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ショウ・マスト・ゴー・オン  作者: 浜田山 松
2/26

2 銀行

 時計の針が2時を差した瞬間に裕子の人生が変わる。


 裕子は時計をチラ見する回数が知らず知らずのうちに増えていた。

 午後2時まであとわずか。

客数は少なかったが今日の裕子は余裕がなかった。しかし銀行のカウンター業務は途切れることがない。業務を普通にこなしているように見せるので必死だった。

 裕子は30分位前から正直手が震えだしていた。その不安を出してはいけないといつもより声を張った。隣のカウンターの弥生が気付いてないか冷や冷やものだ。

 浩次達がこの銀行を襲いに来る。裕子も一役かっていた。なのにこの精神状態。しかし他の人に絶対に悟られてはいけない。

 浩次は高校時代の同級生。密かに恋心を寄せていた。でも卒業してからは10年以上全く会うことはなかった。

 1ヶ月前運命の再会。

 そして今日の共演。


 ――これで自分は全く違う自分に生まれ変われる。


 今日が昨日でも明日でも変わらない日常。それを打破してくれるのがこの計画だと信じている。

 金庫へ行って現金をバックに詰めるのが裕子の役。

 激しく鼓動を打つ心臓。その音は弥生にまで届いているのではないかと思うほどだった。そんなことを考えていると弥生と目が合ってしまった。緊張を顔に出さないように笑顔で返したつもりだったが、明らかに顔が引きつっているのが自分でもわかった。普段使っていない顔面の筋肉を使ってしまっていた。彼女の頭の中に浮かんだ?マークがはっきり見て取れた。


 午後2時。作戦開始。


 入口を見ると二つの黒い影が二重になったドアの向こうで一瞬だけ見えてすぐに消えた。

 

 裕子は思わずカウンターから身を乗り出した。

 

 確かに2人の影の後ろにもう1人の影が見えたのであった。打ち合わせでは2人のはずだった。浩次と劇団の後輩の明。

 一拍置いてからその黒い影達は銀行の中に突入して来た。先に2人が入ってきた。浩次達だろう。


そしてもう1人の影も浩次達に続いて入ってきた。


帽子にサングラスとマスク。表情はわからないが男性であることは間違いない。先に入ってきた2人は全身黒ずくめである。打ち合わせ通りの格好だ。それに対して紺に腕の部分が白のスタジアムジャンパーにジーンズと明らかに違う。果たして仲間なのかそれともたまたま入ってきた客なのか。でもその行動からやはり客とは考えられない。浩次達の仲間であろう。


 ――作戦変更?

 ――聞いていない。

 ――こんな大事なことを?

 ――あり得ない。


 一つの不安がやがて混乱という大きな津波となって裕子に襲いかかってきた。

「動くな!」

 黒ずくめの男の1人が言った。それは声からして浩次ではない。明だ。気になるスタジアムジャンパーの男は入り口付近に立っていた。

 素早い動きで明がカウンターの上に飛び乗った。目まぐるしく変わる状況についていけない。

「お前ら動くんじゃねぇ」

 明はカウンターの上を走った。端まで行くと客を威嚇し、カウンター内に飛び降りた。

「うっ」

 呻き声に振り返るともう1人の男が弥生を羽交い絞めにして拳銃を突き付け言った。

「お前ら変な動きをしたら、こいつの命は無いぞ」

 浩次だった。だけどとてもあの浩次とは思えないほどの変貌振りだった。浩次は弥生の首に手を回して強引に立たせた。弥生の顔から血の気が引いていくのがわかった。

 ――違う。あの浩次君であるはずがない。絶対に違う。

 裕子の思い描く浩次像と出現した男とのあまりにかけ離れたギャップ。

 裕子は本能的に目の前の男を拒絶した。

 浩次は裕子に向けてスポーツバック投げた。それが裕子の肩口に当たった。

「これに現金を入れてこい!」

 体はもう拒否反応を示して動こうとしない。

「……違う」

 裕子の口から思わず出た言葉。作戦より変貌した浩次に拒絶反応を示している。

 ――こんなはずじゃない。

「もたもたするな!」

 浩次が裕子のイスに蹴りを入れた。裕子は勢いで投げ出された。咄嗟に裕子は浩次を睨み付けた。

「何見てるんだ! 早くしろ!」

 その迫力は拒絶より恐怖が勝った。裕子はスポーツバックを手に金庫に向かっていた。

 何とも言えない敗北感を胸に。



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