第六話 遂には二人で窃盗犯
「行くわよ」
夜中の1時を回ったから、みんは虎郎を促した。
「大丈夫ですかねぇ?捕まったりしないですかねぇ?」と虎郎が不安げだ。
犬がワオンワオンと吠えている。いやな感じだ。
そこは草ボーボーの庭で、物干し竿と竿掛け、そして竿掛けを支えるセメントの台。それが3セット置いてある。
「窃盗、ですよね」
「まぁ、そうとも言うかな。でも、もう使ってないって、大丈夫だって」
言っているみんだって不安なのだから、ガタガタ言うんじゃない。
竿と竿掛けはみんがどんどん車に運ぶ。振り向くと虎郎が、ムウッといったまましゃがみこんでいる。どうやら、セメントの台はとてつもなく重そうだ。
「いちにの、よいしょ」とみんも一緒に持ち上げる。
きっと長年置いてあったままなのだろう。セメントにこびりついた土のけぶるようなにおいが鼻をつく。お、重い。3セットだから、これが6個・・・。
犬がワオンワオンと吠え続けている。
6個目に取り掛かった時、窓に灯がついて、犬に声をかける声。
「早く!」
何とか荷台に載せ終えて、車に飛び乗った。
ライトバンのサイドドアから慌てて6個ものセメントのかたまりを載せたものだから、助手席に乗ってもわかるくらい、車は片方に傾いでいる。
ボロ車は、やっとこさ走り出す。
何か叫ばれている気がする。後ろから大きな手が伸びてきて、つかまれる気がする。よくわからないけれど、とにかく逃げろ!
次の日から、ボロを洗濯することにした。ボロは、2層式洗濯機の中を勢い良く回っているけれど、水道の蛇口からは、ポタポタ水しか出てこない。
「ねぇ、今日の稼ぎは水道代にしよう!コーヒーもだめ!鍋もだめ!カニなんてもってのほか!水道代が貯まるまで、飯抜き!」
虎郎が「ひえー」と言いながら承知する。
蛇口から水がほとばしるようになったから、天気がいい日は早起きして洗濯を始めた。
洗濯をする時の水のにおいって、どうしてこんなに優しいのだろう。
冬の光の中で、お母さんはいつも洗濯物を干していた。
子供のころはまだ、ローラー式の絞り機がついた洗濯機で、水を含んだ繊維を2つのローラーの間に挟んでハンドルを回すと、スルメイカみたいにヘロヘロになったシャツやパンツがあらわれた。お母さんが、それを宙に振ると、シャツやパンツは息を吹き返して、お母さんの左腕に掛けられていく。何枚も何枚も左腕に洗濯物を掛けたお母さんは、その腕で竿の端を掴んで竿と腕を1本につなげて、次々に竿に洗濯物を移して干していた。
きれいな空気の中で、土のにおいがして、草のにおいがして、洗濯物が風に揺れて、お母さんが笑っていた。
そんな記憶がよみがえった。