第十九話 軽井沢骨董市ご出店の有象無象
さて、その「軽井沢骨董市」の出店業者たちである。
大広間の4分の1を占めているのは築地さんといった。「縁日で焼きそばを売っているおっさん」みたいな男で、いかつい。彼は、畳の上にブルーシートを敷いて、さびた鉄釜やら、ほこりの被った農耕用の鎌やら鋤を売っている。
商品は鉄物が多く、他にはやはり古びた蔵の戸やら自転車やらのやたらでかくて、がさばるものがほとんどだ。
「おお、築地、相変わらず鉄くず屋やってるなぁ」とおやじさんが声をかけると、そのでかい身体をちょっとまるめて照れている。
築地さんに寄り添うようにして、髪がやたらに長くて、その髪で顔の半分以上を隠した若い女の子が手伝っている。
最初の日「おやっさん、すみません、昨日蚤の市に出ていたら、こいつ、付いて来ちまったんです」と言っていた。
「お前、また女連れてきたのか。それにしても前の子に似た子だなぁ。家出娘なのか?」
「いや、家には言ってきたって言うもんで・・・」
女の子のいる前で、声高に話しているのに、彼女はまったく動じることもなく、黙々と鉄のかたまりを並べていた。
ひと夏、彼女は公民館にいたはずだけれど、いるのかいないのかもわからないくらい影が薄かった。というよりも、ときおり見かけると、築地さんの影そのもののようにくっついていた。髪の毛で、最後まで顔もわからないままだった。
おやじさんと築地さんが出会ったのは、築地さんが廃棄物をトラックに積んで走っている時だったという。
対向車線ですれ違ったおやじさんが、車をUターンさせて、築地さんのトラックに追いつき「おーい、あんた、それどうするつもりだ?」「はぁ、今から捨てに行くんです」「いつもそうやって捨てているのかい?」「はぁ、解体屋なもんで」「だったら俺について来い。今から川越の成田不動の蚤の市に行くから、あんた、それ売ればいい」
成田不動の蚤の市にそのガラクタを並べてみると、蓼食う虫も好き好きで、捨てるはずの物達がどんどん売れていったそうだ。
その日から築地さんは、道具屋さんになったという。
築地さんは、ある種の女の子にはやたらモテる。前歯が2本ない。骨ばった四角い顔は真っ黒だった。その顔で笑うと、それが不思議なことに、かわいいから不思議である。彼は、老若問わず女には開口一番、絶対にほめる。
どんな時でも女には誰にでも、絶対に、である。
みんにも、会うなり「うわぁ、かわいいねぇ」と手放しにほめられた。
誰にでも言っていることくらいわかっていても、ちょっとドキマギしてしまう。
目覚めたての寝ぼけまなこの時だって「今日も朝から美人だねぇ」とくる。
女のお客さんなんか来ると、もうほめまくり。だから、その鉄くず商品が、けっこう売れるのである。
みんとおやじさんとで、築地さんのことを「ありゃ、イタリアのテキ屋だね」とよく言ったものだ。
大広間には他にも、計算ばかりしていて、人のことを上目使いで見る陰気な班長さんがいた。この「軽井沢骨董市」の世話役である。
大広間の隅っこにいて、この人だけは、古い格子の蔵戸で廻りを囲んで他の大広間に群がる道具屋とは一線を画し、違い棚や古い机の上に、そば猪口や茶碗、壺や漆器といった商品を並べていたが、客のいない時は、間段なくブツブツ怒っていた。客が来ると、同人物かと疑いたくなるくらい「へえこら」して、ちょっと不気味である。
班長さんの一番の頭痛の種は築地さんだった。築地さんは営業中に客がいても、大広間の鉄くずに挟まってごろごろ寝ていたりする。それに、素性もわからない髪の毛の長い女の子がいることが、何よりも腹立たしいようだった。
「軽井沢骨董市」には、風呂掃除係、トイレ掃除係、廊下掃除係、台所掃除係といろいろ当番があったけれど、出店業者たちは、かなりいいかげんである。
班長さんは、時々そのいいかげんに対して、腹立ちまぎれというか、これみよがしにがちゃがちゃ音を立てて、掃除をしまくっている場面もあった。
台所には冷蔵庫が2つあって、ひとつはおやじさんのもの、もうひとつは出店業者が使っていたが、入れてある食べ物がよく消えた。特におやじさんの食べ物が消えている。
班長さんは「絶対におやじさんのものを食ってはいけない」と怒る。おやじさんは、「いろんな人からの差し入れなんだから、どんどん食え」という。
おやじさんの言葉に従って、どんどん食うと、おやじさんが仕入れで軽井沢からいなくなるのを見計らって、犯人探しをして怒りまくる。
だから、おやじさんがいないと冷蔵庫の中は、腐ったものが増えてものすごい臭気を発する。班長さんは怒りながら結局は捨てていた。
骨董屋というのは、いかに小さな店であろうと、みんな一国一城の主である。おまけに癖が強い。そんな海千山千を監視するのは大変なのだろうけれど、班長さんは、自分だけが社会生活ができる「まともな人間だ」と思っている。
大広間のステージには、ペルシャ絨毯と大玉の珊瑚や琥珀、トルコ石などのアクセサリーをならべた、豪快な太っちょの吉野さんというおばさんがいた。
彼女はイラクやアフガンといった紛争地域に一人で買い付けに行く
。「危険なところは人が買いに来ないから安いし面白いものが買えるわよ」と言っては「ガハハ」と笑う。
笑うたびにお腹の肉がユサユサ揺れる。
このお腹に、紛争地帯で買ったアクセサリーをいっぱい巻きつけて、国境を越えるのだそうな・・・。
この人は軽井沢骨董市のいざこざからは超越していた。金持ちだから、1ヶ月ずっとホテルをとっていて、朝も夜もホテルで食べる。もちろん掃除も何もしないけれど、班長さんは黙認しているようだった。




