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太陽のオトシゴ  作者: 南多 鏡
第一部 バースデーエッグ
4/22

第四章 友達の条件

   友達/1


 夜中の校舎侵入。僕と正詠、遥香、日代はそりゃもうこっぴどく叱られた。

 前代未聞、非常識、校則違反、と生徒指導の峰山みねやまと担任の小玉こだまは鼻息荒く僕らに捲し立てる。

 特に日代への当たりは強かった。


「日代! お前はいつも問題ばかり起こしおって! もう貴様は停学では生温い! 退学だ退学!」


 はっきりと口にされたことで、日代はぎろりと生徒指導を睨み付けた。


「はっ。ぴーちくぱーちく鳴くことだけは大人ってのは一流だよな」


 正詠が大きなため息をついた。

 正詠が言いたいことはわかる。これじゃあ逆効果だ。


「なんだと!」


 生徒指導は机を叩く。

 それに対抗するように日代は立ち上がり、パイプ椅子を蹴っ飛ばした。


「やんのかこらぁ!」


 あぁ、もうなんか滅茶苦茶だ。これじゃあ僕ら停学どころじゃないかもしれない。


「まぁまぁ。落ち着いて」


 ずっと無言だった校長が、二人に優しく声をかけた。

 遥香がおどおどとしながらも、日代のパイプ椅子を取ってきた。それを見た日代が「わりぃ」と小声で遥香に言った。


「君たちも今日は災難だったねぇ」


 校長は柔和な顔を浮かべながら、話し始めた。


「夜に連絡があったんだよ。誰かが校舎に忍び込んだのを見たっていうね。それで私と、峰山先生、小玉先生が丁度手が空いてたんで見に来たんだよ」


 校長は、はっはっはっと笑った。


「いやぁまさか小玉先生のクラスの子達が揃い踏みとはね」

「お恥ずかしい限りで……」


 小玉は大きくため息をついた。


「で、君たちは何をしていたのかな?」


 校長の目は、僕らを非難しているようには見えなかった。

 僕ら四人は互いを見た。そして僕が頷くと、三人も頷いた。


「その……平和島の、平和島透子の相棒を探してたんです」

「平和島透子さんは、君たちの友達かね?」

「えっと、僕らのクラスメイトで、遥香……那須遥香の友達で、日代蓮の幼馴染みです」


 遥香はうんうんと頷き、日代はそっぽを向く。


「確か、電子遭難していたね、平和島さんの相棒は」


 校長は小玉を見ると、小玉は首を縦に振った。


「電子遭難した相棒が見つかった前例はないと知っているのかい?」

「知って……いや、あの。高遠正詠が調べて知ってました。でも完全絶対座標があれば、助けられるかもしれないからと」

「見つかったのかな?」


 校長の声は変わらず穏やかだ。


「見つかりました」


 それに僕ははっきりと答えた。


「ほぅ……嘘ではないね?」

「はい」


 校長は体を背もたれに預けて細く息を吐いた。


「校長先生! 電子遭難なんてのは子供の力でなんとかなるものでは……!」

「しかし彼らは見つかったと言っていますよ、峰山先生」

「嘘に決まっています!」


 その一言を聞いて正詠が咳払いをする。


「峰山先生。正確には電子遭難ではありません。相棒強盗でした」


 正詠の言葉に、大人三人の視線が一気に彼に集まった。


「ロビン、撮ったスクリーンショットを出してくれ」


 ロビンが現れて、スクリーンショットを三人に見せる。

 そのスクリーンショットには、あの黒い化け物とそれに捕まっている平和島の相棒が写っていた。


「これは……」


 小玉はそれを凝視する。


「合成には見えないねぇ」


 校長の声は変わらず穏やかで、うんうんと二度頷いた。


「まぁ相棒を介した画像改竄とかは不可能だし、確かだろうねぇ。ね、峰山先生、小玉先生」


 にっこりと微笑む校長を見て、僕は胸を撫で下ろした。


「友達を助けようとするのは良いことだ。ただやり方が少し悪かったね。ちゃんと申請を出せばここは使えたというのに」


 校長の一言に、日代が答える。


「けっ。どうせ許可しねぇだろうが。相棒をもらったばかりの俺達がフルダイブしたいと言ってもよ」


 ノクトが日代の肩に座りながら、校長を睨み付けていた。


「日代くん、確かに君の言う通りだね。おそらく許可しなかったろう」


 校長の瞳はどこか悲しげで、切なそうだった。


「でもね、だからといって規則を破って良いと私は言わないよ。規則は君たちを守るためにもあるのだからね。慣れないフルダイブでは情報過多によって情報過敏性発作を引き起こす子達もいる。あれは最悪脳細胞の死滅も引き起こし、重度の障害を残す可能性もある」


 校長は日代の目をしっかりと見つめて、言葉を続ける。


「そんなことを起こさないためにバースデーエッグの授業があり、我々教師がいる」


 校長は立ち上がる。


「いいかい、幼馴染みを、友達を守りたいのなら規則の中で戦う術を身に付けなさい。規則外では確かに幅は広がるが、凶悪な敵だって多い。今回の相棒強盗もそうだろう? 規則内ならば、我々が全力で君たちを守り、武器にもなれる。というわけで、だ。明日、平和島さんの相棒が戻っていれば反省文のみ。戻っていなければ全員三日の自宅謹慎。先生方もこれでいいかね?」


 教師二人の肩を叩くと、教師二人は「仕方ありませんな」、「校長先生がそう仰るのなら」と口にして立ち上がった。


「さぁ、四人とも。今日は帰りなさい」


 校長の顔は変わらず穏やかだった。

 校舎を出てすぐに、日代は口を開いた。


「付き合わせて悪かった。それと、あ、あ、あ……」


 日代は顔を真っ赤にして急に吃り始める。


「あり、ありがと、な」


 僕らは目をぱちくりさせて日代を見た。


「今度、埋め合わせ、する」


 そこまで言うと日代は急に走り出して、すぐに見えなくなった。


「意外と可愛らしいところあるんだね、日代って」


 遥香は微笑みを浮かべている。


「礼を言うのは俺たちの方なんだけどな」


 ロビンのように正詠は肩を竦める。


「いやー男のツンデレはないと思ったけど、これは中々いいねぇ」


 やっぱり、あいつは良い奴なんだろうなぁ。


「さて、ここで遥香と太陽に悲報がある」

「なーに?」

「なんだよ?」

「終バスの時間はとっくに過ぎている」

「マジっすかぁー」


 僕らは肩を落として、決して短いとは言えない帰路を歩み始めた。



   友達/2



 昨日自宅に帰ってすぐに寝たものの、疲れが取れることはなかった。朝から数学の小テスト、英語の小テスト。確実にこの学校は僕を殺しにかかってきている。

 もうやめて! とっくに僕の体力はゼロよ!


「しんどいぉ……」

「あの、天広くん……」

「んぁ……おう平和島か」

「その……昨日セレナが帰ってきて……」


 平和島の肩には、あの時見た相棒バディがいた。

 彼女の相棒セレナは長い青い髪と気の強そうな碧色の瞳。髪色と同じ青色のドレスを着ている。

 そして平和島は、髪は毛先が丸まっている黒髪ロング。眼鏡はバレル型。顔立ちは少し丸みを帯びているため、綺麗というよりは可愛らしい。そして、体つきがもうなんていうか……狂暴ですね。高校二年生にしては発達しすぎですね。特にその、胸囲が驚異的ですね。これは座布団一枚いただけますね。


「それで、その……セレナが教えてくれて」


 セレナはいつの間にか僕の机に移動していて、セレナと手を繋いでくるくると回っていた。

 いやぁ、可愛いなぁ。


「助けてくれたのが天広くんと高遠くんと遥香ちゃんだって聞いて……」

「気にしなくていいぞー。それよりも、僕は昼を食って眠い」

「じゃあ、また後で来るね」

「おーう。おやすみー」

「ふふふ。おやすみ、天広くん」


 僅かな睡眠時間を貪るために、僕は眠りについた。


   ◇


 午後からはヒアリング英語とバースデーエッグの授業。そしてようやっと放課後が訪れる。

 ただでさえ体力が尽きていたのに、このオーバーキルはひどすぎる。殺すどころではなく更に死体蹴りをしてきているようだった。


「やっぱしんどいぉ……」


 ぴこん。


「んーなんだよテラス」


 テラスは疲れ解消法のサイトを表示していた。


「そういうことじゃねぇから」


 いつもよりも冷たい態度を取ってみると、テラスは口を大きく広げわなわなと震え出した。そして瞬時に白装束に着替え、短刀を手にしていた。


「もうそういうのいいからー」


 がっくりと肩を落とす僕を、遥香は引っ叩いた。


「あんたねぇ、相棒に八つ当たりするなっての」

「うるせーうるせー。本当に疲れたんだってばよ」

「まぁ気持ちはわかる。さながら弓道で勝負の決まる一本を託された感じに似た疲れだった」

「私は相手側マッチポイントでのサーブの気分だったわぁ」


 二人が部活で今の心理状態を例えていたが、僕にはいまいちぴんと来ない。


「テスト勉強で試験範囲間違えた感じの疲労感」


 ぼそりと呟くと、「それな」と二人は同時に同意した。


「お前ら二人今日は部活出んの?」


 そんな僕の問いかけに、二人は大きくため息をついた。


「さすがに休むと先輩たちに文句言われるし」

「左に同じく」


 やっぱ二人とも期待されてるんだよな。僕はとてもではないがこういったプレッシャーは耐えられない。


「んじゃ僕はお先にー」


 鞄に教科書を詰め込んで、スクールバッグを背負って立ち上がると、平和島が遥香の影に隠れていた。


「え、いたの?」


 あまりの影の薄さに言葉が漏れた。平和島は顔を真っ赤にしながら俯いている。


「なしたん、平和島? 昼前にも来てたけど」


 彼女の顔を下から覗き込む。


「きゃっ」


 遥香なら絶体に発さない声が聞こえた。そういや最近変態妹やらゴリラ女としかつるんでないから、こういう女の子っぽい反応はなんか新鮮だな。


「何気持ち悪い顔してんのよ、バカ」


 ぱしりと遥香がまた僕の頭を引っ叩く。


「お前、人の頭を気安く叩くなっての。これ以上馬鹿になったらテラスのレベル下がっちまうだろうが」


 ぴこん。


「ぷっ」


 遥香が吹き出す。テラスが表示したのは、科学的根拠なし、だった。


「かーっ! これだからナマコは!」


 テラスはまた頬を膨らませて抗議する顔をしている。


「ふふ、天広くんたら……」

「お、ようやっと笑ったか」


 彼女の笑顔に、こちらも笑顔を返す。


「透子がお礼も兼ねて一緒に帰りたいんだってさ」


 遥香が平和島の後ろに回って、彼女の両肩に手を置いた。


「私の友達に変なことしないでよね、セクハラ太陽」

「お前のダチに手を出すほど飢えちゃいねぇよ、狂犬」

「狂犬っていうな!」


 狂犬そのまんまじゃん。こえー。


「そんじゃ帰ろうぜ、平和島。バス? それとも途中の喫茶店まで歩く?」

「えっと……じゃあ途中の喫茶店まで歩く」

「おっけー。じゃあな運動部のお二人さん」


 ひらひらと手を振って、平和島と一緒に教室を出た。何人かにはからかわれたが、いつものことなので適当にあしらう。

 校舎を出てすぐの長い階段を下りると、ようやっと平和島は自分から話しかけてきた。


「あの、セレナのこと本当にありがと」

「気にすんなって! あ、お礼っておごりって認識であってるよな?」

「うん。何でもご馳走するよ」


 わかってたけど、おっぱいではないのですね、そうですよね。


「ホトホトラビットで良いよな?」

「うん」


 はにかみながら答える平和島の顔にどきりとした。とりあえず頬を掻いて誤魔化した。


「どうしたの?」


 両手を後ろにやってこちらの顔をじっと見つめてくる。

 いやあの、視線というか、その……あなたの胸暴きょうぼうなおっぱいがね、その体勢だと気になるんですよ。


「あーっと、何でもないわけでもないんだけど、えーっと……あーっと、そうだ、なんでセレナって名前にしたんだ?」

「あ、着いた」


 バッドタイミング!


「中で話すね、セレナのことについて」

「おう……」


 ドアを押すとからんと鐘が鳴った。どうやらドア上部に付けられている鐘からのようだが、音が前に来たときよりも上品だった。


「お、いらっしゃい透子ちゃん」


 灰色の髪をオールバックにしたごついおっちゃんが、給仕の格好をしてカウンターの奥にいた。

 見ようによってはその筋の道の人に見えなくもないのが、ここ『ホトホトラビット』の店長だ。


「なんだ、太陽坊やも一緒か。珍しいじゃねぇか。遂に正詠や遥香にに愛そう尽かされたか」

「違うっすよ。今日はあいつら部活です」


 このホトホトラビットは陽光高校の生徒が良く通う喫茶店だ。とは言っても、本当に一部の生徒しか通わない。高校の最寄りのバス停からは歩いて十五分、十五分バスに乗ると電車などが到着する駅前に着くため、多くの学生はそちらに流れる。ちなみに我が家は高校まで行くバスが出てるので、通学が非常に楽だ。そうです、自慢です。


「私はダージリンとマンゴータルトで。天広くんは?」

「んじゃ同じので」

「おじさん、二つで」

「あいよ」


 おっちゃんがこっちを見た。

 会計は勿論お前だよな、男だろ?

 へい、おっちゃん。何でもかんでも男が出すと勘違いしちゃいけないぜ。今日は平和島が出してくれるんだよ。

 あぁ? テメーホントに男か。

 今日はそういう日なの!

 そんな目線でのやり取りを終えると、おっちゃんはにっこりと平和島に笑みを向けた。


「透子ちゃんが出すんだったら少しサービスしてやるよ。千円ぴったりでいいぜ」

「ありがとう、おじさん!」


 なんか、やたら親しいな。

 平和島が紅茶とタルトを盆に持ったので、僕がそれを受け取った。紳士的に、だ。


「今日は天気良いしテラスに行こ?」


 ぴぴ。

 平和島の言葉にテラスが反応する。


「え?」

「あぁわり。僕の相棒の名前がテラスだから反応したみたいだ」

「そうなんだ、ふふ。あとでゆっくり見せてね」

「おうよ」


 テラスは人気席だが、高校からの移動距離のこともあり学生はほとんどおらず、また近くの奥様方もこの時間帯は学生がちらほらと来るのであまり来ない。

 ちなみに休日は結構賑わっている。何度か休みに遊びに来たが、行列が出来ていて諦めたほどだ。

 席に着くと、とりあえず二人とも紅茶が蒸れるのを無言で待って、お互いのタイミングでカップに注いだ。紅茶に詳しくはないが、ここの店の紅茶の匂いは凄い好きだ。


「あ、そうだ」


 席を立って、カウンターに向かった。


「おっちゃん、あのミルクとか入れる小さいやつ、空で貸してくれない?」

「ん? ミルクピッチャーのことだよな。まぁ別に良いけどよ」


 おっちゃんからミルクピッチャーなるものを借りてまた席に座る。


「どうしたの?」

「お供えもんだよ」


 ミルクピッチャーにスプーンで紅茶を移した。


「テラス、紅茶だぞ」


 ぴ。と短い音を立てるとテラスが現れて、ミルクピッチャーを見てきらきらと瞳を輝かせた。


「ダージリンて言うんだぞ。今度紅茶について調べといてくれな」


 テラスは満面の笑みで頷いた。


「天広くん、意外と可愛いところあるんだね」

「意外は余計だっつーの」


 僕と平和島は紅茶を口に運んだ。

 先程とはまた違う穏やかな沈黙が流れた。

 いつの間にか平和島のセレナも現れて、二人して紅茶をしげしげと見つめている。二人の相棒は女の子同士で気が合ったのかくすくすと笑いあった。会話が聞けたら面白いなとも思ったが、聞こえたら聞こえたで鬱陶しいだろうなとも思った。


「そういやなんでセレナって言うんだ?」

「あ。話すって言ってたの忘れてた」


 苦笑いしながら、平和島は紅茶を一口飲んだ。


「昔話のお姫様の名前なの」

「へぇ……どんな話?」


 少なくとも僕が知っている昔話に、セレナというお姫様が出てくるものは記憶になかった。


「昔話っていってもね、創作のお姫様なの」


 平和島はセレナの頭を撫でるように指を動かした。

 セレナは気持ち良さそうにしている。その様子を見たテラスは僕を見た。同じことを求めているらしい。さすがに恥ずかしいのでやらないが。


「良かったら教えてくれよ」

「えっとね……お姫様と騎士様のお話でね」


 平和島の表情は懐かしげで、どこか……悲しそうだった。


「お姫様はね、セレナーデって名前で、いつも泣いてるの。誰も彼女を彼女として見てくれなくて。誰も彼もがお姫様としか見てくれないことに悲しんで泣いてるの」


 平和島はセレナに悲しげな微笑みを向けた。セレナは首を傾げるだけだ。


「そこにね、ノクターンって騎士が現れるんだぁ……」


 彼女の頬が僅かに紅潮する。頬杖をついて、僕は表情変化が激しい平和島を楽しむ。


「でね、ノクターンがね、セレナって名前を付けるの。あだ名なんだろうね。セレナーデはそれが嬉しくて嬉しくて、また涙を流すの。きっと、自分だけの名前が嬉しかったんだと思う。それを見たノクターンがね、ふふ」


 彼女は思い出し笑いをして。


「あなたに涙は似合わない。泣かないでくれるなら、僕はあなただけの騎士になろう。だから僕の名前を、君だけが知る名前にして渡そう。受け取っておくれって」


 平和島はタルトを小さく刻んで口に運んだ。


「騎士がセレナに教えた名前って?」

「教えてくれなかったの」


 彼女はふぅ、と小さくため息をついた。


「名前を知って良いのはセレナだけなんだって」


 そして平和島はまたセレナの頭を撫でた。


「久しぶりにいっぱい話しちゃった」


 両手の指を合わせながら照れ臭そうに言う平和島に心が和む。

 きっと照れ屋なだけで根は話好きなんだろう。遥香と話しているときはこんな感じなのかもしれない。


「それは誰が考えた話なんだ?」

「幼馴染みが……」


 からんと、あの上品な音が鳴った。


「おー蓮。キッチン入ってくれよ」

「嫌だっつーの。土日だけだって言ったろ、手伝うのは」


 少し前に聞いた覚えがある声に振り向いた。

 するとその声の持ち主と目が合った。


「げっ」


 悪態をついたのは、日代だった。

 日代の顔は明らかに不機嫌だった。彼はつかつかとこちらに歩み寄り、「なんでここにいんだよ?」とドスを聞かせた声で聞いてきた。


「平和島にデートに誘われたんだよ」

「なに言って! 違うよ、蓮ちゃ……! あ、ちがっ、違うの、日代くん! 天広くんにお昼の件でお礼がしたくて、それで!」


 わたわたとこちらを見てはあちらを見る平和島は、焦っているテラスに見えた。

 ぴろりん。

 テラスのメッセージ音だ。こういうときは大体的外れな画面を表示すると言うことは、短い付き合いで学習済みだ。

 テラスが表示した画面には大きく(最悪なことにこれは最大のポイントだった)、『童貞卒業、おめ!』と表示されていた。

 大きく最悪な言葉が空間に浮かび上がっている。

 更に最悪なのは、このテラスという大馬鹿者は悪気がないのだ。心底嬉しそうに紙吹雪などを撒いている。それを見ているセレナは完全にドン引きしていた。その顔のまま僕を見る。

 AIにこんな顔されるのは心外だが、問題はそこではない。


「あ、あははー。テラスさんたら、冗談が過ぎることですわよー。ねぇ、平和島さん?」


 ギギギとぎこちなく首を動かすと、平和島の顔は真っ赤に染まっていた。

 更にギギギと首を動かして日代に向けた。

 目と目が合う。恋に落ちるようなことはなかった。

 殺意。そう、殺意だ。まさか齢十六にして殺意というものを向けられる日が来るとは思いもしなんだ。


「ぶっ殺すっ!」


 日代の拳が振り上がった。

 僕には見えなかったが、テラスはきっとまだ能天気に紙吹雪を撒いてるんだろうなと、恐怖の中考えた。

 途中まで上がった拳を掴み上げたのは店長だった。


「やめろっての、蓮」

「離せ親父!」


 親父、だと!


「相棒がなんか勘違いしただけだろ。太陽の坊やが言った訳じゃねぇし、太陽の坊やにそんな気はねぇよ」

「うるせぇ!」

「うるせぇじゃねぇこの馬鹿息子が」


 おっちゃんの鉄拳が日代の頭に降りた。

 痛々しい音がして、その場に日代がうずくまる。

 あれは超痛いだろうなぁ。


「わりぃなぁ、太陽の坊や」


 鉄拳を開いて、わっしゃわっしゃと頭を乱暴に撫でられた。


「ははっ、大丈夫っす……」


 いや、もうマジでしょんべんちびるかと思ったけど。おっちゃんと日代の気迫で。


「ほら。さっさと戻れ馬鹿息子」


 襟元を掴んで、日代親子は店の奥へと消えていった。


「マジで、マジでビビった……」


 胸を撫で下ろしてテーブルの上を見ると、テラスがセレナの背中に隠れてしゃがんでいた。さながら先程の日代のようだ。


「お前のせいだぞ、テラス。まったく……」


 僕の声に反応して、涙目で土下座をするテラス。


「わりぃな、平和島。全然そういうつもりなんてないから、マジで」


 平和島にも頭を下げた。


「あ、う、うん。大丈夫。私もごめん、疑って」


 やっぱり疑われてしまったんですね。


「いやしかし、こいつが来てからこんなんばっかりだ」


 大きくため息をついて、テラスを指でつつく仕草をすると、テラスは後ろに倒れた。


「ふふ……でも天広くんとテラスちゃんて、なんかお似合いかも」


 テラスをセレナが手を差し出して起き上がらせる。


「……そういや、あの話って幼馴染みが……」

「うん。蓮ちゃ、あ、日代くんがね、小さいときに作ってくれたの」

「へぇ。やっぱ良い奴じゃん、あいつ」


 人の根っこってのはそんなに変わらないはずだし、今度遊びに誘ってみるかな。


「あ、見て見て」


 平和島は相棒を見ていたので僕も見た。

 テラスが何かをセレナに話していた。


「何してんだ、こいつ」


 セレナはこくこくと頷いて、親指を立てた。それを真似するようにテラスも親指を立てる

 そして二人はその場に座る。


「相棒って可愛いよねぇ。勉強も一生懸命に教えてくれるし」


 平和島の顔は相棒二人を見て緩んでいる。


「あ、お手玉だ!」

「服装通り古臭い趣味してやがんなぁ、テラスの奴」


 テラスはどこから出したのかはわからないが、お手玉で遊び始めていた。

 それをセレナは楽しそうに見つめ、やがてセレナも見よう見まねでお手玉を始めた。


「天広くんが教えたの?」

「いや教えてないけど」

「ふーん。何か調べものしてたときに見つけたのかな? AIって凄いね」

「お手玉ぐらい僕だってできるぞ。その肝心のお手玉がないからできないけど、歌は歌える」

「そうなの?」

「おう」


 お手玉がまたテラスの手に戻ったタイミングで、僕は歌を小さく口ずさんだ。


「あんたがた どこさ ひごさ ひごどこさ くまもとさ くまもと どこさ  せんばさ せんばやまには たぬきが おってさ それをりょうしが てっぽで うってさ にてさ やいてさ くってさ それを このはで ちょっと かくす」


 笑顔を浮かべながら、テラスはそのリズムでお手玉を弾ませる。


「な?」

「すごーい。子供の頃遥香ちゃんとやったの?」

「いや、あいつは蹴ったり投げたりする専門だから」


 二人で小さく笑う。


「覚えてないけどできるんだよなぁ」

「ふーん」


 平和島のお礼は、テラスの新しい発見の一つになった。

 今度お礼のお返しをしなければいけないかななんて、テラスを見ながらぼんやりと考えた。

 少しホトホトラビットで平和島とのんびりしていると、私服に着替えた日代がやって来た。日代は何も言わずに椅子に座った。


「おいおい日代ー……いや、〝ノクターン〟さぁん。お姫様を守るのも大変ですねー」


 はっはっはっと笑いながら紅茶を一口飲んだ。


「おまっ、何で知ってるんだ!」

「プリンセス平和島からお聞きしたのさ!」


 日代は平和島を睨み付けた。


「えっと、その、ごめんね」

「お前はなんで変なところで口が軽いんだ……ったく」


 ため息をついて、日代は僕のカップに手を伸ばした。


「やらないぞ。これは僕がプリンセス平和島から貰った紅茶だ」

「ケチくせぇな」


 日代は席を立って数分して戻ってきた。その手にはホトホトラビットで超人気のあるチョコレートケーキを三切れと紅茶のポッドを盆に乗せて戻ってきた。


「いいか、これは昨日の礼だ。テメーには返したからな」


 慣れた手つきでケーキを僕と平和島の前に置いた。


「ありがと、蓮ちゃん」

「そう呼ぶなって言ってるだろ」


 何だこれは。ふざけやがって、この物語はなぁ幼馴染がチュッチュラブラブする話ではないんだよこの野郎。


「お前ら付き合ってんの?」

「ちがわボケ!」


 日代らしからぬ熱いツッコミ。キャラが少しぶれている。


「とりあえず、これは昨日言っていた礼だ。受け取っておけ」

「僕は礼は受け取っておく主義だ」


 チョコレートケーキを口に運ぶ。しっかりとした甘みがあるのだが、キレのある苦みがその甘みをより引き立てる。しかしそのケーキは口に入るとほろりと溶ける。控えめに言って最高の味だ。素晴らしい。少し高いのが玉に瑕だ。


「これって手作りなんだっけ」

「親父の自信作だ」


 紅茶を飲む日代の姿はどこか気品がある。幼い頃から紅茶を多士なんでいると不良(仮)でも気品が出るのか。


「っていうかお前よ、反省文はどうしたんだ。高遠と那須は部活前に書いていたぞ」


 反省文。そうでしたな。確か昨日校長に条件を出されましたな。平和島の相棒が戻っていれば反省文のみ。戻っていなければ自宅謹慎と。


「今から戻っても……間に合うかなぁ」


 カップを持つ手が震える。僕、この年で人生踏み外したくないなぁ……。


「さっさと戻れ馬鹿」

「うん。戻る。教えてくれてありがとな、日代」


 バッグを持つと、テラスがまた何かを表示する。


「お前さぁ、僕のことを馬鹿にしてるのか?」


 彼女が表示したのは、『気持ちが伝わる反省文の書き方』だった。

 テラスは首を傾げた。


「今日サイダーやろうと思ったけど、やっぱ無しだな」


 大きく口を広げたテラスは、更に『反省文完璧マスター!』、『大丈夫! 反省文は完璧だよ!』、『サルでもわかる反省文』と次々と表示する。こいつは何もわかっていない。


「とにかくサイダーは今日は無いからな」


 指で突く仕草をすると、テラスは泣き出した。


「天広くん、もっと優しくしてあげないと」

「いいの。こういう教育も必要」


 泣きながらテラスは僕の後ろについてきた。



   友達/2/間



 残された平和島と日代は、太陽の背中を見つめていた。


「あいつ落ち着きねぇなぁ」


 日代は紅茶を飲む。


「ふふ……蓮ちゃん嬉しそうだね」

「だからそう呼ぶなって……」

「ねぇ。ノクターンがセレナーデに教えた名前ってなぁに?」


 平和島はケーキを食べた。

 少しの沈黙が訪れたが、平和島のセレナが日代の相棒を見つけると、その沈黙はすぐに姿を消した。


「あれ……どうしたの、セレナ?」


 セレナは瞳に涙を浮かべながら、日代の相棒ノクトを見つめている。


「蓮ちゃんの相棒が気になるの?」


 平和島の言葉を聞いて、セレナは何度も頷きながらノクトを指を差す。


「ノクト……」


 日代が口を開く。


「え……?」

「こいつはノクトだ」


 ノクトは日代の肩から降りて、セレナの前で片膝を付く。


「それと……ノクターンが教えた名前はセレナーデしか知らない。彼ら以外は知っちゃいけないんだ。それがセレナーデ姫とノクターン卿との約束だからな」


 セレナはノクトを抱きしめた。

 その二人の様子を、平和島は優しく見守る。


「そう……だよね。二人だけの名前だもんね」

「だから、あの二人以外は知らなくていいんだ」

「うん……ねぇ蓮ちゃん」

「だから……」


 日代はため息をついた。


「もう一回、あの話を聞きたいな。セレナーデ姫とノクターン卿のお話」

「……今回だけだからな」


 日代は紅茶を口に運んで、昔話をまた平和島に語り始める。

 一人の悲しい姫が、心優しい騎士と出会い、心紡ぐ優しい昔話を。



   友達/3



 遅れたものの反省文の提出はなんなく終わり、僕は弓道場に遊びに来た。

 弓道場とは言っても校舎から少し離れたところにあり、設備もそこまで充実はしていない。射場は最低の五人までしか立てず、巻藁は一つしかない。

 ほとんどの一年生はゴム弓と呼ばれるものを使い、弓を持つための基本的な型を学んでいる。

 相変わらずうちの高校弓道部は人気がなく、新人も片手で数えられるほどだった。


「ちょりーっす」


 玄関前でゴム弓をしている後輩に軽く挨拶すると、新人も僕と同じく挨拶を返してくる。


「正詠いる?」

「高遠先輩なら今射場です」

「おっけーさんきゅなー」


 玄関をくぐって、弓道場に入ると空気が変わる。外の音は聞こえずに、僅かな衣擦れの音と矢を射るときの弦の音が連続的に聞こえてくる。

 靴を脱いで、静かに射場を覗いた。

 正詠は右から見て二番目に立っていた。今は弓を引き的に狙いを定めている。弦から手を離すと、弾けるような音と共に矢は的を射た。

 正詠は神棚に一礼をして、射場を後にする。


「よっ」


 僕の言葉に答えず、正詠は顎をくいっと動かした。外に出ろと言うことなのだろう。

 二人で弓道場を出ると、正詠は大きくため息をついた。


「何しに来たんだ?」

「別に。反省文書きに戻ってきて暇だったからさ」

「そういやお前書かずに帰ったな」

「あとで日代から教えてもらってさ。びっくりだよ」

「とっくに書いてたと思ったぞ。俺も遥香も」

「僕がそんなことできるわけないだろ」


 二人で軽く笑う。


「そういやお前のテラス……」

「ん?」


 いつの間にかテラスは僕の肩にいた。相変わらず泣いている。


「何で泣いてるんだ?」

「サイダーやらないって言ったら泣いた」


 ロビンが現れて、テラスの頭を撫でた。


「ロビンくん。僕の相棒を甘やかさないようにね」

「だとよ、ロビン」


 じっとりとした目でロビンは僕を見ると、 正詠の肩に戻った。


「じゃ、これ以上練習の邪魔をする気もないから、またな」

「おう。ちゃんと勉強しろよ。テラスのためにも」

「あーはいはい」


 弓道場のあとに向かったのは体育館だ。

 バレー部の練習はいつも見ていてハラハラするぐらいハードなので、少しだけ緊張する。

 体育館の重い扉を開けると、早速怒声が飛び交っていた。


「那須! しっかりリカバリーしろ!」

「はい!」

「ほらもう一本!」

「はい!」

「遅い! もっと早く動け!」

「はい!」


 どうやら遥香がかなり絞られているようだった。

 左右に激しくボールが打たれ、それを必死に追いかける遥香は、普段見慣れてる遥香とは違った。


「よし、休憩! 次の奴来い!」

「はい!」


 遥香は体育館の壁にもたれかかって、汗を吹きながらスポーツドリンクを飲む。そして頬を二度叩いて、大きく息を吐き出すと僕に気付いた。

 少し疲れている足取りで僕のもとに駆けてきた。


「どったの、太陽?」

「反省文書きに戻ったついでに、な」

「そうなんだ」

「相変わらず大変そうじゃん」

「レギュラー取るのも大変なんだよ、知ってた?」

「今のお前を見て初めてわかったよ」


 遥香の頭をぽんぽんと叩く。


「汗だくだから気持ち悪いでしょ?」

「全然。ま、頑張れよ」

「うん! じゃあね!」


 遥香はまた体育館に戻っていく。


「あいつらも頑張ってるし、僕も家に帰って勉強でもするか。テラス、手伝ってくれるだろ?」


 さっきから肩でぐずっているテラスに話しかけるが、当のテラスはぷいとそっぽを向いた。


――君の相棒は異性タイプか。異性タイプはコミュニケーションが大変だ。しっかりと信頼関係を築きなさい。AIとはいえ感情があるのだから。


 ふと、柳原の言葉が頭を過る。

 確かに、これは面倒くさい。中学に上がったばかりの愛華みたいだ。


「お前はタマゴのときからそんな感じだな」


 タマゴのときからこいつはよくそっぽ向く奴だな。


「あれ……そういや何でタマゴの時に異性タイプってわかったんだろ」


 やっぱあれかね、何個もタマゴ見てたら経験とかでわかるようになるのかな。いやいや、鶏の卵だけでオスメスわかるわけないよな。


「うわっぷ」

「む」

「あ、すんません!」


 考え事して人に当たるとか久々の経験だ。


「大丈夫か?」

「大丈夫っす、すんません」

「気を付けろよ」


 それだけ言って、その人は去っていった。


――王城おうじょう先輩じゃない?

――かっこいー!

――今年はバディタクティクス優勝狙いかな?

――あったりまえじゃーん! というか校内大会もぶっちぎりで優勝だよ!


「王城……あぁ、あれ王城おうじょう つばさ先輩だったんだな」


 どうりでガタイも良いし、何となく良い匂いがしたわけだ。男の人に良い匂いっていうと、なんか変態っっぽいな。

 ぴこん。

 足を止めてテラスを見ると、王城の画像が表示されていた。

 違う。それは城のほう。僕が言ったのは人の方。空気を読んでくれ、超高性能教育情報端末。


「なぁテラス。空気を読むって言葉、知ってる?」


 ぴこん。

 空気は吸うものです。


「お前さ、本当に超高性能教育情報端末なの?」


 ぷくーっと頬を膨らませて、さっきよりも更にそっぽを向いた。

 異性タイプはコミュニケーションが大変、ねぇ。確かにこれは本当に面倒くさい。同性だったらもっと楽にできるかな。

 そっぽを向いているテラスをじっと見ていると、テラスは片目を細く開けた。更にじーっと見つめていると、彼女はこちらに向き直って両手を腰に開けて胸を張った。


「ふむ。そうだなぁ。今日の勉強でいい仕事してくれたら、サイダーをやってもいいぞ」


 そう言った途端にテラスは装いを白装束と鉢巻を巻いた姿に変えて、手作り感満載な旗を振り始めた。

 テラスの目の前には、長文英語解読方法! 三次関数なんて怖くない! サルでもわかる化学の必勝方法! が表示されている。どれもこれも僕の苦手な科目だ。短い付き合いだが、僕の苦手科目は完璧に把握されている。こういう時だけでは超高性能教育情報端末だなと思います。


 平和島とのお茶や反省文のせいもあって、自宅に着いたのは普段よりも大分遅くなってしまった。

 既に夕飯の支度はされており、母、父、妹は食卓についていた。


「っていうかなんすか。長男帰ってきてないのに夕食を済ませようとしようとしてたんですか、この家は」


 鞄をソファに投げて自分も座った。


「長男は王様じゃないのよ、あくまでも王子様よ王子様。うちの王様はいっつも一人だけよ。ね、あなた」


 母は父を後ろから抱きしめ、頬に口づけをする。

 両親が仲睦まじいのは非常に嬉しいのだが、こういった姿を見るのは正直きつい。かなりきつい。


「母さん。今日のおかずはなんですかね」

「肉じゃがよ。でもその前にお父さんからあんたにプレゼントがあるみたい」


 再び母が父の頬に口づけする。

 ガチめに勘弁してほしいんだけど、そういうの。


「太陽。ほら」


 父はいつも通りの厳つい顔のまま、僕に結構な大きさの箱を渡してきた。箱は装飾されており、よく見るプレゼントボックスだった。リボンを解いて蓋を開ければ、ピエロのおもちゃが出てくる可能性は甚大である。とは言え、欲望に忠実な高校生天広太陽、十六歳。誕生日は二月十七日、性別は男! 罠とわかっていても頂いたものはありがたく受け取ります!


「って、何これ?」


 プレゼントボックスの中に入っていたのは、少しごついゴーグルだ。


「いいなぁ! 最新型のバディゴーグルだ!」


 愛華が身を乗り出して、それに対して目を輝かせる。


「えーっと、なにこれ?」


 再度父に尋ねたが、何も言わなかった。そのため、僕は愛華へと目線を移す。


「これだよこれ!」


 愛華がソファに戻って何かの雑誌を取って戻ってくる。


「これだってば!」


 商品紹介のページを愛華は広げていた。

 読んでみると、VRゴーグルのようだ。それは確かに父からもらったものだ。お値段、なんと十万円。

 さすが公務員である。給料が非常に安定しているな。


「ってこれ」


 愛華から雑誌を奪い取る。

 そのページには、うちの高校の名前がでかでかと載っている。


「おー……すげーな。王城先輩ってこんなに有名なんだ」


 商品紹介の隣のページには、帰る前にぶつかった王城先輩が載っていた。見出は『ようやく舞台へ陽光高校!』だった。


「え、ようやく?」

「おったの、にぃ?」

「いや。何か予想外の見出しだったから」

「あぁ。ようやく舞台へ! ってやつ?」

「そうそう。正詠に聞いたけど、これってバディタクティクスのことだよな、よく知らんけど」

「そうだよー」


 うちの高校って、バディタクティクス常勝校じゃなかったっけ?


「にぃの高校は地区予選では常勝校だけど、全国ではいつも初戦敗退なんだよ、知らなかったの?」


 おおっと、うちの高校って井の中の蛙ってやつかよ。


「ほらほら、あんたらご飯食べるよ。お父さんからもらったおもちゃはあとで確認しなさいなね」


 父は一度頷いた。

 この両親は相変わらずだなぁと、僕は思う。おそらく愛華も僕と同じ思いだろうに。

 やれやれ、とにかく軽く勉強した後にこのおもちゃの使い方でも調べるかね。



   友達/4



 いやはやしかし本当に。超高性能教育情報端末って凄いなと思う。英語、数学、化学。どれもこれも苦手なのだが、テラスが表示する勉強方法や参考の例題は非常にわかりやすく、不思議とすらすらと解ける。これが超高性能教育情報端末の本領発揮ってやつか。

 生きてきた中で、初めてここまで勉強が楽しいって思ったわ。


「って、もう十時か」


 体を伸ばしてサイダーを取りに言った。ついでというか、僕の熱烈な交渉で一つのお猪口をテラス用として頂けることになった。しかもそのお猪口はテラスのイメージにぴったりな桜の模様が入ったお猪口だ。こういうセンスはあると自分でも思える。

 部屋に戻るとテラスはそりゃあもう鬱陶しいくらいに周囲を回っていた。


「わかった、わかったから。ちゃんとやるから」


 お猪口にサイダーを注いで、父から貰ったVRゴーグルの説明書を読んでみる。

 使い方は相棒がいれば簡単にできるらしい。ペアリングすればいいだけらしいが、そもそもこいつは何のために使うのだろうか。


「えーっと、主な使い方は……セミダイブ?」


 セミダイブ。昨日のフルダイブとはまた違ったネット遊泳方法だ。

 フルダイブは全身で情報を感知するが、セミダイブは昔からよくあるネットサーフィンの派生形。フルダイブを仮想的に体験するからセミダイブだ。相棒のテラスは体はその場にあるので、平和島の相棒みたく電子遭難することはない。まぁ、正確には電子遭難ではなく強奪だったが。


「おーいテラス。セミダイブしたいから強力してくれ」


 サイダーを与えられて満足していたテラスは満面の笑みで頷いた。


「えーっと、とりあえず電源を挿して……」


 VRゴーグルを被りながらベッドに横になった。完全に視界がこのゴーグルに支配される。この感覚は学校でフルダイブしているときに似ている。


「ペアリング頼むわ」


 ぴこん。

 VRゴーグルから見えるディスプレイには了解と表示されている。

 ぴぴ。

 短い電子音が鳴ると、前見たような世界が広がる。

 おおう。セミダイブとはいえ、前回のフルダイブと似ている。全身で感じはしないものの、視覚からの情報はほぼ同じだ。


「お。テラス。お前またでっかくなったな」


 ほくほく笑顔でテラスはこちらを見た。

 うーん。なんだか不思議な感じだな。フルダイブ体験していると、これがあまりにも〝偽物〟に感じて、気持ち悪い。ロボットの〝不気味の谷〟とか、それに似ている感覚だ。フルダイブする機会なんてそうそうないし、こちらに慣れるようにしたほうがいいかもしれない。


「えーっと……あ、そうだ。王城先輩について調べ……」


――アテンション。不明なIPからのアクセスを感知。


 前の時と同じ声だ。


「あんた誰だよ。前にもテラスを使って……話しかけてきたよな」


 テラスはこちらを見つめている。昨日と同じ、〝ガラスのような瞳〟をこちらに向けて。


――妨害不可能。マスター天広 太陽。ご注意を。


 テラスらしきものは僕の言葉を無視する。すると眼前で雷が落ちて、そこから何かが現れた。


「ハック完了。エラータイプ……いや、ゴッドタイプ『テラス』を発見」


 現れたのは、真っ黒な鎧に身を包んでいる騎士だった。


――警告したはずです。次はありません、と。


 おっと。ちょっと待ってください。色々気になるんだけども、まず僕はただセミダイブというものを体感し、ついでにちょっと調べ物をしたかっただけなんです。こういう事態を一切僕は望んでいないのですが。


「落ち着きたまえ。今日は対話をしに来たのだ。ゴッドタイプ」


――あなた方との対話は求めません。失せなさい。


「その仰々しい会話方法はやめた方がいい。君の大切なマスターが混乱する」


 黒い騎士はこちらに顔を向けた。


「安心して良い。天広太陽。私は……そうだな、ノクターンという名はどうだろう? この容姿に似合っていると思うのだがね」


 ノクターン……だって? なんでこいつは知ってるんだ?


「なんで僕の友達の昔話を知ってやがるんだ!」

「あぁ大声で話すと君の家族に気付かれるよ。気を付けなさい」

「このっ……!」


――構成を修正します。あーアーAHHHH。


「構成修正完了」


 今までのテラスと違った声の調子だ。それは今までの機械的なものではなく、より人間らしくなっている。


「君の友達の相棒はセレナと言ったかな? あれも中々珍しいエラータイプだったよ。双子……というのは少し違うな。親が違うのだし。いやはやしかし珍しかった、セレナとノクトの二体は同じ基本構成……あぁ、ここでは基本〝構想〟と言おうか。全く同じなんだよ、起源が。だから少し調べさせてもらったんだ。まぁ返す予定はなかったのだけれど、彼女のおかげで君の相棒にも出会えたからね。それはサービスというやつだね」


 黒騎士は楽しそうに話し始めた。


「しかし……どれだけこの瞬間ときを焦がれたことか! 何千何万のクソガキを失望と共に眺めてきたと思うかね! それがようやっと、ようやっとだよ! ようやっと〝神〟に出会えたんだ! ご挨拶ぐらいは必要だろう!」


 黒騎士の体から稲妻が漏れた。そして黒騎士は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。しかし、ある程度の距離に黒騎士が達すると前面に炎の壁が上がる。


「それ以上近付かないでください。マスターに危害を加えると判断します」

「くく……女神様は随分とそのマスターにご執心のようですね」


 今度は三歩後ろへと下がる。


「あぁそうだ。しばらくは安心していいよ。私たちも調べ物をしなければいけないのでね」

「待てよ」


 兜に隠れてこいつの表情はわからなかったが、その下にはきっと卑しい笑みを浮かべているに違いない。


「名前、教えろよ。ノクターンじゃないんだろ」

「そうだった、失礼しました。私はノクターンという名前ではございません。そうですね……〝パーフィディ〟と。以後お見知りおきを。神の父」


 黒騎士は深く頭を下げた。その姿には一切の敬意は感じられない。慇懃無礼というのに、非常に相応しい様子だ。


「また……またどこかで会おう。近々ね」


 ばちりと、世界が暗転した。

 VRゴーグルを外すと、いつもの見慣れた天井があった。


「テラス……近くにいるんだろ?」


 ふよふよとテラスが現れた。

 体を起こして、テラスをじっと見つめてみる。いつも通りのテラスだ。特に変なところはない……はず。


「……検索、パーフィディ 意味」


 ぴこん。

 一瞬で情報が表示される。


「背信……ね。さんきゅな。たぶん疲れてるんだろ? 前と同じでさ」


 ぴこん。

 疲労困憊心身虚弱徹頭徹尾。

 徹頭徹尾はきっと意味が違うと思うよ。


「少し休んでろ。僕は僕でやることができたわ」


 テラスは頷くと姿を消した。

 スマホで正詠と遥香……それと日代と平和島にチャットで連絡をすると、日代と平和島二人からすぐに返事があった。

 階段から愛華が上ってきた。


「にぃどっか行くの?」

「おう。ちょっと友達と遊んでくる。日付が変わる前には帰ってくるよ」

「正詠さんと遥香ちゃんのところ?」

「今日は違う友達だ」

「ふーん……行ってらっしゃい」

「おう」


 バスの時間もそろそろだったため、少し小走りでバス停に向かった。

 待ち合わせ場所はホトホトラビットだ。すでに日代と平和島はいるらしい。正詠と遥香の二人は部活帰りに寄ってくれるだろうし、何よりもまずは日代と平和島に伝えないといけない。


「って……閉店してるじゃん」


 ホトホトラビットの扉には、CLOSEの札がかかっている。


「んーままよ!」


 扉を押すと、鍵がされていないらしくあっさりと開いた。


「これって……不法侵入とか言われないよねな」


 店を見渡すと、カウンターで日代と平和島が座っていた。


「何してんだ。早くこっちに来い」


 店内の照明は全て落とされているが、カウンターのすぐ上に吊るされている照明だけは点いていた。


「で、何なんだよ話って」

「また変な奴が来たんだ。セミダイブしているときに」


 僕が椅子に座りながら話すと、がたりと平和島が体を動かした。


「テラスちゃん、大丈夫なの?」

「ん、あぁテラスは大丈夫なんだけど……えっと出てこれるか?」


 ふわっと、テラスが現れる。相変わらず疲れているように見えるせいか、平和島はテラスの頭を撫でる仕草をした。


「仮にもAIなのに何で疲れてるんだよ」


 日代のノクトがテラスを突いた。それを諫めるようにセレナが現れ、叱るような動作をしている。ノクトはセレナには頭が上がらないのか、すぐに日代の肩に戻っていった。


「それとな、平和島の相棒を狙った理由もわかった」


 日代の目が鋭くなった。


「確か基本構想……とかが、ノクトと一緒で珍しかったからだってさ」

「基本構想?」


 平和島は首を傾げたが、日代の様子に変わりは見られなかった。


「うん。起源が二人とも同じってことらしいんだが……」

「そんなことより、また狙われる可能性があんのかよ」


 日代は頭を掻きながら、話に割り込んだ。


「起源だなんだとか、そんなのはどうでもいい。今回は偶然あの黒い化け物が同じ場所にいたから良かったがな、次はそうはいかないかもしれないぜ。全世界のサーバーを経由されちまったら完全絶対座標持ちの施設からも探すのも難しくなる」


 平和島はセレナを見た。セレナは苦虫を潰した顔で俯いていた。


「セレナやノクトは大丈夫だと思うんだけど……あいつらはテラスが狙いらしいし」


 日代と平和島は、目をぱちくりさせながらこちらを見た。


「テラスがゴッドタイプ? だかなんだからしくて、欲しいらしいぞ。しばらくは調べものするから手は出さないと言ってたけど……また会おう、とも言ってた」


 そこまで話すと、扉の開く音がする。


「到着ー」

「遅れて悪かったな、太陽」


 遥香と正詠だった。

 二人とも部活後ということもあってか、さすがに疲れている顔をしていた。


「悪いな、二人とも部活で疲れてるのに」

「気にするな。それと日代、悪いな。店閉まってるのに」

「これで貸し借りなしだ。いいよな?」

「はは、まぁそういうことにしとくか」


 正詠は苦笑して席についた。


「なんだよ正詠。ここが日代の家だって知ってたのか?」

「有名な話だぞ」

「そうそう。日代の悪評のせいで若い人の客足が遠退くっていう有名な話だよ。ね、日代?」


 遥香がからかうように口にすると、当の本人は「けっ」と悪態をついた。


「で、話ってなんだよ」


 正詠は腕を組んで、真剣な面持ちでこちらを見た。

 僕は先ほど日代と平和島にした話を再度正詠と遥香にした。


「キーワードは、『ゴッドタイプ』、『神』、『パーフィディ』……か」


 正詠は顎に手をやる。


「っていうかさ、太陽の相棒ってそんなに珍しいの? 確かに異性タイプって珍しいけどさ」


 遥香は難しい顔をしながら、宙を見る。正直、自分も遥香と感想は一緒だった。愛華も異性タイプは珍しいとは言っていたが、珍しいだけで怪しい奴らに狙われる程とは思えない。


「えっと……異性の相棒が生まれるのは世界的に見て平均8.3パーセントで、日本の著名人で言うと漫画家の尾形昭一郎おがたしょういちろうさんと、政治家の大池菊子おおいけきくこさんだって。でも強奪とか電子遭難とかはないみたい……」


 平和島はセレナを使って調べていた。


「平和島、そのデータ俺たちにもくれ」

「うん……って、あれ?」


 平和島は今見ているデータを正詠に渡そうとフリックしたが、そのデータはロビンに送られはしなかった。


「あぁそっか。俺たちは平和島と共有宣誓シェア・オース同士宣誓コムレイド・オースもしていなかったな」

「私はしてるけどねぇ」

「遥香がしてるなら、俺と太陽で平和島と共有宣誓すればいいか。どうせ日代とはしてるんだろ?」

「うん。蓮ちゃんとは共有宣誓してるよ」


 平和島は日代のことを蓮ちゃんと呼ぶことにしたようだ。日代は日代で、もう文句を言う気力はなくなったらしい。あれから一体何があったのだろうか。


「ん? それやってないとデータとか共有できないのか?」


 正詠に質問を投げる。「当たり前だろ」と返して、平和島に左腕を伸ばす。


「同士宣誓は少し恥ずかしいから、とりあえず共有宣誓しよう。ロビン、セレナを共有宣誓する」


 ぴこん。

 電子音が鳴る。ロビンとセレナはお互いに笑顔で握手をした。

 前に共有宣誓したときこいつこんなことしたっけか?


「テラス。セレナを共有宣誓」


 ぴこん。

 こちらはロビンみたく握手をすることもなく、音だけだった。


「テラス、本当に疲れてるみたいだね」


 遥香が心配そうに僕の端末を見る。


「ん? そういやまた姿消してるな」


 テラスの姿は見えなかった。


「はい、みんな」


 平和島がまたデータをフリックすると、僕と遥香、正詠の端末にデータが表示された。

 ページ名は世界の有名な異性の相棒となっている。


「確かにリンク辿っても今のところ事件はないな」


 正詠は一つずつ見ているらしく、何度もデータをタップしている。日代以外は正詠のようにデータを見ていたが、やがて痺れを切らした日代が声をかける。


「おい天広。結局お前は俺たちにそれを言いに来ただけか?」

「んー? そうだよ。ほら、特に日代と平和島は狙われる可能性もあるんだし」


 机の上で戯れているロビンとセレナ、リリィを見て答えた。


「と言っても、どうすればいいんだろ」


 遥香がため息と共に口にするが、それに誰も答えることはできなかった。


「まずは太陽、日代、平和島。お前ら三人はネット接続するときは気を付けるようにすることだな。強奪とかは滅多にないが、一応な」


 正詠がデータを閉じてそう言うと、「うん」と平和島のみが頷いた。


「それとな、太陽。これ」


 正詠は僕に一枚の紙を渡した。


「なにこれ?」

「バディタクティクス校内大会の概要だ」


 紙には、バディタクティクスの参加要領がびっしりと書かれている。


「おー。で?」

「参加するだろ?」

「いや、なんで?」

「は?」


 掴み所のない会話を互いにして、首を傾げた。


「参加しないのか?」

「バディタクティクスってさ、すげールールややこしいんじゃねぇの? 僕らが出てもすぐ負けるかもしれないし、それに今さっき気を付けようって話してたじゃん」

「幸い校内大会はゴールデンウィーク後だ。それまでにみっちり勉強すれば何とかなる。それと強奪に関してだが、いくらなんでも人目のあるところでやるほど、パーフィディって奴も馬鹿じゃないだろ」

「んー……それもそっか。勉強もテラスのおかげで余裕できたし、たまには僕も部活じみたものやってもいいか」

「じゃあ参加決定だな。遥香とは途中で話してきて、こいつも一緒に参加してくれることになった。あと二人はこれから探すことになるんだが、空手部の……」


 あ、そうか。バディタクティクスて五人でやるゲームなんだっけか。


「じゃあメンバーは決定だな」

「いやあと二人足りないだろ」

「え? 日代と平和島で五人じゃん」

「え?」

「は?」


 日代と平和島が声を揃えて僕を見た。


「いいだろ、日代、平和島?」

「何でお前らとそんなもんに出ないといけねぇんだ。馬鹿かテメー」

「え、どうせなら話しやすい友達のほうがよくね?」

「だからお前達と俺が何で友達なんだ」

「え、違うの? 確かに付き合い浅いけど、僕ら結構良い関係だと思うぜ?」


 日代の頬が少し赤くなった。


「あはは! 蓮ちゃん、一緒にやろうよ! 私、天広くん達とならやりたいな」


 平和島が笑って日代の肩を叩いた。


「だから何で俺が……!」


 日代は声を荒らげるが、正詠と遥香が日代を見て頷いた。


「太陽が言うなら仕方ない。日代、お前と組んでやる」


 正詠は日代へ小バカにするような笑顔を向けた。


「あんた良い奴だってわかったし、何かの縁だよ。よろしくね、ヒッシー」


 遥香は早速日代をあだ名で呼んだ。


「だから友達じゃ……」

「とりあえず今週の土曜日またここに集まって作戦会議しようぜ。半ドンだし、飯でも食いながらさ」


 日代はまだ文句を言おうとしたが、とりあえず遮っておく。

 みんなが頷いた。


「んじゃヒッシー、席取りよろしくな!」

「諦めろよ日代。太陽がこう言ったらしつこいぞ」


 日代は大きくため息をつきながら頭を振った。


「あぁもうくそっ! 後悔すんなよ!」


 日代の諦めたような声にみんなは楽し気に笑った。

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