新しい担任。
まだ桜は咲いていないが、今日から新学期。
つまり三年生。つまり受験生だ。
新しい教室で私とのんは、噂で聞いたこれから送る地獄のような勉強漬けの日々に遠い目をしていた。
「おっはよー!莉音!のん!」
空気の読めない元気いっぱいなオーラ全開で伊織が教室に入ってきた。
うわぁ。なんて眩しい笑顔。私とのんは太陽を見てしまったかのように目を細めた。
「イオちゃん……三年生になっても相変わらずだねぇ」
「私はむしろ尊敬するよ」
「んん?なんだ?褒めてもなんも出ないぞ?」
「「いや、褒めてないから」」
私とのんは声を揃えて突っ込みを入れた。
通常運転なようで何よりですね、伊織さん。
「そういえばさ〜。新しい担任の先生って新しく赴任してきた先生らしいよ」
「え、なんでのん知ってんの」
「さっき職員室に用があって、その時チラッと聞いちゃった」
「男⁉︎イケメン⁉︎」
「そこまでは知らないなぁ」
食いつき気味の伊織に、のんは落ち着けと言わんばかりに彼女の背中を撫でた。
私達三年は二年のクラスから持ち上がりなのでクラス替えはない。だが、担任の先生は離任したのでそこだけは新しくなる。受験学年に優しすぎる先生は困るが、厳しすぎるのも嫌だ。
なるべくほどほどな先生がいいな。
しかし、期待は裏切られた。
「三年Ⅳ組の担任になった、羽沢統一郎だ!赴任してきたばかりで君達のことはまだ全然知らないので、どんどん話しかけてくれると嬉しいぞ!あと、女子校って本当に女子しかいないんだな!いやー、緊張するなぁ!」
ニッコニコで自己紹介する先生。そしてそのテンションについていけずドン引きな我々三年Ⅳ組一同。
厳しそうには見えないが、優しすぎにも見えない。
ある意味希望通りだが、ちょっとこれはないわ。
何この先生。暑苦しい。
なんだかこの声が大きいってキャラお兄ちゃんに似てるなぁ。でも、ウザさはお兄ちゃんを大きく上回っているよ。おめでとう。
私が心の中で毒を吐きまくっているうちに先生は一通り喋り終わったようでフゥ……と息を整えていた。
「……では、一人ずつ自己紹介してってもらおうかな!」
え、先生のために?
クラスの子達も微妙な顔をしている。
散々見知ったこのメンツでまた自己紹介ってなんかねぇ。
仕方ない……というように出席番号1番の子が立ち上がり、自己紹介を始めた。私はその間に何を言おうか考える。
のんは名前と好きな漫画とか紹介していて、伊織は好きなタイプを言っていた。うーん、まったく参考にならん。
そうこうしているうちに私の番が来て、もう適当にすました。好きな食べ物は甘いもの全般とか言った気がする。
「意外だね。あんな感じの先生を受験学年に配置するなんて」
「いやー、あんな感じだからこそなんじゃない?」
「イケメンじゃなかった……」
昼休みに、三人でお弁当を食べながら新担任について話した。てか、伊織はどこに注目してんだ。
「うちは女子校でしょ?そのせいか生徒先生関係なくそれなりに女が強かったし多かったけど、そこにああいう熱血タイプを取り込んで女性至上主義を崩そうとしてんじゃないかなぁ」
女性至上主義か……。確かうちの学校、男性の権力弱いよな。校内のトイレだって女子用5箇所に対して男子用は2箇所だし。
「……まぁ、進路のこと真剣に考えてくれるなら誰でもいいけど……って伊織!いつまでどんよりしてんの。現実見ろ」
「イケメンが足りない……」
知るかよ。
本当にイケメン好きですね、伊織さん。
私が呆れながら伊織を見ていると、のんが何やらゴソゴソと鞄を漁り、何かを取り出した。
「イオちゃん!イケメンなら二次元にいくらでもいるじゃない!」
バンッと机の上に叩きつけたのはカラフルな少女漫画達。10冊くらいあるけど、なぜ持ってきた?てかよく鞄の中に入ったね?他にも教科書やら入れてるはずなのに。
私が違う観点でこの状況を眺めている頃、伊織は歯を食いしばって目を瞑った。え、何か始まりそうな予感。
「すまん……のん。私、イケメンは三次元派なんだーーー‼︎‼︎」
「じゃああなたは何の為に少年漫画読んでる訳⁉︎こんなイケメンと恋人になりたいとか、頭の中で妄想するのが醍醐味でしょうが!」
「私はただスリルとサスペンス系が好きなんだ!妄想はできない!」
「な、なんだって〜⁉︎」
私はひたすら傍観者。
おおお。なんだかヒートアップしてきたな。周りの目も集まってきたし、おもしろいけどそろそろ収めるか。
「はいはい二人ともお弁当食べよ。あと、10分でお昼終わっちゃう」
そう言うと、二人はハッとして時計を見て急いでお弁当を食べるのを再開した。
始業式の日だが、授業は普通にある。午後一番の授業は体育。しかもバスケときた。運動が苦手な私は体育は基本地獄でしかない。というか、迷惑しかかけない。
しかし、それよりも厄介だったのが……。
「ナイッシュー‼︎‼︎」
あの熱血新担任が体育担当だったことだ。
うん。体育教師、超お似合いです。
「山寺ーー!顔が死んでるぞ!もっと楽しそうに走れ!」
……まさかの名指し。
クラス全員から哀れみの視線を贈呈された。
ーーー
「それでねー。体育終わってからもずっと表情筋死んでるとか、悩みあるのかとか聞いてくるの。しつこかった」
今日は月曜日なので、普通に学校から山寺の家に帰ってきて、夕飯を食べながらお母さんとお兄ちゃんに愚痴りまくっていた。
「あー、私が高校生だった時もいたわー。超ウザいタイプね。三者面談嫌だわー」
お母さんは割と私と性格が似通っているのでめんどくさそうにぼやいたが、お兄ちゃんは……。
「ちょっ!酷いぞ二人とも!きっとその先生はちょっと表情が乏しい莉音を気遣いたかっただけで!」
「「余計なお世話って言葉、知ってる?」」
「すみません」
すぐに引っ込んだが、お兄ちゃんは私の話を聞いて先生に親近感を持ってしまったらしい。
お兄ちゃんの言い分もわかるけど、度が過ぎれば迷惑でしかない。
私もなるべく目をつけられないように笑顔でいようかな。笑顔で登校なんてしたらクラスメイトには逆に心配されてしまうかもだけど。




