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兄と私のいけない関係 一話目


ごめんな………


兄ちゃん、もう一緒には遊んであげれない。




どちたのお兄ちゃん?また明日も遊ぼうねっ。






まだ幼かった私には、その言葉の意味を理解することなんて出来なかった。






困ったような、悲しむような顔をして……


兄は黙って…空を見上げた──────

















私、橋本はしもと亜子あこ。現在高校一年生。



「アコ〜放課後みんなでナクド行かない?」

「ゴメンっ、今日は予備校があるの。」


「じゃあ土曜日のカラオケは?男子達も来るって。」

「行きたいっ。けど無理…お母さんが許してくれない。」


黙ってればいいと言われたが、バレた時のことを考えると恐ろしくて行けない。

それに土曜日は19時から家庭教師がくる。

それまでにたっぷり出されている課題を片付けておかなければならない……

私にはJKの華やかな青春なんて皆無だ。



「アコん家って相変わらず厳しいね。」


隣の席に座るルリちゃんが、私の肩をポンポンと叩いて励ましてくれた。

ルリちゃんは小学生の頃からの親友なので、私の家の事情をよく理解してくれている。





私の父は有名大学の大学教授。母は教育評論家で、コメンテーターとしてテレビでも活躍している。

そんな両親をもつ私はとても厳しく育てられた。


幼稚園の頃から英語に習字にそろばんにと、何個も習い事に通わされた。

小学生になるとさらに塾も加わり、放課後に友達と遊んだ思い出なんて私にはない。

ゲーム禁止、漫画禁止、お菓子禁止、寄り道禁止、テレビはNHK以外禁止。

成績は常にトップじゃなきゃダメ。100点以外は点数とみなされない。

つねに勉強、勉強、勉強で、泣き言をいってる暇さえなかった。



見た目にだって厳しい。

前髪はぱっつん。

肩まで伸びたら後ろでひとつくくり。ポニーテールはダメ。

スカートは膝丈。化粧なんてとんでもない。



友達関係にだってガンガン口を挟んでくる。

あの子はダメ。この子もダメ。その子にしなさいと。

異性と付き合うだなんて夢のまた夢。



数え切れないほどのルール。

父や母の言いつけをちょっとでも守らないと、何時間でも正座をさせられ説教される。





そして必ず言われる。


“兄のようにはなるな” と───────







私には12歳年上の兄がいた。


兄は厳しすぎる父や母に反発して中学生になるとグレにグレた。

無免許でバイクは乗り回すし毎日喧嘩三昧、警察沙汰になることもしょっちゅうで家に何日も帰って来ない日もあった。

そして中学を卒業すると同時に音信不通となり、ずっと行方をくらましたままだ。


兄がいなくなったのは私が三歳の時だった。

なので…私の兄に関する記憶は断片的にしか残っていない。




窮屈で仕方のない今の私のこの生活……

時折、出ていった兄を羨ましく思った。






「じゃあ夏休みの海もアコは無理か〜。」

「それがね、学年末テストで一位の成績だったら行ってもいいって!」


「じゃあ楽勝じゃん。アコより頭良いやつなんてこの学校にいないでしょ?」

そんな風に言われると照れちゃう。

今度の定期テスト…気合い入れまくりで頑張るぞっ。













ある日母が驚きのものを購入してきた。


「そっ…それを私に?」

「私は反対よ。でもあの人が最近災害とか犯罪とかが増えてて心配だから、アコにも持たせておけって。」


母が渋々私に手渡してきたものはスマホだった。

あれもこれも禁止の私が…ウソみたいだ……

私は壊れ物を受け取るかのように、両手の上にそっと乗せてもらった。


「いい?アコ…持つのは学校や塾に行く時だけ。成績下がるようだったら即解約するし、メールも全部チェックするし、絶対知らない人とは……」


この後母からくどくどとお話が続いたのだが、全然頭に入ってこなかった。




私にはずっと…もしスマホが手に入ったら調べたいことがあったのだ。







次の日学校に来たルリちゃんをとっ捕まえて人気のない場所へと連れ込んだ。


「え?お兄ちゃんの居場所を知りたいって?」


そう、私はずっと…出ていった兄が今どこで何をしているのかが知りたかったのだ。


「SNSってみんなと繋がってるんでしょ?」

「う〜ん探すとなるとねぇ…アコのお兄ちゃんの名前ってありきたりだし。」



兄の名前は橋本 雅人まさとだ。



ルリちゃんが登録しているSNSの検索機能で試しに雅人とうってみたら、該当する人が山のように出てきた。


「SNSっていってもいろいろあるし、ニックネーム使ってるかもしれないし、そもそもアコのお兄さんがSNSを利用してないかもよ?」


そ、そうなんだ……

スマホさえあれば簡単に見つけられるものだと思っていた。





もう二度と…会うことは叶わないのだろうか?







困ったような、悲しむような顔をして……

空を見上げた兄の姿────────



兄のことはあまりよく覚えていないのだけれど、その時の記憶だけははっきりと残っていた。




その後、兄は私の頭を優しくなでながら言ってくれたんだ。







俺はずっと


アコの味方だからなって──────











「……私、諦めたくないっ。」



両親から当然のように求められる偶像のような娘。

重くのしかかるプレッシャーと、吐き気がするくらいの自由のない縛られた毎日。

自分を押し殺すしかない日々の中で、私は兄のこの言葉を何度思い出しただろう……




兄は今どこで何をしているんだろう?


今も……


私の味方でいてくれているのだろうか────





どうしても知りたい。






それから私は、登下校時の電車の中や学校の休憩時間にスマホをいじりまくり、兄らしき人がいないかを探し続けた。

















──────これって………




一学期の学年末テストが間近に迫っていたある日、とあるSNS上で気になる人を見つけた。


「アコどしたの?とうとう見つけた?」


隣に座っていたルリちゃんがスマホを手に固まってる私に気付いて画面を覗き込んできた。



その人の名前は “マサ”

年齢は非公開になっていた。

プロフのアイコンも自己紹介文も初期設定のままで真っ白。

でも…プロフ画面のバックに使われているこの画像……

それは一面のうろこ雲をバックに若い男性が写っているものだった。



「ピンボケしてるね…画像も荒いし。写ってるのは本人ぽいけど……」


男性の顔ははっきりとはわからなかった。

でも、私の中に唯一残っているあの時の兄の面影にそっくりな人だった。

確か……あの日もこんな空だった。

空気がとても澄んでいて、春にしては珍しく空一面にうろこ雲が広がっていたんだ。



「ルリちゃん、私この人と話がしたいっどうしたらいいの?」

「普通にメッセージ送ればいいと思うんだけど…げっアコ、本名フルネームで登録してんの?年齢も公開してるし!」


「ダメなの?」

「個人情報だだ漏れじゃんっ!」



ルリちゃんに怒られた。なにやらSNS上では怖い人達がウヨウヨいるらしい……

ニックネーム…なににしたらいいのだろう。



「ああこの人、出会い厨から結構メッセージもらってるけど全然返信してないね。」

「うん?なにそれ?」


「写真がイケメンだから、出会いを求めてる女が寄ってきてるんだよ。」


画像の中の男性は茶髪でスラッとした長身だ。

ぼやけてはいるが整った顔立ちで優しく微笑んでいる。

間違いなくイケメンに入る部類だろう……



送られてきたメッセージをみると、随分熱烈なものや超美人な人からのものまでたくさんあった。


友達とはやり取りしているようなので、登録だけして放ったらかしというわけではないらしい。




「アコに返信くれるかどうかは難しいかもよ?よっぽど気を引くようなこと書かないと……」

「橋本亜子ですけどあなたは私の兄ですかって書いたらいいかな?」


「なりすまされたらどうすんの?あんたホント危機管理なってないね。」



まずは相手の情報をうまく聞き出せとのこと。

にしても返信してもらえなきゃ探りの入れようもない。


この子となら話をしてみたいと思うような誘い文句を書けとアドバイスを受けたものの、なんも思い付かない……

男の気を引くようなメッセージなんて、恋愛スキルゼロの私には無理じゃない?



悩みに悩んで入れたメッセージ……




「一面のうろこ雲、大量のギョーザみたいですね。」




はい…ルリちゃんにはすっごい怒られました。

だってこれしか浮かばなかったんだもん。

ニックネームはシュウマイにしたし、プロフのアイコンも汁が滴る小龍包の画像にした。

なんで中華推しなのって呆れられた。





でもこれが……すぐ返信きたんだよね。





「面白いこと言うね。ギョーザ好きなの?」




─────って……






嬉しくて思わずガッツポーズをしてしまった。


「アコやったじゃん…しかも疑問形だし。」

「なになに?どういうこと?」


ルリちゃんいわく疑問形だと相手は答えなきゃいけないので、私との会話を続けたいということらしい。


好きです。とだけ返そうとしたら、そこはアコも疑問形でしょっ!と突っ込まれた。



「好きです。なにか好きな食べ物はありますか?」



ドキドキしながら返信を待っていると……



「もちろんあるよ。俺は酒かな。お酒は飲む?」



また疑問形で返してくれた。

まだ16歳なので飲めないです。と打っていたらルリちゃんからダメ出しを食らった。

未成年だと援交目的にみられたり、児童ポルノ法にも引っかかるから敬遠されるかもしれないのだそうだ。

年齢を偽るのは気が引けるのだけど……



「20歳になったばかりなのでまだそんなに飲めないです。お酒、強いんですか?」


「底なしかも…なんでも飲むし。俺は28だよ。大学生?」



28……兄の年齢と一緒だっ。


「ルリちゃんっ年齢がお兄ちゃんとピッタシ!」

「マジかっ?よっしゃ、この調子でどんどん聞いていこう!」




彼についてわかったこと。


年齢、28歳。

住まい、東京都。

職業、飲食店の店長。

身長、185cm。

足のサイズ、28cm。

好きな食べ物、お酒。

嫌いな食べ物、ひじき。




「お兄さんひじき嫌いだった?」

「一緒に食事した記憶がないからな〜。」



時計を見るともう予備校に行く時間が迫っていた。

もっと確信をつくことを聞きたかったけれど、今日はここまでにしなければならない。



「すいません。これから用事がありまして……また明日もマサさんとお話がしたいのですが、いいですか?」


「いいよ、連絡待ってる。それから…さんは要らないから。マサって呼んで。俺はなんて呼べばいい?」



めっちゃ良い人じゃ〜んとルリちゃんから背中をバンバン叩かれた。

なんか私より興奮してる……



「シュウでお願いします。ではまた明日。」

「うん。また明日。」



パスワード設定をしてからログアウトした。

こうしておけばパスワードを打たない限り、誰かにやり取りを見られる心配はないそうだ。

いろいろ教えてくれたルリちゃんにお礼を言ってから、予備校へと急いだ。




ルリちゃんの言う通りとても感じの良い人だった。

マサが本当に私の兄なら…とても素敵なことだ。
















「行ってきまーすっ!」


次の日、母からスマホを受け取り、いつもよりかなり早くに最寄りの駅へと到着した。

よし、早速メールを打ってみよう。


おはようございま────……

ちょっと堅いかな?

いろんなことを聞き出すにはガチガチの敬語じゃ話しにくい気がする。


「おはよう、マサ。」


これはフランクすぎかな?

返信はくるだろうかとドキドキしながら待っていると……



「おはようシュウちゃん。大学生は朝早いな。俺まだ寝てた。」


すぐきたっ……

しかも名前をちゃん付けで呼んでくれている。

男の人からちゃん付けで呼ばれるのってなんだか体の奥がこしょばいな。



「マサのお店ってもしかして居酒屋さん?」

「いや、喫茶店。昨日は遅くまで仲間と飲んでた。」


「そっか…起こしちゃってごめんね。」

「いいよ。もう起きなきゃいけない時間だったし。明日も起こしてよ。」



さりげなく明日の約束をされたことにドキっとしてしまった。

こういうのってなんだか恋人同士みたい……



いやいや、兄かもしれない人と私は何を想像しているんだ。




「うん、わかった。」





こうして登下校時の電車の中や学校の休憩時間に、マサとの短い会話のやり取りが毎日続いたのだった。

















「まずは長男が生き別れになった兄弟達を探すところから始まるんだけど……」


最近ちまたで大人気のテレビドラマ。

私が見ていないと言うとマサはすごく丁寧にあらすじを説明してくれた。


「だいたいこんな感じの7人兄弟の話。どう?友達との話題についていけそう?」

「うん。すごくわかりやすかった。ありがとう。」

この流れなら自然とあの質問が出来そうだ。



「マサは兄弟っているの?」



もしマサに16歳の妹がいたら、私の兄であるという可能性がうんと高くなる。

祈るような気持ちで答えを待った。



「随分前から家族とは音信不通なんだ。だから今は天涯孤独って感じかな。」




天涯孤独……

思いもしない答えが返ってきた。

聞いちゃいけないことを聞いてしまった気がした。



「ごめんね。」

「謝らなくていいよ。」


「寂しい?」

「そうでもないよ。仲間はいっぱいいるし。それに、こうやってシュウちゃんとも出会えたしね。」


「私?」

「うん。シュウちゃんと話してると楽しいよ。最近はメール来ないかなって待ってたりする。」



私とのことをそんな風に思ってくれてたんだ。

嬉しいような照れくさいような…ホワホワとした気持ちが込み上げてきた。



「私も、マサと話してるとすっごく楽しいよ。」



仕事から帰ってきた母が玄関の鍵を開ける音が聞こえてきた。

家でナイショでスマホを使っているのがバレたら怒られるっ。

じゃあまた明日とメールをしてからログアウトをし、母の部屋の机の上にスマホを置いた。




「アコまだ起きてたの?」

「明日の数学のテストで少しわからないところがあったから勉強してたの。」


「そう……もう寝なさい。」

「はーい。おやすみなさいお母さん。」



いつもならバレるのが怖くてウソなんて付けなかったのに……

マサのおかげでちょっと強くなれたかも。





スマホの向こう側にいる会ったこともない人……


兄かもしれないと始めたメールのやり取りが、私の中でどんどん大きく膨らんでいった。























今日は一学期の終業式、明日からは夏休みだ。

通知表も配られ、私の成績は学年トップだった。


「メールばっかりしてたから心配だったんだけど…さすがアコだね。」

「ちゃんと勉強もしてたよ〜。」


成績が下がったらスマホを解約させられてしまう。

マサと連絡が取れなくなってしまうなんて絶対に嫌だ。


これで約束通り海にも行ける。友達らと遠出で遊びに行くなんて初めてだっ。

新しい水着買っちゃおうかな〜。




「そうだっ。今度海に行くんだけどマサはサーフィンとかしますかって聞いてみようかな。」

「お兄さんてサーファーだったの?」


「ううん、知らないけど。情報収集。」


ルリちゃんが呆れたようにため息を漏らした。




「……アコさぁ。もうそんだけ仲良くなってるんだったらはっきりお兄さんかどうか聞いちゃってもいいんじゃないの?」


確かに…マサは私の兄になりすまして騙すような人ではないだろう。



でも─────……




ルリちゃんがうつむく私の顔を覗き込んできた。

それは私を本気で心配している時の顔だった。



「アコ…聞くのが怖くなってきたんでしょ?はたから見てたら好きな人とメールしてるようにしか見えないもんね。」

「私は別にそんな……」



穏やかではないルリちゃんの口調に、私はそれ以上なにも言い返すことが出来なかった。

ルリちゃんの言う通りかもしれない。

実の兄かもしれない人に、私の中で止めようもない気持ちが芽生え始めていた。



「お兄さんでないなら私も応援するよ?でもねえアコ…共通点、多いんでしょ?」




マサについてわかっていること。


産まれは私の地元、静岡。

血液型 B型。

誕生日 10月20日。



全部、兄と一致していた。





「今ならまだ引き返せるから…ね?」


ルリちゃんはそう言って私の手を両手で優しく握った。




私だってわかっていた。

このままじゃいけないことは……

はっきりと…確かめなきゃいけない。














予備校の帰り道、公園のベンチに座ってマサにメールを送った。



「マサの本名って聞いてもいい?」



これを聞けば嫌でもはっきりする。

橋本 雅人だと言われたら、自分は妹の亜子ですと告げよう。




「本名?どうしたの急に?」


あなたが家を出て行った兄かどうかを確かめたいの。ごめんなさい、最初からそれが目的で近付いたの。

そう返そうとする手が止まる……


もし本当に私の兄だとしたら────

私のこの気持ちを引き返すことなんて出来るのだろうか?


もし兄じゃないとしても────

こんな目的で近付いただなんて知ったらどう思われるだろう?

嫌われるんじゃないだろうか……




「マサのことをもっと深く知りたいの。」



結局、怖くて言えなかった。

どうかマサの本名が兄とは違うようにと祈ることしか出来ない。




「それって…俺に好意があるってこと?」

「うん。」



はっ……思わず即答してしまった。

これって好きって告白したことになる?

まだ兄かどうかもはっきりしてないのに?!

どうしようっ…なんとかして誤魔化さないと……






「アコ!」


スマホの画面から目を上げると母が立っていた。

この公園は駅から近いが家とは反対方向だ。

母が通るなんてないはずなのに……


「お、お母さん、どうしたの?」


スマホを鞄にしまいながらログアウトの操作をした。

母は慌てる私を無表情で見つめながら、封筒に入った資料を渡してきた。


「あなた最近ここに座ってスマホをしてるそうね。寄り道は禁止だったわよね?」


誰かが母に告げ口したんだ。

母は怒れば怒るほど能面のような感情のない顔になる。

つまり、今の母の怒りはMAXだ。

嫌な予感しかしない封筒の中身を見た。


「申し込みは済ませてきたから。」


拒むことは許さない母の抑揚のない言葉。

それは2日後から始まる十日間に渡る大学受験に向けての強化合宿のパンフレットだった。

みんなで山小屋のような所で寝泊まりをし、ほぼ24時間勉強漬けで過ごすという超スパルタ合宿だった。


「お母さん、この日は……」

十日間の中にはみんなと海に行くと約束をした日まで含まれていた。


「これは寄り道をしていたアコへの罰です。」


もう私がなにを言おうが母の耳には届かない。

昔から母はルールを守ることに関しては人一倍厳しかった。

諦めて従うしかないのかと思ったのだが……


「スマホも解約するから寄越しなさい。」

「……お母さんっ?」


その言葉は私を奈落の底へと突き落とした。

嫌だ…渡したくない。



「渡しなさい。」



マサと連絡が取れなくなる……

渡したくなんかないのに……


私は鞄からスマホを取り出し、震える手で母に手渡した。



「お母さんはまだ仕事が残っているから事務所に戻るわ。食事は用意してあるから今すぐ家に帰って食べなさい。」


「……はい。お母さん、行ってらっしゃい。」




ヒールを鳴らしながら歩く母の後ろ姿を、私は黙って見送ることしか出来なかった。











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