表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

一線を越えて

作者: 黒銘菓

 日曜日の朝、地下鉄駅のホーム。

 いつもならホームは人で埋め尽くされているが、珍しい事に今日ホームに居るのは私ともう一人だけ。

 停滞した地下鉄特有の温い空気の中。

 私と、制服に身を包み、墨のような艶のある黒髪を持った蒼白い顔の高校生の女の子が一人。


 とても、とっても不思議だった。


 今日は日曜日。当然の様に学校は休み。それなのに女の子は制服を着て、鞄を持って、こちらを正面からじぃっと見ていた。


 奇妙だった。


 私と女の子は、駅ホームの点字ブロックを挟んで互いを見ていた。

 勿論、ココは廃線の駅じゃない。

 点字ブロックで仕切られた先は、時間になれば電車が走り抜けてとても危ない。

 「あの、危ないですよ!」

 声をあげる。

 しかし、女の子は蒼白い顔のまま、黙ってその場を動かない。

 「早くこっちに!」

 再度そう言うも、一歩も動かない。

 駅員も、他の人も居ない、ひっそりとした駅。

 さっきまで温い空気が溜まっていたそこに、涼しい空気が横から流れ込む。

 遠くから響く轟音と共に。

 『まもなく電車が到着します。』

 駅のホームに、機械的な声が響く。

 駅員は居ない、電車を止めるボタンも無い!

 風が流れてくる先、トンネルの暗闇に光が二つ、浮かび上がる。

 轟音と共に。

 「早く、早くこっちに!

 手を…手を伸ばして!」

 そう言って女の子に手を伸ばす。

 女の子はこちらを見て、黙るだけ。何で動かないの?

 手を伸ばすだけ。伸ばすだけなのに!


 ファアアアン!!


 暗闇から電車が現れ、風が髪をなびかせる。

 電車は直ぐそこ迄迫ってる。だというのに、女の子は微動だにしない。何故………………!

 女の子に無我夢中で、その後ろに気が付かなかった。

 蒼白い顔の女の子、その肩はがっしりと誰かに掴まれていた。

 ファアアアン!!

 電車がホームに侵入し、少女を飲み込み、減速して………止まった。





 「よっ!おっはよー!どしたん?線路なんか見て?」

 後ろから肩をがっしり掴んだまま、友達が私の背中から首を突き出し、視線の先を見て首を傾げた。

 電車は徐々に減速し、停止しようとしている。

 「ぇ…見えなかったの?」

 「?なにが?」

 「点字ブロックの向こう、線路に制服の女の子がこっちを見て、手を伸ばしてた!」

 「んなバカな、そんな大事故起こってたら電車止まってるでしょ?」


 プシューッ!


 アナウンスが流れて空気が抜ける音と共にドアが開く。

 事故の後のホームとは到底思えない。

 あんな風に線路の真ん中に立っていた少女を、運転手が見逃す訳もない。

 「幽霊じゃあるまいし……早く乗らないと遅刻するよ………って顔真っ青!どうしたん!?風邪?今日は部活休む?

 別に体調不良で休んでもあの顧問は文句言わないでしょ?

 肩貸すよ?如何する?」

 心優しい友人は私の顔を見て不安そうにする。

 「…や、大丈夫!ごめん、ただの見間違いだった!行こう!」

 そう言って今にも閉まりそうなドアに向けて駆け出した。










 あーあ、あと、ちょっとだったのにな。

 さ、切り換えて、次の人に手を伸ばさなきゃ。

 そして…ひっぱらなきゃ。

 こっち側に。




 少女は手を伸ばす。

 線の向こうから此方に引き寄せようと、手を伸ばす。

 一線を越えさせる為に。


 『地の文の主がまさかまさかの幽霊』パターンは割と手垢が付いた様なスタイル過ぎるな…とも思ったのですが、如何でしたか?

 もう少し捻って作れれば良いのですが、流石に連載滞り中の手前、そこまで凝れませんでした。残念。

 ただ、『誰かが怖がって下されば良いな。』『夏の暑さを一瞬だけ忘れられると良いな。』と思っています。

 皆様、暑さにも、病気にも負けず、息災でお過ごし下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ホラーは難しいですよね。 私も難産で……というか完成したのジャンルが違う(笑) いやそれ以前についつい別シリーズに組み込んじゃった★ それはそうと。 ゾッとしますねぇ。 実際にありそうな…
[良い点] 女の子はあっちの住民のお人形さんなのかしら? お魚釣り上げるための疑似餌なのかなぁ。 肩をがっしり掴んでいるのがあっちの住民? 文章はとても読みやすくて、楽しんで拝読♪ 素敵な作品、有り難…
[気になる点] 叙述トリック的な描写にしたかったのは分かるけど、あまりにも状況がわかりにくいせいで意外性よりも単なる疑問で終わってしまう。 (何を意図してのどんな行動なのか分かる部分がほとんど無い。冒…
2020/07/30 14:22 ぶーめらん
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ