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12 賢者と相対アウトロー

二週間と一日ぶりです。

最近はずっとギリギリの投稿予定を立てていますね。

毎日更新をしていたあの頃はどこにいったのやら。 


8/6追記)少しゴタゴタがありまして、更新はもう少しだけ掛かりそうです。

 現在、鋭意執筆中ですのでもう暫くお待ち下さい。

 

 


 苦しい。

 逃げたい。

 早く、どうか、遠くにいかせて。

 

 溺れたかのように呼吸は乱れ、身体は芯から冷たくなる。

 耳に心臓の爆音が響き渡り、指先から震えが伝わってくる。



 アイツが、魔王の息子。


 

 暗がりに浮かび上がる赤い目。

 絵の具を直に塗りたくったような色が、どろりと気味悪くこちらを見つめてくる。

 ただ、ただ、胸が張り裂けそうになる。

 頭の中が真っ白になっては真っ黒になる。

視界のあちこちで火花が散って、砂嵐が渦まいて何も分からなくなる。

 やめてくれ、これ以上近寄らないでくれ。俺は、俺は、俺は……



「……落ち着きなさい」


 手がぎゅっと握られた。

 はっと我に返った俺は、その暖かな熱を感じて横を向く。

 賢者は俺の焦った顔を真っ直ぐとみる。

 そして再び握られた手に力を込めると、もう一度ハッキリと声に出した。


「ほら、落ち着きなさい……一体何があったの」


 ようやく俺は彼女の意図に気付く。

 そうか、ここで俺が慌てふためいてしまえば、憲兵たちは俺に懸念の目を向けることになる。

 彼らもあの赤い目を怪しんでいるが、俺のように動揺してはいない。

 あの瞳が何を意味するのかを知らないからだ。

 

 そこで下手に魔王の息子だと叫んでしまえば、それを知る俺は何者なのかと怪しまれ、一層行動は取りにくくなってしまう。

 ここはあくまで平静を装う必要があるのだ。

 

 俺はツバをゴクリと飲み込んでは、落ち着け、と自分に言い聞かせる。

 今はまだ、目の前の相手に怯える必要はない。

 そもそもアイツが本当に魔王の息子かどうかも分からないじゃないか。

 

 どうにか冷静になった俺は、賢者の手を堅く握りしめていたことに気付く。


「あ……」


「頭は冷えたようね」


 赤くなった手を気にすることなく、賢者は周囲の憲兵たちを見渡す。

 屈強な男たちが俺の前後左右にそれぞれ一人。

 更に前方で赤目の男と対峙しているのが、一人の合計五人。

 銃と剣を武装しており、普通の人間が相手ならまず負けないだろう。

 だが……俺は不安を拭いきれない。


 前方では未だに憲兵と不審者の会話が続いている。

 夜分遅くの労働でイライラしている憲兵は、その男に質問を繰り返す。


「貴方、名前は? 自分の住所と職業は言えますか?」


「先に質問に答えろ。お前は魔王の居場所を……」


「はあ、完全に酔っ払っているようだな。魔王の息子の真似をするなぞ、どんな悪酒に引っ掛かったのか」


「生憎、俺はシラフだ。酒を最後に飲んだのも随分と前だった気がするな」


「分かりましたから、せめて家の場所ぐらい覚えていませんか? 道で酔い潰れられては困るので」


 どうやら憲兵は、不審者を酔っ払いと思い込んでいるらしい。

 確かに男の赤目は飲み過ぎで充血したようにも見えるし、みすぼらしいボロ服は浮浪者にしか思えない。

 雰囲気こそ気味悪いが、絶望と恐れられた魔王の、その息子にしては想像からはかけ離れている。

それに魔王アイツによる圧倒的な畏怖と比べて、奴から感じる怖さは、怪談を聞いたときのような薄気味悪さだ。

角も生えてないし、肌で感じ取れるほどの魔力があるわけでもない。


 それでも、俺の感覚が決して警戒を解くべきではないと告げている。

 賢者も同じ考えを持ったらしく、憲兵の一人を捕まえて尋ねた。


「ねえ、ツレの気分が優れないみたいだから、早く帰りたいのだけど。向こうの不審者は他の兵士に任せて、先に教会へ行かせてくれないかしら」


「それならご心配なく。もう少しすれば巡回中の憲兵もいますし、彼の身柄を渡せましたら、すぐに元の道に戻りますから」


 それでは意味がない。

 この瞬間にでも奴が暴れ出したら、俺は姿を隠すこともできず、賢者も迂闊に魔法を使えずにピンチとなる。

 しかも俺の身体から溢れる魔王の魔力が、奴の嗅覚に引っ掛かりでもすれば、俺の命が保つかどうか。

 何の思惑があるのかは知らないが、どうか俺の存在に気付かないでくれ。

 俺は冷や汗を垂らし、逃げる方法を模索する


 しかし当の不審者といえば、未だに兵士と話し込んでいる。

 兵士も彼の奇妙な目が気にならないのか、気の緩んだ態度で話に応じていた。


「……もしや、長話がしたいのか? ならばそこに菓子屋にでも連行しろ。フルーツケーキが人気らしくてな、一度食べてみたいと思っていたところだ」


「魔王の息子のせいで、店はどこも深夜営業していませんよ。全く、こちらも暇ではないのですから、冗談に付き合ってなんかいられません」


「奇遇だな、俺もそうだ。だから、俺の質問に早く答えろ」


「魔王の居場所ですか? そんなの知りませんから、早く貴方の」


「そうか、だったら用はない」


 ぽかんとする兵士。

 だが、赤目の男がその胸元を掴んだかと思うと、ふわっと足下が宙に浮いた。

 そのまま勢いよく相手の小さな身体に背負われる。

 くるりと腰を回転させ、折り畳んだ腕を流れるままに上から地面へと振り下ろす。

兵士は目を丸くすると同時に放り投げられ、大きな音と共に壁にぶち当たった。

 

 「……グハッ!?」


 受け身を取る間もできず、大の男がドサリと道に崩れこむ。

 俺を含め、その一部始終を見ていた人間は目を見開いた。

 この光景は現実なのだと、受け入れるのにいくらか手間取る。


 だが戦闘に慣れた憲兵たち、そして賢者は速やかに行動を起こす。


「貴様ぁ、そこを動くな!!」


 兵士たちは一斉にマスケット式の長銃を構え、仲間を援護するため走り出す。

 相手の男は不適な笑みを浮かべたまま、彼らの突撃を待ち構える。


「腰を下ろして地面に頭を伏せろ!! 従わなければ発砲するぞ!!」


「なぜ俺がその命令を素直に聞くと思うのか? 愚かだな」


 この隙を見計らって、賢者は俺の手を引っ張ると反対方向へと駆けだした。

 俺たちを護衛する憲兵は皆、あの男に釘付けとなっており、止めるものは誰も居ない。

 仲間を攻撃した相手を捕らえるほうが優先であると判断したのだろう。


「……全く、面倒なことになったかしら」


「お、おい! このまま逃げるのかよ!?」


「まさか。とりあえず、相手の狙いである貴方を逃がすのが先よ。戦いの経験もないのだから、あそこにいても足手まといにかならないわ」


 言われるとその通りなのだが、憲兵たちを裏切るような真似をしているようで、気分が悪い。

 けれど他に俺の取るべき行動はなく、賢者に引き連れられながら、次々と街灯の下を通り抜ける。


 そのとき、来た道の方向から発砲音が聞こえた。

 何かがぶつかる音、壊れる音、うめき声、叫び声、笑い声。

 俺の気持ちは今すぐ戻りたい一心だ。

 しかし、それでもこの逃げ足が立ち止まれない。

 身体が未だに恐怖から抜け出せないで居るのだ。


 ああ、自分が情けなく思える。

 けれども俺が今ここで無力を嘆いたって、事態が好転するわけでもない。

 俺は歯を食いしばりつつ、教会へ向かってひた走る。

 

 「さて……ここら辺でいいかしら」


 教会扉が見える距離まで来たところで、賢者はスッと握った手を離した。

 代わりに宙に向かって指を向けると、彼女の愛用する杖が光に包まれ現れる。

 人の頭よりも大きな宝石が装飾された、虹色に輝く魔法のアイテムだ。


「貴方は先に射手の元へ戻りなさい……私は憲兵たちの手助けでもしてくるから」


「……大丈夫なのか?」

 

 あの襲撃者に勝てる見込みはあるのか。

 自分の正体を悟られない自信はあるのか。

 それは様々な意味を含んだ問いかけだったのだが、賢者は一笑に付した。


「あら、私を誰だと思っているのかしら」


 そう言われてしまえば、返す言葉もない。

 彼女ができると言ったならば、犬も飛べるし、ネコも喋れてしまう。

 むしろ気をつけるべきなのは、少し力を込めすぎて、周囲の住宅を魔法で破壊しないようにすることだろう。


「……じゃあ、もう行くわね」


「あ、ちょっと待ってくれ」


 即座に立ち去ろうとする賢者を、俺は思わず呼び止めた。

 何か、彼女に言うべき言葉があるはずだと重い、そして頭に浮かんだ言葉を口に出す。

 

「賢者!」


「何かしら」


「……戻ってきたら、また手を繋ごうな」


 フフッと微笑んだかと思うと、彼女は振り返らずに道を進んでいった。



「そうね、今度は優しく握ってくれると嬉しいわ」




……賢者が夜道の奥に消えていったのを確認すると、俺も行くべき場所に向かって走る。

 まずは、射手に助けを求めよう。

 彼女自身が襲撃者を倒しにいけるかどうかは知らないが、少なくとも憲兵団や他の組織に救援を呼びかけてくれるはずだ。

 例え射手が教会にいなくとも、見回りの一人や二人とは遭遇できるだろう。

 手段は問わないが、ともかく魔王の息子が今そこに居るのだと、他の兵士に伝えることが必要なのだ。

 

俺は周囲に人は居ないかを確認しつつ、教会の敷地へ入ろうとした。


 


 そのとき、視界の端に何かが映る。




 ああ、なんてことだろう。

 俺はこのとき、何も考えずに逃げるべきだったのだ。

 けれど、それに気付いたときは既に手遅れとなってしまっていったのだ。


 

 俺の瞳に入り込んだのは……魔方陣が放つ、紫色の光であった。





 あれ、気付けば一年も半分過ぎていますね。

 この外伝が短編と言った作者はどこにいるのでしょうか。

 次の投稿も約2週間後です。


追記)と記しましたが、現在進行形で予定を過ぎております。

もう少しだけお待ち頂ける嬉しいです。 

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