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みんはアンティークディーラー  作者: そとまちきゆみ
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第三十三話 捨てる神あれば拾う神あり

電話がかかってきたのは、ヨーロッパから帰った翌朝だった。

「軽井沢骨董市」の班長さんからだった。

「おやじさんが『平和島骨董祭』に、なぜあの子を出さないんだ、と言っています。どうします?今度の金土日ですが、出ますか? 半ブースキャンセルが出ているから、今なら出られます」

班長さんは、平和島骨董祭のスタッフでもある。

「あ、ハイ、出ます。出してください」

「出店料は45000円だけど、大丈夫ですね」

「ハイ」

「では、振込み先を言いますので、書き留めてください。入金を確認次第、書類を送るそうです。今後は、平和島骨董祭の事務局の方の対応となりますので」

ガシャリと電話は切れた。

虎郎が寝ぼけ眼で「どうしたの?」

「平和島骨董祭に出られるみたい」

「へ、平和島?」

虎郎が飛び起きるのも無理はない。当時の平和島骨董祭というのは、日本で一番大きな骨董の室内催事で、キャンセル待ちが百業者以上あるという、ものすごい骨董市だと聞いている。ものすごい人出で、ものすごく売れるとか、出店料は1ブース9万円だけれど、その出店の権利を、百万円で買い取る業者もいるとか、いないとか。

「拾得屋」の裕ちゃんが「あれはねぇ、住む世界が違う骨董屋さんが出るんだよ」と言っていた。

「半ブース出させてくれるって。でも、45000円、ある?」

「ないよー」

店は売れていないようだった。

そりゃそうだ、天下市の残り物を放り込んで、虎郎にまかせたまま、お釣りの小銭までかっさらうようにして仕入れに行っていたのである。

彼は、1日に5百円とか千円を売って、その日暮らしをしていたようだ。

「行くよ」と虎郎を促す。

「行くって、どこ?」

「店に決まっているでしょう。あ、虎郎、毎朝店あけてなかったね」

「いやいや、そんなことはないんですけどね」

口ごもる虎郎を急き立てて店に行き、買ってきた商品を出し始めた。

虎郎は、「ひゃー」とか「すげー」とか「アンティーク屋さんじゃないですか」とか言いながら、荷出しを手伝っていた。

ノートに商品番号を付け、それをシールに書いて、値段を貼り付ける。

これも、生まれて始めての作業だった。

足の踏み場もないくらい商品を床に並べたので、店の中はぐちゃぐちゃである。外にかけた2百円の古着がパラパラ売れていた。

45000円、45000円、が頭の中を駆け巡る。

「どうしよう、45000円」とついに口に出した時「おや、おや」と店に入ってきた男の人がいる。

「いらっしゃいませ。すみません、散らかしていて」

「いやいや、いいよ。変な店があるなぁと思っていたけど、何だかおもしろそうなもの、並べているじゃないか」

「はい、パリやロンドンで買ってきたものなんです。きのう帰ってきたばかりで」

「見てもいいかい」

「もちろん、どうぞ」

床に座り込んだまま、答えた。

男の人は作業着姿で50歳くらいだった。

床に散らばった商品を、避けながら歩いているさまは、まるで小人の国に迷い込んだガリバーみたいに見えた。

「これは、いくらだい?」

ガリバーが小人をつまみあげるようにガラスを持ち上げた。

パリのモントルイーユの真っ暗な中で、張り込んで50フラン出して、マフラーでくるんだガラス皿だ。今回の仕入れの最高級品だ。といっても1200円なんだけど・・・。

「えーっと」

「おや?高いのかな?」

「そのぉ、あのぉ」

「いいよ、いくらでもいいから、言ってごらん」

「あのー、つまり、45000円です」

彼は「ほおー」と言った。

しまった、きっとボッたと思われたんだ。いくら何でも、ほかの物が2千円とか3千円とか付けているのに、高すぎた。

すると彼は「うんうん」と言いながら、作業着のポケットから財布を出して45000円を手渡してくれた。

「いいんですか?」きつねにつままれた気分で立ち上がって、受け取ると「もちろん」と彼は笑った

「これはね、ラリックだよ。ほらここにサインがあるだろう。小さいけれどいいラリックだ。もう買っちゃたから言うんだけどね、これ、20万円でも僕は買ったよ。でもまぁ、勉強代だ。安く売ってくれてありがとう」

「はぁ。こちらこそ、ありがとうございます」

ラリックが何なのか、さっぱりわからなかった。

「すみません、買ってきたばかりで、まだ洗ってもいないんです。そのお皿、なんだか汚れているようなので、、、たわしで磨けば綺麗になると思うんですけど、、、ちょっと待ってください、磨いてみますから」

「恐ろしいことを言うね、君は。これはね、パチネっていうラリックの技法なんだよ。裏の彫りを入れたところに汚しをかけているんだ」

「はぁー?そうなんですか。だったらそのままでいいってことですか?」

「よかったなぁ、今僕が買って。パチネは出来上がったガラスに色付けして甘く焼いてあるだけだから、磨いたら取れてしまう。ピカピカになったら、ラリックの価値がなくなってしまうところだったね」

ますますなにがなんだかわからなくなった。

でも、夢のような45000円だ。奇跡のような45000円。救いの神の45000円。

20万円なのか、どうなのかは知らないけれど、こちらは1200円が45000円になったのだ。

これで、平和島骨董祭の場所代が払える。


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