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太陽のオトシゴ  作者: 南多 鏡
第二部 相棒
20/22

第七章 力なき正義

   正義/1/正しき在処



 神奈川県県大会決勝戦。

 去年全国大会を制したチーム・天継(てんけい)に対するは、今年初の県大会出場となったチーム・ゲットグローリー。

 互いに、三年が五人、二年が二人のチーム構成だ。

 本来、高天のチーム天継は次年度のために三年を四人と二年を三人にするのが伝統である。だがその伝統を破ったのが、全国大会への出場経験のある天王寺ステラであった。


「もう、世話がかかるんだかラ!」


 槍とは逆の手に旗を持ったジャンヌは、前線で戦うメンバーを支援する。


――スキル、応援。ランクSが発動しました。スキル使用者以外の攻撃、防御が上昇します。またスキル使用者含む味方全員の体力が大回復します。


 連続で何度も使用できないスキルではあるが、その効果はデメリットなしの支援スキルではかなり上位とも言える。


「くそっ……くそっ!!」


 そんな前線で苛立ちを募らせるのは、ゲットグローリーの大将だ。彼の相棒もマスターと同じ表情をしているが、二人とも苛立ちよりも焦りが大きいだろう。


「何なんだよお前は!」

「おらぁ逃げんなぁ!!」


 相手を追い詰めるのは、拳を固く握ったティエナクラストフだ。

 相手に向けて振るった拳は、大振りのせいか外れてしまうが、大地を大きく割る。


「お前は……お前は《《後方支援》》だったんじゃねぇのかよ!!」


 相手が狼狽えるのも無理はない。今まで後方で弓を引いていたティエナクラストフの急な前線への上昇。しかもそれはただただ真っ直ぐに進む猪突猛進。


「関係ねぇ!! 番狂わせが起きた方が楽しいだろうが!」


 番狂わせ? これが番狂わせだというのならば、 ゲットグローリーは『番狂わせ』という言葉を調べ直さなければならないだろう。


「全員体勢を立て直せ! こいつら絶対おかしい!!」


 番狂わせというものは、誰もが予想しないから番狂わせなのだ。

 それがどうだ。たった一人の暴走により、今は番が狂うどころかチーム天継に形勢は好転していたのだから。

 ティエナクラストフが前に出るまでは、互いのチームが作戦通りに知略を尽くした鬩ぎ合いだった。

 経験の差はあれど、それでも両チームは拮抗していた。いや、一時(いっとき)だけはゲットグローリーが天継を押していた。作戦参謀の山成は爪を噛み後退を指示するほどに、それは確かな勝利への欠片だったのだ。


 勝てるかもしれない。


 ゲットグローリーの誰もの士気が上がったその刹那。暴風は吹き荒れたのだ。


――だりぃ。

  

 短いその一言が合図だった。

 後方で適格な支援をしていたティエナクラストフが弓を背にし前線へと上がったのだ。

 ゲットグローリーの誰もが、彼が囮だと思っていた。彼を囮に全員が後退するのだろう、と。

 しかし結果はどうだ。

 これを逃す手はないとゲットグローリーの副将が大剣で迎え撃とうとしたとき。


――うぜぇ。


 ティエナクラストフの表情は、激憤と言っても過言ではなかった。

 そして副将は認識を改める。『この男は、自分達が押されていることが気に入らず逆上した、無謀にも突進した愚か者』と。

 だがそれは。やはり。必然とも言えるくらいに。


 彼のただの妄想でしかなかったのだ。


 大剣を振り下ろした副将は、その妄想から勝利を確信した。

 しかしその一撃を止めたのは、今まで前線で戦っていた伊津のエマだったのだ。


――悪いね、うちの暴れん坊の面倒を見るのは俺のエマなんだ。


 後退しかけたその足を、作戦参謀の指示を無視してまで。

 ティエナクラストフの突進を確認した途端、踵を返した彼の相棒は鎖鎌での援護へと回った。

 大剣に巻き付く鎖と、前線で戦うが故の筋力で抑えられた副将は。

 『囮でも愚か者でもなかった』と認識を再度改めた上で。

 ティエナクラストフの拳での一撃で、呆気なく退場したのだ。


――次はテメェだ。


 後方で弓を引いていたたった一人の男が、主な攻撃方法ではない拳一つで。この《《知略を尽くした戦い》》をがらりと変えた。

 それだというのに、チーム天継の連携に乱れは見られない。

 いや、違う。

 連携は確かに乱れている。しかしそれはあくまでも相対する側から見た場合だ。

 彼らはこれを乱れなどと思っていないのだから。


「後退、後退するぞ!! 召集を使え!」


――スキル、召集。ランクAが発動しました。カルマ、ベローチェ、スレイブをネイロの近くに呼び出します。


 一人がスキルを使用したことで、ティエナクラストフの前からゲットグローリーの大将……カルマは姿を消したが。


「あっははー。ざーんねん、逃がさないよー」


――スキル、追撃。ランクAが発動しました。ターゲット全てが逃亡中と判断されました。距離に関係なく魔力依存攻撃が必中します。


 氷の槍が後退を始めた彼ら全員に襲いかかる。

 中里のスノウが相手の足を止めたのならば、その機を逃すべきではない。寺坂のティエナクラストフは攻撃が起きた箇所へと、全力で走り向かう。


「清文!!」


 そんな中、怒号にも似た勢いで寺坂は名前を呼ばれた。それと同時に彼の視界の隅に、エマが使用する鎖鎌の分銅部分が見えた。


「任せたぞ……おらぁ!!」


 その鎖をティエナクラストフは掴む。そしてそれをがっちりと自分の腕に巻き大きく一歩を踏み込み体を捻った。

 鈍く風が切れる音がすると、ティエナクラストフはその鎖を自分が向かう先へと振るっていた。

 適度な重りとなったエマを自身の視界へと捉えたティエナクラストフは、その鎖から手を離す。じゃらりじゃらりと重い音を立てながら、彼の腕から鎖が外れていく。

 ゲットグローリー全員が、その状況を知る由もない。

 彼らから見れば追撃のスキルでダメージを負った上で。


「何で、今度は《《お前なんだ》》!?」


 一旦後方へ下がったエマが再び現れたのだ。


「大将の首、俺が貰った!」



 伊津のその言葉と共に鎌を振り下ろす。


「こんなところでぇぇぇぇ!!」


 ゲットグローリーの仲間が大将を庇いながら弾いた。


「ひゅー、やるじゃん!」


 そう、ここは県大会決勝戦。この程度の展開ごとき、予期しないことが続いたからと、無様に負けるわけがない。


「逃げられないなら、攻め……!!」


 しかしゲットグローリーの大将は驚きのあまり言葉を切る。


「いっくヨー!」


 最後方。それも前年度の大会でも常に味方を援護し続けた天王寺ステラの相棒ジャンヌ。

 それがいつの間にか目の前で槍先を彼に向けていた。

 誰もが彼女の真価は味方の支援だと思っていた。思っていたのだ、今までは。

 それも仕方ないだろう。

 この県大会でも彼女は常に最後方だったのだ。

 それが何故。こんなときに限って。


「負けるかぁぁぁぁ!!」


 その答えを相手は知っている。

 これは決勝戦だ。県で最強を決める戦いだ。隠していたのならば、それを見抜けなかった自分達に非がある。だからまだ、この程度。驚きはすれ、諦める理由にはなりはしない。

 その気持ちに応える彼の相棒は、攻撃を弾き反撃の刃を振るおうとしたが。


「お前を倒して、俺達……が……」


 二度目……いや、寺坂を皮切りに彼は何度も言葉を失っている。


「何なんだよ、お前らは……」


 ここでゲットグローリーの大将は、はっきりと勝利を諦めた。


「ジャンヌに手は出させない」


 蛇腹剣の切っ先を向ける山成の相棒テトラ。


「させないって」


 二振りの短刀の切っ先を向ける中里の相棒スノウ。


「俺が大将をやるっての!」


 体勢を建て直し、再度鎌を振り上げた伊津の相棒エマ。



「テメェは俺がぶっ潰す!」


 至近距離で弓を引き絞る寺坂の相棒ティエナクラストフ。

 何故だ。このような状況を予想していたのか?

 このような危機を予想していたから、全員でかかってきたのか?

 では何故ジャンヌを、大将を前に出した?

 出さなければ、こうならなかったろう?

 馬鹿かこいつら。

 何故当たり前のように、全員が全員を……こんなにも信頼できるんだ?


「お前らさえいなければ、俺達が優勝だったのによ」


 それら全ての攻撃をいなせるわけがない。


「ちくしょう……」


 諦めの一言と共に。


「勝てよな、チーム天継」


 彼は勝利を彼女らに託した。


――カルマ、戦闘不能。よって、チーム・天継の勝利です。


 そして、神奈川県県大会はチーム・天継の勝利で幕を下ろした。



   正義/1-2/正しき在処



 ハーイ! はじめまして、天王寺てんのうじステラです!

 神奈川の高天高校に通う三年生だヨ! 

 バディタクティクス全国大会で優勝したこともあるから、みんな知ってるかな? ふふふ!


「……なぁステラ」

「なぁに、マサナリ?」

「お前のSNSの説明いい加減変えろよ」

「いいでショ、別に」


 彼女のSNS紹介文に文句を付けたのは伊津 正威(いづ まさなり)。それに

頬を膨らませながら、天王寺ステラは伊津の隣にいる寺坂 清文(てらさか きよふみ)に声をかけた。


「キヨフミは良いと思うよネ?」


 寺坂は慌てふためきつつ、「え、あ、お、良いと、思うぞ」と答えたが。


「寺坂はステラに甘いから参考にしない方がいいよ」


 ステラの右隣にいる山成 神海(やまなり こうみ)が寺坂に冷たいことを言ってのける。


「あははー。相変わらず神海さんはてらっちに辛辣だなぁ」


 そしてステラの左隣で苦笑いしたのが、中里 忠臣(なかさと ただおみ)だ。

 そんないつもの掛け合いを見て皆が一頻り笑みを浮かべていると。


「そういえば……千葉は陽光が圧勝らしいぜ」


 伊津がホログラムを全員に共有する。それぞれの相棒が現れ、その共有したデータを表示した。


「へぇ……大将は一度も参加せず決勝へ、ねぇ。さすがの余裕だよな、ははっ」


 寺坂はそれを見て、嫌味でも言うように笑った。

 そんな寺坂に僅かに顔を曇らせたのは、ステラと山成だ。

 二人とも彼自身を嫌っているわけではないが、乱暴な言動や態度は好んでいなかった。


「あの大将のスキルは特殊って言ってたからな。なるだけ見せたくないんだろうよ。まぁにしても……」


 伊津は頭を掻いて、困ったような顔をする。その原因は全員がわかっているようで、互いに顔を見合わせた。


「楽しんでなさそうだよね。なんか追い詰められているというか、警戒しているというか……」


 中里が今言ったことが、全員の意見だろう。

 チーム太陽の全員の表情は固く、苦虫でも噛み潰した顔をしている。


「王城達と上手くいってないんじゃねぇの? ニュースで見たけど、テロのせいで晴野って奴が怪我して校内大会決勝を辞退したらしいぜ。その後輩が要のスナイパーになってるんだし、そりゃあ王城達はつまらねぇだろ」


 本物の嫌味を溢し、寺坂はそのホログラムを閉じた。そして自分の相棒、ティエナクラストフの頭を撫でる。ティエナクラストフを撫でるその表情は穏やかで、とても優しいものだった。


「寺坂は嫌味以外口にできないの? 私、そういう言い方すごい嫌いなんだけど」


 そんな寺坂に山成が噛みつくと、寺坂は肩を竦めた。


「あーはいはい、わるぅござんした」


 謝意の全く篭っていない言葉に、山成は皮肉な笑みを浮かべる。


「あんたそんなだから好きな子に振り向かれないんだよ」

「なんっ!? おまっ、神海!」

「あっれぇ? どうしたのさ? なぁんか私変なこと言ったぁ?」

「こ、の……」


 寺坂は山成とステラを交互に見ながらため息をついて、不貞腐れたようにそっぽを向いた。


「キヨフミってまだ好きな子に告白してないの? もう二年も前からそんなこと言ってるのにぃ」


 そのステラの一言に、淡い寺坂の恋心は傷付けられる。


「あっははは! 仕方ねぇよ、ステラ。清文は根性あるけど度胸がねぇからな!」

「う、うるせぇな! ってかそろそろ時間だろ、この話はここでおしまいでいいだろが!」


 幼馴染の正威と寺坂の互いのじゃれ合い。それは周りから見ている者たちを安堵させる。しかし、それを破るように。

ステラのジャンヌが通信を知らせた。


――呼び出し先、パーフィディ。応答しますか?


 そのメッセージを確認して、ステラは僅かに顔を強張らせて、全員の目を見た。皆が、彼女を安心させるように微笑んだ。


「うん、よろしくね、ジャンヌ」


 ジャンヌが頷くと、ホログラムに見慣れた漆黒の鎧が表示された。

 ジャンヌはみんなに気を遣ってか、円になっている彼女達の中心に移動する。


「時間通りだと思ったけれど、どうしてそんな怖い顔をしているのかな?」


 パーフィディは寺坂のように肩を竦めた。

 その姿を見て上手く彼女達は笑えなかったが、こういう時は常日頃、寺坂が口を開く。


「おいパーフィディ。陽光の大将が出ないってことは、お前達成功したのか?」


 そう。パーフィディ達が言ったのは……。


「全国前に大将の相棒を潰すって言ったろ?」


 チートを使っている卑怯者を全国前に潰す、だった。


「いや、すまない。私達は負けたよ。彼らが大将を出さないのはスキルがバレないための作戦だろうね」


 兜で彼らに表情は見えないが、その兜の下で彼は困ったように笑って言っていた。


「やっぱり、君達に頼むことになりそうだ」


 そんなパーフィディの言葉に、伊津だけが眉間に皺を寄せていた。


「……んだよ、チート野郎は許さないって言ってたじゃねぇか」


 そんな正威をちらっと見た寺坂はわざとらしくそんなことを口にしたが、パーフィディはそれに応えずに何かのリストを表示した。


「それはチーム太陽のメンバーとそのメンバーが所持しているスキルとアビリティのリストだ。有効に活用を……」

「いらねぇ。ティエナクラストフ、そのリストを消せ。見る必要はない」


 パーフィディがまだ話している途中で、寺坂は言い切った。


「俺も清文に賛成だ」


 伊津が寺坂の言葉に頷くと、続いて中里、山成。最後にステラが頷いた。


「私達は正々堂々戦って勝つヨ、パーフィディ」

「そう……かい。すまないね、余計なことをして。決して悪気があったわけじゃないんだ」

「わかってるヨー。ね、みんな?」


 各々が曖昧に頷くの見て、パーフィディはため息をついた。


「君達には期待しているよ。ではまた……」


 そしてパーフィディは姿を消した。


「寺坂さぁ……もっとちゃんとした断り方したら? 一応目上でしょ、パーフィディって」

「神海は俺に対して嫌味しか言えねぇのかよ」

「あーはいはい、わるぅござんしたぁ」

「こいつ……」


 寺坂と山成の会話に相変わらず、中里は苦笑する。それを横目にしつつだが、伊津が重く口を開いた。


「で、実際どうする? 陽光は県大会も勝ってきたし、この調子なら全国予選も勝ち上がるぜ?」


 真剣な顔でそんなことを言う伊津に空気は固くなり、全員が山成に目を向けた。

 山成は少しだけ考える素振りを見せて、相棒のテトラを見た。


「とりあえず予選は私と寺坂の二人でやることに変わりはないよ。バトルロワイアルだし、私のテトラと寺坂のティエナクラストフなら充分やりきれるし」

「ホントに大丈夫? キヨフミはよく暴走するヨ?」

「だから私と寺坂でしょ。寺坂は範囲系アビリティたくさんあるから適任。ステラのジャンヌや中里のスノウだと援護しきれないし、伊津のエマと一緒だと二人揃って暴走するし。後輩の二人にはティエナクラストフの援護は荷が重すぎるし……」


 そんな言葉に伊津と寺坂は山成から目を背けて、二人して頬を掻く。


「あんたらが昨日みたく暴走しなきゃ組ませるんだけどさ」


 それを逃がさないとでも言うように、山成は二人に対してちくりと嫌味っぽいことを言った。


「俺じゃなくて清文が暴走したんだろ」

「逃げるのは性に合わねぇからさぁ……」


 二人はそれぞれの言い訳をした。


「だから私と寺坂の二人。言っとくけどちゃあんと作戦はあるんだから、守ってよね」

「はいはーいはいはいはい」


 適当に言った寺坂に、山成はぴくぴくと目元を震わせながら。


「こいつ一回ぶん殴ってやろうかな」

「ぶん殴ってみろよ。泣いて喜ぶぜ、清文は」

「うわ、気持ち悪い」

「お前ら俺の印象勝手に操作するなし!」


 緊張した空気は一瞬で緩んでしまい、全員の顔に笑顔が浮かんだ。それが落ち着いてから少しして、ステラと山成は立ち上がり腰を伸ばした。


「じゃ、私たち帰るネ!」

「また明日」


 ステラと山成は、残った男子三人に挨拶して去っていく。


「いづっちゃんとてらっちはどうする?」


 気を遣うように中里が二人に話しかける。


「もちカラオケだろ!」


 寺坂が拳を握る。


「よっしゃ! 行こうぜ清文、忠臣!」


 少年のように瞳を輝かせる伊津。

 二人とも去年まで所属していた部活を引退し、一つ大きな肩の荷が下りてからの受験勉強にストレスを抱えていたのだ。それは勿論、中里もだが、思い切り歌って発散したいこともあるのだろう。


「じゃあ今日はカラオケ行こうか」


 中里も楽しそうに笑い、男子三人は近くのカラオケ屋に向かった。



――……


 ステラと山成は、一年の頃から互いに互いを好いていた。

 クラスで彼女らの席が隣だったということもあったのだろう。

 自己紹介のときに二人の自己紹介が対称的だったということもあったのだろう。

 高校で初めて話したからということもあったのだろう。

 とにかく二人は自然と引かれ合い、自然と親しくなり、そして自然に親友となったのだから。


「ステラは今日どうする?」

「んんー……今日は学校のVR施設も他のところも借りれなかったもんねぇ……どうしよっか?」


 二人はゆっくりと家路を辿るが、その歩調はひどくゆっくりだった。


「えっと、私はもう少しステラと話したい……かも」


 僅かに頬を紅潮させながら山成がそう言うと、花の咲いたような笑顔を、ステラは彼女に向けた。


Oui(ウィ)! 私もそれがいいな!」


 ステラは山成の右手を握り、少し早足で歩き出す。


「ちょ、ちょっとステラ……」

「ここの近くで最近ケーキ屋さんができたんだよ、知ってた?」

「知らなかったけど……ちょっと急ぎすぎだってば……」

「えっとねぇ……うーん、日本語での言い方忘れちゃった! でも、N'hésitez(善は急げ) pas un instant à faire le bien!」


 程なくして二人はケーキ屋へと着いた。そのケーキ屋は喫茶スペースも併設されており、ちょうど客足が引き始めた頃らしかった。店内は白と青を基調とした落ち着いた色彩で、適度に空いていた。また店内ではゆったりとしたBGMが流れ、どことなく大人のような雰囲気を彼女らは肌に感じる。

 美人な女性店員に二人であることをステラが告げると、店員は二人を奥へと案内する。


「何か大人っぽくて緊張するネ?」


 ふふ、と可愛らしく笑うステラに釣られ、山成も同じように微笑んだ。

 二人はメニューから適当なケーキとドリンクを選んで、同時に細く息を吐いた。


「あ、ジャンヌー出ておいでー」


 呼び出し音もなく、ステラのSHTIT(シュティット)から相棒(バディ)のジャンヌが現れる。女性型の相棒で、肩までほどの美しい金髪に、澄んだ空のような青い瞳。修道女のような服装をしている彼女は、山成を見た。


「テトラ、出ておいで。ジャンヌが呼んでるよ」


 山成の声に、彼女の相棒は姿を現す。

 ジャンヌと同じく女性型で、薄茶色の短く外に跳ねた髪には所々黒い毛が混じった髪色。瞳は金色だ。それはどことなく猫のような印象を抱いてしまう。服装は花魁のように着崩した着物で、左目の下には小さく猫の肉球のマーク。さしてお尻からは髪色と同じ尻尾が生えていた。

 どことなく、ではなく紛うことなく猫を意識されたコーディネートであった。

 二人の相棒は互いを見つけるとぎゅっと抱き締め合い、すぐに両手を繋いでくるくると回り始めた。


「ふふ、ジャンヌはテトラが大好きなんだネ」


 ステラはジャンヌを優しい笑顔で見つめた。そのタイミングで店員がドリンクを持ってきた。

 ステラがオレンジジュースで、山成はアイスティー。それを二人は一口飲んで、何故か笑い合った。

 少ししてケーキが来てからは、しばらく学校の話をしていたが。


「そういやステラはバディタクティクスで気になってるチームとかある?」


 山成が思い出したように彼女に問いかけた。


「んー……北海道の桜陽かなぁ。火神は楽しそうに戦うしネ」

「そうなんだ……」

「コーミは?」

「私は……その、沖縄の蒼海そうかいかな。なんというか、面白そうって意味で」

「確かに! あそこは歌いながら戦うもんね!」


 バディタクティクスの県大会は全国でネット配信されるのだが、その中でも山成が言葉にした蒼海は色々な意味で異質であった。

 楽器を武器に演奏しながら戦う姿は、観客も楽しませる新しいやり方だ。


「あのチームと当たったら、きっとマサナリとキヨフミは暴走しちゃうネ!」


 山成ははぁ、と大きくため息をついた。


「……コーミはあの二人嫌い?」

「あ、違う違う。あいつら本当に言うこと利かないからさ……」


 バディタクティクスであの二人が作戦通りに動いたことなど、正直一度もない。作戦を立てる山成にとっては読みづらい二人がいることは、どうしても頭を悩ませる。


「でも、二人ともいっつも上手くやるじゃん!」

「それが余計に腹立つの」


 幼馴染だからこそ出来る阿吽の呼吸。それに何度かチームも救われている。


「あ、ねぇねぇ。そういえばキヨフミの好きな子って誰なのさ? いい加減教えてよー」

「それはあいつが可哀相だから教えてあげない。あいつが告白すればステラもわかるよ」


 その度胸があいつにあればね、と山成は口にしない。


「もう……ずーっと教えてくないんだかラ」


 山成はステラをじっと見つめた。

 さらさらの金髪、緑がかった澄んだ青い瞳。顔のバランスはとても良く、美人よりは可愛い系。


「(それに比べて私は……)」


 天然パーマの黒い髪。目も大きくなく、ステラのように特徴のない容姿。

 胸中で自分を卑下した山成は、知らずため息を漏らした。


「コーミはふわふわな髪とお昼のにゃんこの目みたいで可愛いにゃー」


 それを悟ってか、それともただの天然か。ステラは山成の頭を撫でた。


「(あーもう。天然人間たらしめ。私の気持ちも知らないでよく言うよ)」


 山成の胸に鍵をかけていた想いが、僅かに溢れる。


「やめてよ、ステラ」

「えへへー」

「もう……そろそろ行こっか。明日も練習あるんだし、夜更かししないで早めに休みなよ?」

「Oui! じゃ行こっか!」


 そして二人は喫茶店を後にする。


「(絶対に寺坂の味方なんかするもんか)」


 山成は自分の胸に手を当てる。


「(私の方が……ステラのこと、大好きだもん)」


 決して打ち明けられないその気持ちに、山成はもう一度鍵をかけた。


――……


 ステラと山成が喫茶店で過ごしている中、伊津、寺坂、中里の三人はカラオケで盛り上がっていた。


「しゃあ! 百点だおらぁ!」


 渾身のアニソンで百点を取った寺坂はガッツポーズと共に席に座った。


「おーやるじゃん」


 それに伊津は僅かに口角を上げながらコーラを一口飲んで。


「その勢いでステラに告白しろよ」

「そうだよー。てらっちはいつまでそうやって燻ってるのさ!」


 唐突に友人二人から恋ばなを振られ、寺坂はマイクを落としてしまった。

 キィンと甲高い音がスピーカーから響き、三人が顔をしかめる。


「いや、わり。ってか今ステラのこと関係ねぇし!」

「さて、どうですかねぇ……ティエナクラストフはどう思うよ?」


――むしろ今だね。このタイミングで天王寺ステラの話をしないでいつするのかってぐらい、今だね。


 寺坂の相棒、ティエナクラストフは大層楽しそうにそんなメッセージを表示した。


「お前は俺の味方であるべきだろうが」


――僕はいつでもマスターの味方さ。そうだろ、相棒あいぼう


「こいつ……」


 ティエナクラストフは寺坂と同じ長めの黒髪をかき上げながら彼にウィンクを送った。

 そんなティエナクラストフの容姿は、髪と同じ色の黒いロングコートを羽織り、その下のシャツとズボンも真っ黒だ。唯一黒くないのはズボンの左足側全体にプリントされたシンプルな白い翼だ。


「超高性能教育情報端末さんがそう言ってるんだぜ? こーくはく、こーくはく!」


 伊津が手を叩きながら煽ると、彼の相棒であるエマもまた伊津と同じような仕草を見せた。

 エマは、異性タイプの相棒で女性型だ。伊津と同じ赤色の長髪を頭の上で一本で留めている。日本に伝わる伝説でもある『くノ一』のような灰色の服装をしており、その上から白地に紅い炎が描かれている陣羽織を身に付けていた。


「あそれ、こーくはく、こーくはく!」


 中里も伊津の悪ふざけにのっかり音頭を取る。そしてこれは当然と言うべきか、彼の相棒でもあるスノウも同じ仕草をして寺坂を煽った。

 スノウは、名前が示す通り白を基調とした容姿だった。ティエナクラストフと同じほどの長さの白髪と碧の瞳。頭の左側に狐の面を付けており、どこか神聖な雰囲気がある……のだが、それはあくまでも仮の姿でただの祭り好きなコスプレ男のようだった。


「やめて、マジで」


 顔を両手で隠した寺坂を見て二人は一笑して、彼の肩を叩いた。


「お前なぁ……ステラは言わないとわかんない奴だぞ」

「そうだよてらっち。告白して散った人は今月だけで十五人。断り文句は、『ごめんネ! 君のこと特別な好きにはなれない!』と切り捨て御免。かっこいいよね!」

「おうよ。『私ね、私よりもバディタクティクスが強くてスペシャルアビリティを持っててとってもかっこいい男性がいいの!』とはあいつが俺に教えてくれた情報だ!」

「うん! 僕もそれ聞いたよ!」


 励ましか。

 いいや、ただの嫌がらせだ。

 もちろん、愛のある嫌がらせだが。


「お前らのそういうところ……好きじゃないけど嫌いじゃない」


 はぁ、と大きくため息をついた寺坂は頬を掻いた。


「俺だってさ、わかってんだよ。ステラはその……自分よりも良い奴っていうか、その、強い奴っていうか……そういうのが好きなんだってこと」


 寺坂らしくない真面目な声色。

 それを察せられない彼ら……〝親友〟ではない。


「フラれたら慰めてやる」

「そうだよ、てらっち」


 二人は寺坂を挟んで肩を組む。それのおかげか寺坂は笑顔を浮かべ、決心したように頷いた。


「全国で優勝したら告白する。負けたら……諦める」


 そして寺坂はぎゅっと自分の両拳を握りしめた。それを見た親友二人は、とても温かい笑みを浮かべ。


「じゃあ絶対告白だな。な、忠臣」

「そうだね、いづっちゃん!」


 伊津と中里は互いの拳をこつんと合わせ。


「ほら、清文」

「てらっち」


 三人は拳を合わせる。

 親友のために、三人は誓い合う。

 一人は、勇気を出すために。

 一人は、幼馴染に勇気を与えるために。

 一人は、二人を支えるために。



   正義/2



 ホトホトラビットのテラス席で、僕らは神奈川県県大会の動画を再生していた。

 予想はしていたが、やはり優勝は高天高校のチーム・天継。そんな彼女らの戦いを見た僕らは、大きくため息をついた。

 一言で表すのなら、彼らは『臨機応変』だった。

 ティエナクラストフが前線に上がった途端に、一人ひとり差はあれど彼女らは次のために動いていた。それも何も言い合わずとも、だ。


「やっぱ天継だったな」


 くぁ、と大きくあくびをしながら晴野先輩がそう言うと。「うむ」と王城先輩が短く応えた。

 僕らはそれぞれの相棒に頼んでホログラムを落とす。


「明日は僕達の決勝……ですね」


 紅茶を飲むが、味は感じられない。


「まぁその話はお前の妹が来てからだな」


 紅茶を飲みながら晴野先輩が言うと、丁度そのタイミングで愛華が扉をくぐってきた。

 何とか笑顔を作って、手をあげる。それに気付いた愛華はカウンターにいる親父さんにぺこりと頭を下げて、僕らの席にやってきた。


「にぃ」

「遅かったな。どうしたんだ?」

「うちの学校はにぃの学校と正反対にあるんだもん。遅れるのも当たり前じゃん」

「あ。そうだったな、わりぃわりぃ」


 ははは、と笑ってみたが、声が掠れてしまう。


「……なに、この空気」


 愛華は嫌そうに顔をしかめて全員を一度ずつ見た。


「まぁいいから座れって、愛華。親父さーん、紅茶おかわりー」


 親父さんは頷くとすぐにティーカップを持ってきてくれた。


「早速で悪いんだけど、パーフィディ達のこと聞かせてくれよ」


 しかし愛華は肩を竦めて。


「その前に、名前も知らない人がいるんだけど」

「けっ。合コンするわけじゃねぇんだぞ。たりぃ奴だな」


 そんな愛華に噛みつく蓮。


「あんた、名前も知らない相手と話すのが趣味なの? きもっ」

「あぁ!?」


 声を荒らげる蓮を横目に、晴野先輩だけがからからと笑っていた。


「確かにな、わりぃな妹。んじゃ、俺からやるか。俺は晴野輝はれのてる。元弓道部部長で陽光三年だ。お前の兄貴とは校内大会からの付き合いで、高遠とは部活の先輩後輩だ。これからよろしくな」

「よろしく……お願いします」


 さすが対コミュ障最終兵器。愛華の神経を逆撫でせず、極力無駄のない自己紹介で揚げ足すら取らせないとは。


「俺は王城翼おうじょうつばさだ。元空手部部長。天広……太陽との出会いは晴野と同じだ」


 晴野先輩、王城先輩と来たので、僕は風音先輩を見たが。


「私はもう自己紹介済みよ?」

「え?」

「あの後また女子会を開いたの」


 一口紅茶を飲むと、風音先輩は「ね?」と愛華に微笑んだ。愛華は照れ臭そうに目を逸らし、こくりと首肯する。


「お前、夏休みの終わり前に泊まりに行ったのって、風音先輩の家だったのか」

「まぁ、うん」


 愛華は髪先をくるくると弄ぶ。


「となると透子のことは知ってるよな」

「うん」

「じゃあ蓮だな」


 みんなの視線が蓮に向けられる。


「けっ。日代蓮ひしろれん。テメェの兄貴と同じクラスだ」

「ふん」


 この二人は似通っている所があるのだが、それが絶望的に反り合いが悪い。それのせいで仲が悪い……と思いたい。


「おい早くパーフィディの情報よこせよ、ヤンデレ妹」

「うざ」


 いつか蓮が手を出すのではと心配で心配で仕方ない。

 しかしその後愛華がパーフィディ達との馴れ初めを始めても、蓮が手を出すということは特になかった。

 愛華の話を簡単に纏めると。

 学校からの帰り道に〝誰か〟に声をかけられた。それは男で身長は王城先輩と同じぐらい。見た目は細い印象があったらしい。ただ、その〝男〟からは決して敵意ややましい気持ちなど感じられず、あまりにも自然に愛華は〝男〟を信用したらしかった。


「あとは……SHTITを付けたとき、なんかちくりとしたかな……」

「ちくりって……」

「それからよく頭痛がした。普段はSHTIT付けなかったけど、付けてるときだけ……」

「はぁ?」


 僕にはよくわからなかったが、正詠、透子、晴野先輩は頷いた。


「リジェ……リジェクトとファブリケイトのSHTITは少なくとも、初期タイプとは違ったものだったし、何か細工してたんだろ。〝マリオネット〟とか、意味わかんねぇこと言ってたしな」


 リジェクトの名前を出すときに一瞬躊躇った正詠だったが、短く息を吐いてはっきりとリジェクトと言った。


「まぁやっぱりわかんないことだらけだよねぇ」


 遥香が机に突っ伏すと、透子がよしよしと頭を撫でた。

 なんだあれは羨ましい。僕の頭も撫でてくれないかしら。


「わからねぇもんは仕方ないからな。そんじゃあ明日の決勝はどうすんだ、チーム太陽?」


 晴野先輩の言葉に、僕らは正詠と透子を見る。二人は互いに顔を見合わせると、一つ頷くと正詠が口を開いた。


「王城先輩、風音先輩、俺、蓮、遥香で行きます。太陽はやっぱり最後まで隠しておきたい」

「ふーん」


 つまらなそうに晴野先輩は言って、紅茶を一口飲んだ。


「何か……?」


 さすがに不安になったのか、正詠は晴野先輩に聞き返すが。


「俺じゃなくて妹の愛華に聞いたらどうだ? 俺が言っちゃいけねぇことだろうしな」


 唐突に出た愛華の名前に、みんなが首を傾げたが。


「なぁ愛華。お前、言いたいことあるだろ。チーム太陽全員にさ」


 続ける晴野先輩に、愛華は髪の先を弄りながら、小さい声で話し出した。


「にぃ達の試合、つまんない。私はバディタクティクスなんてわかんないけどさ、辛いならやめちゃいなよ」


 それにみんなが息を飲んだ。


「県大会は全部辛そうで、観てて嫌になる……私のリジェクトは、そんな人達に助けてほしかったわけじゃないし」


 愛華はもうSHTITのない左手首をさするような仕草をすると、大きくため息をついた。

 ぴこん。


「ん?」


 SHTITとからの呼び出し音のすぐ後に、ばーんというSEが少しだけ控え目に鳴る。この音が出るということは、こいつらがやることは決まっている。

 我ら、チーム太陽!

 テラスを中心に、フリードリヒやイリーナも入ってあの謎のポーズを取った。


「お前たちは……」


 全くもって愉快な相棒だと、心から思う。


「私に気を遣ってるのか知らないけどさ、そういうのやめてよ。それにあいつらのせいで自分達の楽しみが奪われるのって、癪じゃない?」


 愛華の言葉に静かに頷いた晴野先輩は微笑んで僕を見た。


「どうすんだよ、大将?」


 可愛い妹や先輩にここまで言われちゃあ、僕も今まで通りというわけにはいかないだろう。


「なぁ正詠……」


 正詠は諦めたとでも言いたげにため息をついて。


「わかった、わかったから。で、どうしたいんだよ?」

「県大会決勝は、僕ら全員で出たい。王城先輩達には悪いんだけどさ」


 僕の言葉を聞いて、正詠はとっても大きくため息をついた。


「……と、うちの馬鹿大将が言ってますが、良いですか?」


 そんな正詠の言葉に、王城先輩と風音先輩は一笑して快諾してくれた。


「天継に見せつけてやるといい。貴様らは天を継ぐ者たちかもしれんが、我々は天に輝く太陽なのだと、な」


 しぃん、と空気が静まる。


「……お、俺だってたまにはこういうことも言いたくなるんだからな?」


 照れを隠すように王城先輩は頬を赤く染め、紅茶を口に運んだ。


「おーおー俺らの翼が珍しく照れてら」

「ふふ、翼もそういうこと言えるようになったのね?」

「う、うるさいぞ」


 そんならしくない王城先輩に僕ら後輩も微笑んで、次の決勝戦に向けて派手な作戦を考え始めた。



――……



 決勝戦相手は、海丘高校のチーム・リヴァイアサン。この高校は正詠の弓道大会で拍手を送ってくれた高校だった。


『これより、バディタクティクス千葉県大会の決勝戦を行います。両選手、互いに握手を』


 大会の審判の声で、僕らの相棒達はそれぞれ手を伸ばした。

 大会は基本的にVR施設からネットを介して行うため、マスターとなる僕ら全員が直接顔を合わせるということはない。

 それでも相棒サイズになった僕らは顔を合わせているので、臨場感があるのは変わらない。

 ちなみに、握手をするのは大将となる者同士(勿論マスターも相棒も)だけは必ず互いに行うが、それ以外は好きな相手と握手をする。


「高遠。弓道のときみたく泣くなよ?」

「泣くにしても、この試合は勝って泣きますよ」

「はは、楽しみだ」


 海丘高校のメンバーには弓道大会に参加した先輩もおり、正詠と力強く握手をしていた。


『これより、フィールドへと転送を行います。以降はアナウンスの指示に従っていただけますようお願いします』


 海丘高校のメンバーがノイズを残し消えていく。


「よっしゃ。久しぶりだし全力でいくぞ、テラス」


 テラスは笑みを浮かべて頷く。


「作戦通りに頼むぞ、太陽。わざわざそのために派手な作戦にしてんだからな」


 そんな僕らに釘を刺すように正詠は言った。


「任せろって!」


 元気よく答えた僕に、何故かやれやれとでもいうように頭を振った。


――フィールドは遺跡平原。これより転送いたします。


 全員が細く息を吐きながら、互いの顔を見合うと、僕とテラスは遺跡の天辺に転送されていた。


――制限時間は三十分。三十分で勝負が決さない場合は十五分の延長、延長でも勝負が決さない場合は、生存相棒の人数の差で勝負を決め、生存相棒数が同じ場合は全相棒の体力の総合計が多いチームが勝利となります。


――試合……開始!


 ブザー音が鳴り、まず僕とテラスは周囲を確認した。

 遺跡平原、という名の通り青々しい平原の中に、ぽつりぽつりと遠慮がちに突き出ている石の〝物体〟があった。


「なぁテラス。周りにみんなはいるか?」


 テラスは宙をぼうっと少し見つめると、ふるふると首を振った。


「なぁんか僕らっていつも高い所に飛ばされるよな」


 馬鹿と煙は、と言いたくはないが……何故僕らはいつもこう、高い所に飛ばされるのか。


「んー……でもまぁ、正詠の作戦はやりやすいか」


 僕のその言葉に、テラスは期待に満ちた笑みを浮かべる。


「見せてやろうぜ、テラス。情報初心者ビギナーの戦いってやつをさ!」


 テラスは頷いて、刀の切っ先を空に向けた。


「最高に派手な決勝戦だ!」


 使用する相手もいない、そんな状況で。僕はテラスにアビリティを使用させた。

 火柱が上がるアビリティ。別段珍しくもない、普通のアビリティ。けれど、その派手さだけは一等だ(とはいえ、ヒットすればそれなりのダメージだが)。

 遺跡平原という、現実にはそうそうない場所で、テラスの火柱が赤々と舞い上がる。


「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! チーム太陽の大将、天広太陽と相棒テラスはここだぁぁぁぁぁぁぁぁ! かかってこいよ情報熟練者エキスパート!!」


 全身全霊の宣戦布告は、僕的に大成功だった……と思われる。



   正義/3/掴んだ正義



 その火柱が、彼らが決めた合図だったのだろう。

 それを目指し彼の……天広太陽の仲間は各々の場所から向かった。仲間を呼ぶためならば、彼の相棒のスキルを使用すれば良いだけだ。例えスキルを隠したいというのならば、こんなに目立つ方法をとる必要はない。

 だが、そうしなかった。それにはきっと意味がある。

 ここまで来た相手が、そのようなことに気付かないはずがない。

 仲間は隠れもせずに真っ直ぐに向かい合流したが、相手はそうではない。少し離れた木々に隠れながら、彼らの様子を伺った。

 全員が笑みを浮かべると、彼らは武器を取り出した。


「さぁって……やりますかぁ!」


 大将の太陽が叫ぶと、相棒のテラスは再び刀の切っ先を空に向け た。


「どこに隠れてるかわかんないけど出てこいって!」


 その刀の切っ先からひゅるるという情けない音を立てながら、光る球がゆらゆらとした軌跡を描きながら空へと昇っていく。


「一番、天広太陽とチームのアイドル担当テラスたんです! 属性は炎! 好きなものは二人揃ってサイダーです!」


 その光る球は高い位置で弾けた。

 それはまるで花火のように弾けると、激しく燃える破片を辺り一面に撒き散らした。

 その炎は周りの木々にも飛び火したものの、リヴァイアサンのメンバーは姿を現そうとはせず、その場所から各々が少しずつ離れただけだ。


「二番、那須遥香とチームの拳担当リリィだよ! 属性は風! 私は体を動かすことが大好きです! リリィはお風呂のストレッチが最近のお気に入りみたい!」


 リリィは拳を叩き合わせ、右腕をぐるぐると回し、力強く地面を殴り付ける。するとそれを中心に風が強く吹き荒れ、テラスの炎を延焼させる。


「三番、高遠正詠と作戦参謀担当のロビンだ! 属性は氷! 俺は弓道が好きだ! ロビンは詩集を調べるのが趣味だ!」


 ロビンは矢を天へと放つと、それは氷の矢となり降り注ぐ。


「四番、日代蓮! 属性は雷、チーム太陽の特効担当のノクト! 趣味は読書、ノクトも同じだ! 文句あっか野・郎共!!」


 ノクトが大剣を振り下ろすと、雷が周囲に落ちていく。


「五番、平和島透子です! 属性は水、チームの色々担当のセレナです! り、料理作るのが大好きです! セレナは最近口笛にはまってます!」


 セレナの背後に水の槍が現れ空に発射されると、それらはぶつかり合ってあたりの炎を消した。


「「「「「我ら、チーム太陽!」」」」」


 彼らと彼らの相棒達は、テラスを中心に謎のポーズを取る。

 空気がしんと静まっているのも、彼ら自身はしっかりと理解しているだろう。むしろ、マスター達は頬を赤く染め、今の状況を少なくとも恥ずかしく思っているのは確かだ。


「……決まったな」


 太陽の天広太陽の言葉と共に、他のマスター全員は大きくため息をついた。

 彼らには全く知る由もないのだが、この試合を観戦している人々は口を大きく開けて笑い、拍手を送っている者もいた。


「恥ずかしいよぅ……」


 一番の恥ずかしがり屋の透子は瞳をうるうると濡らしかけていたものの、それでも彼女の相棒はそのような素振りすら見せず細剣をしっかりと構えている。


「けっ……言うな、透子。俺だって恥ずかしい」


 それに応えるのは彼女の幼馴染の日代蓮。彼も透子と同じように頬を真っ赤に染めている。


「いいじゃんいいじゃん! 僕達今最高に輝いてるぜ!」


 チーム太陽の中で唯一達成感を胸にしていた太陽。しかし、そんな彼に向けて一本の矢が放たれた。


「おいおい……ホントに情報熟練者エキスパートはつまらねぇな。キングばっかり狙いやがってよ」


 その矢を掴んだのは蓮の相棒ノクト。マスターと同じ凶暴な笑みを浮かべながら、矢をぱきりと折った。


「おい優等生。あれはテメェの相手だろ」

「わかってるじゃないか素行不良。あの人には……俺が勝つ」

「んじゃあ太陽は俺が守ってやるから全力で行けよ……負けたら承知しねぇぞ、正詠」

「……お前にそんなこと言われちゃあ万が一にも負けなられないな。頼んだからな、蓮」


 戦友らしいやり取りをした後、二人は同時に駆ける。


「遥香、二人の援護は任せた!」


 その二人に幾つもの矢が射られるが、その全てを弾くは拳担当のリリィだ。

 矢の軌道から相手の位置を割り出すことなどAIの相棒には容易い。ならばと相手が考えるのは自然……迎撃である。


「全員、攻撃開始ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 リヴァイアサンの大将の怒号にも似た指示の元、身を潜めていたメンバー全員が一斉に姿を現した。

 それはチーム太陽を一瞬で臨戦態勢とさせ警戒心を高めるが、それでも危機感は抱かせない。

 何故?

 答えはとても簡単でシンプルだ。

 彼らは高天高校とは違うまた信頼を抱いているから、だろう。


「突撃部隊は勝手に頼む! 透子、三人のバックアップを!」

「はい!」


 雨のように矢は放たれ続けるため、それをテラスのアビリティで焼き払う。すかさずリヴァイアサン前衛のメンバーが現れる。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……三人か。後ろは大将と狙撃手スナイパーと見た」


 確認するように独り言を蓮は漏らし、ちらとノクトを見る。ノクトはその視線に気付き頷くと、より強く大剣を握りしめる。


「あとで太陽が透子を上がらせるだろう。それまで耐えられるよな、蓮」

「けっ。誰に言ってやがる」

「そりゃあチーム太陽の特攻隊長様にだろ」

「今はテメェが特攻の役目だろうが」


 ロビンとノクトは互いを見て頷いた。


「負けんなよ、正詠」

「あぁ!」


 ノクトが大剣を横に強く振るうと、それは真空を生み出しながら雷を纏った。


――スキル、速攻。ランクAが発動します。機動と攻撃が上昇します。


 一気に加速するロビンの背中を、ノクトが放った一撃が追いかける。たまらずリヴァイアサンのメンバーは全員退避の姿勢を取るが後方は違う。上方から正詠の進軍を防ぐように矢が降り注がれる。これこそが、狙撃手の役目といえるだろう。


「やっぱ簡単にはやらせてもらえないよな」


 変わらず矢が降り注ぐ中、ロビンは走りながら弓を空へと引き絞る。


「驟雨!」


 放たれた矢は上空で幾重にも別れ、リヴァイアサンの狙撃手が放った矢をいくつか相殺したものの、それでも全てではない。


「ロビン、最小限で回避だ。多少のダメージは耐えてくれるか?」


 正詠の指示にロビンは笑みで答え、より足を速める。


「セレナ、ロビンにガードアップ!」

「テラス、他力本願セット、ガードアップ、ターゲットロビン!」


――スキル、他力本願。ランクEXが発動しました。アビリティガードアップCがランクアップし、ガードアップAになります。

――アビリティ、ガードアップA。味方の防御を一定時間上昇させます。


「正詠、まずは一人頼むぜ!」


 太陽の激励の言葉に。


「おう!」


 正詠は真っ直ぐに返す。


――スキル、正射必中。ランクCが発動しました。スキル発動後のみ、自身の攻撃に必中&威力上昇効果を付与します。


 そのアナウンスと共に、ロビンの左肩に矢が刺さる。その様子に正詠は目を大きく見開いた。


「正射必中……」


 狙撃手と名乗るのならば必須ともいえるスキルの一つだ。それをリヴァイアサンの狙撃手が有しているのは当然と言われればそれまでだが。


「俺は……まだ使えない、けど!」


 正詠の胸の内に火が灯る。


「それでも俺は、負けない……!」


 ロビンが口を大きく開けて吠える。肩口の矢を抜き、勢いをより強めて突進した。


「太陽! 派手に頼むぞ!!」


 正詠は太陽に背を向けたまま一喝する。

 それに心震えぬ太陽ではない。


「っしゃあ! いくぞテラス!」


 テラスはロビンの進行方向へと刀の切っ先を向ける。


「他力本願、セット!」

「あいつにそのスキルを使わせるなぁぁぁぁぁぁ!」


 リヴァイアサン前衛三人が一気に太陽に向かってくるが、それを守るように立つのは蓮と遥香の二人。


「いっくよー!」

「おらぁぁぁぁかかってこい!!」


 前衛三人の猛攻を防ぎ切り、大将を守り切る。


「使うのは正詠の氷輝ひょうき!」


――スキル、他力本願。ランクEXが発動しました。アビリティ氷輝Aがランクアップし、氷輝EXになります。

――アビリティ、氷輝EX。直線状に超長距離の超威力自属性物理依存の攻撃を行います。アビリティ発動と同時に、自身にランクに応じ反動ダメージが発生します。


 アビリティ、氷輝。リベリオンに放たれた騙すための攻撃だ。


「今度は勝つために使うアビリティだ!」


 皆の隙間を縫うように放たれるその一撃に、リヴァイアサンの前衛一人が巻き込まれ戦闘不能となる。


「っしゃあ! チーム太陽、全軍進撃開始ぃぃぃぃぃぃぃ!! テラスは後で行く!」


 派手な一撃にリヴァイアサンの陣営が崩れる。

 それを情報初心者ビギナーは見逃さない。

 情報熟練者エキスパートを下すのは、彼らにとっては慣れっこなのだから。

 乱れた陣営へのチーム太陽の猛攻は完璧だ。各々が役割を理解し、一人、また一人と相手を下していく。そして最後に残るは、やはり後衛の二人。

 しかしそれが硬い。

 最後の砦とも取れる堅実な壁を、チーム太陽は崩せずにいた。

 五対二。圧倒的有利な状況であるはずなのに。


「ディアス、リビアナの支援に回れ! 天広が来るぞ!」


 リヴァイアサンの狙撃手スナイパー……藤田 盛孝(ふじた もりたか)の相棒、ディアスは自軍の大将の支援へとすぐに足を向ける。

 ロビンからの致命的な攻撃は全て確実に防ぎ、反撃で放たれる一撃。それに正詠は攻めあぐねる。

 勿論、それだけではない。大将の葉加瀬 百合(はかせ ゆり)の相棒リビアナは、隠密に向いた相棒だ。隠れる場所の少ないというのに、彼女はすぐにチーム太陽から逃れていく。

 それでも、チーム太陽は笑みを浮かべていた。


「リビアナ、隠密!」


――スキル、隠密。ランクAが発動しました。一時的に索敵から逃れます。Aランク以上の場合機動が上昇します。


 またリビアナが姿を消すが。


「リリィ、柔軟思考!」


――スキル、柔軟思考。ランクC+が発動しました。ランクに応じて、一定時間条件を満たす未取得スキルが使用可能となります。


「かくれんぼの必勝法はぁ!」


 遥香の確信めいた発言を察したリリィが拳を振りかぶる。


「隠れられるところ全部ぶっ壊ーす!!」


 実際、所々に石碑が存在している程度のフィールド。それならば、と。


「リリィ、格好いいとこ見せてよね!」


 ただただ、それすら全てぶち壊す。

 拳が地面にめり込むと、それと同時に彼女の前方を扇状に暴風が吹き荒ぶ。


――スキル、柔軟思考発動中です。スキル発動、疾風勁草しっぷうけいそうC。スキル使用者の攻撃が小時間、前方のみの自属性範囲攻撃となります。


 その暴風は隠れられるであろう石碑すら消し飛ばす。


「かくれんぼより鬼ごっこのほうが得意なんだよね、私!」


 その様に顔をしかめる葉加瀬とリビアナは、武器である短刀を構えた。


「葉加瀬! お前は退け!」


 リビアナの前にディアスは立ち弓を引く。狙いはリリィ、だが。


「あんたには俺が勝つ!」


 リリィの前に、ロビンが同じように弓を引きつつ立つ。


「ディアス! 全力で行くぞ!」


――スキル、正射必中。ランクCが発動しました。スキル発動後のみ、自身の攻撃に必中&威力上昇効果を付与します。

――スキル、一撃必殺。ランクCが発動しました。攻撃の威力が上昇します。

――スキル、気合。ランクAが発動しました。全ステータスが一時的に上昇します。


「これで立ってたら褒めてやるよ、高遠!」

「ロビン!」


――スキル、柯会之盟。ランクBが発動しています。盟約設定により、ロビンの攻撃が一時的に上昇しました。また一度のみ攻撃に必中が付与されました。


 互いに充分に絞られた弓から、矢が放たれる。弦の音は空気すら振動させ、その一撃がどれほど強力なのかを物語る。


「互いに必中付きなら、俺のほうが……!」


 しかし、正詠は一人で戦っているわけではない。

 そしてまた、仲間の盾として戦う彼も校内大会で変わっているのだ。


「俺のダチに簡単に手は出させねぇよ」


――スキル、誓いの盾。ランクAが発動します。自相棒の近距離にいる味方を対象、もしくは対象にされた場合のみ使用可能。ランクに応じた回数分、相手の攻撃を無効化します。


「誓いの盾なら弾けることは実証済みだ」


 どれほどの攻撃であろうと、蓮のスキル〝誓いの盾〟は防ぐことが可能だ。それは夏休みの間、彼らがあらゆる攻撃で試し、調べてみた結果だ。その検証の中には勿論、〝晴野〟のスキルも含めてだ。


「一人じゃ勝てないってことかよ、高遠……」


 負け惜しみだ。藤田もそれをわかって口にしている。その証拠に彼は笑みを浮かべているのだ。


「そうですよ。だから俺は……こいつらや、晴野先輩達と一緒に貴方に勝ちます!」


 ディアスの胸に一本、矢が刺さる。

 ディアス自身も、この敗北は受け入れた。だがまだ一人、リヴァイアサンは残っている。


「あと十分!」


 リヴァイアサンの大将は瞳に涙を浮かべ、声を張る。


「あなた達なんかに、リヴァイアサンは負けない! 今年で最後だから……私たちは一杯頑張ったんだ!」


 リビアナは短刀を地に刺し。


「鬼ごっこだろうとなんだろうと、延長戦まで行って勝ってやる!」


――スキル、疾風勁草。ランクBが発動しました。スキル使用者の攻撃が小時間、前方のみの自属性範囲攻撃となります。


 それは偶然にもリリィの柔軟思考で発動したスキルと同じスキルだった。彼女の属性は〝地〟。地面が隆起し太陽たちの視界を奪ったのだが。


「私は逃げきって……」


 逃げる……その選択肢は彼女にとっては間違いだった。

 校内大会を知らない彼女は知らないだろう。以前彼らから逃げようとして、悲惨な最期を迎えた相手がいたということを。


「逃がしません!」


 まず向かったのは透子のセレナ。軽い身のこなしでその岩を乗り越えていき。


「私達から逃げられるとか思わないでよね!」


 次に向かうは遥香のリリィ。先に進んだセレナよりも早く前に出る。


「邪魔だぁぁぁぁぁ!」


 足の遅い蓮のノクトは眼前の岩を吹き飛ばし。


「ここは狙撃手スナイパーの俺が!」


 開かれた道へ真っ直ぐ弓を構える正詠のロビン。


「テラス、決めるのは僕達だ!」


 最後に走るは太陽のテラス。全員が向かったのは、高天高校と同じになったのは皮肉か必然か。


「リビアナ、隠密を……!」

「させねぇ!!」


――スキル、勇猛果敢。ランクBが発動しました。相手スキル発動時、自身の全ステータスを上昇させた上で先制攻撃を行います。また、確率で相手のスキル効果を打ち消します。スキル効果を打ち消せなかった場合、使用される予定であったスキルの効果を自らが受けます。


 ノクトの攻撃がヒットし、リビアナの態勢を崩した。

 とす、とそんな彼女の左膝に矢が刺さり。


「なんで、情報初心者ビギナーなのさ!? 王城達になら負けても……良かったのに……!」


 その言葉に、チーム太陽全員が目を大きく見開いた。誰もがトドメをと思っていたというのに、一旦深呼吸をして攻撃の手を止めた。


「負けてもいいなんて言わないでくださいよ」


 それはテラスの一撃を待つための、僅かな間。


「あなたの相棒はそんなこと思っていないのに」


 テラスの刀に炎が纏われ。


「……そんなのっ!」

「大丈夫ですよ、僕らはあなたの気持ちも背負って勝ちますから!」


 炎刃は確かに、リビアナを斬り付け。


「あーもう……ごめんね、みんな……」


――リビアナ、戦闘不能。よって、チーム・太陽の勝利です。


 勝負は、決したのだ。



   正義/4



 勝者を告げるアナウンスと共に、僕らはフルダイブから戻ってくる。

 機器を外した僕らを出迎えてくれたのは、地下演習場一杯の拍手喝采だった。


「よっしゃ……!」


 良い勝負だったと思う。

 全員楽しんでいたし、今までの県大会とはまた違った達成感が確かにあった。


「よく勝った。まぁ、負けるとは思っていなかったがな」


 立ち上がろうとした僕に、手を差し出してくれたのは王城先輩だった。


「はは……でもやっぱ強かったっすわ」

「それも仕方ない。決勝だぞ、簡単なわけがない。けれど勝ったのはお前達だ」


 王城先輩の手を掴みながら、僕は立ち上がる。

 みんなは既に立ち上がって僕らに瞳を向けていた。


「よし、集合。全員集合」


 皆思い思いの顔をしているが、ちゃんと円陣を組んでくれる。その中には勿論、王城先輩と風音先輩もいた。


「我らチーム太陽! 大勝利!!」

「あぁ!」

「うん!」

「おう!」

「はい!」

「えぇ!」

「うむ!」


 そして円陣の中央で相棒達はいつものポーズと共にばーんという音を鳴らした。


「……決まった」


 悦に入っていると、ぴこんというテラスの呼び出し音。


「どうした?」


――チーム太陽!


 ほくほくとした笑顔でテラスは僕を見上げている。

 はっきり言ってとても可愛い。

 テラスたん可愛いよ、テラスたん。


「太陽」


 僕がテラスと戯れていると、正詠が肩をぽんと叩く。


「次は、全国だ」


 正詠の瞳には涙が浮かんでいた。


「何泣いてんだよ?」

「夢だったからに、決まってんだろうが」


 涙を溢さぬよう拭って、正詠は僕以外の顔も見た。


「あぁ、もう。王城先輩、風音先輩、遥香、蓮、透子……みんなのおかげで……」


 しかし感極まったのか、その涙は溢れていく。


「弓道じゃ全国行けなかったけど、バディタクティクスで行けたんだ……嬉しい、なぁ……」


 そんな正詠の背中を、遥香は笑顔で擦る。


「正詠、ずっと言ってたもんね。バディタクティクスで全国に行きたいって」

「ガキの頃から、ずっと、ずっとだ……馬鹿太陽のせいだからな……あーちくしょう、涙が止まらねぇ!」


 そんな様子を見た蓮は茶化しもせずに。


「泣いてんじゃ……ねぇぞ、馬鹿優等生。全国で優勝してから泣けよな……」


 熱い言葉をかける。

 そんな蓮も正詠の涙にもらい泣きしている。


「高遠、晴野が待っているぞ」

「はい……!」


 そのまま正詠は先に地下演習場から出ていった。


「さて、俺達も行くぞ」


 王城先輩の言葉に、みんなは頷いて歩き出し地下演習場の大きな扉を開けると、わぁっと大歓声が上がった。


――よっ、チーム太陽!

――さっすがトラブルメーカー!

――全国頑張れよ!

――やるなぁ! ナマコの太陽!


 クラスメイト達はそれぞれが言いたいことを言って僕らを歓迎したてくれた。

その中には勿論王城先輩達のクラスメイトや、今まで戦った人達もいた。


――次は初戦で負けるなよ、王城!


「無論だ。チーム太陽は最強だ。負けるわけがない」


 冷静に答える王城先輩はとても頼もしく。


――桜ちゃん、今度はあなたが派手に暴れてよね!


「当たり前じゃない。チーム太陽はパフォーマンスも最強なのよ?」


 嬉しそうに歓迎を受ける風音先輩は可愛らしい。

 決して広くはない廊下の両脇は一杯の人がいて、それはまさに凱旋だ。

 その真っ直ぐ先で、正詠は晴野先輩に頭をぐっしゃぐっしゃと撫でられていた。


「おーチーム太陽御一行!」


 僕らに気付いた晴野先輩は正詠の背中を一度叩くと、僕らへと足を向ける。


「よくやったな!」


 嬉しそうに笑うその姿に、胸の内が熱くなる。


「次は全国優勝っすよ!」

「言いやがったな、生意気な情報初心者(ビギナー)め! この野郎!」


 ぐしゃりと頭を撫でられる。それがとても心地良い。

 しかし、その空気は長くは続かなかった。


――え、嘘……。

――おいおいあれって天王寺ステラじゃん!

――美人……。

――てか天継全員いるじゃん、しかもあっちの校長とうちの校長も一緒だし……。

――なんでだ?


 地下演習場の階段を降りてきたのは、陽光の校長とチーム天継、そして高天高校の校長だった(ちなみに以前チーム天継を調べたときにこの人の写真が載ってた)。


「やぁ」


 人の良さそうな顔で挨拶したのは、うちの校長。その隣には厳つい顔をした高天高校の校長だ。


「彼らが?」

「そうだよ。たった今うちの代表になったんだ」


 二人の校長は僕らのことも気にせずに話し始める。


「また二年が主軸とは……我堂(がどう)さん、少々全国を甘く見すぎでは? だからいつも初戦で敗退するんですよ」

「はっはっはっ、手厳しいねぇ……水無(みずなし)くんは」


 朗らかに笑ったうちの校長に対して、蓮は舌打ちして「けっ」と悪態をついた。


「良い気分が台無しだ。くだらねぇ……俺は先に喫茶店に行ってる」


 相手の脇を通り抜けようとした蓮の前に、長い黒髪の男が立った。


「どけよ、ロン毛」

「挨拶もなしかよ、情報初心者(ビギナー)


 その男は蓮よりも背は高く、ガタイも良い。

 先程の歓声はいつの間にか消えていて、周りの生徒はひそひそと二人のことを話し始めていた。

 こういったのは蓮が一番嫌いな雰囲気だ。セレナが電子遭難(サイバーディストレス)したときも、こんな雰囲気で机蹴っ飛ばしてたし。


「全国で嫌でも挨拶してやるよ」


 わざと肩をぶつけて蓮はその場を後にした。

 喧嘩とかにならなくてホント良かった……けど。

 正直、気分悪い。


寺坂(てらさか)、謝りなよ」


 猫のようなふわふわな髪の女の子が、長髪の男に言った。


「はぁ? なんでだよ、神海(こうみ)?」


 寺坂……寺坂さんは首を傾げて、コウミさんという女の子に問い返した。


「今のはあんたが悪い」

「お前が悪い」

「てらっちが悪いね」

「キヨフミが悪いよぉ」


 四人から一斉に言われたからか、寺坂さんは頭を掻いて「悪かったな」と目を逸らしながら言った。


「さっきの子にも初戦でちゃんと謝りなヨ、キヨフミ?」

「わーってる。ステラもうるせぇなぁ……」

「キヨフミはゴージョーだなぁ」

「ホンット、うるせぇなぁ。さっさと行きましょうよ、校長」


 校長二人は互いに顔を見合わせ困ったような笑みを浮かべた。

 うち(高天)の生徒がすみません。

 いやいや、(陽光)の生徒も悪いから。

 きっと今の笑顔にはそういったやり取りがあったに違いない。


「じゃ、全国も応援しているよ。チーム太陽のみんな」


 一人ずつ肩に手を置きながら笑顔を向け、校長先生二人とチーム天継はさっき僕らがいた地下演習場へ向かっていった。


「……決勝が終わった地下演習場に何の用があるんだろ?」


 疑問がそのまま口に出た。


「珍しいことではない。他校の施設を見学するのは勉強になるからな。高天のは型も古いし、陽光の最新機器でも見に来たのだろう」


 僕の疑問に答えたのは王城先輩だ。


「それよりも早くホトホトラビットに行こうぜ? 日代の奴、絶対頭に血が昇って俺達に愚痴こぼしたいに決まってるぜ」


 笑いながら言って、晴野先輩は一番前を歩きだした。


 学校を出た僕らはホトホトラビットに到着したのだが、店のドアには〝本日休業〟のプレートが下げられていた。


「あれ……?」


 僕は後ろにいる正詠に振り返りながら問いかけた。


「入っても大丈夫だよな、これ」

「決勝が終わったら行くという話はしてたし、大丈夫だと思うけどな……」


 正詠は前に出て、ドアを押した。

 蓮特性のドアベルが気持ちよく鳴ると、ぱぁんとクラッカーが鳴らされた。


「よくやった、坊主共!」


 入り口正面のカウンター前で、蓮の親父さんがにかっと歯を見せて立っていた。

 クラッカーはどうやら親父さんが鳴らしたようだ。


「ありがと、ございま、す」


 驚きの余り上手く喋れない正詠を他所に、親父さんは全員の頭を一度ずつ撫で。


「ほらほら、テラスに行けって!」


 ぴこん。


「んぁ?」

「あーすみません。僕のテラスがテラス席って言葉に反応してるんです」


 テラスはくるくると回転しながら僕の目の前に現れた。


「お前はいい加減テラス席と自分の名前の違いを覚えろよ」


 お約束なのです。

 良い笑顔でメッセージを表示したテラスの頭を軽く撫でて、僕らはテラス席に向かった。


「うわっ、すっごーい!!」


 遥香が驚きの声を上げるのも無理はない。

 テーブルの上には色とりどりの料理が並べられており、それは出来立てなのか湯気がほんのりと立っている。


「今日はお前達の優勝祝いだ!」


 ばしんと一際強く僕は背中を叩かれる。


「いや、でもお金が……」


 いつもの紅茶とかポテトとかなら素直に喜べるが、これはちょっと贅沢すぎるし申し訳ない。


「安心しろ、お前達のご両親と連絡取ってな、料金はもういただいてるんだ」


 ふん、と胸を張る親父さん。さすがは商売人だ。抜け目ない。


「となると、がっつりと食わないとな!」


 僕はすぐに席に座り、早速箸を取ろうとしたのだが。


「馬鹿太陽。蓮がまだだろ、あいつが来てからだ」


 僕の頭をぺしりと叩いた正詠は言いながら僕の隣に座った。


「おーい、馬鹿息子。友達が来たんだから早く仕上げろー」


 親父さんがキッチンに向けてそう言うと。


「うるせー馬鹿親父!! 帰って来て早々手伝わせといて何言ってんだ!」


 キッチンから蓮の声がした。

 それから全員が席に座るのとほぼ同時に、キッチンからコック帽とエプロンを巻いて現れる。


「火は止めといたから後は親父がやれよ」

「がっはっはっ! しゃーねぇなぁ!」


 やれやれと首を振りつつ、蓮は最後の席に座り帽子を外した。


「何見てんだよ?」


 少し新鮮な蓮の姿に、僕らは頬を緩めた。


「それじゃあ天広、音頭は任せるぜ?」


 晴野先輩は頬杖をついて僕に言った。


「お、おす」


 僕はアイスティーの淹れられたグラスを手に立ち上がる。


「手短にしろよ、太陽」

「そうだよー、太陽」


 幼馴染二人はからかうように笑い。


「早くしろ、太陽」

「早く早く、太陽くん」


 蓮と透子のペアも同じく微笑んでいた。


「えーあーんー……本日はお日柄も良くぅ……」


 さてどうしようかと口ごもる。


「っしゃあ優勝おめでとうかんぱーい!!」


 その隙に晴野先輩が音頭を取った。


「「「「「「かんぱーーい!」」」」」」

「ひどくなぁい!?」


 一笑と共に、皆はグラスを鳴らし合う。


「晴野先輩はまったく、晴野先輩は……」

「へへ、笑えりゃいいんだよ」


 そりゃあそうだけども……。


「って、あれ?」


 すぐには気付かなかったが、テーブルの中央には小さな小皿と、これまた小さなグラスが並べられていた。


「これって……」

「お前さん達の相棒の分だ。いつもミルクピッチャーじゃ味気ないだろ? 特注品なんだぜ?」


 親父さんは新しい料理をテーブルに置きながらそう言った。


「ありがとうございます。でも数が多い気が……」


 グラスは僕ら全員の分よりも一つだけ多かった。


「あーそれか。俺のアンゴラの分だ。ほれ、アンゴラ。お客さんに説明してやりな」


 親父さんの一言で、ごつい見た目の相棒がテーブルに現れる。それが合図かのように、僕らの相棒もテーブルの中央に集まった。


「おーおーわちゃわちゃと賑やかだねぇ」


 ははは、と笑った親父さんはまたキッチンへと戻っていった。

 その中にはイリーナもいたため、あれ、と思い風音先輩に聞いてみる。


「あ、そういや風音先輩?」

「何かしら?」


 ストローから口を離した風音先輩はにこりと微笑み応える。そんな姿に少しばかりどきりとした。


「えーっと、その……イリーナっていつから出てくるようになったんですか?」


 夏休みに入る前には、確か表に出てこないと言ってた気がしたが。


「あら。勿論、乙女の秘密よ?」

「え」

「ヒントは笑顔。これ以上は教えてあげないわ」


 イリーナと風音先輩は互いに微笑み合う。


「あー……笑顔で話しかけでもしたんですか?」


 前はイリーナの話をする度に辛そうな顔してたし。


「……ひ・み・つ」


 風音先輩はとても嬉しそうにそう言うと、遥香や透子を見てまた微笑んだ。


「女の子って怖いなぁ……な、テラス?」


 同じ女の子のテラスに目線を向けると。


「……いや、そういう着替えあるなら水着いらなかったろ、やっぱ」


 テラスはいつの間にか巫女衣装に着替えて、儀式で使うような派手な刀を舞っていた。そのせいか僕の言葉は届いていないらしい。


「多分、無料分だろ。お前のテラスはそういうの探すの上手いよな」


 新しく出てきたグラタンを取りながら、正詠は言う。そんな正詠のグラタンをちらりと遥香が見た。正詠は自分の分を遥香に渡して、またグラタンをと取る。


「ロビンとかは着替えたりしないのか?」

「俺のロビンはキレたら着替えるんじゃないか、前みたく」


 正詠は自虐を含めた言葉を漏らし、机の中央にいるロビンを見た。


「そういういじりにくいことを言うなよ、正詠」

「ははは。にしても、お前のテラス中々な踊りだぞ。みんな見てるぜ?」


 今の僕の位置では背中しか見えない。仕方なく移動しつつ、そのついでにパスタとから揚げを取る。


「いつ教えたんだよ、太陽?」


 蓮は珍しく穏やかな笑みを浮かべながら僕に聞いてくる。


「夏休み前に勝手に動画観てたし、それで覚えたのかも」


 こういうところは僕と同じで、余計なことだけは覚えが良い。

 よいしょとテラスの正面に座ると、テラスは僕を見てにっこり微笑みながらも舞い続ける。


「へぇ……」


 蓮があんな笑顔を浮かべたのもわかる気がする。

 ロビンが作った氷の小さな山に模した塊に、ノクトが雷を纏わせることで幻想的な明かりがテラスを照らしていた。

 そして、イリーナがフルートを吹きつつ、リリィ、セレナ、フリードリヒ、踊遊鬼、アンゴラはリズムに合わせて手を叩いていた。


「なぁ、みんな。これ見てみろって。やばいぞ」


 食事をしていた全員がその姿を見て、同じように優しく微笑んだ。


 テラスの舞いは、美しかった。

 耳を澄ましてみると、小さく鈴の音が聞こえ、それが彼女の動きに合わせ幻想的に奏でられる。

 それを見つめる僕らだけではなく、相棒達も温かい笑みを浮かべている。

 やがて舞いが佳境に入ると、テラスは一人ずつ相棒の肩を優しく叩いていく。すると肩を叩かれた相棒は立ち上がり、彼女と舞い始めた。

 それに僕らは息を飲んだ。

 あまりにもそれは協調が取れていて、それでも一人ひとりの特徴を活かしていたからだ。

 イリーナはフルートを奏でつつも、妖精のように舞い上がり翡翠の粒子を周囲へ撒く。

 ロビンとセレナはイリーナの粒子に蒼い氷片を散らしつつ、静かに場を盛り上げ。

 ノクトは全員の周りに小さな火花を閃光のように灯す。

 リリィと踊遊鬼の二人は互いに手を取りながら、テラスの舞いへと参加した。

 フリードリヒとアンゴラはいつの間にか小さな太鼓を手でリズム良く鳴らしている。


「綺麗……」


 透子がぽそりと漏らし、僕らは頷いた。

 そしてテラス以外が彼女の背後に回り込むと、テラスは刀の切っ先を頭上に向け、そこから花火を上げた。

 それはぽんと弾け〝祝・チーム太陽、優勝!〟と、きらきらとした文字を映した。

 それが終わりだったのだろう。彼らは横一列に並んで、深く頭を下げた。

 僕らは彼女らに拍手を送る。


「透子、写真!」

「そうだね、遥香ちゃん!」


 二人は、やりきったという顔をしている相棒全員の姿をスマホに収めていく。


「やるじゃん、テラス」


 ぴこん。

 舞踊も役に立つのです!


「ははは、そうだな。前は悪かったよ」


 わかればいいのです!

 全く、可愛いやつだ。


「さて、ここで現実に戻ってもらうのだが」


 まだみんながテラス達の踊りに余韻に浸っていると、おほん、と正詠は咳払いしてそう言った。


「全国の県大会が終わって、全都道府県の出場校が決まった」

「マジか!?」


 その話に喰いついたのは晴野先輩だ。口の端から骨付き肉がはみ出ているのが、残念な感じを醸し出している。


「えーっと……」

「北海道はどこだ?」


 正詠がホログラムを見ている最中に、王城先輩が口を出す。


「あー北海道は王城先輩の予想通り桜陽ですね。ってかネットの人気順位を言ったほうが早いな」


 正詠は笑みを浮かべて。


「驚くぞ?」

「もったいぶんな優等生。さっさと言え」

「そうだそうだー!」


 蓮と遥香に煽られ、正詠は短く笑った。


「まず第十位は新潟の荷稲高校『ブラストスノウ』、第九位は広島の呉第一工業大付属高校『大和』、第八位は大阪の近畿中央高校の『たこ焼き焼きまっせ』……」


 大阪で数人が紅茶を吹く。


「なんだよその変な名前……面白すぎるだろ」


 負けた気がする。大阪らしいと言えばらしいけども。


「言っとくがスペシャルアビリティ持ちが一人いたぞ。高校生漫才大会で優勝した奴がいるらしい」

「やめ……やめて、正詠くん……!」


 大阪のチーム名やスペシャルアビリティで一番ツボってしまったのは、どうやら透子らしい。


「……これでも強いんだからな、マジで。んで、第七位は沖縄の美ら海高校『蒼海』、第六位は青森の青山高校『りんごりん』、第五位は千葉……俺達陽光高校『チーム太陽』だ」

「青森のチーム名も気になるけど、なんで俺らはチームってのが頭に付いてるんだよ」


 一応蓮が突っ込む。

 というかそれよりも僕らがネットでの人気順位で十位以内ってすごくない?


「俺達がチーム太陽チーム太陽言いすぎたせいで『チーム太陽』っていうチーム名と覚えられてんだろ。あと少しだからさくさくっと行くぞ。第四位は鹿児島県の鹿島高校『ボルケイノ』、第三位は北海道の桜陽高校『桜花絢爛』、第二位は静岡の富士南高校『緑茶』、第一位は神奈川の高天高校『天継』だ」


 言い切って正詠は細く息を吐く。


「この中でも去年のバトルロイヤルを勝ち抜いたのは高天、桜陽、近畿中央、呉第一、富士南か。まぁ当然っちゃ当然だな」


 晴野先輩が納得するように言葉にする。さっきから止まることなく口に食べ物を詰めていたにも関わらず、ちゃんと話を聞いているとか中々やる。やばい。このままでは晴野先輩に全部食われる。そう思ったのは僕だけではなく遥香もらしく、すでに料理に手を伸ばしていた。


「あ、太陽。そのたこ焼きは数が少ない、ちゃんと分けろ」

「やだぷー」


 たこ焼きに手を伸ばすと正詠の制止が入る。それを無視して僕はたこ焼きをぽぽいと口に二個入れて、予想通りというかお約束というか口を火傷した。


「あふい」

「はは、ざまぁ」


 感情のない声で言った正詠は余ったたこ焼きを冷ましながら頬張った。


「それで、バトルロワイアルは誰が出る? 去年に倣い俺と風音にするか?」


 王城先輩はアップルパイを食べながら正詠を見た。そんな正詠は透子に視線を向ける。


「バトルロワイヤルってなんすか?」


 アイスティーで口を冷ましながら聞いてみると。


「全国は初戦……いえ、予選というべきかしら? 最初の戦いは四十七都道府県のチームから、二名ずつ選出して戦う試合なの。相棒数総勢九十四体が入り乱れて戦う姿は暴れ甲斐があるわよ」


 ほほほ、などと上品に笑っているが、その目は校内大会決勝の時のように狂暴だ。


「んで、そこで半分にまで数を減らして、そこからトーナメントだ。最も多く相手を倒したチームはシード件ももらえるんだぜ? 残れるのは二十三チーム、あぶれたチームがシードってわけだ」


 晴野先輩は満足したのか紅茶を口に運ぶ。


「県大会決勝みたく派手に暴れろよ?」


 にやりと笑った晴野先輩に、僕らは笑顔を返す。


「おい、あのロン毛が出たら俺にやらせろ」


 良い感じでまとまりそうだったのに、蓮は口を出した。


「今回は出番なしだ。お前の戦い方じゃあ複数人相手に向かないだろ? 今回は我慢しとけよ。高天とは絶対に当たるしな」

「……じゃあ誰が出るんだよ?」

「うちで一番血の気が多くて、派手で、機動力が高くて、広範囲攻撃も持ってて、目立つのが好きで、暴れることが生き甲斐みたいなのが二人いるだろ」


 ぽりぽりと頬を掻きつつ、正詠はその二人を見た。

 その視線を辿ってみると、そこには遥香の頬に付いた米粒を取っている風音先輩がいた。


「……正詠、もしかしてあの二人か?」

「あぁ」


 そのまま僕は蓮を見た。


「……うちのおっかねぇ女代表じゃねぇかよ」


 一応蓮は小さな声で呟いたのだが、風音先輩は蓮に顔を向けて。


「いつでも再戦してあげるわよ、ひ・し・ろ・く・ん?」


 ぞわりと背筋が震える。


「おい蓮、謝れよ」

「す、すみません……風音先輩」

「素直でよろしい」


 あの人、やっぱ地獄耳だわ。


「というわけでだ、太陽」


 正詠はぽんと僕の背中を叩いた。


「ここまで来たら全国優勝狙うぞ」

「おうよ、当然だ! 絶対に……」


――助けて、お兄、ちゃん。お姉ちゃ、ん。


 ちくりと、胸が痛む。


「……どうした?」

「どうかしたの、太陽くん?」

「何暗い顔してんのよ、太陽」

「らしくねぇ面すんなよ、太陽」

「天広、何があった?」

「大丈夫?」

「なんだなんだ、どうしたってんだ?」


 その痛みは、痺れるように辛いが。


「わりぃわりぃ、食いすぎてゲップ出そうになった。絶対優勝しようぜ!」


 決して忘れてはいけないから。


「よっしゃあ、チーム太陽! 目指すは全国優勝だ!」


 もう、あんな思いするのは……嫌だから。

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