クリスマスケーキ。
学校から帰ってきたら、莉音が台所で熱心にボールに入った何かを泡立て器でかき混ぜているのを目撃した。
俺と莉音は違う高校に通っているが、冬季講習があるのは同じ。時間も午前中だけと同じだが、俺は部活もやってきているので彼女より遅く帰って来るのだ。
莉音は俺が帰って来たことにまったく気づいてないようで、こちらをチラリとも見ない。
「ただいま」
「うおっ⁉︎」
近寄り、声をかけるとズサッと飛び退き、泡立て器とボールを放り投げたので慌ててキャッチ。中身を見ると生クリームで、まだ固まってない状態だったので受け止めてなければ大惨事になっていただろう。セーフ……。
「ん」
「あ、ありがと……。おかえり」
そう言い、照れ笑いした……、とはいかない俺の彼女。お礼を言い、さっさと作業に戻りやがった。びっくりすると、悲鳴は可愛くないが割と乙女な反応するのに冷静になるとこれだからな。
そんなことは日常なので俺もさっさと自室へと向かった。
早く着替えてゲームでもしよう。
「……そういえばなんで生クリーム泡立ててたんだ?」
「クリスマスケーキ作るからだよ」
後ろからの声に振り向くと莉音がいた。何の用かと聞く前に莉音はニヤリと笑い、手に持っていた物を差し出してきた。
「はいこれ」
「は?」
「泡立てて?」
差し出されたのはさっきの生クリームの入ったボールと泡立て器。
……帰ってきたばかりの俺を使うか?普通。
「着替えてからでいいから、それお願いね」
「……ハンドミキサーなかったっけ?」
「それは半年前に壊れてゴミに出したみたい」
拒否する暇もなく、「じゃ、着替えたらそれ持って台所ねー」と言いすたこら戻って行った。
「はー……。ま、いいか」
なんだかんだで俺はいつもあいつに甘いんだと思う。
付き合う前は嫌い嫌いあっち行けこっち見んなって感じだったからやっと恋が実った時は内心それはもう嬉しくて不器用ながらにも甘やかしていた。三年経った今でもそれは変わらない。そしてたぶんこれからもずっと変わらないのだろう。惚れた弱みって奴でもう既に諦めている。
「直生ー!まだかー?」
莉音の声とともに何かが焼ける甘く香ばしい香りがする。なら、急がないとな。
制服を脱ぎ、部屋着に着替え手を洗い、先ほどのボールと泡立て器を持って台所に向かった。
「お前なぁ……俺がここに戻ってから命令しても良かったんじゃないか?」
「あんたいつも部屋に入るとすぐゲームじゃん。ここに戻って来る確率0パーセント」
う……。それを言われると何も言い返せない。俺は黙って生クリームをかき混ぜた。
「トッピングは苺とー、みかんとー、バナナとー、パイナップル……」
莉音は何やら隣でレシピ帳らしき物を見てブツブツ独り言を呟いている。……乗せる果物多くね?
パタンとレシピ帳を閉じたかと思うと、まるごとパイナップルを冷蔵庫から取り出し、解体ショーを始めた。上の葉はタオルを巻いてズボッと抜き、ザクザクと実の部分を切っていく。それには素直に感心した。缶詰じゃなく、ちゃんとまるごとのパイナップルを用意しているところも。
次々と他のフルーツも切っていく姿はすごく手慣れたもので、ただの嫌みったらしいゲーオタ女子高生じゃなかったんだなぁと思い知らされる。
混ぜていた生クリームも莉音を見てるうちにいつの間にかポイップクリームに変わっていた。
「あ、できた?やっぱり男の方が早く出来上がるね。じゃあ今度はスポンジにクリーム塗るから手伝ってね?」
「はいはい」
ルンルンで再び俺に命令し、スポンジをオーブンから取り出して持ってきた。
「はいこれ、ヘラっていうんだよ」
「……知ってる」
「なら良かった。均等に塗ってね。こんな風に」
莉音の指示通りになんとかクリームを塗り終え、フルーツでトッピングした。
「うふふー。美味しそ……」
「まだ食うなよ」
「わかってるよー」
こいつは本当にスイーツが大好きだ。よく友達ともスイーツ巡りとかに行ってるみたいだし。こいつの中で唯一女子らしい趣味だと思う。
「来年も作ろうかな……」
確か去年までは作ってなかったな。父さんが買って来たのをみんなで食べていた。まぁ、それも美味しかったけど。
「……いいと思うぞ」
俺はこいつの料理の方が好きだし。
「はい」
「んぐ」
いきなり口に余った苺が捻じ込まれた。変な声が出た俺を莉音はニヤニヤ見てくる。
「手伝ってくれたからお駄賃だよ。お疲れ様」
よしよしと頭を撫でられたがめちゃくちゃ悔しい。しかしなぜかやめろという言葉は口から出て来ず。
「……餌付けする気かよ」
「また手伝ってくれてもいいよ」
「いいけど」
「良かった」
ニヤニヤ嬉しそうに笑うお前に、楽しかったよとは絶対に言ってやらない。




