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ラブゲーム!  作者: 和藤 結希花
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実は甘いもの大好きなんです。

 入った途端、ふわっと包まれるような暖かさに思わず顔が(ゆる)む。


「……もう、この時点で幸せ……」

「何言ってんの莉音。早く並ばなきゃ売り切れちゃうよ!」

「そうそう!限定30個!急ぐよ!」


 急かす伊織とのんに引っ張られ、スイーツコーナーへと向かう。

 私達は今、大型ショッピングモールに来ている。

 外は寒く、建物の中に入った途端、冷え性の私に優しい暖かさが迎い入れてくれたので緩んでいたというわけだ。


「限定!キャラメルバナナ特盛クレープセットください!」


 伊織が店員さんに注文……というか、叫ぶ。

 店員さんも()()りながら、「は、はい!」と返していた。

 なんとか間に合ったようだ。


「はー、よかったよかった。買えたねぇ」


 テーブル席に座り、一息ついた私達はクレープが来るまで水を飲んで待っていた。


「莉音からあの広告の写メ送られてきて、満場一致で食べに行こうって決めたもんねぇ」

「莉音、実は甘いもの大好きだよね!」


 二人はテンション上げ上げで言った。

 あの広告とは毎月、地域の情報をアップしている広告で、普段は「へー、こんな店あるんだ」くらいにしか思っていなかったのだが、このスイーツを見た途端運命を感じた。

 直生とやっていたゲームを中断させ、スマホで二人に連絡を取り、写真を送って二つ返事でOKされ、今に至る。

 直生には悪いと思ったが今日までの期間限定で、しかも30個となれば行くしかないだろう。

 全ては私の目の届くところに置いてあった広告が悪い。


「ちょっといいお値段だけどね。後悔はしてないよ」

「それな!私はダイエットしてたんだけど、莉音から送られてきた写真見て、我慢なんて言葉は消えたわ」

「……なんか、ごめん」


 いろんな犠牲の上の限定スイーツだ。

 心して食べようじゃないか。

 三人で涙を浮かべ語りあっているとクレープがきた。


「うわぁ、これは写真以上だねぇ……」


 のんの言う通り、写真以上の見た目で本当に食べるのが惜しい。

 お祭りで売っているようなクレープではなく、お皿に(たた)まれた状態で、その上にいろいろ乗っているタイプのものだ。

 キャラメルソースがキラキラ輝いていて、バナナがどかどかのっていて、素晴らしい……。


 私達はとりあえずスマホを出す。

 とくにネットに上げるわけでもないが、この感動は後にも残しておきたいというもの。

 カシャカシャと連写しまくった。


「さて……食べようか皆さん」

「うん……」

「よし来い」


 パクッと一口食べる。

 ……頭の中で稲妻が走った。


「何これなにこれ!クレープの中にイチゴが隠れてる!」


 バナナとは違う甘酸っぱさに、驚き思わず声を上げてしまった。

 これは女子の心掴んじゃうねぇ、などと口々に言い合い、クレープを褒めちぎる。

 いや、もう本当に素晴らしい。


 その後は、追加で紅茶を頼み、まったりと女子トークに花を咲かせた。


「私、彼氏できた!」

「マジで⁉︎」

「でも、昨日別れた!」

「マジで……」


 こんな感じだったけど。

 てか、私か言うのもなんだが、伊織はどこで彼氏を手に入れたんだ。


「……やっぱ、ネットじゃダメなのかなぁ」

「え、イオちゃん、ネット繋がりで付き合ってたの?そんな危険冒してまで、私は彼氏はいらないと思うんだけどなー」


 のんの言葉にうぅ……と伊織が縮こまる。


「だって、高校生なんだよ?うちは女子校だけどさ、やっぱ彼氏欲しいよ。高校生のうちが華だと思わない?」


 高校生のうちが華……。

 直生は私がおばさん、おばあさんになっても好きでいてくれるのかな。

 あいつのこと、信じてないわけではないけど。


「……イオちゃんのことだから、軽々しく言えないけどね、そんな急がなくてもいいと思うよ?」

「……莉音だって、彼氏いんじゃん……焦るなって言う方がおかしいよ……」


 伊織はそう言ってテーブルにうつ伏せになった。

 あー……、私のせいでも、あるのか。

 うーん……。


「……伊織は、たぶん、『彼氏になってくれる人』が欲しいんだよね?」


 私の問いかけに少し間を置いてコクンと微妙な顔で頷いた。


 私は直生と付き合い始める前のことを思い出した。


 最初は、あいつの一方通行だった。

 私はあいつが大嫌いだったから。


 好きだと言われるたびに突っぱね、拒絶(きょぜつ)した。それでも、あいつは私を諦めなかった。

 ……私に恋していたから。


「……まずは、『好きな人』を探さなきゃ。『彼氏』はそのあとだと思うよ」


 まず、恋しなきゃ何も始まらない。

 ニッと笑うとちょっと赤くなる伊織。


「なんか、莉音が言うと説得力あるよね」

「そりゃ、あんたが危ない橋渡らないように、こっちも頭捻ったんだよ。伝わったんなら良かった」

「イオちゃん、ちゃんと頭のど真ん中に入れて置くんだよ?」


 伊織は、ぜ、善処します……と言い、紅茶をまた追加注文した。


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