不機嫌な午後。
「カルタやれよ!」
「うわ、まじで予想通りの反応」
ダランダラーンと直生とゲームしているとお兄ちゃん達が帰ってきた。そして第一声がこれ。
「この姿は他の親戚には見せんなよ?」
「はいよー。お兄ちゃんもねー」
「……おう」
私の言葉に苦い顔で答えるお兄ちゃん。それに隣の華南ちゃんが苦笑する。
「はーあ、宴会なんかじゃなくてコスプレ大会したら楽しいのに」
「姉貴だけだろ。しかも来るのおっさんばかりだし」
直生がゲーム機から目を離さず言った言葉に私も同意する。そうだよね。おっさんのコスプレ大会だなんて何が楽しいんだか。
「まったくもう……揃いも揃ってやる気ないわねあんた達。親戚の皆さんにはちゃんと笑顔でおもてなししてよ?」
お母さんが屋台で買ったものを整理しながら言った。……お母さんも結構買っているね。親子だね。
というわけで、とりあえず練習と称してにっこり笑ってみた。ニヤリじゃなくてにっこり。
「「…………」」
なぜか華南ちゃんとお兄ちゃんと直生の顔が真っ青になった。
え、何。
「背筋がゾッとするな……」
「莉音、怖い……」
「生まれてこのかたこんなにもきみ悪い笑顔は初めてだ」
「あんた達かなり失礼だよ」
まぁ、なんとかなるだろう。そんな感じで結構楽観的でいたのだが。
「お皿お下げしますね」
「おうおう!お嬢ちゃんめんこいなぁ」
「あははは」
皿を回収し、台所に戻った途端に笑顔を引っ込めた。
あー、疲れた。思った以上にツライ。今の私は笑顔百点満点。しかし素の私を知ってる人に出くわせば真っ青な顔されるかププッと笑われるかの2択だ。
「すみませーんお酒まだありますか?」
「はいただいま!」
いきなり台所の入り口から聞こえた声に慌てて笑顔を作って振り向く。けれどすぐにそれを引っ込めた。
「ぐっふふふ……」
「……遊ばないでよ」
そこにいたのは直生だった。大層ムカつく顔で笑っている直生。
「こっちは忙しいの。あんたもあっちで接待しなきゃでしょ?」
スッと横を通り過ぎようとするとパシッと腕を掴まれた。
その瞬間ふわりと香るお酒の匂い。
「酒くさい」
「あんたもだよ」
呑んではいないが周りの大人達が呑みまくっているので近くで接待している私達にも自然と匂いが移るのだ。
「あんなに甘い匂いだったのに」
「……しょうがないじゃん」
りんご飴を食べて、わたあめ食べる前にゲームして たら宴会の準備が始まっちゃって、甘いもの食べる時間はなくなった。
ああ、わたあめ、明日にはカチンコチンに固まって萎んでしまうんだろうな。頭の片隅でそんなことを考えながら横目で直生を見る。
「不機嫌だね」
直生の表情は先ほどと打って変わって沈んでいた。
「……当たり前だろ」
私がこんな愛想笑いを振りまいてるから。
それがこいつにとって嫌でしょうがないのだ。
「あんたこそ愛想笑いきみ悪いよ」
ニヤリと笑った。いつも通り、相手を小馬鹿にするような笑み。すると気まずい顔で目を逸らす。
「……しょうがねーじゃん」
今度は直生が『しょうがない』と。
そうだよね、しょうがないよね。『我慢』と『諦め』なんて大人に近づけてば近くほど実感するもの。
でも、私達はまだ子どもだから。
「終わったら、ゲームの続きしよ」
「ああ」
直生の手が離れる。
少し寂しく感じたけど、掴む気はまったくない。
気合いを入れ直してそれぞれの場所に戻った。




