第二十六話 茶畑の向こうにウエス屋はあった
2百円の通帳が200200円に変ったのは、10日後の月曜日だった。
急がねば、もう10月も半ばを過ぎてしまう。
朝早く、虎郎とポンコツライトバンで向かった先は、埼玉県の狭山市だった。茶畑に秋の朝が広がっていた。
ちり紙交換の仕切り場で「ウエス屋」という存在を知った。
ウエスとは、古着や古布を再利用してつくった工場などで使う雑巾のことである。ちり紙交換から出た布類で木綿の布は、このウエスに変身する。
ウエス屋とは、ちり紙交換の仕切り場から大量に布類を買い取り、分別するところだという。
そのウエス屋は、だだっ広い納屋のような小屋で、高くて小さな2つの窓だけが明かり取りになっていた。布ほこりが2筋の朝の光に照らし出されて、息苦しいほどに舞っていた。背の高さほどに積み上げられた布たちがいくつもの山をつくって、迷路のようだ。
「何が欲しいんだね」
小屋の中では顔の判別も出来ないほど真っ黒に日焼けしてごつごつした主人が、何だかいまいましそうに布の中を歩く。
目を凝らすと、ただ布が積んであるだけだと思った小屋の中で、5人の女の人が地べたに座って黙々と布を選り分けている。
「お邪魔します」と声をかけたが、振り向いてももらえなかった。
「こんな暗い中じゃ、布の選別は難しいと思うだろう。だがな、こいつらは触っただけで、メリヤスなのか、化繊なのか見分けられるんだ。暗い中ではこいつら、何をするのもうまいんだ」
主人はひひひと笑って「ほう、綿シャツがほしいのか。綿は高いぞ。なにせ綿はウエスのいのちだからな、化繊じゃだめなのか、そうか、で、どのくらい欲しいんだ?」
「20万円分です」
主人はヒューと息を吐いて「20万か、お姉ちゃん、なかなか金持ちじゃねぇか。よし、一山全部でいいだろう。どの山を選んでもいいぞ」
「これが、いいものが入ってそうな気がするなぁ」と、ちょっと離れたところで虎郎がつぶやいた。虎郎も夜目が利くのかもしれない。
どうせ薄暗い中、何の判別もできないから、「あの山にします」と咄嗟に答えた。
一山は以外に多くて、箱にも入れずにそのまま綿シャツをギューギュー詰めにポンコツライトバンに押し込んで、バックドアを閉めようとしたが、満杯状態でちゃんと閉まらない。主人が「ほれ、これで縛れ」と手渡してくれたのは、薄青色のネグリジェだった。バッグドアを半ドアの状態にしたまま縛ると、あちこち布がはみ出している。助手席もほとんど綿シャツだらけで、布に挟まるようにしてみんも座席に納まった。
太陽は天空に昇っている。のどかな田舎道。
今にも廃車になりそうなポンコツライトバンは、黄色や青の布のきれっぱしをはためかせながらノタノタと走る。
ボロ屋はたちまち古着でいっぱいになった。
妙なにおいも漂っている。
それでも古着をおろさないと、ささやかな飯の種である虎郎のチリ紙交換ができなくなってしまう。
店を閉めると、毎夜毎夜その布の上で食事をし、選別をした。いくら選別をしても、触っただけでは何が木綿なのか化繊なのか、見分ける能力は身につかなかった。
化繊もけっこう入っていた。それらは店で2百円にして捌いた。




