第十話 神出鬼没の古着屋です
古着はどんどん必要だった。ちり紙交換だけではとても無理だった。
そこで、1行千6百円で記事を掲載してくれる地方のリビング誌に「古着買います。1箱千円」と記して電話番号を載せることにした。
すると、時々ダンボールに詰まった古着が送られてくるようになった。封筒に千円札を一枚入れて、ポストに投函した。
ある日の朝、まだ7時ごろだった。電話が鳴って「すぐ来てくれ」という男の人の声。みんはまだ寝ぼけている虎郎を起こして教えられた家に急いだ。
男の人の家は、小さなアパートだった。
散らかった6畳と4畳半の2間の部屋に、大きな洋服ダンスが4棹もあって、男の人の生活はほとんどこの洋服ダンスに支配されているみたいだった。
「持っていってくれ。これ、全部!」
男の人は朝だというのにちょっと酔っていて、胃をやられているにおいがした。
どの洋服ダンスを開けても、プンっと香水とナフタリンの混じったにおいがする。ドレスやスーツが詰まっていて上の棚には、ブランド物のバックや靴がぎゅうぎゅう詰めになっている。下の引き出しには、丸めた下着やパンスト、化粧ポーチも入っている。
「でも、全部といわれましても、おいくらで・・・」
「金なんかいらん!全部やるから。その代わり、この洋服ダンスも、みんな持っていってくれ!早くしてくれ」
「はぁ・・・でも」と虎郎が言いかけるのを「わかりました。ありがとうございます。全部持っていかせていただきます」とみんが遮る。
「ほら、これ使え」と投げ捨てるように渡された大きな黒いゴミ袋に35袋。それを全部、外の駐車場に運び出し、重たい洋服ダンスも全部運び出す。
「ど、どうするの?」
「いいから、詰めるだけ詰め込もう」
最後の洋服ダンスを運び出したら、部屋の中はからんとして、埃だけがうじゃうじゃと舞っている。
「悪いけどひとりで家に降ろしてね。私、ここで荷物と一緒に待っているから」
ポンコツライトバンに虎郎を押し込む。残されたのは洋服ダンス3棹と黒いゴミ袋28袋。みんはゴミ袋のひとつを椅子にして、ぽつねんと座っていた。
もうすっかり春の風。
男の人の住むアパートの窓が、すぐ目の前にある。
何だか、あの男の人があの部屋の中で、ひとりぼっちで干からびていくようだ。
結局、ポンコツライトバンで4回往復した。
最後の荷物を積んで、みんが助手席に乗り込むと「ありゃ、逃げられたんだね」と虎郎。「だろうね」とみん。「あんまりいい気はしないなぁ」と虎郎。「でも、もうかっちゃったねぇ」とみん。
へんてこりんな「古着屋」は団地の主婦には結構気に入ってもらえた。「ユニクロ」も「GU」もない時代だった。
だから今より、きっと洋服にかけるお金は多かったのだろう。
古着屋もリサイクル屋もほとんどなかった頃である。2百円で服が買えるなんて、学校のバザーくらいだった。
けれど、同じ団地で3回も開催すると、「自治会の役員さん」というのが出てきて「許可」を求められるようになってきた。
仕方なく、新しい団地が見つからない時は、駅前や商店街の隅っこに洗濯竿を設置して「神出鬼没の古着屋」になったりした。
けれど数時間すると、大体はおまわりさんに怒られるか、怖いおっさんが肩で風きってやってきて「そこの若いのは、誰の許可を得て店を張っているのかなぁ?」とすごまれて、すごすご片付けることも多くなった。
そんなある日、ひとりの警官に「君たち古物商は持っているよね? もし持っていなかったら、それこそ商売自体やっちゃいけないんだよ」と言われてびっくりした。
この自由な国「日本」で、商売自体やっちゃいけないの?
「古いものを扱うのはねぇ、『古物商』という許可証が必要なんだよ。それは警察の防犯科の管轄なんだ」
そうだったのか・・・。
「ということは、私は『古物商』なんですか?」




