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ラブゲーム!  作者: 和藤 結希花
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全力を尽くします。

 とりあえず、直生の勉強を見るのは私が上原家にいる日、つまり金曜の夜と土曜と日曜に決まった。まぁ、まだ直生は部活引退してないし、私もいろいろあるかもしれないから予定通りにはいかないと思う。

 しかしやるからには厳しく行かせていただこう。『従兄』、『彼氏』は関係ない。勉強を教えている間は『生徒』なのだから。



「……ってやっぱりさっそく部活なのか、直生は」


 今日は土曜日。賄賂渡された翌日。

 私はリビングのソファーにダランと座っていた。手中にあるのはゲーム機。……私もまだまだ受験生の自覚がないな。


「インターハイに向けて頑張ってるみたいよ。これ終わったら引退するみたいだし」


 私のつぶやきに隣で料理本を読んでいた花奈おばさんが答える。


「選手権は出ないんだっけっか」


 ほらよく聞くじゃんアレ。『冬の国立』。


「直生の学校はインターハイ終わったら引退らしいからね。だからそうね……遅くても8月には引退かしら」


 8月……。今は4月だから、あと4カ月で引退なのか。

 彼がゲーム以外に一生懸命に打ち込んでいたもの。それがサッカーだった。彼は側から見て適当に生きているように見えるが、結構頑張り屋で、一度やると決めたらそれを貫いていく。そんな彼を彼女として尊敬してなくもないし、誇らしく思わなくもない。

 うん、私、直生のそんなところが……。


 そんなことを考えていたら、隣で花奈おばさんがニヤついていた。


「り・お・ん・ちゃ〜ん」


 はぁ……この若干Sっ気を感じさせるような笑みは、やっぱり直生の母親だな。


「莉音ちゃん顔に出過ぎ!考えていることが手に取るようにわかるわ〜!可愛い〜!」

「なんのことだかさっぱり」

「もう照れちゃって〜!直生のこと考えていたんでしょう?息子を褒めてくれてありがと!」

「ちょっと意味がわからないなー」


 花奈おばさんは否定しまくりな私をぎゅっぎゅと抱きしめてきた。あ、いい匂いする。お花の匂いだ。何の花だろ。

 そんな感じに、どんどん思考がずれて行ったが、ふと大事なことを思い出した。


「あ、そうだ」


 私は花奈おばさんの腕から抜け出すと、一旦その場を離れ、紙とペンを持って戻ってくる。


「花奈おばさんに聞きたいことがあるんだった」

「ん?なぁに?」


 そう聞きながらコテンと首を傾げる動作が年齢に釣り合わないけど、なぜかとても様になっている。くそぅ……可愛いな。

 あ、いや、うん、それは置いといて。


「直生の今までの成績、教えて?」

「…………」


 さっきとは打って変わって、花奈おばさんは気まずげに視線を逸らした。そして、「……あの子に直接聞いて欲しいなー」と。


「あのね、受験の勉強を教えるからには今までの成績把握しときたいんだけど、あいつたぶん盛るでしょ?だがら、母親である花奈おばさんに聞きたいんだ」

「…………」


 結局、どうにも回避できない状況に追い込まれた花奈おばさんは、無言で私が持ってきた紙にペンを滑らせ、申し訳なさそうに「よろしくお願いします」とお辞儀をしてきた。

 ……おっと、予想はしてたけどこれは酷い。特にやばいのは国語と歴史……。文系科目苦手なんだね。あからさま過ぎて、理系の頭してるってすぐわかる。その理系科目もその中でまだマシってだけで全然よくないんだけど。前に長期休みの宿題見てあげたこともあったけど、こんなに酷かったっけ?

 色々思うことはあるけど、後には戻れない。あの賄賂はもう既に私の腹の中なのだから。

 私は一度天を仰ぎ、花奈おばさんに改めて向き直る。


「……全力を尽くします」


 一周回ってスイッチが入れ替わったのか、私はフフフ……と笑みを浮かべながら一言、そう答えた。


 引退したら覚悟していろ直生。中学時代、勉強に勉強を重ねた私が、しっかり見てあげるから……。


 そんな決心をした私の顔を見た花奈おばさんの顔がちょっと引き攣っていたのには、まったく気づかなかった。

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