今日も婚約者を罵ってます
エイプリルフール第二弾思いつき
エイプリルフール⇨嘘⇨正反対のこと
の連想から。お嬢様が微妙にツンデレになった。何故こうなった....
2人だけのお茶会。静かな時間が流れる。
唐突に少女は話を始めた。
「ねえ 」
「ん、なに? 」
「嫌い 」
「うん、知ってる 」
そう言って、彼はいつもへらりと微笑んだ。
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政略結婚 という言葉を知っているだろうか。
物語にしか出てこなさそうな、その古びた言葉に詩織は翻弄されている。
白井家の令嬢と黒崎家の次期当主は婚約をしていた。
政略結婚をするために。
それぞれの家は互いの物を欲していた。白井家は黒崎家の財力を。黒崎家は白井家の人脈を。
互いに互いの欲しているものを確実にトレードする方法は簡単だ。縁を結べば良い。そんな古典的な観点からこの婚約は始まった。
別に契約書なりなんなり作って守れば良いものを、なんでこんな古典的な話を。なんて詩織はいつも思う。
「それで、今日はどうしたんだい詩織 」
「別に、ただ気分 」
婚約者になって、1年と少し。詩織には一つだけ続けていることがあった。
「まあ、僕としては嬉しいけどね 」
「変態ね 、罵られただけなのに 」
出会った時から変わらない飄々とした笑みに顔を顰める。なに考えているか分からなくて少し不愉快だ。
毎日一回。必ず彼に面と向かって言うのだ。
嫌い と。
ある日は学校の教室で、ある日は白井家の庭先で、ある日は街で、ある日はレストランで。
「変態、というわけではないんだけどね 」
「でも、罵られて笑うのは どえむ と呼ばれる変態だけ。」
「ちょ、詩織、その言葉どこで覚えたの? 」
正直、彼のことは嫌いではない。
恋、まではいかないが好きであるのは事実自覚している。詩織だって鈍くはない、彼が自身に良い感情を抱いてくれていることも知っている。
「ネット? 」
「いや、そこなんで疑問系?というか意味知ってる? 」
「暴力的言動及び行動をされることに至上の喜びを覚える特性をもつ豚の総称、つまり我が婚約者 」
「いや、違うからね?!全然僕じゃないから 」
慌てたように弁明する彼が面白くて、ふっと笑みを浮かべる。
彼こと黒崎 悠人は優しい。それにへたれだとは思う。
でも、一緒にいると楽しいとも思う。
だからこそ
彼には幸せになって欲しいのだ。
普通に恋をして、愛する者と結婚し、家庭を築く。
そんな、古今東西何処にでもあるような、平凡な幸せを享受して欲しいとねがう。
「我が婚約者は罵られるのが好きではないの?」
「うん、嫌いだよ 」
少しだけ、悲しいと思う。
「じゃあ、嫌いだよ我が婚約者 」
「うん、知ってる 」
彼はへらりと微笑う。
少しだけ、嬉しいと思ってしまう。
テーブルに置かれた焦げた手作りクッキーをさくりと一口。
「うん、苦い。やっぱり嫌いだよ 料理は 」
「うん、しってる 」
そう言って、彼もさくりとクッキーを一口。
そして、優しく笑って言うのだ。
「でも、君らしい味だよ。詩織 」
「......!!!」
美味しいという世辞でもない、不味いという酷評でもない。不味いクッキーが君らしいという。
「それは、褒め言葉じゃない 」
でも嬉しいと思うのは何故だろうか。
「うん、知ってる 」
優しく微笑う彼がなんだか眩しくて、なんだかむずがゆくて。頬が赤らむ。そんな顔を見せたくなくてふいとそっぽを向いて、ちょっと不機嫌に詩織は呟く。
「やっぱり、嫌いだよ 」
「うん、知ってる 」
今日も白井家の姫君は、婚約者を幸せそうに罵っています。
「やっぱり、我が婚約者は..... 」
「違うからね?!」
FIN.
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