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23 射手の本音マヌーヴァー

久々の投稿となります。

久々すぎて忘れたパスワードと奮闘していたら、随分と遅い時間となっていました。

申し訳ございません。

 

 勇者が帰ってこない。

 行方不明というにしては、僅か数十分。

 けれど出かけた先が彼の自宅であり、その道順は見知った王都の通りであるはずだ。

 加えて今来た戦士の口から、魔王の息子が突如姿を消した、と告げられた。

 この二つの出来事が偶然にも同時に起きた……なんてことはなく、何かがあったと考えるほかはないだろう。


 教会の客室にて、俺は射手と戦士の顔を見比べた。

 射手は平静を装っているものの、不安の色をその眼から隠せない。

 戦士は険しい顔つきを浮かべ、日の落ちた外の風景を睨んだ。


「とにかく、僕の言える情報は『見張っていた魔王の息子が突然身をくらました』ということだけです。まだ最悪の事態が起こったというわけではありません。二人はこの場で勇者が帰ってくるのを待っていて下さい」


「本当にそれだけでいいのか? 勇者の帰りが遅すぎる以上、ただ待機するよりも捜索しにでた方が」


「それは憲兵たちに手伝わせます。既に夜は更けており、魔王の息子が何処に出没するか分からない以上、貴方たちを危険にさらす訳にはいきません。情報は逐一伝えますので、どうか教会に留まっていて下さい」


 矢継ぎ早に言うと、戦士は部屋を飛び出した。

 彼を追うこともできたが、俺たちは部屋の中で立ち尽したまま、動くことをしなかった。

 脈絡もなく舞い降りた恐怖で足がすくんでいた。

 伝えられた情報は少なかったが、そこから滑らかに想像される事態が余りに最悪で、しかも容易に起き得ることだったからだ。


 勇者が、魔王の息子に襲われた。


 襲われ「ている」なのかもしれない。

 だからといって、俺たちはすぐに勇者を助け出すことができるわけでもない。

 この闇夜の中、どこにいるかも分からない勇者に危険が迫っている。

 彼は聖剣を取りに自宅へ向かっていた最中のはず。つまり、武器を何も持たない。

 一方の魔王の息子は、鋼線や短刀などの様々な攻撃手段を取りそろえ、しかもゲリラ戦に優れた襲撃者だ。分が悪いにも程がある。


 ……落ち着け。

 戦士も言っていたとおり、今はまだ最悪の事態が起こったと断定できるわけじゃない。

 もしかしたら、勇者は無事に聖剣を取り戻しているかもしれない。逆に勇者が魔王の息子を襲撃したのかもしれない。可能性は何も一つだけじゃなく、幾つも浮かんでくる。


 そうだ。勇者の行方は分からずとも、勇者の安否を知る方法はある。


「なあ、射手。勇者の家は誰でも入ることができるのか? 勿論、鍵は掛かっていると思うけど、非常事態として扉を壊して侵入できるとした場合、にだ」


 射手は俺を、何を言っているのか分からないといった目で見つめる。

 そして首を傾げつつも、質問に答えた。


「そうね……無理だと思うわ。一見すると勇者の家は何の変哲もないボロ家に見えるでしょうけど、仮にも国を護った英雄が住んでいて、王国の宝である聖剣が置かれている場所なのよ。……勇者が気付いているかは知らないけど、国からの命令で、あの家には防御結界が張り巡らされているの。無理矢理に侵入でもしようなら……」


「なら?」


「……この前、勇者不在の自宅前で、何重にも鎖に縛られた泥棒が発見されたわ。縄で逆さまに吊し上げられ、しかも裸で失神した状態だったそうよ」


 どんな防塞システムだよ。

 というか俺も一度勇者の家にいったが、乱暴にドアを叩いていたら同じ目にあっていたのだろうか。

 いや、横に賢者がいたから教えてくれ……いや、面白そうだと黙っている気がする。


「ともかく、俺たちは勇者の家に入ることはできないのか?」


「ちょっと、どうしてそんなことを尋ねるの? 別にストーカー呼ばわりする気はないけど、他人の家に無断で入るのはダメなことでしょ」


「分かっているよ。ただ、俺は勇者の安否が知りたくてさ」


「どういうこと? まさか勇者が自宅に引き籠もっているというの?」


「それは分からない。けれど、彼が家に帰ったかどうかが分かるものがある」


 それは同時に、勇者の安否を、そして強さを証明するものでもあった。



「……聖剣だよ。勇者の家に聖剣があるか否かを確かめたい。もし聖剣がなければ、それだけで勇者は大丈夫だと言うことができる」


 聖剣とは、勇者が勇者である証であると同時に、様々な加護が込められた神秘の武器と聞く。

 実際に、俺はあの剣が様々な能力を持つことを目の当たりにしており、剣が勇者を護るために力を発揮したということも知っている。

 勇者自身が持つ剣の実力もあり、聖剣を勇者が所持してさえいれば、魔王の息子だろうとも彼が簡単に負けるようなことはない。

 聖剣が家に残っていても、憲兵に協力して貰えば、勇者が見つかり次第、すぐに送り届けることができる。


「ともかく、勇者の家に上がることができれば、それだけで勇者の安否を知ることができるはずだ」



 扉を壊すと防御結界が発動するそうだが、そんな乱暴なやり方をせずとも、普通は非常時用に幾つかの解除方法がある。

 そうでなくては、勇者が自室で倒れた場合、永遠に放置せざるをえなくなるからな。

 だからどうすれば家に入れるか……と言いながら、射手を見ようとした。

 しかし、俺が話し終えるよりも前に、彼女は立ち上がって部屋の外に飛び出した。

 そして向こうの方で物音がしたかと思うと、すぐさま部屋に走って戻ってきた。

 彼女の手には、小さな金色の鍵が握られていた。


「……勇者の家のモノよ」


 そう言って俺に鍵を見せてきた射手の顔は、不安がっていた先ほどから一転して、凜と引き締まっていた。

 どうやら彼女の中で、次に取る行動は決まったらしい。

 ……どうして勇者の家の鍵を射手が持っているのかは分からないが。

 いやまあ、なんとなく察しがつかないわけでもない。

 けれどここはとりあえず、射手が勇者を想う気持ちの表れだと考えることにしよう。

 さすがに自分でストーカーはダメといっているのだから、何かしらの正当な理由があってのことなのだろう。


「その鍵を俺に見せてきたということは、俺もついて行っていい、ということか?」


「当たり前でしょ。ワタシなら勇者の家によく行くから、彼がどこに剣を仕舞っているかもしっている。けれど、今の王都で一人きりなのは、例え教会でも危険よ。だったら二人で行動した方が良いに決まってるわ」


「それなら戦士が来るのを待つべきだ」


「大丈夫よ。弓が使えないワタシだけど、護身の術は備えているから。一応、魔法だって使えるのよ?」


「それは初耳だな。けれどやはり慎重にいくのなら、戦士を待つのが賢明な判断だ……射手の本音はなんだ?」


「ワタシは、此処でじっとなんかしていられない。一秒でも早く勇者を助けたいの……貴方もそうでしょう?」


 例え憲兵に家の捜索を任せようといっても、彼女は聞かないだろう。

 勇者が魔王の息子に狙われたのなら、本当なら彼と最も親しい射手も標的になるかもと警戒すべきだ。

 王都に名高い聖女としても、軽率で危険な行動は慎まなければならない。

 けれど、そんなことを言っても彼女は抑えられない。


 それにさあ、俺もだよ。

 魔王と最も縁のある俺が、魔王を探す襲撃者が出没する街に繰り出していいわけがない。

 けれど、どうしたって我慢できない気持ちがある。


「俺も、勇者のために動きたい。あいつに救われたことのある俺だからこそ、今度は勇者を助けてやりたいんだ」


「フフ……知ってたわよ!!」


 俺と彼女はにやりと笑った。

 危険があることが分かってもなお、互いの気持ちが一致したからだ。


「そうそう、こんなに魔王の息子で騒がれてたお陰か、丁度都合良く今晩の仕事がなくなったの。フフフ、久し振りの自由な時間だわ……さあ、行きましょうよ!!」


 依然として勇者の行方は分からず、不安は残ったまま。

 けれども、大切な人のために動ける彼女は実に幸せそうだ。

 そうして俺たちは、闇夜の王都に繰り出したのだった。




 勇者死亡の、30分前の出来事である。




思ったよりも長くゆったりと連載していましたが、次回からはスピードアップして投稿したく思います。

筆も進んでいますので、次話投稿は三日以内にできそうです。


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