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神様……



「……え、じらす? 生理? 何の事?」




前代未聞の失言は、残念ながら彼の耳にしっかり届いている。

呆れ返っているその表情からはついに笑顔が消えた。




「だっだからぁ……。えぇっと、そのぉ……。なんて言うか……」




がっちり身を固めたまま目を左右させてしどろもどろの苦し紛れの言い訳をしている姿は終わりを意味している。

生まれて此の方、今日以上苦しんだ日はない。




帰りたい……。

早く帰ってベッドの中に潜り込みたい。

一度潜り込んだら、もう布団の中から一生出て来ないんだから。



理玖のお母さん。

部屋に入るなら今がチャンスだよ。


……ってか、お願い。

バカな言動をした救いようのない私を今すぐここから救い出して。




崖っ淵に追い込まれた愛里紗は神頼みを始めた。

すると、暫く首を傾げていた理玖は感づいて吹き出す。




「あはは! 部屋に入ってからやけに口数が減ったなと思っていたけど、そんな事考えてたの?」




私の思考が完全に見破られてしまったようだ。

救いようのない自虐発言が悔やみきれない。




神様……。

お願いします。

出来れば時計の針を5分前に戻して下さい。

もし、それが不可能なら今すぐおばさんをこの部屋に……。




「うっ……」


「ふぅん。お前がその気なら生理でも何でも歓迎するけど」



「いやっ……あのっ……」


「優しくしてあげるから」



「もっ……もう、十分優しいから、いま以上に優しくしてくれなくても平気」




愛里紗は再び身を守る体勢で接近してくる顔から20センチの距離を保ったまま身体を反らせていたが、重心に耐えられなくなってそのままコロンと倒れ込んだ。

理玖は右肘柱にして愛里紗にゆっくりと顔を近付ける。




ドキン…… ドキン…… ドキン……



心臓は再び暴れ狂った。

多分、そろそろ壊れてしまうだろう。


いや、既に壊れているのは私の脳内。

悪魔がしつこく囁き続けるから、いつしか理性が崩壊してしまったようだ。



インテリアの信号機の色はもう青に点灯しちゃっちゃったかな。

……やっぱり、おばさん。

今は部屋に入って来ちゃダメ!




愛里紗は、オオカミの香りを漂わせてネクタイを緩めながら迫り来る理玖を止める為に、両手で胸を支えてブンブンと首を横に振った。


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