03 魔王へ誤想サタニズム
約1週間の……あれ、デジャブだ。
遅くなりましたが、投稿させてもらいます。
あれは、昨日の夕方頃だった。
俺は食事を終えて、窓から外の風景を眺めていた。
賢者は研究に熱心で、今も魔法陣を描いた紙に、あれこれと書き込んでいる。
「これまた複雑な模様だな。どんな効果があるんだ?」
「……貴方が魔法を一つでも修得してから、教えようかしら」
よくもまあ、無理難題を思いつくものだ。
いくら魔王の魔力があるとはいえ、こちらはズブの素人。
あと半年は、彼女の研究を知れそうにないな。
「それにしても、そんなに油断していて良いのか?仮にもここは魔王と賢者の家だけど、簡単に侵入されたりしそうだぜ?」
いくら辺境の地とはいえ、もしもに備えるべきだ。
このボロ屋敷にも不審者が近づかないよう、柵や塀をしっかり作らなくては。
「その点に関しては、既に設置ずみかしら……許可なく触れれば身体が消し飛ぶ魔術結界が」
「それはやり過ぎじゃないか!?」
ジョークだよな、と俺は信じることにする。
配達屋の人が生きて帰っている姿は見たことあるので、多分下手には発動しないはずだ。
そう思い、俺が窓の外を見ると、郵便箱の近くに配達員が見えた。
(あれ?……こんな遅い時間に?)
一度目をこすり瞬きすると、もう姿形もなくなっていた。
多分、俺の人恋さで起きてしまった幻覚だろう。
疲れているのかなと背伸びしたところ、服の端を引っ張られた。
「ねえ、私はそんなことより……貴方の過去が知りたいわ」
「それなら前に何度も話したはずだけど」
「いいえ、全てを語り尽くしたわけではないでしょう?」
俺の世界とこの世界は常識が違いすぎて、話題が途切れることはない。
賢者にとっては、俺の知っていること全てが目新しく思えたらしい。
昨日も自動車について説明しただけで3時間を越してしまった。
まあ話すのは好きだし、こじょ屋敷に匿ってくれるお返しだと思えば苦にならないのだが。
「……それに、話の途中で、新しい記憶が蘇ることもあるでしょう?自分の過去に何があったのか、人は口に出さないと忘れてしまうものなのよ」
なるほど。
俺自身、自分の過去にあたる魔王の記憶も、殆ど覚えてないからな。
もしかしたら、不意に記憶が戻ってくるかもしれない。
アイツの過去に何があったか、いつか思い出さなければならない日が来るのだろうか?
そのときになってみるまで、答えは出ないだろうけど。
□□□
深夜の部屋に少女が一人。
月光に照らされた神秘的な姿は、どこか妖艶さすらも感じさせる。
俺は目を見開き、彼女の正体を確かめた。
透明感のある紫髪。
大きな猫目と八重歯が特徴的な、整った顔立ち。
小さな身体を巨大な大人びた制服に黒いローブで隠す。
そして何より特徴的なのは、頭部に生えた黒い二本角だった。
パキリ
彼女の足が、床に散らばったガラス片を踏む。
月光を背に受け、髪が艶やかな紫色に輝く。
彼女は俺に近づいてきた。
俺は身を硬くして警戒する。
幼い見た目に油断するものか。夜中に窓を破る少女など、普通であるはずがない。
自分の重心を確かめ、隙をついて逃げる準備をした。
だが、彼女の行動は意外なものだった。
スウッと一雫、涙を流したのだ。
「ああ……やっと貴方様に、会うことができた……ッ!!」
不気味な微笑から一変、彼女は号泣を始めた。
ポロポロと涙を溢しては、手で何度も顔を擦る。
そして、呆気にとられた俺に向かって抱きついてきた。
「グスッ、魔王様……!!」
ギュっと俺の背に手を回して、胸の中にうずくまってくる。
俺は姿勢を崩してドサッと尻餅をつき、彼女を抱きしめる形となった。
「お、おい!?」
「この身体この声この魔力……やはり魔王様です!!」
なんなんだ、こいつは。
少女の柔らかい感触に身体が包まれる。
けれど大角が胸に当たって痛く、それどころじゃない。
それでも振り払うことができなのは、この現状を俺が理解できていないからだ。
この少女は何者だ?
突然の不法侵入者のくせに、それを隠そうともしない。
どう考えても普通の人間じゃないことは確実だ。
だから観察を続けてみるも、正体を掴めそうにない。
長くはあるが丁寧に整った髪や、皺一つない服は大人っぽさを魅せてくる。
しかし、恥じらいもなく懸命にしがみつく様子は、本当にただの純粋な少女。
そのうえ俺を魔王様と……
「待て、お前は俺が魔王だと知っているのか!?」
「ええ、貴方様が窓越しに映ったとき、私はすぐに気付きましたよ!!また再開できるとは……嬉しい限りです……魔王様ぁ!」
そう言って俺の胸でなきじゃくる彼女。
まさか遠くで不気味に笑ってたのは、俺を見て喜んだからか?
そう論理的に考えると、彼女は魔王と知り合いなわけだが……もしかして魔王の部下か?
とりあえず成されるがままに、俺は彼女に抱かれてみる。
しばらくして彼女は我に返ったらしい。
「……あ、すいません!!急に抱きついてしまって、重いですよね」
彼女は慌てて身体を離す。
そしてひどく慌てたのか、せわしなく手をもぞもぞと動かした。
効果音に「あわわ」と付きそうな様子である。
それにしても……やはり変わった少女だ。
言葉遣いは丁寧だが、感情に流されるまま行動している。
猫のように大きな目と八重歯だが、はしゃぐ姿は飼い犬を思い出す。
言いつけを守ろうとするも、ついつい主人に飛びつき尻尾を振っていたな。
今の彼女も、随分と落ち着きがない。
「ええとその、貴方様が見えた途端にはしゃいでしまい、夢ではないと知って、気づいたら感情のままに……それと、窓ガラスが飛び散りましたけど、お怪我はありませんか!?」
「ま、まあ、大丈夫だよ」
「そうですか……無事でよかったです」
これは困った。
どうやら彼女、俺を魔王だと勘違いしてるらしい。
ある意味ではそうなのだが、残念なことに俺に魔王の記憶はない。
当然ながら、目の前にいる彼女のことも知らないのだ。
そのことを教えても良いのだろうか。
「ええと、本当に大丈夫でしょうか?」
俺が固まっていたからか、彼女が不安がる。
夜中の侵入者いるのに大丈夫なわけねーよ、と叫びたが俺はこらえた。
今時点の彼女を観察して、どうやら普通の人と感性が違うと気づいているからだ。
ここは話を合わせるべきだろうと、俺は彼女に笑顔を返した。
「心配いらないよ。ありがとう」
「そ、そんな……まさか魔王様の笑顔を見れるなんて……私は世界で一番の幸せ者です!」
ダメだ、彼女のテンションが掴めない。
でも魔王のフリをする限り、襲われることはなさそうだ。
そもそもこの様子だと、自ら正体を明かさなければ、バレそうにない。
とりあえず、それらしく振舞っておこう。
「俺も君に会えて嬉しいが……何のために来たんだ?」
「あれ、魔王様の一人称は『俺』でしたっけ?」
ゴホン、早々に間違えた。
落ち着け。誤魔化しに関して言えば、勇者すらも欺いたのだ。
自信を持って堂々と嘘を吐こう。
「気にするな。見た目によって言葉遣いを変えてるだけさ。それより今大事なのは、君がなぜ私の元に訪れたかを知ることだ。理由を教えて欲しい」
「はぁ、理由ですか?それは勿論、貴方様に会うためですよ?」
会話にならない。
そこに山があるからだ、といった登山家ぐらい会話にならない。
「ああ、そうだ。貴方様に会えた喜びの余り忘れてましたけど……」
コホン、と彼女は咳き込んだ。
どうやら、やっと落ち着いて話をするみたいだ。
「私は警告しに来たんです」
突然、口調がガラリと変わった。
囁くように小さく、けれど真剣味を含んだ声。
感情豊かだった顔も、別人のように無表情だ。
俺は思わず唾をゴクリと飲み込んだ。
「け、警告ってなんだ?俺がここにいる以上、危険なんてあるわけないだろ?」
勇者パーティー以外は誰も知らない魔王の隠れ家。
周囲に民家もなく、家を襲う猛獣もいない。
しかも賢者が護衛にいれば、完璧な安全地帯のはずだ。
「その件に関しては、承知してます。ですからあくまで念のため、ですよ。
『間違ってでも王都を来訪しないで頂きたい』
そう伝えたかったのです」
……え、王都?
一瞬、俺の頭は真っ白となる。
王都といえば、勇者が凱旋をしている場所だ。
なんで今、その話が出てくるんだ。
そういえば「魔王の息子」が出現しているらしいが、まさかそれと関係があるのか?
俺が考えこんでいると、彼女はいつのまにか固い表情を崩して、軽く笑っていた。
「まあ、気にしないで下さい。貴方様の考えは充分承知していますから。わざわざ大衆の群れる王都に出向くこともない、ですよね?」
確かにそうなのだが、一度言われれば気になってしまう。
魔王という正体を晒す理由でもなければ、王都へい行くデメリットは大きい。
それをわざわざ忠告する意味が、俺には理解できない。
というか……この子が言う魔王の考えとはなんだ?
一度も会ったことのない相手に、なぜ考えが伝わっているのだ。
「なあ、お前は俺のことをどこまで知っている。俺と勇者パーティーとの戦闘で何があったのか、理解しているのか?」
「私は貴方様の、一番の理解者ですから」
フフッと自慢げに、彼女は笑って見せた。
全てを見通したかのように、穏やかな表情を浮かべて。
(……だとすれば不自然だ)
魔王と勇者パーティーの戦闘は、誰にも干渉できない白い部屋で行われた。
出入りのできない密室で、あの場にいたのは5人だけ。
だが彼女はその誰にも該当せず、勇者たちが情報を漏らしたとも考えにくい。
唯一の手がかりは、彼女がずっと俺のことを「魔王様」ち呼んでいることだが……
「それにしても流石です、魔王様」
ウットリとした目で、彼女は俺を見つめる。
両手を顔に添え、恍惚とした表情だ。
そして俺は気付いたのだった。
「まさか……わざと勇者に負けたフリをするなんて!」
……彼女は何かを誤想しているのだ、と。
魔王の、賢者の、新キャラの名前はいつになったら分かるのか?
暫くは自由にあだ名を付けて呼んで下さい。
そして驚くことに、次の投稿は1週間「以内」です。
自分でもビックリです。




