1 俺と紫音と桜
「源二、今日こそはアタシが勝つ!」
俺にケンカを売ってきたのは、小学校からの腐れ縁の中村紫音。
高校2年生。長い金髪、女にしては長身で、顔は整っているが、ヤンキーだ。
「へぇ?面白えじゃねぇか!やってみろ!」
受けて立つのは俺、山本源二。同じく高校2年生。
身長は180㎝弱、勉強は嫌いだが、ケンカは得意だ。
ま、いわゆる不良ってやつだな。
「源二君も紫音ちゃんもやめようよ!怪我しちゃうよ!」
そんな二人の仲裁に入るのは、幸田桜。
俺と紫音の幼馴染で、肩にかかるくらいの黒髪に小柄で清楚系の可愛い子。
紫音と俺のケンカは日常茶飯事だ。
桜と紫音は仲が良かったが、何故か俺にだけ紫音は突っかかってくる。
小学校6年生くらいまでは、勝ったり負けたりだったが、流石に高校生にもなると俺が負けることは無い。
相手は女なので、怪我しない程度には相手をしてやる。
俺の家は俺が小学校の頃、母親が男を作って出て行ったため、父子家庭だ。
母親が居なくなってから、父親は俺に無関心になった。
カネは出してくれるが、俺に構う事は無くなった。
一緒に遊びに行く事はおろか、飯も一緒に食わなくなった。
母親が悪いことは俺にもわかる。多分母親の息子の俺が憎いのだろう。
次第に家にいる時間が短くなり、外で仲間と過ごす時間が増えた。
今では、暴走族とまではいかないが、バイクのチームを作り、夜は屯している。
ヒュッ!!
紫音のパンチをギリギリで避け、腹に軽く膝を入れる。
「ぐっ!」
紫音がうずくまる。
「今日はこの辺で終いだ。また相手してやるよ。」
「畜生、ぜってぇ勝ってやるからな!」
何でコイツはいつも俺に突っかかって来るんだろう?
コイツも俺の真似をするように、女だけのバイクのチームを作り対抗してくる。
コイツはヤンキーになるような家庭環境でもないと思うんだがな。
両親もしっかりしているし、結構裕福だったはずだ。
確かに小学校の頃から俺と同じでガキ大将気質でケンカも強かった。
それでよく俺とケンカになって、その間で桜はオロオロしてたっけ。
何も変わってねぇな。
「紫音ちゃん、大丈夫?痣とか出来てない?」
「あぁ、大したことねぇよ。源二、手加減しやがったな?」
「………。」
「チッ!アタシは帰る!」
紫音は去っていった。
「どうして二人はケンカばっかりするの?」
「俺に聞かないでくれよ。紫音に聞いてくれ。」
「もう、紫音ちゃんもしょうがないんだから。」
「そうな。桜からも言っといてくれよ。」
「私が言っても聞かないよ。」
「だろうな。まぁ、諦めてるが。」
「それはそうと、源二君、今日もご飯作りに行くから、一緒に帰ろう?」
「いいのかよ、毎日毎日。大変だろ?」
「大丈夫だよ、源二君のお家は料理出来る人が居ないんだから。」
「悪ぃな、感謝してる。」
「いいよ、おじさんから食費は貰ってるし。気にしないで!」
「わかった。んじゃ、帰るか。」
そう、桜はいつも俺の家の心配をしてくれて、飯を作りに来てくれている。
そんなことを毎日されれば、当然だよな。
俺が桜を好きになるのは。