序章
「ごめん」
カーテンを閉め、一筋の光をも差し込まない暗くなった部屋で、独り呟く。一枚の小さな写真を膝に抱き、壁に凭れ掛かる。
そこに写っていたのは、この世から、その存在を抹殺された唯一無二の友。
あんなに笑顔を振りまいていたのに、今、彼は家族の下に遺影もなく、遠い地の海の底にその身体を横たえている。
彼は正義感に溢れ、洞察力、行動力、忍耐力、どれもが周囲の中で際立っていた。
勇猛果敢で、誰よりも使命感に溢れていた。
その輝きゆえに、彼は死を選ばなくてはならなかった。
こんな形で別れを告げるなど、大学を卒業して働き出し彼と出会ってから今迄、終ぞ思っても見なかった。
今の時代に、こんな、こんな不条理がまかりとおっていいのか。
あいつらが憎い。組織が憎い。
いつか必ず、復讐してやりたい。
そして、そのときこそ、彼の墓前に報告するのだ。
「仇をうった」と。
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彼が自分の前から姿を消して、早いもので3年が過ぎ去ろうとしていた。
もう一生、復讐など叶わないのだろうかと、一人、部屋の隅で塞ぎこむ日が増えた。
長く伸ばした左手小指の爪は、復讐までの道のりの長さ。
いつのまにか、その純粋な心には、悪魔が巣食っていた。
悪魔に魅入られた、正義。
こめかみが痺れ、手指が震える程、胸を支配しつつある、途轍もない思い。
完全犯罪の成立。
犯罪者なら、一度は考え胸躍らせるであろう、このワンフレーズ。
復讐と、完全犯罪を同時にできないだろうか。
自分になら、できるかもしれない。いや、やってみせる。自分になら、できる。
我の存在理由は、其処にある。
我がミッションは、其処にある。
我を支えし悪の心は、其処にある。