斗亜は見た。
「見ろよヤベーって!あのカップル!」
「あの難易度って……」
僕は兄さんと二人でゲーセンに来ていた。
しかしその場はなんだかいつもと盛り上がり方が違う。ギャラリーと呼ばれるゲームの観戦者が20人ほど太鼓のリズムゲームに群がっている。
「なんだ?あそこめちゃくちゃ人だかりができてんぞ。ちょっと行ってみるか、斗亜?」
「うん」
野次馬精神でちょっと見てみると、そこは太鼓のリズムゲームがあり、背を向けているので正確にはわからないが、おそらく高校生くらいのカップルが対戦していた。
うん、それは普通だ。
普通じゃない理由は二人のバチさばきにあった。
ギャラリーがこんなにもいるというのに、それをまったく気にすることなく、目にも止まらぬ速さで太鼓を打つ。その音はまるで区切りなど知らない様子で川が流れるように響き渡る。
もはやその道のプロかと疑ってしまうようだった。
また、二人の息は合わせているのかというほどにぴったりで、音のズレというものを感じさせなかった。
更にレベル。このゲームは『低』『中』『高』『強』『恐』『狂』の順で少しずつ高くなる。そして『狂』の上に立つ一番えぐいのが『凶』だ。この中から選ぶとしたら大抵の人は『中』か『高』か『強』。ストレス発散!ガチでやりたい!と言う人は『恐』か『狂』。
この二人が選んでいるレベルは『凶』。なんて不吉な名前。大抵の奴はあまりの速さについていけず、途中で諦めてしまうのがほとんどだ。僕も一回やったことがあるが、序盤からバチを持ったまま茫然としていた。
もはや、あれはゲームじゃない。その道のプロがワンコインで練習できるサービスなのではとネットで噂されていた程だ。
そういうわけで、そんなえぐいレベルに挑戦するこの二人が只者じゃないことだけはわかった。
「……ヤベーな」
「……ヤバイね」
兄さんから零れた呟きに、呟きで返す。
ヤバイという言葉は何か適当で、あまり好きではなかったが、ヤバイ以外に当てはまる言葉が見つからない。そのくらいにヤバかったのだ。
曲が終わってもギャラリーは何も声を発さない。ゲーセンなので大音量の音楽が流れているはずなのだが、その場だけは水を打ったような静かな空間になっているように思えた。
やがて、ダバダバダバ……とムーディーな曲が流れ始める。点数が発表されるのだ。本人らが食い入るように画面を見るのはもちろんだが、なぜか僕達までも手に汗を握って固唾を飲んで結果を待った。
焦らしに焦らし、ようやくバーンという効果音と共に出てきた数字に一同は唖然とする。
プレーヤー1
1188932点
プレーヤー2
1178454点
……何この点数。
怖すぎでしょ……。
確かこのゲームは120万点が最高点だったはず。もう一度言うが、難易度『凶』だったはずだ。
おそらく僕と変わらない歳のはずなのにどんだけやり込んでるんだ。
「あー、マジか……悔しい……」
女の子の方がガクリと肩を落として言った。負けたのは女の子の方だったのだ。
いやいや、悔しがることないよ。君の実力も十分化け物レベルだ。
「うわ、バカにした顔しないでくれる?そんな顔してられるのも今のうちだよ。次は勝つし」
女の子は彼氏をギンッと睨む。
さっきまで鬼のように戦っていただなんて思えないその光景に、なんとなく二人をじっと見ていたその時だった。
チラリと見えた彼氏の顔に物凄く見覚えがあり、僕は自分でもわかるほどギョッとした顔になった。
いや、ギョッという言葉じゃ片付かない。
某お魚研究者のごとくギョギョギョッて感じだ。
「……直生?」
「なんだ?知り合いか?」
僕の呟きにいち早く反応した兄さん。だけど頭が混乱して、それに返す余裕はなかった。
直生だ。見たことないくらいに優しい顔をしてるけど、どっからどう見ても直生。
彼の隣の長いツインテールの女の子はおそらく彼女と見て間違いないだろう。
なんか直生に似てる気がする。顔は似てない。だけど、なんだろう、雰囲気というか、空気というか。同じようなものを感じるのだ。
じっと見ていると隣からつんつん肩を叩かれた。
「美男美女カップルでゲーオタって何か宝の持ち腐れ感があるんだが、お前はどう思う?」
「そんなの僕に聞かないで」
「固いなー」
兄さんは時々変な事を真顔で言うから困る。優しいし、良い人なんだけどね。
苦笑していると、二人の会話が聞こえてきた。
「直生、次はアレ。なんか丸い画面タッチしたり周りのボタン押したりする音ゲー」
「名前くらい覚えとけ、ゲーオタ。ほら行くぞ」
そっけない言葉と顔とは裏腹に、さりげなく人混みから彼女を守るように歩みを進める直生。
遼がいたら絶対突入してからかうんだろうが、僕は空気を読んで二人のデートの邪魔はしないことにする。
その代わり、学校で色々聞こうと思うけどね。
そんな計画を立てながら、次なる目的地に向かう二人を見送った。
次のゲームでもまた僕らがギャラリーとして二人を見ていたのは言うまでもない。




