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一つになった影




「実はここ、お気に入りの場所なんだ。お前に見せるチャンスが今日しかないからどうしても見せたくて……」




理玖はそう言うと、短い髪を靡かせながら得意げにニカッと笑う。

私なんて校舎内を駆け巡った時に卒業式の日のファーストキスの事を思い出しちゃったよ。



でも、この絶景を見せる為にさっきは何度も時間を確認していたんだね。

私は今日しか学校に入れないから、たった一度きりのチャンスに賭けていたんだね。


私と一緒に夕空を見る為に。

そして、同じ感動を味わう為に……。




愛里紗の心の中の何かが動いた瞬間、理玖の手を後ろからギュッと握りしめた。

理玖は手の感触を感じると、眩しそうに目を細めたまま夕陽を眺めている愛里紗へと顔を向ける。




「やり直そっか。私達……」




気付いた時にはそう呟いてた。


正直、場の雰囲気に飲まれたのが40%。

理玖の強い想いが40%。

私の中途半端な想いは20%だったけど……。


彼の隣にいる事を選んだ。



これが正解か分からない。

正直なところ、好きかどうかもわからない。

でも、断る理由なんて一つもない。


だから少しずつ歩み寄ってみよう。

自分の歩幅で、焦らず無理をしないように……。




屋上で深い夜空へと衣替えを始めている景色の中。

理玖は恋する瞳を向けたまま両肩を抱いて、ゆっくりと顔を近付かせて押し上げるように唇を重ねた。


夕焼けに包まれている屋上で、私達は恋人として二度目のキスをした。

唇が重なったと同時に二人を照らしていた夕陽の影が二つから一つに……。



長いように感じた3秒間のキスと、ゆっくりと身体が離れた2秒間の間に彼の気持ちが伝わってきた。

今回で二度目のキスだけど、今は特別なものを感じている。



彼が告白をしてきた時は気丈に振る舞っているように見えたけど、本当はいつ壊れてもおかしくないほど待ちくたびれていたのでは、と思うように……。

気持ちを受け止めたからには、少しずつ応えてあげなければならない。





『理玖くんが愛里紗の彼氏なら安心だし応援したいな』

と言って、恋を応援してくれた咲と。




『理玖くんと新しい恋をした方が自分の為になると思う』

と、アドバイスをしてくれた母の言葉を信じて……。




屋上で私達を照らし続けていた夕陽のように、私は彼との未来に光を当てた。


こうして、一度止まってしまった二人の時計は、1年8ヶ月という時を経て再び時を刻み始めた。


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