バレンタイン、何あげるの?
「ね、莉音!バレンタインは何あげるんだ?」
昼休み、るんるんで伊織が聞いてきた。
ちなみに今1月。
「バレンタイン?早くない?」
「早くない!バレンタインの準備は一か月前から始めるのが普通じゃないか!ね、のん!」
「……」
「のん?」
話しかけてもどこか上の空なのん。どうしたんだろう。
「のん!」
「え、何?」
「あー、やっと気付いたどうしたの?何か悩み事?」
そう聞くと、目をうるうるさせるのん。な、何事?
「私の好きな人が……」
「え、のんの好きな人?」
「結婚しちゃったの……」
「「…………」」
……のん、好きな人、いたんだ。しかも年上。
のんはいよいよしゃっくりをし始めてしまったので慌てて背中をさすった。
「ごめん、のん。無神経に聞いちゃって……嫌だったよね」
「わ、私も悪かったよ!」
「ゔっゔぇ……」
とうとう本格的に泣き出してしまったのん。のんが泣くなんて……。
私たちはとにかく謝って頭撫でて背中撫でて抱きしめてを繰り返していた。そうしているとのんが何か喋ろうとしていたので私たちは聞く体制に入った。
「……うっ……昨日出たっ少女マンガの……っ」
「「……ん?」」
「主人公と……っ私の好きな人がっ結婚しちゃったのっゔあぁあ」
私たちはポカーン。泣きじゃくるのんをただ見ていた。
「のんって、2次元大好きな子だったのか?」
「そうなんだよおぉ!ゔわあぁあああんっ」
「あー、泣かないでー」
うんうん。例え紙の中の人だったとしても好きな人が結婚しちゃうってつらいよね。私だってゲームの2次元、アイちゃんが大好きだし。絶対ないけど、アイちゃんが結婚なんてしたら相手をぶっ殺す。
しかし、少女マンガならある程度展開は見えるだろうし、誰と誰がくっつくとかわかるだろう。のんはバカじゃないし、それも覚悟の上だったってことなのかな。そうなら大層健気な子だ。
「私、その人が大好きで……っ!バレンタインも毎年チョコ送ってたし……それくらい大好きだったのに!」
大粒の涙を流すのんの頭をよーしよしよしよーしよしよしと撫でる。
「なんかっのんが泣いてるから私まで泣きそうだ……っ」
「絶対やめてね」
伊織まで泣かれたら私どうすればいいんだよ。私が二人をいじめてるみたいじゃん。現に今も周りからジロジロ見られてるし。
「……バレンタインの話しないの?」
「あ!そうだった」
シュッと伊織の涙は引っ込んだ模様。
「ほらほら、のんも結婚したからってチョコ送らないわけじゃないんでしょ?」
「うっ……うん……っ」
のんもやっと落ち着いてきたみたいで深呼吸をする。伊織が、ではではと口を開いた。
「莉音はいつも何あげてんの?」
「去年は、チョコケーキだよ」
「へー。一昨年は?」
「チョコケーキ」
「……その前は?」
「チョコケーキ」
はい、もうおわかりでしょう。私は毎年チョコケーキしかあげてない。
「なんでそんなにチョコケーキに執着してるの?」
涙の止まったのんが聞いてきた。
そりゃあ……。
「家族一緒に食べた方がいいでしょ?」
「いい子だ!」
「いい子だねぇ」
いや、待って。今の冗談。
「いや、一人一人に渡すのめんどくさくて……」
「うん、やっぱりな!」
「私もなんとなくわかってた」
二人ともよく私の性格わかってらっしゃる。
大きなホールサイズのチョコケーキなら一回作ればそれでいいからね。直生には毎年ぐちぐち言われるけど気にしない。
「伊織は?」
「私はねー、彼氏いる年はトリュフで、いない年は板チョコ」
「差が激しすぎだよ、イオちゃん……。というかあなたトリュフなんて作れるの?」
「もちろん買ったやつだ!」
「……どっちにしろ既製品なんだ」
じゃあ、伊織の家族はバレンタイン時に伊織に彼氏がいるかいないかわかっちゃうんだ。それでいいのか伊織。
「のんは?何あげるの?」
「好きな人にはチョコクッキーで、家族にはチョコチップクッキー」
「ん?何その微妙な差は」
「茶色の面積が広い方が本命。少ない方が義理」
「うわぁ」
この子もなかなかはっきりしてるな。これ聞いたら一目で本命か義理かわかってしまうだなんて。
「待て二人とも!友チョコは⁉︎」
「「あ」」
伊織に言われるまでその存在を忘れてた。
去年はどうしたっけっかなー。この学校は二年生になる時にクラス替えをするので、この二人とは二年生の四月に友達になった。だから去年は二人にはあげていないのだ。
……待てよ。この話からすると私は今フリーである伊織から板チョコをもらい、のんからは一発で義理だとわかるチョコチップクッキーをもらうのか。貰えるのは嬉しいけど複雑だ。
「ちょっと莉音!変なこと考えてんじゃないか?」
「考えてた」
「やっぱりね!さすがに今の話した後でただの板チョコはあげないよ!な、のんもだろ?」
「そうそう。ただのチョコチップクッキーなんてあげないよ。莉音こそチョコケーキホールでなんて持って来ないでね」
「さすがにそれはないよ」
「だよねー」
あはは、と笑い合う私達。
何か嫌な予感がするのは私だけか。
そんな私も今ちょっとひらめいていたりするのだが。




