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逃走

 ある地方の街。

 昼間は美しかった街並みも今はもう辺りは暗く、雨も降っているお陰で街灯の無いここは数メートル先も見えない。


 バシャバシャ、と水溜まりを踏む音が聞こえ数人の男達と男たちの持つ明かりの光が現れた。

 雨音の中に男達の声が聞こえる--


「居たか!?」

「いや、ダメだ。」

「くそ、見失った。」

「だがそこまで遠くまでは逃げていないはず。」

「おい!増援を要請だ!」

「気を付けるんだぞ!、奴はもととはいえ--


 --勇者のパーティの暗殺者アサシンだ。」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



(はぁ、はぁ、はぁ、どうしてこうなったんだ。)


 雨の降るなか、一人の少年が逃げていた。


「おい!居たぞ!」


 男の声が聞こえ、水を踏む音が近づいてくる。


(くっ!見つかった!)


 大降りの雨の中、逃げ続けている少年の体力は限界に近く、またその精神も限界に近かった。


(残りの魔力はもう少ない、どうすれば……)


「あっちに行ったぞ!」


 少年の後ろからは追手の声が聞こえる。


 声を聞きつけてか前方にも追手が持つ灯りの光が見えた。


(くっ、前からも!)


 一本道で挟まれる形になった少年。


(くそっ、一か八かだ)


潜伏(ハイド)


 少年は潜伏の技能(スキル)を使い、近くの塀によじ登る。

 少年は息を潜めてしばらく様子を見る。


「居ないっ!?」


「くそっ、潜伏だ。まだ魔力が残っていたか!」


 遅れて、少年の進行方向から来た追手もやってくる。


「居たか!?」

「いや、ダメだ。」

「くそ、見失った。」

「だがそんなに遠くまではいっていないはず。」

「おい!増援を要請だ!」

「気を付けるんだぞ!、奴はもととはいえ勇者のパーティの暗殺者(アサシン)だ。」

「分かっている、だがここまでずっと追われ続け奴も相当疲労が溜まっているはず。捕まえるのなら今はチャンスだ。」


 合流した追手達は挟み込んだはずの少年を見失い戸惑っているようだ。


(良かった、追手は撒けたみたいだ。)


 だが追手の推察通り、少年の体力は限界に近い。


(魔力切れで潜伏が解かれる前にここから離れないと)


 少年はまだ下にいる追手に気付かれぬよう音を立てずに塀の中へと降りた。


「とにかくこの中は-----の敷地だ。捜索の許可を取るんだ」


(まだ塀の外には追手がいる。会話からして直に塀の中に捜索に来る。その前に隠れなきゃ……!)


 ここは森だろうか、木の間を抜けながら青年は無我夢中で前へ進んだ。もう逃げている途中で自分が何処に居るかなど分からなくなってしまった。だが自分はやっていない、それを証明するためには今捕まる訳にはいかなかった。


(あ、足が、それに魔力も、せめて人に見つからないところで・・)


 体に掛けていた強化魔法も切れ、足がもつれる。青年は近くの木に体を預けるとそのまま気絶するように眠ってしまった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 閉じた目に淡く光を感じて少年は目を覚ました。


(僕は……寝てしまったのか?)




(まだ体に力が入らない。もう少し休んでいくべきか)


 少年がそんなことを考えながら目を開けると目の前に少女が座って顔を覗いていた。


「っ!、あなたは、・・誰だ。」


 少年はその場から離れて少女と距離を取ると腰のナイフに触れながら少女に問う。


 少女が近付こうとするとナイフを構え、「近付かずに答えてください!」と声を出す。同時に「鑑定」のスキルで少しでも、この少女の情報を得ようとするが、


 ズキン、


 昨日、魔力を尽きるまで使った反動か今「鑑定」は使えなかった。


 少年の声に驚いたのかその後に出したナイフに驚いたのか少女はビクッと手を引くが、変わりに口を開く。


「失礼ね、ここは私の家の庭よ?貴方こそ誰なの?なぜここに?」


 今居る森は少年の目の前にいる少女の家の一部様だった。

 確かに外には塀があり、なにかの敷地であることは間違いない。この広さの森が庭と言うのならこの少女は貴族か何かなのかもしれない。


「失礼しました、貴方の家だとは知らずにすぐに出ていきます。」


 少年は振り返り昨日入ってきた塀の方に向かってふらふらと歩きだす。


(くっ、まだ体に力が入らない)


「あっ、ちょっと待って!」


 少年は少女の声を無視してこの場から離れようと足に力を入れるがそれもままならず崩れ落ちる。


(くそっ、まただ)


 少年の体にはもう力は入らず、すぐに少年は意識を失った。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(……?暖かい、)


「天井?」


 少年が目を覚ますとそこは部屋の中であり少年はベッドに寝かされていた。


(ここはどこだろうか?)


 少年は首を動かして部屋を見回す。

 それなりに広めの部屋だ。一人暮らしなら十分に足りる広さであろうか。

 調度品はどれも豪華で家具に疎い少年でも一目で高価なものだとわかる。


(……確か女の子に見つかってそれから……)



「おや、目を覚ましましたか」


 声のする方を見ると執事だろうか、燕尾服を着た老人が椅子に座り、そこにいた。


「あなたは…?」そう言って少年は起き上がろうとするがいくら力んでも全く力が入らない。


「まだ安静にしていた方がいいですよ。私はジョゼフ、このお屋敷で執事をしています。」


 やはり執事であった老人--ジョゼフは少年が無理に起き上がろうとするのを止めると立ち上がり、


「今、旦那様をお呼びします。安静にしていて下さい。」


 少年はベッドに体を預け少し思考を巡らせる。


(あの敷地がすべて「庭」だと少女は言っていた、この部屋を見ても分かるけどとても裕福な、それこそここを治める貴族なんかだろうか?けど方角も気にせず逃げていたせいでここが何処であるかも解らないな。)


 ガチャ、とドアノブが回り、部屋のドアが開いた。執事-ジョゼフを先頭に一人の男が入ってきた。多分あの男が「旦那様」なのだろう。名乗らずとも大物だと分かる、そんな雰囲気を漂わせている。


「起きたか少年、私はこの家の主だ。体の具合はどう…おっと、無理に起き上がらない方がいい。」


 そうはいかない、この家の主であるなら自分が寝ていて良いはずがない。

 少年は力を振り絞りなんとか体を起こす。


「助けて頂いて有り難うございます。僕がこうして寝かされているということはまだ僕の正体を知らないのでしょう。直ぐに出ていきます、どうか僕の事は見なかったことにしてください。」


「そうはいかないさ、今の君を客観的に見てみなさい。満身創痍で立って歩くのも辛いだろう。そんな君を放っておくことなどできないさ。」


(とても優しい人だ、見ず知らずの人間にここまで手厚くしてくれるなんて。だけど、それじゃあやっぱり巻き込めない。なんとか言ってここから出なければ。)


「それに君の正体も知っている。君は巷で噂の暗殺者君だろ?」


 そう言って『旦那様』は少年が街を逃げている間にもよく目にした、少年の特徴が書かれた手配書を少年に見せる。

 ……!?知っていた?でもなぜ?


「こらこら、取り敢えず窓から逃げようとするのを止めなさい。」


『旦那様』の横にいたジョゼフがベッドから飛び出し窓に手をかけていた少年をベッドに連れ戻す。


「君をどうこうしようなんていう気は無い、落ち着きたまえ。」


『旦那様』はゴホンと咳をすると、


「改めて自己紹介をしよう--」


「私の名はマトコル・フォン・ライダット。ここの領主をしている。」


 少年は言葉を失った、呆然というか唖然というか、とにかく少年は目の前にいる人物が信じられなかった。


 ライダット家と言えば建国時から存在する名門中の名門の貴族家であり始まりは初代王の弟であると言われている。

 少年にとっては雲の上よりももっと上な存在である人物だ。


「……っは!?そ、そ、そんなお方が指名手配中の人物の前にた、立って居てもよろしいのですか?」


「そう、その事なのだがな、まあ取り敢えずは落ち着きたまえ。楽していい。」


 そう言われて少年は自分が無意識に正座していたことに気がつく。


 マトコルはジョゼフが持ってきた椅子に座ると話始めた。


「まず、君は勇者のパーティ、その一員であった暗殺者(アサシン)君で間違い無いね?」


「はい」と少年は頷く。


「これは君の今の能力値だ。見てみたまえ。」


 ジョゼフはマトコルの指示で少年に羊皮紙のようなものを渡した。

 少年は渡された羊皮紙をまじまじと見る。


「あのー、これは本当に僕の物ですか?」


 少年は渡された羊皮紙の内容を見て思わず聞いてしまった。

 少年も勇者のパーティの一員であったので自分の能力値は何度か確認している。だが渡された羊皮紙の数値は自分が記憶していた物よりもあまりにも違っていたのだ。


「間違いなく君のだ。君は今、『自分は勇者一味の暗殺者だ』と認めた。しかしその能力値を見ると、とても勇者一味に居た人間の値では無い。それどころか一般以下だ。」


 確かにこの羊皮紙に書いてある値は一般の同年代以下、まるで運動もまともにしていない、例えば病を患っている者の値のようであった。

 この羊皮紙が正しければこの能力値は自分が「そのような者である」という事を指している。


「そんな……」


「今の反応を見ると君は本物のようだな。」


「でもなんでっ…!」


「突然そのような状態になる状況は二つ考えられます。一つは『王の断罪』、一つが『呪い』です。」


 ジョゼフが少年の状態を見て自分の考えを挙げた。


「王の断罪?まさか!」


 少年は自分がもう有罪と確定され断罪されてしまったのかと考える。


「王の断罪は無いだろう。そのためにはちゃんと手段を踏み女神様の前で裁判をしてその者の罪を示さなければならない。」


 マトコルは王の断罪という説を否定する。


「ええ、ですから恐らくは呪いによるものでしょう。」


「そうだな、それではこれからを考えるか。」


「ちょっと待ってください!なぜ私はこのように面倒を見て戴いているのでしょうか?」


 その時、閉められたこの部屋のドアの向こう、つまり廊下からドタドタ、と何やら走って来る音がしてきた。

 バンッ、とドアが開けられると一人の少女が立っていた。


「あの男の子が目覚めたと聞いたわ!」


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