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ラブゲーム!  作者: 和藤 結希花
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敵わないだろうなぁ……。

「さて、やって参りました。直生と莉音のラブラブ勉強会です!お送りするのは実況のこの俺山寺大輝と!」

「解説の上原華南でーす!」


 この会話はすべて小声であることを先に述べておこう。

 今、俺と美人でナイスバディで優しくて笑顔の素敵な彼女の華南ちゃんは、ドライでローテンションで基本ほぼ無表情だが、可愛くて可愛くてしょうがない我が妹と従弟を観察している。

 彼らは今、勉強中だ。彼らは高校三年生になったからか、受験勉強に精を出しているようだ。いやぁ、あの可愛い顔した割りに小生意気な二人がもう来年は大学生か……。グッと来るものがあるなぁ……。

 そんな二人の邪魔はしたくなかったが、見たくて見たくてしょうがなかったというわけで、こっそりひっそり野次馬をしているのだ。


「あれ?そういえば大輝くんって今年就活せ……」

「さぁさぁ、盛り上がって参りましたね解説の上原さん!」

「そ、そうですね!」


 食い気味に言葉を発すると引き気味に華南ちゃんは賛同する。

 すみません……。今だけ……、今だけ就活生という現実から逃避させていただきます……。


 耳をすますと莉音と直生の真剣な声が聞こえる。


「そこは体言止めだから……」

「た……?」


 莉音の説明に直生は首を傾げる。沈黙が流れた。彼らのいる部屋の空気が何度か下がった気がする。ついでにこっちにもその冷気が漂って来てるし間違いない。

 どうやら古典をやっているようなのだが、まったく捗ってない感じだ。ああ……期待していたのと全然違うし、初っ端から心臓に悪すぎる。


「あの、直生……。体言って知ってる?」

「……何それ」

「…………」


 絶望感に駆られた莉音はどうしたものかと思考を巡らせているようで、しばらく自分の世界へと旅立っていた。彼は本当に大丈夫なのだろうか。まぁ、勉強よりもサッカーとゲームだったからなぁ、あいつ。遠い目で今までの彼を思い浮かべてみると、ほとんど勉強なんてせず花奈おばさんに怒られてる様子しか出てこない。こりゃやべぇなあいつ。

 隣を見ると華南ちゃんが両手で顔を覆っていた。


「莉音、本当に申し訳ない……っ!」

「だ、大丈夫だよ華南ちゃん!受験まで時間はまだある!直生だってこれからだ!」


 彼女の本気の謝罪に励ますものの、内心は不安でいっぱいだ。やばいぞ莉音。彼は大学進学できるのか⁉︎

 楽しく実況しようとしていたのに、思っていた以上にダメージが酷い。



「……じゃあ、名詞って知ってる?」

「さすがにそれは知ってる」


 直生のその返答にあからさまにホッとした顔になる莉音。わかるぞ、その気持ち。


「よ、よかった。よかったよ……!大輝くん……!」

「本当によかったよ……!華南ちゃん……!」


 かなり直生の頭のレベルは低いようだが、望みはまだあるようだ。

 弾けるような笑顔でとんでもなく可愛い華南ちゃんと俺は手を取り合い咽び泣いた。


 なんとか取っかかり所を見つけた莉音はそれからただひたすらに鬼家庭教師のようだった。聞いてるこっちまで少し賢くなってしまったくらいに。


「我ながらあっぱれな妹だなぁ」


 見事な家庭教師ぶりに思わず感心の声が口から溢れた。

 俺達兄妹は父親に、主に勉強面でかなり厳しく育てられたせいで自分で言うのもなんだが、それなりに頭は良い。


「あの人に感謝するべきなのか、なんなのかわからないな……」


 苦く笑いながら呟いた。

 小さい頃はたまにだけど笑顔を見せてくれた父だったが、俺達が成長していくうちに無口で無表情な人に変わってしまった。

 俺も、母さんも、莉音も、自分を責め、なんとか前のように笑って欲しくて努力した。


 けど、結局父は俺達を見限って出てってしまった。


 そこから、残された俺たち三人の生活は激変した。


 母さんは普段は何もなかったように振舞っていたが、一人で部屋で俺達に隠れて泣いていた。

 莉音は返事が返ってくるはずもないのがわかっているのに、一方的に父に連絡を入れ続けていた。

 俺は…………ただ、笑っていた。


 元からこんな熱い性格じゃなかった。だけど、家の中の空気が悪すぎて、どうすればいいか考えて、結果こうする方法しか思いつかなかったんだ。


 俺は笑顔を張り付けたピエロになりかけていた。

 しかし、救ってくれた人がいたのだ。



「大輝くんの笑顔はそんな中途半端なものじゃないでしょ?笑うなら心から豪快に笑った方が、自分も見てる人も気持ちいいと思うよ」


 頰を左右に引っ張りながらぐりぐり回されるのは結構痛い。うん、現在進行形で痛いなぁ!


「はにゃんひゃん!いひゃい〜!」

「あっはっはっ!昔から変わらず可愛いね!大輝くん!」

「うへしふにゃい〜!」


 くっそ〜!全然嬉しくない!むしろ華南ちゃんの方が数百倍可愛いよ!

 そう言い返しそうになった時だった。


「お取り込み中大変申し訳ないんですけど、他所でやれ」

「リア充爆発しろ」


 勉強していたはずの二人がそっと部屋のドアを数センチ開けて顔を覗かせたかと思ったらそっと閉じていった。大声出してしまった俺達が悪いのはわかってるが、なんか一番こいつらに言われたくないようなセリフを言われた気がする。


「勉強の邪魔しちゃったし、おとなしくリビングでお茶でもしようか」

「そ、そうだね。確か莉音がクッキー作ったのがまだ残っていたと思うし、ちょっと貰ってお茶のお供にしようと思うんですが、いいですかっ!」


 と、ドアの方に問いかけると面倒くさそうに『お好きなだけどーぞ』と返ってきた。

 俺は莉音の作ったお菓子をかなり気に入っている。その辺で売ってるのとはどこか違うのだ。そう、なんていうか彼女が作ったものにはお菓子に対する魂の込め具合が人並み以上に感じられるのだ。さすが俺の妹。甘いものへの執着心が半端ない。


「そだ。大輝くん。お茶しながらちょっと進路についても話し合おうか。ね?」


 お菓子に想いを馳せていたら、にっこり笑顔で華南ちゃんが爆弾投下してきたので『ヒィッ!』と声を引きつらせてしまった。

 ……あー、これ絶対彼女の背後に黒幕(母さん)がいる。母さんに俺の進路について聞くようお願いされたね?俺達兄妹が上原姉弟になんだかんだで弱いっていうのを母さんは見抜いているから、莉音も進路希望調査のプリントになかなか手をつけなかった時、母さんに頼まれた直生に拘束されていたみたいだし。


 まぁでも、彼女と二人でお茶できるしいいか。

 俺は顔が引き攣りながらも笑顔で頷いたのだが。


「違う!心から笑う!」

「はいっ!」


 ニッと笑う彼女はあの頃と変わらず頼もしくて、そっと息を吐いた。

 ああ、俺はきっと一生、いつも目一杯の優しさで包んでくれるこの子には敵わないだろうなぁ……。


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