3.
しばらくは信じて待っていた。
もう無理なんだと悟ったのは、いつだったっけ。
TVのトーク番組で、恋愛観を聞いたから?当たり前だろうけれど、引っ越しをしたと聞いたから?その辺の記憶はごちゃごちゃしてしまっている。
当時は実家のリビングでツイキャスとかをやっていたから、母も全て知っていた。その頃、ちょっと鬱々してしまっていた私は、ヤケクソで流行りの暴露配信でもしようかとまで考えたが、母が止めてくれた。
曰く、
「気持ちは分かるけど。そんなことをしても、傷を負うのは結局女の子だから」
と。
私は怒りとも悲しみとも判断できないような、ごちゃごちゃな気持ちをもて余していたけれど、いつも自立放任主義の母がずっと監視……というか、見守ってくれていて、そんな配信はやらずに済んだ。今となっては大感謝だ。
ずっと寄り添ってくれて、「お母さんまでマンガみたいな経験できるとは思っていなかったわよ。普通できない経験だから!」と、自慢なのか不思議な慰め方をしてくれるのもおかしいやら、確かにと思うやらで、だんだんと気持ちが落ち着くのが分かった。
そもそも、どちらからも付き合うような話は出なかった。けど、私は心の隅で、段々と考えられるのかな、とかいう期待もあったのかもしれない。それが彼にはなかったのだろう。才能も魅力も沢山ある人たちに囲まれる世界だ。私なんか、ちょっと顔の造形が良いだけの、つまらない女にますます思えたであろうことも、分かる。仕方ない。
仕方ないけれど……今でもすごいと思う彼の曲を、素直に好きと言えなくなってしまったのが、一番悲しいかもしれない。
ただの推しとファンに戻ろうと最後に言ってくれれば、そのままファンでいられたのに。
ーーーって、ダメだなあ、やっぱり。曲を聴くといろいろ思い出してしまう。せっかくの癒しタイムなのに……。
ちなみに、私が三次元からすっぱり足を洗ったのは、その後もボカロPやら何やらからお誘いを受けたからだ。中にはお付き合いをと言ってくれた人もいるけれど、私はもう、推しとファン以上の関係を誰ともするつもりはなくて。それに、彼からその世界の女性絡みのあれこれも聞かされていたので、とても無理だった。ダメンズ3B
って、美容師、バーテンダー、バンドマンだったっけ?バンドマンに、(ボカロP)も入れたら?って感じだ。
その点、二次元は素晴らしい。
嘘もつかないし、裏の努力も見えるし。今の技術はすごいから、ダンスの動きもいいし、声優さんも頑張っていて、歌もいい。最高。
こうして私は二次元の沼に、ますますズブズブと入っていったのであった。
二つ年下の妹に、例え彼氏ができて、大学卒業と同時に結婚を前提に同棲すると言われても。
「……お姉ちゃんも彼氏作った方がいいって、マジで」
と、真顔で言われても。
もう、嫌なのだ、傷つくのは。
ずっとぬるま湯に浸かっていたい。逃げと言われようとも、二次元の彼らが大好きなのも本当なんだから!推し色のペンライトを振り回して、ずっと楽しく応援するのだ。そうだ、痛バのアレンジもしなければ。
寂しくなんて、ないのだ。うん。