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13 兵士の全滅フーダニット 

随分と遅れましたが、投稿させて頂きます。


王都へ来る以前、俺は賢者に元いた世界のことを話していた。

けれど詩人でも専門家でもない俺は、あの世界を十分に表現する言葉を持たなかった。

科学の知識は空に等しく、文化や歴史も興味がなかった。

精々、昔読んだ本の話を聞かせられるぐらいだ。

それすらもあやふやな記憶のせいで、折角の名文を台無しにするような説明しかできなかったのだが。


「それでも、全てが私にとって興味深い話だわ。特に……推理小説? というものは、私たちにない話ね」


「へえ、そうなのか?」


「全ての不可能は、魔法のせいにしてしまえるもの。証拠もアリバイも、全てが魔術師一人で解決できてしまうかしら」


多分、そんな芸当ができるのは賢者ぐらいだ、と心の中でツッコませてもらおう。

そんなことを言えば、プロの殺し屋や組織による犯罪など、日本でも未解明な殺人事件を作り出せてしまえる。

それを小説の中でしないのは、読者に謎解きを楽しんでもらいたいという、作者の気持ちだろう。


「でも、私は好きかしら。最近聞いた話だと……いないいないばあ、が一番ね」


「そんな子供向けのミステリーを話した覚えがないぞ?」


「あら、間違ったかしら。でもそんなことより、私は今日貴方が教えてくれる物語に興味深々なの」


そう上目遣いで言われれば、話すしかあるまい。

こんなふうに二人で会話をしてるうちに、夜はいつも更けていくのだった。




□□□




 男は笑う。

 月光すら見放した闇夜にて、その闘いに乱舞する。


「放てッ!!」


 銃弾が飛び交う路地。

 ガラスが勢いよく割れ散り、地面に音を立てて叩きつけられる。

 その破片を踏みにじり、男は憲兵たちの元へ走り出す。


「怯むな!! 再装填、構え!!」


 分隊長の合図で、四人の隊員は長銃弾の引き金に指を当てる。

 しかし敵は皮のローブを纏って暗闇に溶け込んでおり、焦点を合わせるのは容易でない。


「フハハハハハハッ!!」


 足取りを悟られて撃たれぬよう、男はジグザグに足を動かす。

 右へ左へ、再び大きく右へ飛び出したとき、身体を屈めて一直線に距離を詰めてきた。


「放てッ!!」


 四発の発砲音が路地に響き渡る。

 だがその瞬間、男の体が彼らの前から消えた。

 憲兵たちは驚くも、闇に慣れてきた眼ですぐに判断する。

 男は建物と建物の僅かな隙間道に飛び込んだのだ。


 一人が急いで銃に弾を詰めこみ、路地裏の入り口へ駆け寄る。

 道は真っ直ぐな一本道。

 奥行きが精々20mの行き止まり。

 ならばと片手で銃を構え、間髪入れずにその虚空へと銃を放った。

 反動で身体がよじれるも、目線は正面から逸らさない。


「ウグオッ!!」


 奥から呻き声が聞こえた。

 残りの憲兵も路地前に集まり、前方を警戒する。

 敵は未だ奥の影に溶け込んだままだ。

 長期戦に備えて、隊長格らしき男が合図を出す。


「隊員1名、他の部隊へ応援要請、そして本部へ連絡に向かえ!! 勇者護衛部隊が襲撃者と交戦中だとな!!」


「ここは自分が!!」


 若い憲兵が応え、その場を素早く走り去る。

 一人は気絶しているため、残る憲兵は三人。

 だが、今の王都は厳重な警備網が引かれているため、すぐに応援部隊が駆けつけるはずだ。

 これで魔王の息子に怯える日々も今夜限りになる。


「放てッ!!」


 再び銃を構え、奥の敵目掛けて一斉掃射する。

 火花を散らして撃たれた弾は、次々と壁にぶつかり金属音を鳴らす。

 傍に置かれた木箱は粉砕し、ネズミが慌てて表へと走り出てきた。

 それでも尚、激しい光と銃撃音は幾度となく繰り返される。


 一人が武器を剣に持ち替え、奥を照明で確認しつつ、ゆっくりと道に入り込む。

 奥の壁まで一歩、また一歩と距離を詰めていく。

 そして中ほどまで進んだところ、ピタリと立ち止まった。



「どうだ、敵の様子は!!」


 背後から残った二人が尋ねる。

 その声には、遂に魔王の息子を倒したのだという自信が込められていた。

 けれども、彼らの問いに答えは返ってこない。

 不審に思い照明で彼の姿を照らしたとき、憲兵二人は気付く。


 その身体を、無数の糸が身体を絡め取っていた。


 白く光る、ピンと張った鉄線。

 路地裏の至るところに結わえられ、蜘蛛の糸のように兵士から自由を奪う。

 暗がりに仕掛けられたせいで視認は困難。

 しかし、逆に焦って藻掻けば、どんどん締め付けは強くなる。

 怯えた兵士の頬にプッツリと赤い血が滲み、空中を伝い静かに足元へ垂れていく。

 拘束された憲兵は動くこともできず、戻ることも許されず、声すら出せずに固まっていた。


「……ハッ!!」


 一人の憲兵が我に帰る。

 目の前のことに気を取られ、敵への警戒を怠ってしまっていた。

 慌てて路地の奥まで照明を照らすも、姿は見当たらない。

 もしや、先ほどの苦悶の声も陽動のためだったのか?

 ともかく、どうやってかは知らないが、罠に気を取られているうちに逃走されたのだと察する。


 現時点で二人の憲兵が行動不能となり、動ける者もまた二人。

 鉄線に絡まった彼を助けてもやりたいが、敵の足取りが掴めぬ現状では、迂闊に行動できない。

 仕方ないが、応援に行った兵士が戻ってくるまでの辛抱だ。

 そう思い、隣にいる同僚に合図を送ろうと目線を向けた。



ゴキッ



 目が合う。

 そこにあったのは、同僚の見慣れた瞳ではない。

 真っ赤に輝く目だった。


 彼の腕は同僚の首で力強く絞め、丁度同僚意識を刈り取るところだった。

 反射的に、兵士は通りに飛び出した。

 相手が追ってこないと確認すると、銃を捨てて帯刀していた剣を抜く。


(この至近距離に、いつの間に!!)


 音もなく現れた襲撃者は、兵士の首から手を放す。

 気絶して力の抜けた身体がグニャリと地面に倒れ伏した。

 そして残る一人の兵士に対して、ニヤリと笑ってみせる。


「さあ、どうする? これで闘える者は貴様のみとなったわけだ。尻尾を巻いて帰るというなら、俺は黙ってその間抜けな姿を嘲笑するに留めてやるぞ?」


「貴様は一体……何者だ!!」


 暗闇からの奇襲。策略。武力。

 数々の経験を積んだ憲兵すら手玉に取るとは、常人の技ではない。


「何者か? 俺は随分前から名乗っているぞ。魔王の息子だと」


「ふざけるな! 魔術の一つすら使わずに、魔術師の子と豪語するなぞ片腹痛い!」


 そう、襲撃者の戦闘能力は確かに高い。

 しかし彼の戦法は、魔力を一切使わず、むしろトリッキーな罠や体術を多用する、どちらかといえば暗殺者のようなものだ。

 突然の奇襲などはゲリラ兵に近いともいえるが、ともかく魔術師とは全く別種の存在である。


相手は兵士の言葉が面白かったと言わんばかりに手を叩き、薄気味悪く笑ってみせた。


「確かに俺は魔術の教えを習ったことはない。だが、やはり俺は魔王の息子だ」


「ならば悪を討つことこそ、我ら王国に使える兵士の役目!! 眼前の巨悪を見過ごすわけにはいかぬ!!」


 果たして、敵を倒せるだけの力が自分にはあるのか。

 いや、やるしかない。ここで引いては、仲間たちに顔向けできぬ。


「ほう、足掻くか。言っておくが、俺は無駄な殺生をしない主義だ。そこらに転がっている輩も息はあるし、貴様も殺すつもりはない」


 そう言いながら、襲撃者は懐から短刀を取り出す。

 照明の映り込んだ瞳が、ギラリと宝石のように輝いた。


「だが……俺も暇ではなくてな、戯れの時間は終わりだ」


 攻撃が、来る。

 互いに武器を構え、一歩を踏み出そうとしたときだった。

 兵士の背後で、風が大きく音を立てた。



「あら、まだ皆して遊んでいるのかしら」



 突如疾風が駆け抜け、襲撃者の身体が吹き飛ばされる。

 次いで金色の光が彼目掛けて一直線に放たれた。


「……クッ!!」


 転がることで衝撃を和らげて着地し、男はすぐに身体を光線から逸らす。

 光は数メートル先の街灯にぶつかったかと思うと、爆発音と共に煙が上げる。

 ギイっと嫌な音が響き、細長い棒の部分が横に倒れ、燃え盛る炎が割れたガラスの隙間から漏れた。


 兵士と襲撃者は、同じ方向を見つめる。

 このの主が誰なのかを確かめるべく、ゆっくりと近づいて来る人影に目を凝らした。


 闇夜に浮かび上がる虹色の髪。

 大きな宝石の埋め込まれた、魔術用の長杖。

 身体をスッポリとローブで覆っているが、随分と小柄な体つき。

 そして注目すべき顔は……


「あれは……グガッ!?」


 兵士が正体を確認しようとしたとき、彼に魔力の弾がぶつけられる。

 真正面から直撃した彼は、悲鳴をあげる間もなくパタンと倒れ、意識を失った。


 魔術師は、更に遠くに目を向ける。

 奥では、鉄線で縛られていた兵士が未だ脱出しようともがいていた。

彼女は再び呪文を唱えると、再び旋風がまき起こり、彼を家ごと空へ舞い上げる。

壁が粉々になり、おかげで鉄線も解ける。

高速回転する兵士は悲鳴を上げ、やがて声も出なくなったことを確認してから地面に下ろされた。


「……そして誰もいなくなった。これから先の目撃者は消え去ったわけね」


「……何者だ、貴様」


「それはこちらの台詞なのだけれども……そうね」


クルクルと杖を回し、空中に魔法陣が浮かび上がる。

魔力が模様の上に注がれていき、彼女の周囲で発光した。



「私を楽しませてくれたら、教えてあげなくもないかしら」



少女は、賢者は不敵に笑った。


今回はアクシデントが重なり、執筆が遅れてしまいました。

何とか、次回以降は通常通りの投稿ができそうです。

既に中身は書けていますので、投稿は今週中にでも。

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