21 勇者の雄途サタイアー
開けましておめでとうございます。
長らく執筆できませんでしたが、新年初の投稿をさせて頂きます。
どうやら、仲間で居られるのもここまでみたいだ。
いつか別れは来ると知っていた。
永遠に肩を並べて歩くことなんて出来ないのだから、君に横に立った瞬間から覚悟はしていた。
実際、その時が来てしまうと胸が苦しくなる。
でも勇者、君は進み続けるのだろう。
ならば今此処で、正義を振るってみせるがいい。
その聖剣で
この身に別れを突き刺してくれ。
□□□
……少し、気が抜けていたようだ。
外を見れば、夜の帳が降りる頃となっていた。
勇者の語りを聞きいっていたので、時間の流れが随分と速く感じる。
けれども、俺が魔王の息子と出会った時限まであと少し。休む暇はない。
王都の街は静まり帰り、空は月一つ見えない闇を成していた。
「……さて」
俺は静かに声を出した。
教会の客間にて、俺と射手は勇者と向かい合って座っている。
そして勇者は今、自らの話を語り終えたのだ。
魔王の息子の出現がせまる中、勇者は奴について、端的に説明した。、
その内容が衝撃的だったせいで、射手は開いた口が塞がっていない。
俺だって、もし勇者パーティーの一員だったのならば、同じように戸惑ってしまっただろう。
冷静で居られるのは、勇者の話を客観的な視点で聞くことができたからだ。
……けれど、これで魔王の息子の正体が分かった。
勇者は苦しむこととなった原因も、ようやく把握することができた。
しかし、正体を知ったことで魔王の息子を捕らえられるかというと、答えは否と言うしかない。
彼の戦闘技術が本物なのは変わらないからだ。
「ようやく理解したよ、勇者。お前が何を悩んでいたのかを。それを分かった上で言うんだが、魔王の息子は今晩も王都に現れる……奴を捕まえるために協力してくれないか?」
勇者の苦悩は、魔王の息子が原因だ。
そして彼と闘うことは、勇者にとって最も辛いことのように思う。
けれど今の勇者には、先程までの憂鬱そうな表情はない。
引き籠もっていたので相変わらずやつれた姿であるものの、瞳に強い光が灯っていた。覚悟はできたらしい。
「ああ、やってやるさッ! ……踏ん切りが付いたからな。もう迷わずに、俺はケジメを付ける。それが俺の成すべきことで、したいことだ」
よし、これで事態は進展した。
勇者の力に、戦士や憲兵の助けとくれば鬼に金棒。魔王の息子を捕まえるには、これ以上ない包囲網だ。
心配事は、前回俺を殺した魔王に部下がどう出るかだが、彼等と共に居ること以上の最善策は打ち出せない。
「しかし、今は聖剣が手元にないな。普段から一心同体のつもりでいたのだが……」
勇者は頭を掻くことで羞恥心をごまかした。それも仕方ないだろう。
先程まで、彼の心は勇者を引退しようと思うほどに病んでいた。
だから、聖剣という勇者の証を肌身離さず持ち続けることができずとも、責めることはできない。
「俺は一度、自宅に聖剣を取りに戻る。お前たちは、俺が戻るまで教会から出るな。聖剣のない俺では、魔王の部下とやらに奇襲された場合、自分の身を守ることしかできないからな」
そう言い残すと、勇者は早速教会の外へと走り去っていった。
後に残されたのは、俺と射手。
「それで、射手も武装するんだろ。だったら、俺はもう少しここで待機させてもらうよ」
「……ええと、そうしたいのは山々だけど……ね」
彼女は座ってまごまごとしたまま、動こうとしない。
てっきり、彼女は勇者に続いてすぐ準備に取りかかると思っていたので、俺は疑問を持った。
しかし幾ら経っても、射手は困った表情を浮かべて視点をうろちょろと動かすだけだった。
「どうしたんだ、射手。まさか勇者と同じく、弓矢がここにはないのか?」
「いえ、あるにはあるのよ……けど」
「けど?」
「私の弓は女神様から授かった宝物だから、今は教会の祭壇に祀られてて……使用するに色々な申請書を書いて、三日ほど経たないと許可が下りないし……その書類を作るにも、私の仕事が終わらないと時間が取れないし、その……」
もごもごと口を動かし、うつむく射手。
どうやら魔王討伐を行っていた頃とは勝手が違い、弓を射るにも面倒な審査が必要らしい。
「でも、元々自分が愛用していた弓なんだ。今は緊急事態なんだし、少し融通を利かせれば了承されるんじゃないか?」」
「でも、それは教会のルールに反するわ…………それではダメなの。あの聖弓は、私の信仰の深さによって威力が上がるのよ。でも、私が過ちを犯したり、教会によって定めたしきたりを破ってしまうと、弓はまともに矢を飛ばすことすらさせてくれない……」
想いが力となる武器。
そう言うと聞こえは良いが、逆に自分の立場によっては役に立たなくなってしまう武器でもある。
理屈は分からないが、射手の弓はその類のものなのだろう。
しかもその基準が信仰の深さともなれば、俺や勇者が判定するのではなく、信仰される神や彼女自身の心が
大きく関わるものだ。
その女神の鑑定眼によっては自分が正しいと思った行動が罪となるかもしれない。
自身が神に恥じる行為をすれば、例え周囲が許したとしても、信仰に傷がついてしまう。
両者の思想が一致するときこそ強大な力を発するが、二つの思想が相反したときの脆さは、今の射手を見れば感じ取れる。
「…………こんな大切ときなのに、ワタシって役立たずよね……勇者と共に戦うこともできないなんて……」
「……」
俺は、なんと声を掛けるべきか困ってしまった。
さっきまで落ち込んでいた勇者は射手によって立ち直れたが、まさか射手の方も結構な思い悩んでいるとはな。
話を聞く限りでは、彼女自身に非はないのだが、本人ははがゆい状態でいることに耐えられないのだろう。
勇者の側にいることが望みだというのに、それを自らの立場が縛り付けてしまっているのだから。
……どうしてやれば、よいのだろうか。
気付くと場が再び重くなってしまい、俺がこの複雑な問題に頭を抱えてしまった。
しかし答えが出るより前に、部屋の扉が大きく音を立てて開いた。
勇者が帰ってきたのか、と俺は顔を上げた。
「ああ、おかえり。勇者…………勇者?」
そこに、勇者はいなかった。
居たのは、魔王の息子を捕らえるために、先に王都の街中を見張っていたはずの、戦士だった。
戦闘用の装備に着替えており、右手には刃がむき出しとなった槍を持っている。
額から汗をこぼすのも構わず、扉にもたれかかったまま部屋を見渡す。
そして乱れた髪とメガネを直しつつ、上がった息を飲み込んで声を出した。
「……ハァ、ハァ…………勇者は、勇者はどこです? 見張りの憲兵から、彼が教会に向かったと聞きましたが……」
「勇者は今丁度、荷物を取りに自宅へ戻ったところだ。教会にはすぐ帰って来るはずから、あと少しもすれば」
「魔王の息子が逃走しました」
……え?
「ほんの数分前まで、僕と憲兵たちは、彼が予定の場所に存在するのを確認しました。そして周囲の道を封鎖し、確実に捕獲できるように応援が来るまで待機していました。しかし、彼はふと顔を上げたかと思うと路地裏に飛び込み、慌てて追跡しようとしましたが失敗」
「何ですって!?」
「……そして……魔王の息子が顔を上げた際、最も彼の近くに潜伏していた憲兵が魔王の息子が何か言うのを聞いたそうです」
「……その言葉は?」
「……『ようやく勇者が、目覚めたな』……だったそうですよ」
どくん、と心臓が高鳴った。
一体それがどういう意味なのか、分からないはずなのに、分かってしまう。
魔王の息子が吐いた言葉と行動からは、どう考えても最悪の結末を予想してしまう。
時間の経過と勇者の来ない矛盾を、今更になって気付いてしまう。
まさか、まさか……
立ち直ったとはいえ、勇者にとって魔王の息子は相性最悪の敵だ。
そのうえ……
……今の勇者は聖剣を持っていない。
俺と射手が顔を青白くする中で、何も知らぬ戦士がもう一度問いかけをしたのだった。
「さあ、勇者はどこに居るのです?」
年末までに完結などと言った割に、全然終わりませんでした。
なる早で投稿できるよう精進することを今年の目標とさせて貰います。
次回投稿もなる早で頑張ります。
2/4 追記
更新遅くなりすいません。あと、もう少しだけ時間を下さい。
1週間以内には次話を投稿したいと思います。




