直生、学校で。
部活が終わり、俺はグラウンドで帰る支度をしていた。
風が体を冷やしていく。
今日の最低気温は何度だっけ。
莉音はちゃんと防寒対策をしているだろうか。あいつは外に出てまず「寒い」って言うからなぁ。
「なーおっ、何やってんだ?早く帰ろうぜ?」
後ろから抱きつかれ体が固まる。
キモい、ゴツイ……。
あいつならもっとこう……柔らかいのに……。
「おい、今なんか失礼なこと考えてただろ」
「いや、ゴツイなって考えてた。てか、離せ」
近くにいた女子達が好奇の目で俺達を見ていた。
……俺にはそんな趣味はない。
ちゃんと女が好きだ。
「ゴツイー?おーっとこれは聞き逃せませんなぁ。ゴツイって言うってことはぁ、柔らかいのも体験してるってことですかぁ?」
「マジでキモいんだけど……」
離すどころかむしろ擦り寄ってきてゾッと鳥肌が立った。
「……何してんの君ら」
呆れたような声に振り向くと、また部活仲間が。
助かった……。
「遼がセクハラしてくる」
「違う!取り調べだ‼︎」
「どっちだよ」
ハァとため息を吐いてベリッとセクハラ野郎を剥がしてくれたのは、滝野斗亜。
そしてセクハラ野郎は天宮遼。
どちらも俺と同じサッカー部所属の二年生だ。
「直生がー、俺のことゴツイって言うんだよ〜」
「うん、当たり前だね。男だもんね君」
「違くて!」
「違うのか?女子だったとは知らなかったな」
俺のことを聞かれる前に全力で回避すべく俺は軌道を曲げた。
「へー、女子だったんだね、遼。知らなかったなぁ」
「あ、そうそうこの間メシ食べに行った時も餡蜜にものすっごいクリームのっけてたからなぁ。女子なんじゃね?」
ニヤニヤしながら悪ノリしてきた斗亜にさらに乗っかっていく。
よし、このまま話題転換していけば…。
「あ、じゃあ俺と直生付き合えるな‼︎」
「は?彼女いますけ……」
……あ。墓穴掘った。
遼はしてやったりという顔をし、斗亜は驚いた顔をしている。
「やっぱりな!俺の勘は間違ってなかったぜ‼︎」
「え、女の影なんて今まで全然なかった気がするんだけど……」
斗亜が戸惑う理由もわかる。
俺は故意に莉音の存在を隠していたのだから。
「もー!なんで教えてくれなかったんだよ⁉︎」
うりうり、と頰を拳でグリグリされた。
だからゴツイっつーの。
「別に広める必要はないだろ」
「えー、友達だろー?」
……うっぜえ。
俺は必死に目で、ウザいお前と訴えたが、相手はそんなこと気にしない。いや、気づいてない。
「な、いつからなんだ?いつから付き合ってんの?どんな子?ていうか、この学校にいる?」
「…………」
あいつのことは話さないでおこうと思っていた。
……あいつを他の男に取られたくないという気持ちがあったから。
「バラしたのは直生じゃーん!言ってくれよー!」
なぁなぁと縋り付くように遼は言ってくる。
……酔っ払ってんのか?
まぁ、バラしたのは俺だっていうのは間違いないし少しならいいか、と口を開いた。
「三年前。従兄妹。この学校にはいない。」
二人はポカンと口を開けた。
結構大サービスに語ったがまだ足りないのか?
「え、えと、ちょっと待って⁉︎三年前⁉︎そんなに長く付き合ってたの⁉︎」
「……まぁ、中2の頃からだったからな」
「いや、全然気づかない僕らもあれだけどさ。直生もなかなかだね……。独占欲っていうか…」
驚くのも無理はないだろう。
こいつらとは中高と同じ学校に通っていた。
長い付き合いだったからか何度もバレないかヒヤヒヤしたものだ。
「なぁなぁ可愛い子?今度合わせてくれよー」
「あーもう、そう言うってわかってたからバラしたくなかったんだよ」
あんなドライな性格だが、美人だし料理だってそこそこできるし、……何より、たまに出るギャップが……。
……とにかく他の男が寄って来ないわけがない。
スススと寄ってきた斗亜がにっこりと笑った。
「ほんと、その子が大事なんだね。直生」
「……ふん」
当たり前だ。世界で一番大切な奴なんだから。