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新プロレタリア文学短編集  作者: 城戸幽奇
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恒良の恋3

 彼女は僕の会社でパートとして入ってきた、少し変わった女でした。

僕より少し年上のくせに垢抜けない、決して美人ではないが愛嬌がある、しかし人見知りで愛想笑いばかりしている。

たまに見せる儚げ表情が妙に守りたくなるような気持ちにさせてくる、誰とも交流せずに過ごす休憩時間、いつしか同様に一人で休憩を取る彼女と仲良くするようになりました。

この時間がいつまでも続けばいいのに、気づけば彼女を目で追い、空間を同じにするだけで自分の中に水を打ったような静けさがあるような、それでいてマグマの様な熱い感覚が湧いてくるような、そんな感情を恋と呼ばずなんと言うでしょう。

人見知りの彼女が自分の前だけでは素でいてくれる、恋に堕ちた僕にはもうこれだけで彼女を専有しているような心地がしたのです。

今にして思うと、この時既に彼女の術中にはめられていたのかもしれません。

儚げな表情で男を釣り、自分の寂しさと称した承認欲を満たす。

あれはきっと愛されずに育った女が使う自己防衛機能なのでしょう、いつだってあいつらは狡猾で、自分の事しか頭に無い。

それに気づかない愚かな僕の心はおいそれと蜘蛛の巣にひっかかる哀れな羽虫の様に、彼女に取り食われてしまったわけです。

彼女の方から交際を申し込まれ、既に彼女と居ることが存在意義になりつつあった僕はまさに天にも登る心地になりました。

母が死んでから止まっていた時計が動き出すように生きる活力がみなぎってくる、この女と絶対に幸せになるんだと、女の本質を何も知らない僕は浅はかにもそう考えてしまったのです。


 彼女と生き始めた頃は本当に煉獄の様でした。

とにかく意図が伝わらない、何を伝えても自分を批難する言葉に受け取る、気に食わないことがあるとすぐ自傷行為に走る、最初の2年間僕は彼女と意思の疎通がはかれるように尽力し続けました。

時に叱りつける様なことも張り倒す様なことも多々ありましたが、彼女はそれでも逃げ出すことはなく良い方向に向かいたいと頑張っていました。

もっとも実家からほぼ着の身着のまま出ていったため後ろ盾も無なく、なおかつ交友関係もほぼ無かったため、僕に見捨てられれば最期と必死になっていたのだろうと推測します。

僕の尽力の甲斐もあってか、彼女はいろんな表情や表現ができるようになってき、会社では彼女を正社員として雇用する話も出てきました。

彼女は生きがいや仕事にやりがいを見いだせるほど成長したのです。

この時期が僕の中で一番幸せでした、そしてそれら全てを台無しにするような事を彼女はしていたのでした。

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