3話【特待生の実力】
1回裏 上級生チーム対下級生チーム 0対0
上級生チーム
1番 左 野上
2番 二 高田
3番 右 寒河江
4番 一 青木
5番 投 赤沢
6番 遊 中森
7番 中 清野
8番 三 大津
9番 捕 井ノ口
下級生チーム
1番 右 宮道
2番 中 梶尾
3番 三 山本
4番 投 徳山
5番 遊 高坂
6番 捕 水戸
7番 二 鵜飼
8番 左 秋葉
9番 一 岡
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1回裏
「くそっ、俺がピッチャーじゃないのか」
外野から自チームのピッチャーの投球練習をうらめしそうに見ながら宮道はぼやく。宮道が打席に立っている間にポジションが決められており、宮道はライトに就かされることになった。石田の話では全員出場させるし、投手希望者には全員登板させるというので、宮道の出番もいずれは回ってくるだろう。下級生チームの先発は徳山。宮道は聞いたことがなかったが、ボーイズリーグの強豪チームに所属していたらしい。
「まあお手並み拝見だな」
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5回表
高めに外れたストレートを打者が空ぶる。赤沢は今日のピッチングにかなりの手ごたえを感じていた。すでに四球を3つ出しているが、三振も今ので13個目、安打も一本も打たれていない。いつもは課題のコントロールも今日は次第にまとまってきている。一年生相手とはいえ公式戦の近いこの時期にこれだけのピッチングができているのはよい兆候なのは間違いない。捕手の井ノ口がベンチに帰る赤沢に走り寄ってくる。
「陣、今日すごい気合入ってるじゃないか」
「まあ嫌でも気合入るからな」
赤沢は出番が来なかったためネクストサークルからベンチに引き上げる宮道を睨みつける。宮道はまだ投手としては登板していない。しかし点差はすでに8点まで開いていた。先発の徳山が3イニングで5失点、その後続のピッチャーが先ほどの1イニングだけで3失点している。この試合は自分と宮道の投手戦になるだろうと考えていたため拍子抜けではあった。
――だが気は抜けねえ。宮道が登板した時点でそれまでの点差は一回忘れよう。そもそも打線のレベルが違うしな。俺が点を取られないに越したことはねえ――
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5回裏
下級生チームのマスクをかぶる水戸は守備位置につきながら思わずため息をつく。すでに8点まで点差が開いている。このイニングから噂の特待生である宮道がようやく登板するが、仮に守りがなんとかなったとしてもここまで圧倒的なピッチングをしている赤沢から8点どころか1点だって取れるイメージが湧かない。
部内の紅白戦、それも上級生と下級生に分かれての対決なのだから勝ちに行く理由もなければ勝てる望みも薄くて当たり前なのだが、ここまで圧倒的にやられると堪えるものがあった。
――そもそも花緑って毎年2,3回戦止まりのチームじゃなかったのか。それがここまで強いだなんて。俺たちが通用しないのはともかく推薦組ですらまともに活躍できていない。先発の徳山だって120後半から130前半ぐらいは出てるのに。あんな打ち頃の球みたいに――
考えているうちに宮道が投球練習を始めようとしたので、水戸はあわててミットを構え受ける。軽く投げ込んでいるだけなので何とも言えないが、球威は徳山の方がかなり上、コントロールは宮道の方が上といった風に見えた。正直なところ余りレベルは変わらない。場合によっては徳山のほうが上なのかとさえ思えるほどだった。
――ひょっとするとこれまた打ち込まれるんじゃないか――
すると宮道がタイムを取ってこちらへ駆け寄ってくる
「水戸君、この回俺にサイン出させてもらえないかな」
「俺の配球は信用できないってことかよ」
「そういうわけじゃないけど、まだ水戸君は俺がどういうピッチングできるのか知らないだろ。俺の投手としての持ち味は球種教えただけじゃわからないと思うからさ。とりあえずこの回だけ俺に任せてくれよ」
「わかったよ。そこまで言うなら好きにしてくれ」
―――ちっ、打たれても俺は知らねえからな――
この回の先頭打者である7番打者の清野がバッターボックスに立つ。ここまで2打数1安打の俊足の打者だ。
――この人はクリーンヒットだけじゃなく、内野安打にも気を付けないとな。さっき打たれた安打も内野安打だったし――
1球目、インコースのボール気味のストレートに清野は手を出したがボールがファールゾーンに飛んでいく。2球目、インハイのストレートに豪快に空振る。完全に振り遅れていた。
――あれ、今の球なんか速かったような――
3球目、先ほどとほとんど同じコースにストレート。しかし清野のバットは空を切った。今度は清野がバットを出すタイミングが早すぎたようだ。続く8番をセカンドフライ、9番をサードゴロに打ち取り、下位打線ながら下級生チームが上級生チームをこの試合初の三者凡退で抑える。
そしてこの回の宮道の投球は全て120~110程度のストレートだった。