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ラブゲーム!  作者: 和藤 結希花
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お昼ご飯。

「ほらほら機嫌直してよ」

「うるさい」


 またも私に全敗した直生はかなり不貞腐れていた。実はこれで5連敗なのだ。もう負けるたびに直生から生気がなくなり、今では部屋の隅っこで小さくなっている。


「あ、そだ。お昼ご飯のリクエスト聞くよ」

「は……?」


 上目遣いでこちらに問いかける様は、なんとなく可愛い気もなくはないけど……なんか鳥肌が立つのでやめていただきたい。


「お正月に、この写真と取り引きしたでしょ?」

「……ああ」


 スマホの待ち受けを見せつけた途端、直生の目が死んだ。

 そんなに悪くないと思うんだけどなぁ、この写真。


「というわけで何が食べたい?」

「……オムライス」

「お子様だねぇ。いいよ、作るから」



 だいぶ弱っていたが好きなもの食べれば復活するだろう。

 人間ってそんなもんだ。



 直生の部屋を出て台所に向かうと先客がいた。しかもご飯の焼ける香ばしい匂いが。あれ、嫌な予感。


「優おじさん?」

「あ、莉音ちゃん」

「……何してんの?」

「お昼ご飯にチャーハン作ってたんだよ。いつも莉音ちゃんに頼ってばっかりだったからたまには僕も作ろうかなって」

「だ、大丈夫?」


 実はおじさん、料理が壊滅的に不得意なのだ。そしてその自覚がないという質の悪さ。

 今も、え?何が?って顔してる。私は首を振ってなんでもないと答えた。まったくなんでもなくないんだけど。



 すまん、直生。

 こんなに優しいおじさんに今すぐ調理をやめろとは言えない。言えるわけがない。


「もうすぐできるから直生呼んで貰える?」

「あ、うん」



 まぁ、好きなものじゃなくても何か食べれば復活するだろう。人間ってそんなもんだ。……たぶん。




「直生ー。機嫌直してー。今度作るから」


 予想通りっちゃ予想通り。すっかり萎んだ直生。

 今は勝手に私の膝に頭を乗せている。つまり膝枕。そして私の腹に顔を埋めてぐりぐりしてくる。


 普段ならこんなにベタベタしてこないのに、大丈夫かこいつ。

 相当なダメージを受けているのだろう。理由は大したことでもないんだけど。


「じゃ……もう、お前を食べる……」

「は」


 突如、直生の目がギラッと光った。

 なんだか不穏な空気を感じたのでサッと膝を滑らせ強制的に膝枕を終了させた。


 当然直生の頭は床に落ちて、ゴンッといい音が。めっちゃ痛がってるけど目は覚めただろう。



「ほらお昼食べに行くよ」


 立ち上がり直生のフードを掴みグイッと引っ張る。


「あ、待て待て」


 立ち上がった直生は私の上の服の裾を伸ばした。

 それを見てカッと顔が熱くなる。

 こいつ……気づかないうちに私の服まさぐってたな……?


「……ほんと変態だよね。あんた」

「どうとでも」


 そんなしれっとした顔で言わないでください。


 リビングへ行くと、もうみんな揃っていて、いただきますを言う直前だった。


「遅かったね。どうしたの?なんかゴンッて音が聞こえたんだけど」


 華南ちゃんがそう聞いてきたので二人揃って肩をビクつかせた。


「……部屋に虫がいて、追い出そうとバタバタしてたから」


 表情を崩さずにそう言った。我ながら素晴らしい言い訳だ。

 襲われかけたとは言えまい。


「まだ冬なのにもう虫がいるんだね」

「春が近づいているのねぇ」


 ほのぼのと孝おじいちゃんと紗凪おばあちゃんが話すのに内心ドキドキしながらも席に着いた。



 食事が始まるとみんなして驚いた顔をする。それは私も例外じゃなかった。


「あ、美味しい」

「普通に食べれるわね」

「あの頃は食べられたもんじゃなかったわよねぇ」

「ほんとまずかったよなぁ」

「お父さん随分マシになったね」

「食えなくはなくなったな」


 上から私、花奈おばさん、紗凪おばあちゃん、孝おじいちゃん、華南ちゃん、直生である。


 ……みんな、もっと素直に褒めようよ。


 お母さんとお兄ちゃんは用事で今はいないのでフォローができない。いや、いたとしてもできただろうか。


 そんなでも優おじさんはすごく嬉しそうで、照れ笑いを浮かべていた。



「いやぁ、実は莉音ちゃんのレシピ帳を見て作ったんだよ」

「えっ」


 あ、あれを見て作っただと……。


「あれ?まずかった?」

「いや、あれでよく作れたなって……」


 例の宝の地図的なレシピ帳。実はまだ秘密があったのだ。


「ああ!おもしろかったよ!」


 優おじさんの言葉に私達以外、は?という顔をしていた。


「宝探しみたいだったり、想像力使ったりね」

「……なんだそりゃ」


 一気に私に何とも言えない視線が集まる。


「右側の棚の上から5段目の右から二列目に塩コショウがあるとか、ネギの量はお母さんの拳一つ分とか。違う料理だったけど、じゃがいもは親指の爪くらいの大きさとか」

「あ……それ、カレーだね。お兄ちゃんがそのくらいの大きさにしないと食べないから……」


 わかってるよ。そんなの普通に計れだの、目測でいいだの、そう言いたいんでしょ。


 私は根が真面目なめんどくさがりやなんだ。だからこうなった。悪いか?


「莉音ちゃんらしくていいんじゃない?ねぇ」

「うんうん。可愛い可愛い」


 おばあちゃんとおじいちゃんが二人で「ねー」と顔を見合わせている。

 私らしさとは……。


「あ、あと、白玉のレシピで直生のほっぺくらいの柔らかさになるまでこねる、とかもあったな」

「…………」


 あらゆる方向から視線が集中する。


「そ、れ、は〜莉音ちゃんしかわからないわよねぇ〜」

「そうよねぇ。直生に触れるのなんて莉音ちゃんくらいだものねぇ」


 花奈おばさんと紗凪おばあちゃんがタッグを組んで攻撃してきやがった。

 この二人には反撃できない。

 本能がそう言ってる。


「……だって、そのくらいの柔らかさが、一番ちょうどいいから……」


 うう……恥ずい……。

 私は俯き、素直にそう言った。

 すると、横からポン、と肩を叩かれた。


「早くお嫁にいらっしゃい!」

「……はい?」


 ぐっと親指を立てて花奈おばさんは言った。


「直生も、こんな可愛い子絶対に逃しちゃダメよ。逃したらただじゃおかないわよ」

「おう、任せろ」


 直生もぐっと親指を立てている。

 いきなりなんなんだ…?

 話に追いついて行けず、困った私は孝おじいちゃんの方を見た。

 おじいちゃんはお茶を啜り、にっこり笑って一言。


「莉音ちゃんは可愛いって話だよ」


 ……やっぱり、わけわからん。


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