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ラブゲーム!  作者: 和藤 結希花
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進路 2。

「はいこれ、県内の大学のリスト。こっちは県外」


 ドサッと目の前に置かれた分厚い本に目眩を感じる。

 正直逃げ出したい。だけど……。


「直生くん、莉音が逃げないよう見張っててね。私ちょっとこれから用があるから」

「はい」


 テーブルを挟んで目の前に座っている直生がコクリと頷く。

 逃げないよ。もうそんなに子どもじゃないんだから。

 お母さんが出て行くのを見てから、本をめくり始めた。



 こんなことになったのは、新学期に提出することになっている進路希望調査になかなか手を付けない私にお母さんがブチ切れたから。それで強制的に進路先について調べることになった。

 私が逃げないようにご丁寧に直生を見張りに置いて。



 しかし見張りであるはずの直生は特に興味なさそうにさっそくどこからともなくゲーム機を取り出し、ポチポチカチカチやり出した。見張ってなくていいのか。私逃げるぞ。


「……あんたは、情報処理系に行くんでしょ」

「ああ。パソコン好きだし。就職もそんな感じのにする」


 ちゃんとしてるのか適当なのかわからない答えだ。こいつらしいけど。

 画面に集中する直生を見て、私も紙面に集中することにした。




 県内を中心に見ていき、数時間費やして、やっといくつか大学をピックアップすることができた。

 どれもこれも県内だし、家から通うことは可能であろう。

 んーっと背伸びした。


「できたのか?」

「うん。疲れたー」

「お疲れ」

「労ってくれるならココアでも入れてよ」


 テーブルにうつ伏せになってボソリと言うとため息が聞こえ、立ち上がる気配がした。多分めんどくさくても入れてくれるだろう。


 しばらくして予想通り、甘い香りを引き連れ戻って来る。コトリとカップの置く音が聞こえ、顔を上げると不機嫌そうな顔と視線がぶつかった。それにニヤッと笑ってみせると、ますます不機嫌な顔に……。

 何か言われる前にココアに手を伸ばした。


「頂きます」

「……どうぞ」


 ゴクリと飲むと甘く暖かいものが喉を下って行って、体全体がすごく満ち足りた気分になった。


「あー、美味し……」

「当たり前だ」

「そうだねぇ。ありがとうね」


 本当に疲れが癒されたので素直にお礼を言った。

 直生がこんなにココア作るの上手いのは知らなかったな。

 今度から頻繁に作って貰おう。


「……そんなに疲れてたのか?」


 直生は奇妙なものでも見るかのようにこっちを見つめた。

 え、そんなに私がお礼を言うのが珍しい?今までも普通に言ってた気がするんだけど。


「え、うん。なんで?」

「顔が緩みまくってたから」


 真顔でそう言われた。普段私はどんな顔してんの……。


「いつもは、無表情か、バカにするように笑うか、冷たい目か」

「……なんか、すみません」


 ぽんぽん出てくる私の表情になんだか申し訳なくなり、頭を下げた。まともな表情が一切ない。こいつも大して変わらない気もするけどね。



「でも、俺はそれでもいいけど」



 ポツリと言葉を零し、不自然に視線を逸らした。

 さてはこいつ。


「ドM……?」


 そう言った途端、頭に手刀が落とされた。

 スコンと。


「殴るぞ」

「もう、手出してんじゃん」


 地味に痛いんだけど、これ。ドMでもいいよ、踏んであげるから……、なんて思う私は大変危険なのだろうか。

 そんな状況を妄想していると自然と笑いが込み上げてきて、ふふふと零すとなぜかドン引きされた。



「ただいまー。あんた行きたい所決まったの?」


 お母さんが帰って来てさっそくこの話題に戻った。


「ここが第一希望……。後、ここと、ここが気になる……」

「あら、いいじゃない県内だし。特に異論はないわよ。頑張りなさい」

「……え、でも」


 割とあっさり快諾されたが、本当に大丈夫なのかな。学費とか。色々……。


「いらないこと考えてんじゃないわよ。あんたは合格できるように努力してればいいから」

「……うん。ありがとう」


 大学に行くようになったらバイトを始めようと思う。上原家もいたとはいえ、シングルマザーは大変だっただろうお母さんに恩返ししなければね。


「あれ、この第一志望の大学。俺の行きたいとこの近所だ」

「え、また?」

「あらそうなの?なら受かれば途中まで一緒に行けるんじゃない?」


 今の高校も、私の学校と直生の学校の距離は近いのだが、一緒に登校しているわけではない。直生は部活の朝練があるから。


「いや、部活引退したら一緒に行けるだろ」

「…………」


 なんでもないように言う直生に私は目をパチクリ。


「いいの?あんたあんなに私のこと隠したがってたのに」


 もちろん悪い意味で隠してた訳じゃないっていうのは家族みんな知ってる。理由がなんとも言えなくて笑っちゃうけど、私は特に気にしてない。


「……バレたからもういい」

「…………ふへ」


 思わず、バカにするような笑いが漏れてしまい、直生にまた手刀を落とされた。今度は割と本気の威力だった。頭割れてないかな。


「たまに口が滑るよねあんたって。きっとおしゃべり得意な子に流されてしゃべっちゃったんでしょ?」

「……」


 気まずそうに視線を逸らす直生。図星か。そうか、そうか。

 いやー、会ってみたいなその人に。学校でこいつがどれだけ格好つけてんのか聞いてみたい。


「こらこら二人とも。そう言うのは私が居ないところでやってちょうだい。痒くてしょうがないわ」



 やれやれ、とお母さんはその場を去って行った。

 そんなに変な会話でもないと思うんだけどな。

 それは直生も同じようで不思議そうな顔だった。


「まぁ、いいや。で?あんたは引退したら毎週月曜日、私と一緒に登校してくれるということでいいの?」

「ああ。そう言ってんだろ」

「そっか。なら、楽しみだな」

「だいぶ先になると思うけど」

「うん。いいんだよ、それで」


 引退するということは負けるということ。

 こいつはこれでも小学校からサッカーをやっていたし、ゲームとは別に大切にしてきていたから、簡単には負けないだろう。


 高総体でこいつのチームがどれだけ結果を出すことができるのか見に行くの楽しみだな、なんて思いながら私はココアを啜った。

ここまで読んでいただきありがとうございました!私事ですが、これから忙しくなるので更新は不定期になります。

挫けそうな時もありましたが、こんな拙い文章を読んでくれている人の存在により、絶対に完結させてみせようと思えました。本当に感謝しかないです。こんな素人の小説ですが、今後ともお付き合いいただければ幸いです。

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