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07 勇者の休日オーラリティ

お久し振りです。

諸事情で投稿が遅くなってしまい、すいません。

GWとは何そや?……な日々を過ごしてました。

その煩悩が疼いたのか、今回の話は少しだけ長めです。



……剣を振るい、血で汚れた



何があろうとも、この赤い戦場を進み続けた



人々のためだ


正義のためだ



そう自分に言い聞かせては、後悔することを許さなかった



正義の名の下に、俺は立ち続けなければならなかった



だけどもし……その正義が揺らいでしまったなら……




そのとき俺は、どうなってしまうのだろう






□□□


三日前。


「射手、いや聖女はいるかッ!!?」


早朝一番から、俺は協会の扉をたたく。

やがて中からドタバタと音が聞こえたかと思うと、髪をボサボサにした射手が顔を出した。

どうやら先ほど目を覚ましたばかりらしい。


「ちょっと、何時だと思ってるの!? まだ日も出てないじゃない!」


「うん? でも今日はずっと暇なの、と言っていなかったか?」


「それでも節度というものがあるでしょ。全くもう……」


彼女は呆れた顔で俺を見た後、溜め息をつく。

そして一旦は扉を閉めつつ、俺に指示を送った。


「来たからにはしょうがないけど……私の準備が済むまで、大人しく待ってなさいよ、勇者!!」



俺が返事をしようとすると、「近所迷惑な大声禁止!」と扉越しに言われてしまった。

なるほど、次からは射手に時間を尋ねてから会いに来ようと、俺は反省することにした。



□□□


今日の俺、つまり勇者は休暇をとっている。

魔王討伐のおかげで、連日パレードに呼び出されていたのだが、ようやく自分の時間を貰うことができたのだ。

射手のほうも協会の仕事で慌ただしかったらしい。

それでも二人が同じ日に休暇を取れたのは、まさに奇跡的なのだ。


射手 。

俺はそう呼び慣れているが、世間一般の認識は違う。

教会で神の力を授かった「聖女」だ。


数年前、まだ勇者パーティーが組まれていなかったころ。

彼女は弓を使ったこともなく、教会ではたらく修道女だった。

愛の女神を祀ったそこでは、宗教的な派閥もなく、平和な日々を送っていたそうだ。


だが、なんの悪戯だろうか。

ある日、いつものように祈祷を捧げていたとき、彼女は頭の中に女神の声が聞こえたらしい。


『貴方の愛を支えましょう』


彼女はビックリして思わず目を瞑り、そして再び開けたとき……神々しく輝きを放つ弓と矢筒が側におかれていたのだとか。

そして今まで一度も射たことのない矢を、一流の狩人と同じように、風を切る速さで撃ち出すことができるようになっていた。

『女神の加護』というものである。


神に選ばれた彼女は実践を積み、より強大な力を発揮できるようになっていく。

そして俺や戦士と出会い、「射手」として勇者パーティーの一員になったというわけだ。

それ以上詳しく、特になぜ女神から加護を貰えたのか聴くと


「それは多分、毎日祈るときに貴方のことを……ハッ!?」


と急に顔を赤らめて、黙ってしまうので聞き出せなかった。

残念だが、俺が女神から祝福を受ける日はこなさそうだ。



「……ねえ、ボーッとしてるけど大丈夫?」


俺が回想にふけっていると、射手が俺の肩を揺さぶった。

そして周囲から訝しげな目線が飛んできていることに気づく。

思考のあまり、俺が道端で立ち止まったせいで、通行の邪魔になってしまったようだ。

慌てて道の端により、フーッと息を吐く。

やはり連日の疲れが溜まっているらしい。

ここ最近は、魔王討伐の英雄として謁見やらパーティーやらと忙しかったからな。


「すまないな、だがもう大丈夫!! 少し疲れてただけだ」


「アナタはもうちょっと自己管理を徹底しなさい! いくら勇者のスタミナでも、毎日引っ張りだこじゃばてちゃうわよ。目にクマもできてるし、やっぱり家で休んでた方が良かったんじゃないの?」


今日の射手の格好は、戦闘服でも修道女でもなく、フリルが揺れるピンクのスカートに白いカーディガン。

聖女のときには解いていたツインテも、今日は久々に結んでいる。

おかげで周囲の人も彼女をあの聖女とは思わず、彼女の髪の揺らめきに見惚れている。

そんな可憐な射手に心配されては、男も廃るというものだ。

俺は元気よく笑いで返した。


「ハハハッ!! 俺が家に閉じこもっていられない性分なのは知ってるはずだ。それに、せっかく射手と話せる機会が手に入ったんだ。ならば存分に楽しまなければ損だろ?」


「別にアナタの家で二人きりも悪くないけど……あ、じゃなくて! 私は嬉しいから良いけど、でも無理はしないでね?」


本当なら、それはこちらの台詞だ。

彼女も勇者パーティーの一員として、今まで以上に教会でもてはやされるようになった。そのぶん、疲労も溜まっているだろう。

もしかしたら俺以上に多忙かもしれない。


なにせ毎日聖女を一目見ようと人々は集まり、しかも見合いの話まで絶えないのだ。

普通の聖堂女なら教会のルールで結婚できないはずだが、彼女が信仰する「愛の女神」は色恋沙汰が大好物らしく、男女の縁を大いに応援している。

そんなわけで射手は今や、この王国の結婚したい女性ランキングトップ10に食い込んでいた。


「射手も今は大変だろ? 俺を気遣う必要はないから、疲れたら何時でもいってくれ」


「ええ、ありがと。じゃあさっそくだけど、ちょっと歩き疲れたから、すぐそこのケーキ屋さんで休まない?」


「別に嫌だと言っても、連れてくだろ?」


「フフ、まあね! 新作のフルーツタルトが発売されたらしくて、一度食べてみたかったの!」


「それは奇遇だな! 俺もさっきから漂ってくる甘い匂いが気になってたんだ」


普段なら俺は勇者で彼女はパーティーメンバーの射手。

俺が先導を取って彼女を連れ回し、彼女には俺の暴走を防ぐブレーキ役になってもらっている。

だが、休暇中ぐらいは立場が逆になっても構わない。

今ここには、ただの男女が二人いるだけだ。

ウキウキとしたステップを踏む射手を見て、俺は肩の力を抜くことにした。




□□□




「いやあ、あのフルーツタルトは美味かったなッ!!あれなら1時間かけて食していても良かった!!」


その後も街をブラブラと散歩し、俺たちは日も暮れ始めた道で帰路に着く。

やはり休日とは、思いっきり楽しんでこそだな!!

おかげで随分と心をリフレッシュできたみたいだ。

だが、爽快な気分の俺と反対に、賢者はジトーっと俺を睨んでくる。



「そうねー……アナタがパティシエに向かって大声で『うまい!!うまいぞこのケーキ!!』と騒がなければ、もっとゆっくりしてらたのだけどね……」


「む、おいしい料理の感想を伝えてはならなかったのか?」


「そのせいで勇者でだとバレかけて、食事どころじゃなくなったでしょうが!」


「料理を作った人へ感謝を述べるのは、決していけないことではないぞッ!!」


「だったら程度をわきまえなさい!やっぱり勇者って変なところで世間ずれしてるっていうか、真っ直ぐ過ぎるというか……」


なんだか、朝にも同じように叱られた気がするな。

腑に落ちないこともあるが、射手が言うのだから正しいのだろう。

結果的に彼女を困らせたのだから、ここは素直に反省する。


「勇者、聞いてる?普段のパレードでは、背の高い馬車に乗ってるから、皆に顔は覚えられてないだろうけど、流石にその馬鹿でかい声出したらバレちゃうでしょ?」


「なるほど、理解したぞ!では次から感想文を送ることにしよう!!」


「それはそれでズレてるけど……まあ勇者らしいし、良いのかしら?


たわいもない会話だが、それでも心が温まる。

やはり仲間と一緒に過ごす時間は素晴らしいものだな。

そう笑顔を綻ばせながら、俺と射手は大通りから外れた道に入った。


すると街の喧騒が、一気に遠ざかったように感じた。

もちろんそれは目に入る人影も少なくなったせいなのだが、田舎の村以上に人の気配がない。

一ヶ月前に見たときは、子供たちのはしゃぎまわる姿があったものだが……。

俺が違和感を覚えてたところ、射手も同じ感想を持ったようだ。


「やっぱり魔王の息子が噂になっているせいかしらね……」


その噂は聞き覚えがある。

夜中に外をブラつくと、魔王の息子が襲ってくる、というやつだな。

今や街の話題は、俺の魔王討伐より、魔王の息子の噂で持ちきりだった。

一応「魔王」が関係する事件ならば、彼に報告しとくべきだろうと思い、賢者たちにも手紙で尋ねてみたところだ。


「最近、私の教会にも相談が来るのよ。早く魔王の息子を退治して下さい〜ってね。そんなの、衛兵たちの仕事なのに」


「ハハハ、大変そうだな。できるなら俺も犯人を捕まえるのに協力したいが、パレードで忙しくてな。昔のように、悪を討つべく駆け回る時間がなくなってしまった」


「なら今のままで十分よ、貴方の行動は目に余るから。頼まれたら断らないせいで、子守りからモンスター退治までこなす何でも屋になってたじゃない」


そう言われては、グウの音もでない。

確かに一人で活動してたころは、相手によく質問せず、言われるがまま東奔西走する日々だった。

勇者として悪を懲らしめることもあれば、騙されて山賊100人と相手することもあったし、危うく海のど真ん中に置き去りになりかけたこともある。

けれど、ことある毎に射手がどこからか駆けつけて危機を救ってくれたのだ。

まるでずっと俺を見ていたかのように完璧なタイミングで現れては、御礼を言うと

「ア、アナタのためじゃないんだから〜!」

と脱兎のように立ち去ってしまった。

そんな彼女とパーティーを組んでからは、俺は彼女に頭が上がらないし、彼女の注意をよく聞いてから行動するようになった。

本当に、射手にはいつも世話になっているなあ。


「……なによ、ぼうっとして」


「いや、なに。思い返せば俺は射手に助けられっぱなしだなと実感したのだ。いつも、本当にありがとうな」


「へっ!?きゅ、急になんなのよ!……まあ、どういたしまして……」


照れる射手が可愛くみえ、思わずその頭を軽く撫でる。

彼女も俯いたままだが、その耳まで真っ赤になってしまった、慌てて手を引っ込めた。


「ねえ……?」


「あっ、すまない!!つい撫でてしまったが、許してくれ!!」


「そうじゃなくて……私に感謝してるなら、そろそろ名前で呼んでくれてもいいのよ?」


名前……?

ああ、そうか。

そういえば、俺はずっと彼女を「射手」と呼んでいたな。

勇者パーティーのときは、相手に名前をバレないよう「射手」と言い続けていたが、その習慣が残ってしまっていた。

今の彼女はすでに戦いを退いた身なのだから、射手という呼称は相応しくないな。


「そうか、確かに改めるべきだったな。では……、俺は射手を、君をなんと呼べばいい?」


「じゃ、じゃあその……私の本名の」


彼女が名前を口に出しかけたときだった。


横の細道から子供が飛び出して、俺にタックルを仕掛けてきたのは。





「うわあああああっ!!」




ドンッと音がして、俺の腹部に衝撃が走る。

だが可哀想なのは子供の方で、俺の鍛えた鋼の身体を前に、逆に反動で弾き飛ばされてしまった。


「うわあっ!?」


同じセリフをいいながら、子供は道脇の壁に激突する。

幸いにして頭は打たなかったようだが、俺の方は突然のことに頭がついていかなかった。

とりあえず、この子供、もとい苦痛に顔を歪ませる少年に声をかけた。みたところ10歳程度のようだ。


「おい、大丈夫か!?」


「え、なんなの?勇者の知り合い?」


「いや初対面だッ!!とにかく少年!!怪我はないか!?」


近づいて彼を立ち上がらせようとすると、ペチっと手を叩かれた。

倒れた少年はなおも俺に嫌悪の目を向けてくる。

俺は更に混乱するも、穏やかな口調で彼に尋ねてみた。


「……なあ、君は一体なにをしたい?突然俺にぶつかってきたが、なにか急いでいたのか?」


「ちがう!おまえらをたおしてやろうとしたんだ!」


「何故だ?」


「ぼくのいえのまえでコソコソしてたからだよ!おまえらが、まおーのむすこなんだろ!」


「……」


なるほど。

少年が怒っているのは、俺たちが立ち止まった場所が原因らしい。

彼の飛び出した路地の向こうには、確かに小さな家が建っている。

それにしても……俺たちが魔王の息子とはどういうことだ?


「だってママが、まおーのむすこはゆーがたにあらわれて、こどもをさらうんだっていってたから!!」


「え、そうなのか?」


「そう言えば、魔王の息子に関する噂で、そういうバリエーションもあったかも。子供の肉が大好きな魔王の息子が、日暮れに現れては家々に侵入してくるんですって」


どうやら人々の口伝いで広がった噂が、歪み歪んでいったようだ。

そういえばつい前に入った菓子屋のフルーツタルトが人気なのも、魔王の息子がフルーツの匂いが苦手なのだと、誰かが噂したかららしい。

吸血鬼にニンニクではあるまいに、とあの時は笑ったが、誰しもがそうではなかったみたいだ。


「ここからでてけ、まおーのむすこ!ぼくのいえにちかづくな!」


みると、少年の目には涙が溢れだしていた。

小さな身体は震え、けれど必死に家を守ろうとしている。

けれどいくら勇敢に振舞おうと、俺たちを魔王の息子だと思い込み怯えているのが分かってしまう。



……魔王の息子とは、こんな子供さえ恐怖で包み込んでしまうのか。


そう思ったとき、胸の中で何かが弾けた。


「ちょっとキミ、失礼よ!このお兄ちゃんはね、魔王の息子なんかじゃなくて、むしろ……」




「よし、決めた!!」




俺の中で声が響く。

忘れかけていた、自分が何者かを問う声だ。


俺は勇者だ。


民を絶望から救うことが、俺の役目。

ならば、勇者としてすべき行動ははただ一つ。



「俺が、魔王の息子を討伐する」






勇者の休日は後編へと続きます。

GWに被せて投稿したかったのですが、間に合いませんでした。


次の投稿は……明日の夜になりそうです。

今度こそは期限をきっちりと守ってみせましょう。


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