第四章 みんなで夏休み
そして遂にやって来てしまった実力テスト。準備は充分にしたはずだが、それでもこの時間はかなり緊張する。
「やるぜぇ、僕は超やるぜぇ……」
なんとか自分を奮い立たせ、テスト開始を待つ。
ぴこん。
きっと大丈夫です。いつも通り、あなたらしく問題を解いてください。
「おぅ、任せろぉ……」
そして予鈴が鳴ると同時に、最初の科目数学のテストが配られた。
今日のテストは、数学ⅡとB、英語、ヒアリング英語、そして現代文。
「では、始め」
本鈴と共に、テストという戦いに僕は挑戦を開始した。
――……
テスト一日目、なんとか乗り越えた。いつものホトホトラビットで、僕らはみんなで答え合わせをしていたのだが。
「だからここは〝世を憂う〟だろう?」
「違うぞ、優等生。それじゃあ後ろの文に繋がらねぇ。〝世に希望を持つ〟が正しい」
現代文の答え合わせで正詠と蓮がヒートアップしていた。
「……待て。マジか、ロビン」
ぴこん。
マジです、マスター。
「くそ、現代文じゃあ蓮に勝てないかもな」
「現代文で俺に勝とうなんて百年早い」
と、蓮は胸を張っているが他の科目で負けているのは言うまでもない。
「もうやめようぜ、勉強なんてしたくない……」
ため息をついて、机の上にいるテラスを撫でる。
気持ち良さそうにするテラスを見て、心が和む。
「とりあえず明後日でテストも終わりだ。ここで誰か一人でも赤点取ったら遊べなくなるからな。わかってるな、太陽、遥香?」
名指しで正詠からキツい一言が飛んできた。
「わかってる……頑張る……」
「私も、頑張る……」
テストはあと二日。僕の残りは生物、物理、古典、日本史、政治・経済、保健体育……あぁ、しんどい。
――……
そんでテスト最終日。
地獄のテスト週間が終わりを……告げた!
「終わった終わったぁぁぁ!」
勢い良く鞄に教科書やらノートやら参考書を押し込む。夏休みに向けて、ロッカーの中も綺麗にするぜぇ!
「太陽」
「おうよ、正詠! わかってる、ホトホトラビットに集合だろ!? いやっほぅ!!」
「いや、そうなんだが……」
正詠は教室の外を指差した。
「あれ、王城先輩達じゃん」
僕のテンションは急激に通常に戻る。王城先輩と晴野先輩、風音先輩の三人がこちらを見て手招きしていた。
「王城先輩達が仲間になりたそうにこちらを見ている」
「お前の謎のギャグセンスは何なんだ」
正詠がため息をつくとほぼ同時に、僕の机の周りにみんなが集まった。
「おい、おっかねぇ奴等がいやがるぞ」
蓮がその三人を見て、皮肉を漏らす。
「あんた何かしたんでしょ、クソバカ太陽」
遥香からの謂れのない罵倒。
「どうしたんだろ……?」
相変わらず天然っぽい透子。
風音先輩はにっこりと微笑んで、僕達を指差し、そのままくいくいっと指を動かして僕らを誘った。
「おっぱいが僕を誘っている……揉ませてくれるのかな」
ごちんと、四人にそれぞれ殴られた。
「いってぇ……冗談だっての、もう……」
「冗談でも殴らなきゃいけないだろ、今のは」
正詠は再度ため息をついた。
「とりあえず話があるんだろうな、行こうぜ」
鞄を背負い、三人の元に向かう。
「どうかしたんすか、先輩方?」
「あぁ。お前らと少し話したくてな。どこかで話せないか?」
僕の質問に答えたのは王城先輩。
「じゃあホトホトラビットって喫茶店でいいですか?」
「かまわん」
王城先輩が頷くと、風音先輩は両手の指を合わせ、ぱぁっと笑みを浮かべると少し跳ねた。おっぱいも揺れた。すごい。
「まぁ! 学校帰りに喫茶店なんて学生みたいね、翼、晴野!」
「俺達は正真正銘学生だぜ、桜」
「うむ」
「あら、冷たいのね?」
ぷくぅと頬を膨らませた風音先輩の頬を、風音先輩が指で突付いた。二人は楽しそうに笑い合い、それをうんうんと頷きながら王城先輩が見ていた。
三人の意外な姿に少し驚いたが、僕らはが知らないだけでこれが先輩達の普通なのかもしれない。
「じゃあ行きましょうか」
「えぇ、とっても楽しみ!」
王城先輩と晴野先輩の二人は互いの顔を見て肩を竦めた。
「あいつらキャラ変わってねぇか?」
「元からああいう人なのかもよ?」
「元からって……じゃああのお嬢様は元から狂暴ってことかよ」
蓮が「おっかねぇ」とか言ってたのは、どうやら風音先輩のことのようだ。確かにリベリオンの時はおっかなかったけども。
「あの三人は昔から仲が良いぞ。どうやって仲良くなったかは知らんが」
ぺしんと、正詠は蓮の頭を叩いた。
「あんまり悪く言わない方がいいぞ。多分あの人は地獄耳だ」
「何でお前にそんなことわかんだよ?」
蓮の質問に正詠は答えずに、指を差していた。その指先を蓮が辿ると、にっこりと怖い笑顔を浮かべている。
「……おっかねぇ女だ」
「蓮がビビりすぎなんだっての!」
あっはっはっと呑気に遥香は笑っているが、ぶっちゃけ僕も蓮の意見に賛成だった。多分だが正詠も同じ気持ちを抱いているに違いない。というかきっと、あの人は男という男に対して強そうだ。まさに魔性の女。おっぱい大きいし。
「よく王城先輩も晴野先輩も普通にしてられるよなぁ。あんな美人を前にしてさ」
前を歩く三人を見て僕は呟いた。
「俺はない」
「ねぇな」
いやぁ、正詠も蓮もよくはっきり言えるよなぁ。あとでチクっといてやろ、風音先輩に。