喧嘩。
「本当、サイテー」
「ああ?何度も謝ってんだろうが」
私達は今、絶賛喧嘩中である。
直生が決してやってはいけないことをして、私がキレて、謝ってきたけど反省の態度が見られずまたキレて……。
その繰り返し。
「はぁ?何逆ギレしてんの?自分がやったことわかってる?」
「……しつけーな……」
ーーダンッ‼︎
その辺の壁に拳を打ちつけた。
そのまま直生を睨みつける。
「……もう知らない…………」
私はバンッと音を立ててドアを開け、部屋を出て行った。
本当に信じられない。
しつこい?あんなにやったらダメだと言ってたのに何様だ。
今は顔も見たくない。
「……で?家に帰って来たと」
「……うん」
家にはお兄ちゃんがいて、これから上原家に行くようだったのでリビングへと引き戻し、私が帰って来た経緯を話した。
「あんなに、あんなに約束したのに……」
指切りげんまんまでやった。
本当に針千本飲せてやろうか。
そう言ったらお兄ちゃんはまぁまぁと宥めて来た。
「直生だって、悪いと思って謝ったんだろ?だったら許してやるのが大人ってもんだろ」
……大人。
この人は私の性格をよく知っている。
兄妹だから当たり前だけど。
負けず嫌いだし、背伸びしたい。
あいつとの4ヶ月の差を埋めてやりたい。
それをこの兄は知っているから『大人』って言葉を使ったのだ。
だから少なくとも、この人は私より『大人』だ。
「……まったく。そういう鋭さは華南ちゃんに向けてやりなよ」
お兄ちゃんは、は?という顔をした。
本当、鈍いんだから。
「わかったよ、許してやる。大人だから」
そう言ってニヤッと笑ってみせた。
私が玄関に行き、手招きするとやれやれと言うようにお兄ちゃんも腰を上げた。
「……ところで、喧嘩の原因ってなんだったんだ?」
「……課金だよ」
「は?」
ハテナマークを頭の上に浮かべているお兄ちゃんに、スマホを差し出す。そこにはとあるゲームの画面が。
「あいつとの約束で、このゲームだけには課金せずに正々堂々と勝負しようと約束したの。……だけどあいつ……っ!破りやがったんだよ!」
あー!また腹立ってきた。一発殴ってやろうか。
いや、いかんいかん。大人……大人……。
「……お前らなんて言うか、ほんっと……安心できるカップルだよな。俺はもっとこう、浮気とか修羅場っぽいのを予想していたんだが……」
お兄ちゃんがしみじみと言うけど、私はおかまいなしに引っ張り、上原家に戻ったのだった。
喧嘩も無事終息し、今度の指切りげんまんは針1万本に増やした。
めでたし、めでたし。