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プロローグ

 


 そこは深夜のとある路地。

 西洋建築が雑然と立ち並び、レンガの屋根が星空を隠す。

 月光は雲に遮られ、猫一匹の気配もなく、暗黒が立ち込める。

 ここが道だと示すのは、点在するオレンジの街灯のみ。

 やがてカツーンカツーン、と二つ足音が聞こえてきた。

 白く揺れるランプを持った兵士たちである。


 腰に剣を、胸に簡素な鎧を装備した警備隊。

 普段なら気の一つでも紛らわそうと談笑するのだが、互いに無口になる。


 今夜の街は、何かがおかしい。


 活気のあるはずの酒場も、赤ん坊の夜泣きも、寝惚けた馬の(いなな)きもない。

 全ての生物が息を殺したかのように、街は静寂に飲み込まれていた。

 兵士は不気味ない空気を肌で感じつつ、早く警備の周回を終わらせようと早足になる。

 あと10分も歩けば、次の警備隊へと役割を渡せるのだ。


 だがこうした雰囲気に耐えられず、兵士の一人が声を出す。


「……なあ、今日の街ってやけに静かじゃねえか?」


 違和感を口にした瞬間、余計に街を恐ろしく思う。

 しかし大の男が怖さで震えていたとなれば、兵士失格だ。

 それでは虚勢の一つでみ張ってやろうと、冗談でも語ってみた。


「もしやあれか?朝から勇者の凱旋パレードではしゃぎまくったせいで、皆死んだように眠りこけちまってんだろうな!ハハハ!!」



 だが、隣を歩く相方からの応答はない。

 変に思った兵士は街灯下で立ち止まる。

 相手もそこで立ち止まり、彼らの間に沈黙が流れる。

 いや、違う。耳を澄ますと、彼は何かを呟いていた。


「……ね、ば」


「おい、どうした?体調悪いのか?」


「……俺が、倒さねば」


「おいって……ちょっと待てよ。お前、誰だ?」


 照明に照らされた彼の姿は、フードを被った見知らぬ青年。

 ボロボロになったマントが全身を包み、僅かに見えた肌は傷跡だらけ。

 僅かに見えた髪は緑色で、全身から殺気を放っていた。


(何だ、コイツ?それより、相方の兵士はどこいった?)


 そして背後を振り返ったとき、彼は目を見開いた。

 後方100メートルにも満たない街道に倒れている姿を発見したからだ。



「なっ!!」


 一瞬頭が真っ白になり、次に兵士の思考はグルグルと回り出した

 奇怪な現象全てを理解しようと、その場で立ち尽くした。

 だがその隙を狙って、隣のフード男は動いた。


 素早く兵士の胸元に飛び込んだかと思うと、彼の首元を掴む。

 そして流れるようにクルッと回転し、兵士の身体を地面に叩きつけたのだ。

 無抵抗のままだった兵士は、なす術もなく崩れ、全身を強打する。


 バンッ


「痛あッ!!」


 何だ!?

 今の強い力は、一体なんだ!?


 背中からジーンと痺れる衝撃で、指に力が入らない。

 それ以前に、頭を打ったせいか意識が朦朧とする。

 わずか数秒にして、兵士は無力化されてしまった。


 彼は不安定な視界の中、自分を襲った男を探した。

 だが闇夜の暗さに溶け込んだのか、人の影は見つからない。

 ただし、どこからか声だけが聞こえてきた。


「……お前は、魔王の居場所を知っているか?」


「うう、何を言っている?」


「魔王の居場所を教えろ……!!」


「はあ?……魔王だと?彼は勇者によって倒されただろ?」


「違う!!」


 胸に強い衝撃。

 兵士の身体を、男が強く蹴りつけたのだ。


「奴を、貴様らはどこに隠した!!」


「グウッ!!……隠して、ない。魔王の死体を、勇者が持ち帰った。それ以上の、証拠は、ない」


「……やはり警備兵程度では知らぬか」


 そう言い放つと、彼は兵士から離れ路地裏へ姿を眩ましていく。



「……倒さねば」



 俺がこの手で倒さねば。



 男は呪文のように唱えながら、闇の中へと消えていった。



「俺が、魔王を、倒さねば……」

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