんだと思う。
「誰だって宝物は大事にしておきたいだろ。……でも、どうして俺が襲うと思ったの?」
「インテリアの信号機が赤から青に点灯したら、理玖の中の信号機も青になって襲いかかってくるのかと……」
「アホか! 俺らまだ付き合い始めたばかりだし。しかも、あの信号機はお前が足を引っ掛けて壊してから赤しかつかないの」
「じゃあ、一生壊れてていい……」
「自分で壊しておいてそりゃないだろ。そろそろ買い直そうと思ってたのに」
「買い直さなくていいよ! 新品を買ったら信号がまた青になっちゃう」
「あのなぁ、ひとごとだと思って……」
理玖はそう言ってハハっと苦笑い。
恥ずかしい思いはしたけど、いつもの調子が戻った瞬間ホッとした。
「残念ながらそこまで考えてないよ。俺が今欲しいのは身体じゃなくて心の方だから。特に焦ってないよ」
理玖は笑顔で余裕をかますと、いつものように頭をポンポン二回叩いた。
「あ、あはは。そうだよね。……先走ってごめん」
頭をポンポンされた衝撃で気持ちが二段階気持ちが楽になると、暴走していた自分を反省した。
「……でも、進展の事なんて想像してたんだ。だから、一日中様子がおかしかったんだろ?」
「えっ……」
気持ちが一旦落ち着いたのも束の間。
彼は再び口元をニヤつかせながら墓穴を掘り起こした。
「合宿コンクールが近いからと言って変な深呼吸してたし、手汗がびっしょりで汗が滴りそうだったし、お前んちの前に行っても家に入れてくれないし、部屋ん中でブレザー脱ぐなとか必死こいてたし。しまいには、じらしてるとか生理だとか言って。なんかおかしいと思ってたよ」
「そっそれは………」
心の中の秘密が封切りされた瞬間、今日一日の不審な行動が全て見破られていく。
そのせいで水道の蛇口をフルに捻ったかのように冷や汗が噴き出した。
「まだ付き合いたてなのに、もう次の事を考えてくれてたなんて」
「そっ、そんなつもりは……」
意地悪発言を繰り返す彼に最後の一撃を食らう。
ピンチというものは簡単に脱する事が出来ない。
穴があったら入りたい。
……ってか、穴に入る事が出来たらそのまま冬眠したいよ。




