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兄と私のいけない関係 三話目


「いらっしゃいませ〜。」

「あら、可愛いウェイトレスさんね。」


私はマサのお店のお手伝いをすることにした。


マサはお店を臨時休業して、私の行きたいところに連れてってやると言ってくれたのだけど…バイトって、1回してみたかったんだよね。

私の親は勉強しろと言うばかりで、この先もバイトなんてさせてはくれないだろうし。



「シュウちゃんこれ、窓際の佐藤さんとこに運んで。」

「はーい。」



昨日私が来た遅い時間帯は客が全然いなくて暴走族達ぐらいだったのだけれども、昼間は近所の常連さん達で賑わっていた。

みんなマサと親しげに会話をしていて、マサも常連さんにはリラックスした優しげな表情を向けていた。


良かった…マサはヤクザみたいな見た目だから、普通のお客さんは一人もいないんじゃないかと思っていた。


あの顔のマサ、SNSの画像と同じだ。

仕事をしながらチラチラと盗み見をしてしまった。



お昼も過ぎると客はまばらになってきた。




マサにはそんなことしなくてもいいと言われたのだけれど、お店の外観を綺麗にすることにした。


昭和というかボロいというか味があるというか、微妙な感じの外観。

蜘蛛の巣やホコリだらけだった壁や窓をすっきりと水拭きし、可愛らしいグリーンの観葉植物や雑貨を飾ってみると、和と洋の入り交じった大正ロマン風に仕上がった。

自分で言うのもなんだけど、私ってセンスあるじゃん。




「可愛いお店〜。オススメのメニューってありますか?」


早速近くにある女子大の女の子達が食いついてくれた。

「ありますよっ。パンケーキがすっごく美味しいんです!」

女の子達を店内に案内してマサに注文したのだが……



「パンケーキ?ねぇよそんなもん。」

マサに凄みのある顔で一喝されてしまった。


「あれは試作品だっつっただろ?」

「でも、材料はあるんでしょ?」


「材料はあるけど、客は帰ったぞ。」

「はい?」


見ると女の子達は走り去っていた。

どうやらマサの迫力にビビって逃げたようだ。



「マサの顔に観葉植物飾ってもいい?」

「……なに言ってんだ?」



せっかく新しい客が来てマサの役に立てたと思ったのに。

これじゃあ外観を綺麗にした意味が無い。


「なんでパンケーキをメニューに加えないの?若い女の子がわんさか来るようになるかもよ?」


この辺は女子大だったり専門学校が多い。

スイーツ系のメニューを増やせば学生達もきっと来てくれるようになるのに。

ブーブー文句を言う私の目の前にふわっふわのパンケーキが置かれた。



「これはシュウちゃん専用のメニューだから誰にも出したくない。」


えっ……



マサは照れたように口元を拳で隠しながら続けて言った。




「次に来た時も食わしてやるからいつでも来いよ。」




そう言うと厨房の中へと引っ込んでいった。

私のための専用メニュー……

スプーンですくって口へと運んだ。

どうしよう……ニヤニヤが止まらない。

こんなの毎日出されたら太っちゃう。でも残さず全部食べちゃうっパクパク。





………いつでも来いよ。か─────



私が合宿に行ってないことはいづれはバレてしまうだろう。

そうなったらどんな罰が待っているか……

束縛がさらにきつくなるのは間違いない。



次にマサに会いに来られるのは1年先か5年先か……


もしかしたらこれで最後かもしれない。




甘いはずのパンケーキが、とても…ほろ苦く感じた……





















マサって寝顔可愛いなぁ……


起きてる時は眉間にシワを寄せて凄んでいるから超強面なヤクザにしか見えないけれど、寝てる時は柔らかな表情で無垢な少年みたいに見えた。

にしてもマサって素っ裸で寝るんだな。

大事なところがちゃんとタオルケットで隠れてて良かった。



「マサ、朝だよー。」


寝ているマサに声をかけたのだけど、う〜んと言って寝返りをコロンとうっただけで起きる気配がない。

危ないっ、見えちゃう……

ドキドキするなぁ、もう。

メールの時はすぐに起きて返事をくれたのに、案外寝起き悪いんだな。


二階の窓からは朝日がさんさんと降り注いでいて、マサの分厚い胸板や太い腕が艶っぽく照らされていた。

マサって鍛えてるのかな?男らしくて、見てるとなんだかムラっとしちゃう……


「マサ、起きないと襲っちゃうよ〜。」


マサの頬っぺにチュッてした。

パッチリと目が覚めたマサと至近距離で目が合った。



「うわっシュウちゃん!今俺になにしたっ?!」


マサは頬っぺを抑えながら慌てて布団から飛び起きた。

だから危ない、見えちゃうって。


「なにっておはようのチュウだよ?マサをメールで起こしてる時からずっとやってみたかったの。」

「やってみたかったって……あぁもうっ……」



マサは両手で自分の髪の毛をこれでもかってくらいぐしゃぐしゃっと掻きむしった。


「だってマサ全然起きてこないんだもん。早く朝ごはん作ってっ。」

「だからって男が布団で寝てる部屋になんか入ってきちゃダメだろ?だいたいシュウちゃんは隙だらけなところがあるからもっとちゃんと……」


もう、くどくどとうるさいなぁ。

怒るマサの頬っぺにもう一回チュッてした。



「シュウちゃんっ!!」



私はあっかんべーってしてから階段を駆け下りた。











「シュウちゃん。ホントに今日も遊びに行かなくていいのか?」

「いいのっ。お店のお手伝いが一番したいことだから。」


私は今日もマサのお店のウェイトレスをしていた。

マサと東京でデートをしたくないわけじゃない。むしろデートをして彼女みたいに甘えまくりたい。

でも、それよりも普段のマサの姿をこの目に焼き付けておきたかったのだ。




3日目にもなると、常連さん達も私のことをシュウちゃんと言って可愛がってくれた。


穏やかで温もりのある空間……

いつまでもここにいれたらいいのになと思ったら、胸が切なくキュンと傷んだ─────








夕方になるとあの暴走族の集団がやってきた。


「あれ?こないだの可愛い子じゃん。なんでウェイトレスの格好なんかしてんの?」

銀次君が私を見つけてニコニコしながら近寄ってきた。


「そっか、また俺に会いたくてここでバイトを始めたのか!健気だなぁ。」


どういう思考回路をしているのだろうか。

私の手を握って離さない銀次君の頭を、マサが後ろから思いっきりお盆でどついた。


「くっそ、銀次のせいでアルミのお盆が凹んだ。」

「すっげえ痛い!もっと力加減考えて下さいよっ!」


「銀次。てめぇはシュウちゃんの百m以内には近づくな。」

「距離長っ。それじゃあ店から出ちゃいますって!」



マサはみんなのご飯を作るために厨房へと入っていった。

とりあえずみんなにお水を出したのだけれども……

黒い特攻服の軍団は何度見ても慣れない。

なにかちょっとでもヘマをしたら怒鳴られるんじゃないかとビクビクしてしまった。


「君シュウちゃんて言うんだ?見た目と同じ、可愛い名前だねえ。」


銀次君だけがフレンドリーにずっと話しかけてきてくれた。

とは言うものの、銀次君も銀髪で黒マスクというなかなかの出で立ちなのだのだけど……



「もしかして外に飾ってた観葉植物ってシュウちゃんが選んだ?」

「そうですけど……?」


「ポトスは直射日光が苦手なんだ。あそこは日当たりがいいからこれからの夏の強い日差しには耐えられないよ。」



えっ……?


「銀次の家は花屋なんだ。馬鹿でドスケベだけど、植物の知識だけは確かだよ。」


目をぱちくりさせている私に、アフロのデブさんが教えてくれた。

銀次君はこの商店街にある花屋の跡取り息子らしく、昼間はお店を手伝いつつ、花屋になるために必要な資格を取るための専門学校にも通っているのだという。



「つる性植物を飾りたいならアイビーの方がいいかも。暑さにも寒さにも強くて初心者向きだから。」


そうなんだ。せっかく外観を見栄えよく出来たと思ったのに。

でも枯れてしまうのは可哀想だ……


「アイビーで良ければ俺が今度プレゼントしたげるよ。ポトスは寒さにも弱いし、店の中に飾ったら?」

「お店の中?」


お店の中を見渡してみたけれども、飾れるようなスペースが見当たらない。


「なあ、この壁に丈夫なフックって付けれる?」

銀次君が隣に座っていた顔中ピアスだらけの子に尋ねると、ピアスさんは親指を立てて楽勝と答えた。

「こいつ昼間は内装工の職人やってるんだ。」

銀次君がウィンクをしながら私に教えてくれた。



「みなさん昼間は真面目に働いてるんですか?」


私の質問にみんなが吹き出した。


「なにシュウちゃん、俺達のことみんなプー太郎だと思ってた?」


夜な夜な暴走行為を繰り返してはパトカーに追われ、昼間はうだうだしながら家で寝ているイメージでした。とは言えない……



「俺達は交通ルールはちゃんと守るし、週末は海岸のゴミ拾いとかもする人畜無害な暴走族だよ?」

「そうだったんですかっ?見た目が特攻服で怖かったので勘違いしてました…ゴメンなさい。」



私が頭を下げて謝ると、みんなが特攻服の上を脱ぎ出した。

中に着ていたTシャツが、キャラものだったり子猫の写真がプリントされてるものだったりして可愛かったので、思わず笑ってしまった。


「これで怖くない?」

「はいっ。ありがとうございます。」


知らなかった。暴走族ってもっと怖い人達だと思っていた。



「ああでも、ここら辺も10年前は凄かったんだ。」

「凄い?」


「うん。危ないヤツらがわんさかいて、チームも何個もあったからすげぇ荒れてたんだ。」


へぇ…そんな時代もあったんだ。

私なんかじゃ想像さえつかない世界だな。


「そいつらを全員ぶっ飛ばして、何百人もの連合のトップに立って平和にしたのが我らがパイセン、マサ先輩。」



はい?……えっ?



得意気に話す銀次君の背中にマサが回転蹴りを食らわした。


「シュウちゃんに俺の昔の話はすんな。」

「痛ってぇ!背骨折れた!」


マサは持ってきた大皿をみんなの前に置いた。

今の話は本当なのだろうか?

そんな漫画みたいな話…にわかには信じ難い。



「タチの悪い冗談だから忘れろ。」


私のポカンとした視線に気付いたマサが、すぐさま否定した。

「いやいや。今でもパイセンが声かければ何百人でも集まるっしょ?地元のヤクザでもビビって道譲るのに。」


「銀次…どうやらてめぇは死にてぇらしいな。」

「ぐはっ!ギブギブ!」


マサは銀次君の頭を脇に抱えてヘッドロックをした。

どうやら本当の話のようだ。

マサって相当喧嘩が強かったんだな……



にしても─────

何度やられても懲りないな…銀次君……

















朝早くに、私はよくやく完成した手縫いのカフェカーテンを窓辺に取り付けていた。

レトロな花柄模様の布にアンティークレースをあしらってみたのだけど……

年季の入った木製の格子の窓とマッチして、なかなか良い感じの空間になった。



マサは私がお店をいじくるのを好きにやらせてくれるし、センスがあるなって褒めてもくれる。

シュウちゃんにはそういう仕事が向いてるよと言われたのだけど……


本当は私もインテリア関係のお仕事がしたいと思っている。でも…あの親に反対されるのがわかりきっていた。




ボンヤリと窓を眺めていると、お店のドアベルがカラカラと鳴って若い男の子が入ってきた。

誰だろう…まだ開店前なのに。


「おはようシュウちゃん。アイビー持ってきたよん。」


親しげにそう言って爽やかに笑うかなりのイケメンさん。

今時の服装で黒マスクもしていないけれど、この髪の色は……


「銀次君?!」

「そうだよ〜イケメンすぎて惚れちゃった?」


この軽口…間違いなく銀次君だっ。


「ていうかさぁ、俺食べてる時はマスク外してたよね?どんだけ俺に興味ないの?」

言われてみれば…全然見てなかった。


「……そんなことないよ。ちゃんと興味あるよ?」

「じゃあ付き合っちゃう?」


「結構ですっ。」

「即答かよっ!少しは悩んでよ!」




壁のフックはピアスさんがもう付けてくれていた。

ポトスをオシャレな吊り鉢に植え替えて壁に吊るし、銀次君が持ってきてくれたアイビーを外の鉢に植え替えた。

植え替えの手順や手際の良さはさすが花屋の息子といった感じで感心してしまった。



「銀次君、マサだと枯らしちゃいそうだから、たまに植物のお世話してもらってもいい?」

「それは全然構わないけど、シュウちゃんどっか行っちゃうの?」


「うん。明後日には家に帰らないと……」


私がここに居られるのは合宿のある十日間だけだ。

その日が過ぎたらイヤでも帰らないといけない。

楽しい時間てあっという間に過ぎるんだな……





「シュウちゃんてさぁ、もしかしてパイセンの妹さん?」



銀次君の言葉に、今まで考えないように避けていた現実を突きつけられて息が止まる……



「昔聞いたことがあったんだよね。年の離れた妹がいるんだけど会えないんだって。でも違うか…シュウちゃんの方が歳が上だ。」


銀次君は私の動揺になど気付かない様子でそのまま話を続けた。


「俺の3つ下だったから今は高校一年生だ。」


私はマサにもみんなにも自分は20歳の大学生だとウソをついている。

高校一年生………私と同じだ。



「名前はなんだったかな〜。確か子がついてたんだよね。それに二文字だったはずなんだけど……」

「銀次君、もうその話はいいからっ。」





「思い出したっ!アコだっ、パイセンの妹の名前は橋本 亜子!」






───── 橋本 亜子 ─────








………………私だ。









なんで…………






今までのことが頭の中をぐるぐると駆け巡って気持ち悪い。吐きそうだ……



「どしたのシュウちゃん?顔色悪いよ?」


銀次君が心配そうに私の顔を覗き込んできた。



「銀次君のバカっ!!」

「えぇっ?」


びっくりする銀次君を置いて店の奥にある部屋へと逃げ込んだ。

途中、厨房で準備をしていたマサにも声を掛けられたのだけど、耳を塞いでしまった。








SNSで知り合い、心惹かれて遠くまで会いに来て、すごく好きになってしまった彼は……



やっぱり……





私の実の兄だった───────












私は頭が痛いとウソを付いて布団に横になっていた。

途中、何度かマサが様子を見に来てくれたのだけど、寝たふりをしてしまった。



どうしよう……

これからどうしたらいい?




マサは私のことを妹の亜子だなんて思ってない。


だから私もこのまま…曖昧なままにして、明日はマサと一日デートをして最後に好きだと告白をしてお別れしようと考えていた。

マサとの恋人同士のような思い出が欲しかった……



でももうはっきりとマサが兄だとわかってしまった。


実の兄を本気で好きだなんて……

それはいけないことだ。









夕方になってマサが部屋に上がってきて、私が寝ている布団のすぐそばまで近付いてきた。


「……シュウちゃん起きてるか?」

息がかかるくらいの近さまで私に顔を近付けてきている。

どうしよう…どうしたらいい?



「俺のSNSに、ルリちゃんて子からシュウちゃん宛にメッセージが届いてるんだ。」


えっ………





マサのスマホを受け取り、メッセージを読んでみた。


「そちらにシュウマイがお邪魔してませんか?いたらすぐに私のスマホに電話するようにお伝え下さい。」



なんだろう……嫌な胸騒ぎがする。




「俺のスマホ使っていいから。今日はこれ以上客は来なさそうだし、店閉めてくるよ。なにかあったら呼べよ。」

マサが部屋を出ていったあと、私はルリちゃんに急いで電話をかけた。


「私のとこにアコの親から電話がきたよ。合宿行ってないんだって?今、いろんなところに電話かけまくってるみたい。」


まさか合宿がある間にバレるだなんて……

これ以上騒ぎが大きくなるとマサにも迷惑がかかるかもしれない。



今すぐにでも帰らないと──────





マサとの楽しかった日々はもう終了だ。

寂しい…すごく、寂しい………




最後に………


最後にマサとの思い出が欲しい。











「マサにワガママ言ってもいい?」




私は店のカウンターに座って、ひとりでコーヒーを飲んでいたマサに尋ねた。


「どうした改まって?いいに決まってんだろ。」


私に向かってニッコリと微笑んでくれるマサ。

最初にマサを見た時はビックリした。

眉間にシワを寄せた凄みのある表情。声もしゃがれてて金髪で、派手なシャツ着てゴテゴテのアクセサリーを何個も身に付けていた。

その風貌はヤクザにしか見えなかった。


それがこんなにも好きになるだなんて……

思いもしなかった。




実の兄だとわかっているけれど


この好きだという気持ちを



止めることなんて出来ない───────








「抱いて欲しいの。」






マサはコーヒーを盛大に吹かした。

ゴホゴホと咳き込んだあと、驚いた表情で私を見たまま固まった。

私はもう一度ゆっくりと繰り返した。


「私を、抱いて欲しいの。」

「……あ〜俺今、勘違いした。ハグの方の抱くか?」



「その勘違いした方を言ってるのっ。」



マサは信じられないといった顔で私を見たあと、両手で頭を抱えた。


「マジ…か……」



私は正面からマサの肩に腕を回し、顔を近付けた。


「……ダメ?」

「いやだって…俺でいいの?」


「マサがいい。マサじゃなきゃいやなの。」



実の兄とこんなこと…どれだけいけないことなのかはわかっている。



でも最後に一度だけ。

私の最後のワガママ……


もう二度とマサには会わないから──────





「いいのか?本当に?」


戸惑いながらも確かめてくるマサに、私は無言でうなづいて目を閉じた。


マサは私の髪を優しく撫で、自分へと引き寄せる……











「……やっぱダメだっ!」




寸前のところでマサが顔を逸らした。

目を開けると、困ったような、悲しむような顔をしたマサがいた。



「マサ…私のこと嫌い?」

「んなわけない。すげぇ好き。」


「魅力ない?」

「いや……今、自分の気持ち抑えるのに必死。テンパリまくり。」



「じゃあなんで?」






マサは大きなため息を付いたあと、静かに口を開いた。





「……妹だから……」








────────えっ……?





「シュウちゃん、俺の妹のアコだろ?」




えっ、えっ、えええっ?!!

ウソ…マサは全然気付いてないと思ってたのにっ!


「いつから気付いてたの?」

「一番初めのメールから。」


なんでっ?どうして??

私でさえ銀次君に言われるまでは確信が持てなかったのに?!



「覚えてないか?あの画像撮ったのアコだぞ?そん時もおまえ…うろこ雲見て大量のギョーザだって言ったんだ。」


全く覚えてない。

ギョーザにしか見えなかったからそうメッセージに送ったんだけど……

なに?私の思考って3歳の時から変わってないってこと?



「俺のことを兄貴なのか確かめるために連絡してきたんだなってすぐにわかった。」


本当に最初っから私が妹の亜子だと確信してたの?

あの時も…あの時もっ?

気付いてなかったのは私の方だったの?!



「でも俺は決して誇れるような人間じゃなかったから…だからメールではアコが思ってるような理想の兄貴を演じようと思ったんだ。実際会ってみたらショックだったよな?ごめんな。」




そんなことないのに──────






「なんでずっと言ってくれなかったの?」


「俺は昔からアコの好きなようにさせてきただろ?」



マサが言うには、暗くなろうが雨が降ろうが私の気が済むまで遊んであげていたらしい。

そんな記憶は全然ないのだけど…この兄なら小さな妹のワガママにも全部付き合っただろうなと思った。

バリバリのヤンキーだった15歳のマサが、3歳の女の子に振り回されながら遊んでる姿……想像したらちょっと笑ってしまう。


「今回もアコのしたいようにさせてあげようと思ったんだ。でも…さすがに抱くのは無理。」



お互いに兄妹とわかっていたのに私は迫ったんだ……

今さらながら自分がしてしまった大胆さがすごく恥ずかしくなってきた。



「俺ん中ではアコはちっちゃいままだったから…シュウちゃんだって言われるまで全然わからなかった。」



私を見つめながら照れくさそうにマサが言った。





「おまえホント……綺麗になったな。」






マサってばっ………


なんで妹だとわかっているのに、気のある素振りさせながらそんなことを言っちゃうかな……

嬉しいやら恥ずかしいやらで私の顔が一気に火照った。




「アコその顔やめろ!何度実の妹を襲いそうになったと思ってんだ?!」

「今のはマサが悪い!私は悪くないっ!」


「マサって言うなっ。ちゃんとお兄ちゃんて呼べ!」

「マサって呼べって言ったのはマサでしょ?!」


「だからぁ上目遣いで俺のこと見るなっ。可愛すぎるんだよ!俺の理性がぶっ飛ぶだろ!!」

「そんなのっマサの背が高いんだから仕方ないじゃん!」




気恥しさを隠すためにお互いに言い合ってしまった。

マサはまだ気持ちが収まらないのか、ちょっと頭を冷やしてくると言って厨房に行き、蛇口の水を頭から被った。

どんだけびしょびしょになるんだってくらい、体も床も濡らしまくりである。




「アコ……無理して帰らなくていいんだぞ?ここにずっと居てもいいんだ。」



雑巾みたいなタオルで頭を拭きながらマサが言ってくれた。

ここにずっと居られたらどれだけ幸せだろう……




──────でも………






「ううん大丈夫。高校もあるし、帰るよ。」


「じゃあ帰る時は一緒に行ってやるから。兄ちゃんがあいつらにガツンと言ってやるから心配すんな。」




「うん。ありがとう。」








あの家になんか近寄りたくもないはずなのに……



私のためにそう言ってくれた。







それで…私には充分だった───────












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