14 部下と密会サドンデス
投稿予定については、活動報告を参照して下さい。
男は笑う。
月光すら消え失せた街の中、兵士たちを次々に仕留めていく。
そんな恐ろしい光景を、俺は遠く離れた場所から眺めていた。
高級な宿屋4階のバルコニー。
なぜか俺は、ここで魔王の部下と共に街を見下ろしていた。
兵士と襲撃者の激しい攻防が繰り広げられる中、俺の横に少女が手すりをなぞりながら近寄ってくる。
紫の髪がなびき、二本の角が露わとなった。
「ねえ、魔王様。この国は、私たちに歯向かう愚民の集まりですけど、夜景は随分と素敵ではありませんか?」
言われるままに、俺は周囲を見渡した。
魔王の息子による事件のせいで、殆どの家が窓を閉ざし、静寂と闇夜に溶けこんでいる。
風はやたらと吹くせに、星も月も全くみえない。
そんな中でも、街の中心部にそびえる王城だけは、冷めることない栄華を誇るがごとく光に溢れている。
「人のいない街と、日夜輝く城。衰退と繁栄が同時に存在してるみたいで面白いですよね」
彼女の話を聞きつつ、再び視線を魔王の息子へと戻す。
そしてこの状況を理解するため、俺は冷静に数分前の記憶を甦らせてみた。
□□□
魔王の息子を目撃した後、俺は途中まで賢者と共に逃走。
そして教会前で彼女と別れてすぐ、怪しく光る魔方陣を発見した。
気づいたときにはもう遅い。
魔方陣の輝きは増し、空中に模様が伸びていく。
すぐさま、人がスッポリ覆われるほどに大きさにまで魔方陣は成長していった。
そして魔方陣の中心から、小さな指が伸びてくる。
やがてそれは手となち、腕となり、肩を過ぎる頃には一人の少女が目の前に立っていた。
賢者の家を襲った夜と同じ、黒い制服。
キラリと光るつり目が俺を見つめる。
まおう部下は、ゆっくりとお辞儀をした。
「再びお会いでき光栄です、魔王様」
落ち着いた口調は、初対面の興奮していた印象をかき消す。
俺を見るなり飛びつくような彼女はいない。
明らかに、こちらと距離を置いている。
「けれど不思議ですね、魔王様。私は貴方様に、王都に来られないよう忠告したはずなのですが」
なるほど、俺を警戒しているのか。
それはこちらも同じだ。
なぜ、彼女は突然俺の目の前に現れた?
聞きたいことも山ほどあるのだが、彼女は先に話し始めた。
「確かに魔王様と会えたのは嬉しいですよ? けれど私は……いえ、先に場所を移しましょう。こんな夜道で立ち話は、失礼極まりますよね」
そういうと、彼女は魔方陣に手を触れた。
途端、再び紫の光が益々輝きだしては視界を埋め尽くす。
暗夜とは思えないほどの眩さに、俺は咄嗟に目を手で覆い隠した。
「……ッ!!」
昼夜が一瞬で逆転したような感覚に陥り、頭に痛みが走った。
身体はゆらりと倒れかけたが、なんとか踏ん張り前を見ようとする。
すると瞼の裏からでも見えた紫色は、段々と小さくなり消えていく。
おそるおそる目を開けてみると、魔方陣の光は既になく、世界は元の暗闇に戻っていた。
だが、すぐそこにあったはずの教会も門も街灯すらも目の前から消えている。
俺は見覚えのない場所に立っていた。
「ここは……」
そこは、確かに違和感はあるものの、俺の知る王都の城が目に入る。
夜となりハッキリと町並みを確認することはできないが、米粒ほどに見える街灯の光が無数に輝いている。
手前には白い手すり、背後には寝室部屋が見える窓と、そこに入るための扉があった。
これには、俺が射手の教会付近で見かけた、豪勢な建物の一つとして見覚えがある。
俺は、一瞬のうちに誘拐されてしまったらしい。
□□□
「ねえ、魔王様? 聞いておられますか?」
魔王の部下による呼びかけに、俺はハッと我に返った。
この僅か数分でありながら衝撃的な出来事の連発に、脳が少々フリーズしたらしい。
だがお陰で、今の状況を把握することができた。
そして彼女の方から強い視線を感じたので振り返る。
「魔王様……」
潤んだ瞳で、彼女は俺に何か言いたそうにする。。
その真っ直ぐな視線から、目を逸らすことはできない。
「もう一度お伺いするのですが……なぜ、ここにいるのしょうか?」
何と答えるべきか。
そう、普段の俺ならまたもやフリーズ状態に陥ていただろう。
だが今のところ、俺の頭至って冷静だ。
どうやら魔王の息子との再開が衝撃的すぎたらしく、突然彼女と再会したはずなのに、心臓が飛び出るような驚きはなかった。
息子から逃走したせいで多少息は荒いかもしれないが、それでも動揺が顔には浮かんでいないはずだ。
奴に正体がバレないよう、俺は無言のまま相手の反応をうかがう。
「私の言い方が悪かったのでしょうか……いや魔王様に今一度お会いできたのは嬉しいのですけれど……」
本当なら、彼女に問いただすべきである。
王都では何が起こっているのか。
魔王の息子とは何者なのか。
この見計らったようなタイミングでお前が現れたのは、単なる偶然なのか。
それが容易にできないのは、俺が言葉選びによって、彼女の反応がガラリと豹変する恐れがあるためだ。
けれどここで互いに立ち止まっていては先に進まない。
ならば俺が話を切り出すか……と思ったときだった。
彼女の口から甘ったるい声が漏れる。
「もしかして……私に会いに来てくれたのですか?」
「……?」
一瞬思考が停止、つまり唖然とした。
けれど彼女の言葉が幻聴でないと、すぐに分かる。
「ああっ!! 私、嬉しいです! 世界で最も幸せな人間です! そんなに私のことをお思いなってくれたなんて………でも、夜半に二人きりで逢瀬を重ねてしまったら、忽ち噂になってしまいますよ!? そんな大胆な魔王様も素敵ですけど、心の準備が」
「落ち着け」
どうやら、目の前に立つ人物は、間違いなく彼女(魔王の部下)らしい。
しかし怒濤の勘違いをしていたので、気付けば手で制していた。
仕方がないので、俺はこのまま魔王を演じることにした。
「貴様が痴れ言を口にするのは構わん。だが暫し我が問いに耳を傾けよ」
堅苦しい台詞が熟々と流れ出す。
こうしてアイツを演じると、いつも自分が自分でなくなる感覚を覚える。
それだけ俺とアイツは似通った存在なのだろう。
「貴様が王都にいることは承知していた。だが、その企みに関しては一切聞いていない」
重く響く声を意識して、俺は彼女を睨んだ。
「貴様はこの魔王に対して……何を隠している」
「隠す、とは?」
「そうだな、例えば……」
先ほど出会った、襲撃者についてとか。
以前より王都にいた彼女なら、何らか情報を持っているはずだ。
そう思い、俺は疑問声に出そうとした。
「魔王の息子を名乗る襲撃者についてだ」
「貴方、魔王様ではありませんね」
俺がそれを口にした瞬間。
彼女の顔から感情が消え去った。
9/10 追記
次の話も投稿できそうです。
もうちょっとだけ待っていて下さい。




