ゲーム開始!
「こんにちは、高原のおばさん」
「あら、上原さん家のお孫さんの莉音ちゃん!今帰り?」
「はい、今日はおばあちゃんの家に帰る約束なんです」
「あらまぁ、そうなの!今から上原さん家に林檎のお裾分けに行こうと思っていたんだけど、莉音ちゃんにお願いしていい?」
「はい、いいですよ。ありがとうございます」
「いえいえ〜」
学校帰り、私は祖父母の家に向かっていた。私の家と祖父母の家はそんなに離れていないのでどっちに帰ってもかかる時間はそんなに変わらないし、今日は金曜日。
金曜日は私の山寺家と祖父母、そして祖父母の家に同居している上原家のみんなが揃って晩ご飯を食べるのだ。そしてそのまま土日を一緒に過ごす。ルールではないが、自然とそうなった。
「今日の〜晩ご飯は〜鍋っ鍋〜」
林檎の入った袋をぶらぶらしながら小声で歌う。
昨日、晩ご飯のメニューはあらかじめ聞いていた。
肌寒くなってきた最近、鍋はやはり最高の料理である。そして大きなちゃぶ台の周りをみんなで囲んで鍋をつつくっていうのも好きだ。
私は隣に座るであろう人のことを思い出す。
「直生……」
私はそっと呟いた。
祖父母の家はでかい。世間からお屋敷と呼ばれるほどだ。
私は門の前に着くとインターホンを押した。
ほどなくして返事が返ってきた。
「あらあら!莉音ちゃんいらっしゃい!
早く入ってらっしゃい!」
「はい、紗凪おばあちゃん」
私は応えて改めて屋敷の方を見た。
「早くって言うのなら、おばあちゃん…。門から家をあんなに遠くしないでほしかったな…」
まぁ、おばあちゃんに言ってもしょうがないんだけどね。
私はため息混じりに一人呟くと気合いを入れて門からだいぶ離れた屋敷へ走り始めた。
「莉音ちゃんいらっしゃ〜い!」
家に着くと、白髪の上品な女性が私に抱きついた。
私は走り疲れてそれどころではなかったが、なんとか笑顔で挨拶した。
「こんにちは、紗凪おばあちゃん。あれ?お母さん達まだ来てないんだね」
玄関にはこの家の人達の靴しかなかった為、そう聞いた。
「そうなのよ〜。今日はまだ来てないの。でもそのうち来るわよ」
上がって!と手を引かれ、靴を脱ぐ。そして、林檎の入った袋があったことに気づいた。
「はいこれ、高原のおばさんから林檎のお裾分けだって」
「あら〜美味しそうね。後でみんなで食べましょうね。お返しはどうしようかしら」
まぁそれより、とおばあちゃんはニンマリとした笑顔で続けた。
「あの子、もうすぐ帰ってくるわよ」
「……………………」
にやけながら聞くおばあちゃんに私は呆れ顔を作ってみせる。
「いや、毎週金曜日に会ってるじゃん。しかも金土日泊まってるし」
「あら、一週間に4日も会えないなんて物凄く長いじゃない。私だったらおじいちゃんとそんなに長く離れられないわよ。おじいちゃんだってねぇ」
もじもじしながらおじいちゃんとのことを惚気出したおばあちゃんに「うんうんよかったねー」と返す。
私、本当にこの人の孫なのかな。
おばあちゃんをこう言ってはなんだけど、少女趣味な人だ。少女漫画とか結構持ってる。
対して私はとにかく冷めてる。とある奴に『スーパードライガール』と名付けられた程だ。
ちなみに、そいつは『スーパークールボーイ』である。
私が名付けてやった。
「あの子、今日は部活は6時までやってくるらしいわよ」
「知ってるよー」
「うわぁ、ラブラブねぇ!」
「普通だよ!」
おばあちゃんは相変わらずにやけながら言うと私の背中を押し、リビングへ招き入れた。