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ショウ・マスト・ゴー・オン  作者: 浜田山 松
9/26

9 謎

 放送を聞いた小橋は「よし」と気合いを入れて立ち上がった。部下達へ指示を出そうとした時だった。

「犯人は拳銃を所持しており、発砲。すでに怪我人が出ている模様です」

「発砲?」

 小橋は直ぐに電話を掛けた。

「ちょっと待って下さい。それは本当に高円寺のM銀行で起きた事件なのですか?」

「はい」

 小橋は一瞬頭の中が真っ白になった。

「小橋さん、どういうことです?」

 寺脇が心配そうな顔つきで聞いてきた。

「わからん……」

「犯人の特徴は年齢性別不詳。全身黒のライダースーツ、黒いフルフェイスのヘルメットを着用。オートバイで高円寺駅から青梅街道方面に逃走した模様です」

「オートバイ? 怪我をした人は?」

「そこまではわからないです」

「了解しました。直ちに現場に向かいます」

 小橋は受話器を置いて部下達に言った。

「高円寺南口のM銀行にて本当の強盗事件発生」

 どよめきが起こった。

「犯人は拳銃を所持し、高円寺駅から青梅街道方面に逃走した模様。俺と寺脇は銀行へ向かうから、他の者はその男の足取りを追ってくれ」

 一同現場に向かった。

「小橋さん……」

 楽天的な寺脇だがさすがに神妙な面持ちだった。小橋は寺脇の肩に手を置いて一つ大きく息を吐いた。

「大丈夫だ。とにかく急ごう」

 二人は走り出した。

「劇団の人達は平気ですかね」

「ああ、本当それだけが心配だ……」

 発砲したのは当然、浩次達ではない。だとするとおそらくその場に居合わせていた浩次達が一番危険な状態であることは間違いない。

 ――最悪の状況だけは免れて欲しい。

 そう願い小橋はパトカーに乗った。


 小橋が銀行に到着した時、すでにかなりの数の野次馬がおり、それを派出所の警官が整理していた。小橋は警官に一礼し中へ入った。2重ドアの中にはまだ血痕が残っていた。

 中に入ると銀行内は騒然としていた。このような現場は小橋も初めてだった。演習ということで従業員達も軽い気持ちでいたのだろう。そこへ本物が現れた。緊張感の振り幅はより以上だっただろう。

 近くにいた女性行員を捕まえて小橋を尋ねた。

「支店長は?」

「先程金庫室の方へ行きました。呼んで参ります」

「ちょっと、待って」

 行こうとするとする女性行員を小橋は呼び止めて辺りに裕子がいないのを確認して尋ねた。

「広瀬さんは?」

「支店長と一緒だと思います」

「だったら一緒に呼んで来てください」

「かしこまりました」

 しばらくして佐野と裕子がやってきた。

「いったい何があったのですか?」

「どうも別の強盗とかち合ってしまったようで…… 私よりも広瀬の方が詳しいので彼女に聞いて下さい」

 佐野が言った。

「はあ?」

 小橋は次の言葉を強引に飲み込んだ。出てくる言葉は絶対に佐野を罵る言葉だったからだ。上司が発する言葉とは思えない。状況を全て把握する位の時間は十分に有っただろう。このような大事件で情報の共有がなされていないとは。全く無能の上司だ。

 小橋が裕子を見ると彼女はかなり動揺しているようだ。目の焦点は合っていなく、唇も乾き、顔色も悪かった。目の前で人が撃たれたのだから、無理もない。しかも知人な訳だし。

 ――このような状態の彼女を話させるのか!

 佐野を見た。しかし佐野は視線をそらした。

 怒りを通り越して呆れてしまった。仕方なく小橋は裕子に尋ねた。

「怪我人が出たと聞きましたが?」

「浩次君ではない方が……」

 裕子は下を向いたままで言った。

「明か……」

 小橋の一番恐れていた事になってしまった。

「怪我の状態って、わかりますか?」

「右肩を撃たれたようです。意識はありました」

「そうですか……」

 ――それでも最悪の事態は間逃れたのだろうか?

「それで浩次達は?」

 小橋は辺りを見渡しながら言った。

「パトカーに乗っていきましたけど」

「パトカー? 救急車ではなくて?」

 小橋はメモの手を止めた。

「はい。怪我をした方を病院へ連れて行くと」

「ちょっと待ってください。自分達のパトカーがここへ一番早く到着したのです」

「え?」

「誰だ? 寺脇外の警官に聞いて来い」

「了解」

 寺脇は外へ行った。

「では犯人はどのような奴でしたか?」

「2人の陰であまり姿は見えなかったのですが、全身黒のライダースーツで黒いフルフェイスのヘルメットを被っていました」

「逃亡の方角とかわかります?」

「いえ、オートバイで直ぐに居なくなったもので……」

「そうですか……」

「でももう1人の犯人役の方が追いかけたようです」

「えっ、ちょっと待って、犯人役は2人のはずです」

「はい。私もそう聞いてました。でも入ってきたのは3人で、浩次君が『追いかけろ!』と言って、白いワゴン車が追いかけていきましたけど」

「劇団の車だ。ではその追いかけた者の名前はわかりませんか?」

「そこまでは……」

 裕子の目には涙が貯まっていた。

「すいません……」

 落ち着かないといけないのは自分の方だ。裕子は首を横に振った。彼女を責めているつもりはなかったが、知らず知らずのうちに口調が強くなってしまった。

「ちょっと小橋さん」

 佐野が話しかけてきた。今まで傍観者を貫いていた者がなぜここでしゃしゃり出る。小橋は腹に据えかね、注意しようと思ったとき、佐野は小橋の言葉を封じ込むように手を前に出した。おそらく彼にとっては格好付けのポーズだろうが、言葉を遮られた小橋は不快感以外何もない。

「聞いてください。犯人が持っていったものは本物のお金なのです」

「はぁ?」

 小橋は何を言っているのか瞬時に理解出来なかった。

「この広瀬が間違って入れてしまったのですよ」

「本当ですか?」

 小橋は裕子を見た。裕子は黙って頷いた。その瞬間貯まっていた涙が落ちた。

 そこへ寺脇が帰ってきた。

「彼らも顔までは見てないそうです」

「そうか……」


 ――明の容態は? そして今どこに?


 ――拳銃を発砲したライダースーツの人物は?


 ――浩次と明を連れて行った警察は誰だ?


 ――3人目劇団員は誰?


 ――偽札ではなく本物?


 現場に来てからの津波のように押し寄せてきた謎。小橋は困惑するばかりだった。


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